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【十二の星の華】変心のエメネア

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【十二の星の華】変心のエメネア

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第2章 探索と退治と

 最上階が騒がしかろうが、文献を求め、探索する手を止めない学生たちも居る。



 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)はパートナーたちと共に、女王器の在り処が書かれたものが残っていないか、探し回っていた。
 金品財宝の場所を第六感的に知ることの出来るトレジャーセンスを働かせてみる。
「古代の図書館ねぇ? 紙なんて朽ちるのがわかってんだから、重要なデータは紙以外のものに記して欲しいもんだぜ」
 六感に任せて、本棚の間を突き進んでいく祥子に協力しようと、彼女のパートナーと共に、その傍を歩いているウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)はぽつりと呟いた。そんな彼にはスキルにより、猫の耳と尻尾が生えている。
「確かに、紙媒体以外の方が、朽ちることなく残すことが出来るよね。マナもそういうのを探そうと思うの」
 宝物などを探すための便利な術を持たない春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)は自分の勘だけを頼りに探すつもりであった。けれど、同じように紙媒体以外から情報を探そうというウィルネストに同意して、同行している。
(探すのは協力しても、情報を全部共有するつもりはないけどね)
 そのように真菜華が思っていると、先を行く祥子が脚を止めた。
「この辺りに、何かある気がするわ」
 そこは、本棚同士で出来た死角の多い、奥まった場所だ。
 眺めてみる限り、いくつか形の残っている本が棚に並んでいる。
「さーってと、おタカラはどこにあるやら?」
 ウィルネストと真菜華は本以外の媒体で情報が残されていないかと、探し始めた。祥子は近くの本を手にとって、中を確認するためにそっと開く。
 祥子のパートナーであるセリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)樽原 明(たるはら・あきら)は、その場所の死角の多さから、何処からモンスターが襲って来るかと、周囲に警戒を向けた。
 数分と経たないうちにそれはやって来る。
 2人が辺りへと警戒しており、何も近付いてはいないというのに、明が叩かれた。
「いきなり何なのだ!?」
 明は驚きながら、アームを構えた。
「眠りなさい……」
 見えない敵の気配だけを頼りに、セリエは相手を眠りへと誘う歌を歌い始める。
 騒動を聞きつけ、祥子も文献探しどころではなく、2人の元へと戻ってきた。英霊の力を借り、身体強化を施すと、高周波ブレードを構える。
「きゃっ!」
 眠りの歌では眠らなかったか、見えない手が祥子へと襲い掛かってきた。
 近付いてくる気配に敏感になっている彼女は寸でのところで避けるけれど、相手が見えないため、狙いが定められない。
「やらせはせん! やらせはせんぞお!!」
 明は横になると、その形状を生かして、通路を転がっていく。数メートル転がったところで、何かにぶつかったような手ごたえがあった。
「そこの辺りにいるのだよ!!」
 ぶつかった辺りをアームで指して、祥子やセリエへと伝える。
「そこね!」
 指示された辺りへ、祥子は構えた高周波ブレードで続けざまに2度の攻撃を繰り出した。
 手ごたえを感じる。見えないだけで、そう強くはないらしい。
 息絶え、霧散したか……祥子やセリエが感じていた害意が消えた。
「警戒を続けますから、お姉さまはどうぞ文献探しを続けてください」
「ええ、そうするわ」
 明を起こしながら告げるセリエの言葉に、祥子は頷いた。



「女王器についての情報があるというのであれば、十二星華や星剣に関する記述もあるかもしれませんね」
 ぽつと呟きながら、宝のありそうな感覚を元に、棚を探して回るのは、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)だ。
 手にしても崩れ落ちそうにない本を探し出しては、記述内容を確認していく。
 十二星華や星剣に関する記述どころか、女王器の記述すらなかなか見つけることが出来ない。
 本を探して、棚を曲がったところで、ネズミ型モンスターに出くわした。珍しいことに単独行動しているようだ。
 妖刀村雨丸を手に、斬りかかる。モンスターもギリギリのところで交わして、ウィングへと噛り付いた。
「やりますね」
 噛り付いたところを捕らえ、ウィングは一撃、その身を貫いた。
 数で襲い掛かってくると厄介な相手も、単体であれば、あっさりと。
 その一撃でモンスターは息絶えた。
 他にモンスターが隠れて居ないか確認してから、ウィングは角を曲がって、次の通りへと入っていった。



