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リアクション
2.サルヴィン川の海鳥
高原 瀬蓮(たかはら・せれん)たちが、ヴァイシャリーのパブで歌を楽しんでいる頃、アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)はサルヴィン川の警護にあたっていた。
しかし、その夜は何事もなく、おだやかな川面が月明かりに照らされているだけだった。
翌日の昼、アイリスは昨日と同じように、船の護衛をするため、サルヴィン川に出かけていった。
この日は、他の生徒たちも船の警護をすべく、川の巡回に来ていたのだ。
朱宮 満夜(あけみや・まよ)とミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)は、アイリスとともに、事故多発地点を巡回している。
ウィザードの満夜は、箒に乗って、上空から監視をしている。
「やっぱり箒の機動性はバツグンね。ローレライの居場所をいち早く見つけることができるわ」
パートナーのミハエルは、満夜をハラハラしながら見ている。
「満夜、おまえ、なんて無謀なことを!
1人で巡回したら、ローレライの歌声に魅せられて墜落してしまうではないか。
そうならぬよう、地上からよく見張っておかなければ・・・・・・」
これをきいて酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、ミハエルをフォローした。
「ミハエルさんも、なかなか心配の種が尽きないね。
でも満夜さんなら大丈夫。だから我々は、船の護衛をしっかりとやろう。
サルヴィン川の貿易はヴァイシャリーにとって大切な命綱だからね。教師としても、これを守るのは使命だと思っているよ。」
レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)も酒杜に激しく同意。
「ボクもそう思うよ。ヴァイシャリーにとって大切な貿易船を守ることは、百合園生徒の仕事でもあるしね。
・・・・・・でも、ローレライの歌声って、耳栓だけで封じられるのかな? まあ、しないよりはマシとは思うけど」
そういうと、レキはアイリスらと作戦について話し合った。
「耳栓をしたら、仲間の声も聞こえなくなっちゃうだろうから、合図やサインはあらかじめ決めておいた方が良さそうだね・・・・・・ローレライは川に現れるから、火に弱いと思うんだ。だからボクはクロスファイアで攻撃しようと思うよ」
しかし、レキと一緒に来ていたパートナーのミア・マハ(みあ・まは)は、彼女の隣で横になって寝ている。
「ローレライが現れたら起こすのじゃ・・・・・・事前の合図云々はちゃんと把握しておるから安心せい。
妾はやる時はやるのじゃ! ・・・・・・やらない時はとことんやらないがの」
セレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)とウッド・ストーク(うっど・すとーく)は、これから遭遇するローレライへの思いをめぐらせていた。
「ローレライかぁ・・・・・・ボク、戦いはあまり好きじゃないんだよね。
伝説では怖い魔物みたいだけど、逆にステキな歌声を持っているって。
だから、信じてみたい。悪い魔物じゃないって。せっかく、おとぎの国に来たんですもの!」
そんな心配をするセレンスたちに、霧島 春美(きりしま・はるみ)は耳栓を配って言った。
「これ、蝋を固めて作った耳栓です。たくさん持ってきたので、気休めですが、お守りがわりに使って下さい」
「あ、どうもありがとう」
お礼を述べたセレンスがふと見ると、春美のパートナー、ピクシコラ・ドロセラ(ぴくしこら・どろせら)とディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)も、同じ耳栓に身を固めている。
さらに、ピクシコラは身体にアルミホイルを巻きつけ、マスキプラは鳥よけとして目玉風船とたくさんのCDをぶらさげている。
「なにそれ? お嬢ちゃん、遊園地にでも行く気なの?」
ドロセラにこう言われたスマキプラは、すかさず言い返す。
「なにをいうのドロセラ、そっちこそ、そのアルミホイル、わしゃわしゃとうるさいよ」
「うるさいとは失礼ね、スマキプラ。この装備で宇宙線すら防げるのよ?」
セレンスは、本当かなぁ? と疑問に思ったけど、何も言わず、春美にもらった耳栓を装着した。
