リアクション
そのいち 年明けまくり 寿ぎまくり 空には所々白い雲が浮かび、地上には僅かに雪が残っているところもある。風はほとんどなく、太陽からの光は暖かいくらいだ。 まさに絶好の屋外カルタ日和と言えるだろう。 カルタ大会の会場である蒼空学園のグラウンドには、少しずつ参加者が集まり始めていた。 学生達の頭上では、白い巨鳥が「テケリ・リ、テケリ・リ」と小鳥のような愛らしい声でさえずりながら空を舞っている。その姿は、さながら新年を寿いでいるかのようだ。 「これで完璧ですな」 カルタ大会のボランティアスタッフリーダーに任ぜられた道明寺 玲(どうみょうじ・れい)がグラウンドを見回す。グラウンドの上には、絵札を隠すためにの分厚いシートが敷かれている。 「お汁粉はまだどすか?」 振り袖姿のイルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)が礼の背中にぶら下がっている。 「そちらの方はまだ準備中ですな。つまみ食いは厳禁」 「あや〜、今から楽しみどす」 グラウンドの隅の設営された仮設テントは、運営本部と救護室と料理場を兼ねている。 一抱えもあるズンドウ鍋からは白い湯気とともに甘い匂いが広がっていく。 ボランティアスタッフの橘 恭司(たちばな・きょうじ)は、柄の部分だけで八十センチはあろうかというお玉で鍋の中身をかき混ぜている。 「そのお鍋とこちらのお鍋、同じ甘酒ですよね?」 大きすぎる鍋に悪戦苦闘しながら相沢 美魅(あいざわ・みみ)が首を傾げる。 「えぇ、なんでも会長が二つの杜氏から直接買い付けた酒粕だそうで……香りが違うんですね」 「酒粕といっても色々なんですね」 美魅が頷く。二人とも学園側から貸与されたひよこちゃんのアップリケ付エプロンをしている。 いつか、どれくらい先かはわからないけれど好きな人と結婚したら。こんな風におそろいのエプロンをしてキッチンに立つのだろうか。 そんな想像に美魅は思わず赤面する。 「どうしたお嬢さん、顔が赤いぜ。アルコールに当てられたか?」 タオルを片手に鬼崎 洋兵(きざき・ようへい)が現れる。彼もまたボランティアスタッフの一員として、三十分ほど前まで絵札の配置を終えていた。しかし、仮設テントに現れた彼の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。 「鬼崎さんこそ、そんなに汗を掻いてどうしたんですか」 恭司が手を休めて振り返る。 「……まぁいろいろとな」 お茶の準備をしていたユーディット・ベルヴィル(ゆーでぃっと・べるう゛ぃる)は、素早く紙コップの中にお茶を注いで洋兵に手渡す。 「ケンコウにいいと貰ったお茶です。洋兵さんどうぞ」 「おう」 洋兵は手渡された紙コップの中身を一気に煽る。 「……ユディ、これはなんだ」 すさまじい苦みが洋兵の口の中に広がっていく。 「センブリ茶というそうです」 テレビ番組の『苦茶』としてもおなじみのものだ。そのようなものを知らないユーディットはよかれと思って洋兵に渡してしまったようだ。 「やれやれ……」 「鬼崎さん、どうしてこんなところに?」 最終確認として会場を見回っていた礼が現われる。その背中にはまだイルマがぶら下がっている。 「なに、ムスメからの頼まれごとをしてな」 洋兵は不敵な笑みを浮かべてみせた。 影野 陽太(かげの・ようた)とエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)の二人は勝ちに来ていた。 カルタ大会参加者たちの誰よりも早く会場入りし、グラウンドのコンディション、風向き、太陽光の角度の遷移などを入念にチェックしていた。 その上でイメージトレーニングを欠かさない。 「勝ちますわよ」 「もちろんだ」 二人一組でストレッチを行う。この二人に油断の二文字はない。 ほかの参加者たちが続々と集まってくる中、二人の緊張感も嫌が応にも増していく。 エリシアには秘密だが、陽太には秘めた願いがあった。そのためにも、今日は結果を残したい。 陽太の視線の先には御神楽 環菜(みかぐら・かんな)がいる。 「集中なさい!」 陽太の背中を、エミリアがぐいぐいと押した。 腰に片手を当ててメガホンを構える。御神楽 環菜には不思議とそんな姿がよく似合う。 「さすが会長……」 整列した陽太は小さく呟く。 「エー、本日はお日柄もよく……なんて挨拶は無用ね」 環菜の隣にはルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)が控えている。いつも通りのすました顔だが、日差しが暖かいのか、純白の翼がゆっくりと羽ばたいている。 「今日は今年一年を占うつもりで参加して頂戴。体力知力のほかにも運も影響してくるでしょう。全力で競技に挑みなさい」 環菜の額は、正月の太陽の光を浴びてまぶしいほどに輝いていた。 |
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