「何か騒がしいのは気になりますが……まずは女王器に繋がる情報の捜索、ですね」
 文献を探していた六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)とパートナーのアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)
 少し前辺りから、幾人かの学生たちが上階を目指して階段を上っていく。
 多少気にはなるけれど、この遺跡へと来た目的は女王器の情報探しだ。優希は、気になる思いを横へと置いて、2人――主に、文献を見ているのはアレクセイのようだ――は読める本を探して回る。
「なあ、この記述……」
 アレクセイの護衛のため、辺りへと警戒を向けていた優希に、彼は声をかけた。
「手がかりになりそう、ですね」
 本を覗き込んだ優希が頷きながら、答える。
 そこに書かれていたのは『朱雀鉞・玄武甲・青龍鱗・白虎牙・麒麟の鬣』と、五獣の名の入った武具らしきものの名前だ。
 最初に『朱雀鉞』とある辺り、女王器の名前ではないかと思われる。
 優希は携帯電話のカメラ機能で、アレクセイは銃型HCの探索サポートシステムの中の撮影機能で、その名が連なったページを記録した。
「この名を頼りに他の本を見てみるか」
「そうしましょう」
 頷き合うと、本はアレクセイが確保しておいて、他の読める本を探し続けた。



「目に触れる場所にある本にたいした情報は無いのだ。こういった建物には隠し部屋があるはずなのだよ」
 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)と、2人のパートナー、ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)ララ サーズデイ(らら・さーずでい)は、それぞれ各階に分かれて、銃型HCの中にあるシステムの1つ、オートマッピング機能を用いて、遺跡の全体図を作成していた。
 マッピングのために歩き回っている途中、ネズミ型モンスターや見えない敵に遭遇してしまうこともある。リリは魔法攻撃で、ララは武器攻撃で撃退する。ユリは悲しみの歌など、相手の攻撃しようとする意気を消沈させ、その隙に撤退して、やり過ごした。
 全体を歩き終え、マッピング出来たことを確認すると、1階へと戻って、集まる。
「不自然な空間があるものなのだが……」
 3枚の地図を照らし合わせて、リリは唸った。どの地図にも棚が崩れるなどして塞がれていた場所はあれど、不自然な空間はない。
「部屋への通路を床下にしてしまえば、不自然な空間はできないのではないか?」
 ふとララが呟いた。
「その可能性もありますね」
 ユリが同意するように頷く。
「1階を調べてみるのだよ」
 今度は3人で一緒に。地図を元に、足元に注意を向けながら歩いて回る。
「チュッ!」
「チュチュチュッ!」
 棚が崩れている辺りも調べようと近付いたところで、ネズミ型モンスターが多く、出てきた。
「前は任せて」
 ララがエペを構えて、出てきたモンスターと対峙する。
 そのすぐ後ろでユリが光条兵器を構え、リリは詠唱体勢に入った。
 エペから放たれる爆炎がモンスターを包み込む。そこへ追い討ちをかけるようにリリが放った火炎が更にモンスターの身を包み込んで、焦がしていく。
 モンスターの反撃にララが傷つけば、ユリがヒールを施した。
 各々が地図作成の際、戦ったときとは手際が違う。3人揃ってこそ発揮される力だ。
 十数匹居たネズミ型モンスターはあっという間に倒れた。
 彼らが出てきた棚の陰も探るけれど、隠し戸を見つけることは出来ない。
 他の場所も同様に、彼女らは探して回った。