同じく、春美から耳栓を渡された大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)とコーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)も、護衛に参戦。
彼らは『腕に覚えのある者』として、自ら任務に志願してきたのだ。
もう一組、神野 永太(じんの・えいた)と燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)も、ここサルヴィン川に来ていた。
今回、ザイエンデがローレライの歌に興味があるというので、永太は付き添いという形で護衛にやってきたのだ。
「お互いがんばろう!」
剛太郎たちと永太たちは、寒空の中、互いに励ましあっていた。
そこへ、美味しそうな匂いがしてきた。
生徒たちが匂いのする方向を見ると、万願・ミュラホーク(まんがん・みゅらほーく)が屋台を引いて、サルヴィン川にやってきた。
「おお、おいしそう!」
護衛でお腹の空いていた生徒たちは、屋台に並んでいるラーメンやメロンパンなどを見て、食欲をそそった。
「え〜〜、暖かいものはいかがであるかー♪ 安くておいしいであるよー♪」
黒のサングラスにバンダナという、少し怪しげないでたちをした万願・ミュラホークのまわりに、生徒たちが集まった。
「ラーメンください!」
「私も食べたーい!」
「はいどうぞ。おおお、これはすごい盛況だね。
ローレライの噂を聞いて、人が集まるだろうと思ったけど、この見通しは当たったようだね。
商売繁盛♪」
ミュラホークは、ほくほく顔で、生徒たちに暖かい食べ物をふるまっていた。
ミュラホークのおかげで体があったまった生徒たちは、ローレライ出現に備えて、気合を入れなおした。
マトーカ・鈴木(まとーか・すずき)は、パートナーのカシス・カシェット(かしす・かしぇっと)に向かってこういった。
「カス君、この航域で、得意の歌を披露するのじゃ。カス君、無駄に声はいいでの。少しは耳目を集められるじゃろ」
「無駄には余計だぜ。でも、要望通りに歌ってやる。ぶっちゃけ張り合える気は全然しねぇけどな。
・・・・・・俺の歌唱力が足りねぇ分、せめて範囲は広げるために、拡声器を持ってきたぜ」
「うむ、それでついでにローレライも誘い出したいのう。船を沈める歌は困るが、楽しみでもある。
要は歌うておる場所が悪いのじゃろ? 何処にいるか知れぬ状況では何するも困難、ひとまず目の前にきて貰わねばな。
・・・・・・ということで、カス君、ナース服を来て歌うんじゃ」
「な、ナース服着ろだ!? 超断る! って言ってんのに、合の手にナースコールいれんな!
・・・・・・呼んでねぇ? そっちのコールじゃねぇ!」
ドタバタ漫才もどきを演じて、みんなの失笑を買っていたマトーカ・鈴木たちだが、そこはなんとか収めて、カシス・カシェットは歌い始めた。
曲は、誰もが聞いたことのある童謡の類だが、なぜか歌詞は突っ込みどころ満載の内容だった。
「歌好きの貴女に朗報〜〜
もっと素敵な場所で歌いませんか〜〜
詳細は今すぐ船の上で〜〜」
すると、カシス・カシェットの歌に呼応するかのように、サルヴィン川の中ほどにある岩場から、美しい歌声が、かすかに聞こえてきた。
霧島 春美(きりしま・はるみ)が連れてきた猫の様子がおかしくなった。
まるでマタタビを突きつけられたときのように、グンニャリとなったのだ。
生徒たちにも異変が起こった。
「き、聞こえる。耳栓が効かない」
青ざめる朱宮 満夜(あけみや・まよ)に、ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)は手振りで避難を呼びかける。
同じく、イヤホンに音楽を流して四周を警戒していた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)も、脳にダイレクトに響いてくる謎の歌声にハッとして、パートナーのコーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)を見た。
コーディリアはといえば、初めて使うポータブルプレーヤーにすっかり上機嫌だったが、歌声が聞こえてくると、ニコニコ顔が恍惚の表情に変わっていくのが見て取れた。
霧島 春美(きりしま・はるみ)も、耳栓の上からポータブル音楽プレイヤーのヘッドフォンを装備し、音量を最大にするという二重三重の対策を施したものの、それとは関係なく、魅惑的な歌声が頭に直接響いてくるのを感じていた。
この歌声は、耳栓やヘッドホンをしたくらいでは遮断できないのだ。
するとディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)は、タンバリンをたたきヘンテコな歌をうたいはじめた。
ふわふわ わふわふ さわってごらん
ウールじゃないけど気持ちいい
ふわふわ わふわふ いいにおいー
しかし、歌っているマスキプラ自身が、気持ちよくなってしまったみたいだ。
この「ふわふわの歌」でローレライの歌声を生徒たちにとどかせまいという考えだったのだが・・・・・・。
と、酒杜 陽一(さかもり・よういち)の口元から、血がダラダラと流れ始めた。
そばにいたアイリスは、びっくりして「どうしたの?」と尋ねる。
「口の中の肉を噛み切ったんだ。
人間の脳は、脳に繋がっている神経がより強い刺激を受けると、同時に受けている他のより弱い刺激を遮断する性質がある。この激痛で脳を強烈に刺激したんだよ。
おかげでローレライの歌声どころじゃないぜ。おお痛てぇ」
「す、すごいことするね」
リオン・バガブー(りおん・ばがぶー)は、顔をしかめながら言った。
しかし、リオンが、身の毛をよだてているのは、酒杜 陽一の血を見たからだけではなかった。
彼が装着しているのは、防音材で作った耳栓のほかに、工事などで使われるイヤーマフだった。
そのイヤーマフの下にある小型イヤホンが、リオンの全身の毛を逆立てていた。
「ギギィーーーーー」
そこから聞こえてくるのは、この世のものとは思えないような不協和音。そして、極めつけは黒板を引っかく音。
「こ、これは、世界一の音楽なんだーっ!」
最大音量にしてあるイヤーマフから、漏れ聞こえる黒板の音。
これ聞いた生徒たちが、背筋をぞっとさせて、その場から飛び去っていったのは、言うまでもない。
一方、一式 隼(いっしき・しゅん)は、アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)の前に立つと、精神を集中させた。
「たとえ自分が弱くても、男ですから、女性を守るのは当然です」
パートナーのリシル・フォレスター(りしる・ふぉれすたー)も、魔力で集中しつつ、光条兵器の光麟槍を構えて、戦闘に備えた。
リシルとしては、ローレライと戦うよりも、説得したいという隼の考えに、少々不満であったが、はやまった攻撃だけはすまいと心に決めていた。
一式 隼たちは、歌声の誘惑を退けるべく、気持ちを落ち着けて行動していた。
しかし、歌声が大きくなるにつれ、近くを航行していた船が、岩場に近づいていくのが見えた。
これを見たウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、歌声に向かって火術と氷術を唱えた。
すると、不思議なことが起きた。
まるで、音の魔力がかき消されたような感じがして、船が正常な航行に戻ったのだ。
「2つの術を使って、周囲の温度を変化させたのです。
空気の密度を変えて音を屈折させれば、術による結界ができます。そうすれば、魔力同士が衝突して中和するという仕掛け・・・・・・
たとえ、屈折し切れなかった音も、魔力はなくなっているので害はないはずです」
ウィングの説明に、スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)は感心した。
「さすがはヴォルフリート。難しい法則を使いこなしているな。
でも俺は、歌には歌でいくぜ。脳みそをかき乱し、何者かに乗っ取られるような歌なんて、俺の声でぶちのめしてやる」
そういうと、スレヴィはものすごい音痴な声で歌い始めた。
「グォェェェェ〜♪」
これには、さすがのローレライもびっくりしたようで、座っていた岩場から、水の中に飛び込んでしまった。
「う、これは別の意味ですごい!」
スレヴィの、聞くに堪えない歌声に、朱宮 満夜(あけみや・まよ)とミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)は、自分の耳元で雷術を起こした。
ものすごい轟音が鼓膜を突き破らんばかりに響く。
満夜たちの頭の中に、ワンワンと残響が駆け巡る様子は、まるで、大音量のハードロックライブを聴いた後のような感触だった。
やがて、ローレライは、別の岩場に姿を現すと、再び歌い始めた。
船上にいたセレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)は、イルミンスールから借り受けた空飛ぶ箒にまたがって、ローレライに急接近していった。
そして、ローレライの目の前に降り立つと、母に教えてもらった優しいバラードを歌い始めた。
パートナーのウッド・ストーク(うっど・すとーく)は、船の上から心配そうにセレンスを見ている。
「セレンスさん、すごい。私も負けていられないわ。歌声には、歌で対抗します!
どうか届いてください・・・・・・私の歌を・・・・・・私達の想いを・・・・・・」
そういうと、ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)は、静かで優しさのある歌声を響かせた
あなたの傷ついた心に 闇がおとずれたら
わたしは 月になって
あなたの心を 優しく照らしたい
あなたの孤独な心に 雨が降ったら
わたしは 青空になって
あなたの心に 虹を輝かせたい
あなたの中で美しい思い出でありつづけたいから・・・・・・
ソニアの歌声は、見事だった。
また、ローレライの歌声とも共鳴していた。
神野 永太(じんの・えいた)は、次はザインの出番とばかり、パートナーを前面に押し出す。
「さあザイン。ローレライと歌声で勝負するんだ! 歌姫の称号を2つ持っているおまえなら、きっと勝てる!」
ザインは、おもむろに前へ出ると、ローレライに通じろとばかり、歌い始めた。
輝きの園は 誘うの
聳え立つ 心根の強さを 試すように
其処に選ばれた 人間の意志
其処に問いかける 無垢な感情
ただただ たえる
その 一つの音を
ただ そこにいる 喜びを
世界に そこにあるつながりを 皆に
私と 歩み行く貴方との 約束
この歌は、パラミタの古代語の歌を、現代語に訳したものだ。
それを、セイレーンに教わった人を魅了する方法で、歌ったのだ。
ただ、ザインは、ローレライに歌で勝ち負けを競いたいのではなく、ローレライと心を通わせたいと思って、無心に、真摯に歌っていた。
横では、神野 永太がザインの機械の手をしっかりと握っている。
『ザインを思う気持ちがあれば、ローレライの歌にも干渉されない。ザイン、がんばれ!』
ローレライの歌声に魅了されそうになりながらも、永太はザインを強く思って、誘惑を退けていた。
激しい歌合戦が繰り広げられる中、ローレライの歌声に魅了されてしまった人たちを救助する生徒たちもいた。
ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、眠ったように聞き入っている人の前にくると、悪魔の目覚まし時計を鳴らした。
「ジリジリジリジリジリジリッ!!!」
「うわっ」
ウィングは、会う人会う人をたたき起こし、正気を取り戻させていた。
道明寺 玲(どうみょうじ・れい)も、ローレライの被害にあっている人たちの救助に余念がない。
一式 隼(いっしき・しゅん)は、女性を中心に庇い、レオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)も怪我人を癒す作業に専念している。
彼らのおかげで、川を航行する船は、沈没を免れていた。
ただ、ローレライは、歌うことをやめない。
「このままだとこう着状態が続きそうですね。やはり、やめさせるには威嚇するしかありませんか?」
朱宮 満夜(あけみや・まよ)は、こういうと戦闘態勢に入り、ローレライに向かって雷術を放った。
ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)も、ローレライに近づくと吸精幻夜で、相手の精神を幻惑しようと試みる。
「幻惑には幻惑で対抗というものだ。海鳥とはいえ女だからな・・・・・・
あとで満夜にも同じことやらないと、嫉妬されそうだが・・・・・・」
レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、クロスファイアで応戦。
「歌で人を惑わすのはやめるんだよ!」
ミア・マハ(みあ・まは)は、火術で攻撃をしつつ、川に落とされそうになった人がいると、氷術で水面を凍らせて沈まないようにフォローしていた。
「この季節で、水に落ちたら洒落にならんからな」
酒杜 陽一(さかもり・よういち)と大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)も、他の生徒たちと歩調を合わせて攻撃を開始。
陽一は麻酔弾を、剛太郎は小銃を、ローレライに向けた。
コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)は、背後から剛太郎のサポートにまわる。
同じく、リオン・バガブー(りおん・ばがぶー)も戦闘のサポートを引き受け、ガードラインで後衛の人達を援護している。
リオンは、持ってきた機材で不協和音を増幅させ、歌い続けるローレライを一時的に中断させることに成功した。
しかし、一度しかやらない。
「俺がやりたいのは、ローレライの歌声を録音することだ。新型の罠開発に役立つかもしれないからね」
そういって、RECの赤ボタンを押した。
しかし、ローレライを攻撃する生徒たちに矛先を向けてきた者たちがいた。
「例えどんな理由があろうと、こいつを虐げて良いわけないだろ!」
グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は、こういうと、宝貝『風火輪』を使って飛行し、ローレライの近くまでやってきて、彼女を守る体勢に入った。
「・・・・・・良い歌だな・・・・・・だからこそ、何とかしてやらないとな」
パートナーの李 ナタ(り・なた)も、グレンにつづく。
「どいつもこいつも勘違いしていやがるな。ローレライが唄っても大丈夫なようにすればいいだけじゃねぇか!
絶対にローレライは殺らせねぇぞ!
テメェら! 助けるべき相手を間違えてんじゃねぇぞ!!」
対岸では、和泉 真奈(いずみ・まな)が、ローレライを攻撃する生徒たちを、背後から襲った。
「ローレライを捕獲しようとする、穏やかでない方がいるようでしたら、阻止させていただきます」
麻酔弾で捕獲を試みていた酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、真奈に棍棒で『ガッ』と殴られ、白目をむいて倒れた。
ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、グレンたちと同じく、小型飛空艇でローレライのそばへ行き、身振り手振りで説得を試みた。
「お願い、ここで歌うのをやめて! キミの歌声で、多くの船が沈んで行ったのよ」
すると、ローレライは泣きながら答えて言った。
「私、歌わないなんて出来ない! 歌いたいという衝動を止められないのよ」
「わかったわ。じゃあ今日のところはあと1曲だけ歌わせてあげるから、それで終わりにして」
ローレライは、ゆっくりとうなずいた。
そこへ、激走 脱兎(げきそう・だっと)の操縦する小船がラヴィ・ハイリィー(らびぃ・はいりぃ)を乗せて、漕ぎ寄ってきた。
「ローレライ! ボクと一緒に歌って! そして友達になってくれない?」
ラヴィの呼びかけに、ローレライは笑顔で答えた。
「そうこなくっちゃ!」
そして、ローレライとラヴィのコラボが始まった。
海が〜静かに眠る時
優しく風が通り過ぎて〜
月明かりが
眠りの邪魔をしないようにと
見守るよ〜
激走 脱兎は、船の操縦を止め2人の歌声に浸っている。
「ラヴィの歌を聴くの、久しぶり。滅多に聴けるものでもありませんからネ。
それに、ローレライさんの歌も、かなりのものと聞いてましたが、噂以上の実力ですナ」
約束どおり、ローレライは、歌い終わると、ラヴィと友達になることを約束し、歌をやめてどこかへ去っていった。
「オーケー、今日のところは護衛終わり。みなさんお疲れ様でした。
さあ、ミュラホークさんの屋台で、美味しいもの食べてあったまろう!」
「わーい」
アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)の掛け声で、生徒たちの緊張がほぐれた。
「さあさあいらっしゃい。夕方は冷えるからね。屋台ラーメンの味は最高だよ!
・・・・・・『パン屋の赤字も何とかしなきゃいけないからね』」
「おいしい!」
「あったまるぅ」
まだローレライの件が解決したわけではないが、とりあえず任務を終えた後のラーメンは、格別の味だった。