校長室
ローレライの歌声
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4.歌姫の結末 パブの歌姫が、実はローレライだったという噂は、一晩のうちに広まった。 歌姫のいるパブでは、どうしたらこの問題を解決できるか、生徒たちの間で喧々諤々の議論が交わされていた。 朱宮 満夜(あけみや・まよ)は、ローレライのしたことに対して、厳しい姿勢をみせた。 「ローレライは、今までたくさんの船を、川の底に沈めてきたんですよ。やっぱり私としては、すぐに許すっていうのは難しいと思いますね」 しかし、グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は満夜と意見を異にした。 「確かに、船の事故はローレライが原因だったことは間違いない。だが、それでローレライを討伐して良いってことにはならないだろう」 「うーん、そうですかぁ。彼女自身に悪気がないのなら、退治するんじゃなくて、別の場所に移ってもらうのが得策ですかね? 例えば、イルミンスールの森だったら、思う存分歌えるかも・・・・・・それに、森自体が防音の役目を果たしてくれるから、川のような事故もおきないでしょうし」 しかし、満夜の話を聞くと、しょんぼりとうつむいていたローレライが口を開いた。 「私、歌を聴いてくれる人がいないとダメなの」 グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は、なるほどとばかり、手を打った。 「そうだったのか。それだと人気のない森で歌うっていう選択肢はナシだな。うーむ、とにかく俺が言いたいことは、人前で唄うのに種族は関係ないってことさ」 ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)も、ローレライに助け舟を出す。 「本当に救わなければならないのはローレライさんの方だと思います・・・・・・だって、歌を唄っているだけなのに虐げられるなんて悲し過ぎますからね」 「お前を虐げる者がいるのなら、俺達がお前を護る・・・・・・それなら問題ないだろ?」 だんだん熱くなってきたグレン・アディールをたしなめるように、マトーカ・鈴木(まとーか・すずき)が、ひとつ提案をした。 「まあまあ、落ち着くのじゃ、グレン・アディール。我によい考えがあるのじゃが・・・・・・ どうじゃろうローレライ、我らと共に陸に来ては如何かの。 陸といっても、人のいない森なんぞではない。そなたの歌を聴きたくて集うた大勢の前で心置きなく歌える場所じゃ。 実害がなければ姿形なぞ気にせぬ輩は案外多いし、我もその一人じゃ。 ・・・・・・特にうちの校長は金儲け好きじゃから、実現不可能な話ではないさ」 これを聞いて、プレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)は感心した。 「さすがはマトーカさん。それはいいアイデアだねぇ。ちゃんと仲良くなれば、事故が起きるような場所でなくても歌っていける。ローレライさんには、そんな風に感じてほしいなぁ」 李 なたは、終始ローレライ擁護派だ。 「そんなイイ歌声と容姿なのに、人前で唄わねぇなんて勿体無いぜ。グレンの『護る』っていうのは『友達になる』って意味なんだ。だからアンタを護るのに理由なんて要らねぇんだよ」 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、思案げにつぶやいた。 「昼間に歌える場所はといえば・・・・・・せめて街に入れればいいんだけどなぁ」 一式 隼(いっしき・しゅん)が続ける。 「ローレライが人前でも気にせず歌えるような場所といったら、やっぱりこのパブかなぁ。アイリスもそう思うでしょ?」 アイリスは、黙ってうなずく。 サルヴィン川で、ローレライと一緒に歌った燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)は、もうすでに、お互いが理解しあえたと感じていた。 「歌は、人前に出て堂々と歌うもの。わたくしはそう思います」 セレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)も、ローレライを説得する。 「そうそう、人前で歌っても良いのよ。姿を気にする必要なんてないんだから。私はもちろん大歓迎よ!」 ローレライの顔に、笑みが戻ってきた。 そして、霧島 春美(きりしま・はるみ)の口調が場を和ませる。 「それじゃあ、やっぱりこのパブに、歌姫として迎え入れてもらうのが一番ですね。舞台にでるとき、あなたと一緒に二人羽織をしましょ。春美が体になるから! あなたには思い切り歌わせてあげたいの」 「春美さんありがとう。私、本当にこのパブで迎えてもらえるの?」 カウンターの奥で、マスターが「もちろんさ!」とウィンクした。 「よかったぁ。みなさん、今まで本当にごめんなさい。私、もうサルヴィン川で歌いません」 そういうと、ローレライは、まとっていたフードを取り、海鳥の姿を現した。 しかし、彼女の表情は明るく、種族の違いによる違和感はもはや感じられなかった。 「よーし、決まった。今日からローレライは、このパブの正式な歌姫だ」 アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)の呼びかけに、生徒たちは歓呼で応じた。 「なによ〜、みんなローレライばっかり。歌姫よりもどり〜むちゃんのほうが、かわいくて人気があるんだからねっ」 少々むくれ気味のどりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)だったが、むろん本気ではない。 同じアイドルとして、ローレライと張り合いつつ、一緒に楽しむことを考えていた。 ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)は、早速ローレライに歩み寄ると、交渉を開始。 「もし宜しければ、一緒に歌ってもらえませんか?」 「ええ、ソニアさん。喜んで!」 「あー、いいなぁ。私も歌いたい」 和泉 真奈(いずみ・まな)が追随する。 ローレライの歌声に合わせ、ソニアと真奈は歌った。 どりーむ・ほしのは、歌いつつ、ダンスも踊った。 用心棒の熊谷 直実(くまがや・なおざね)は、彼女らの魅力的な歌声に思わず誘惑されそうになったが「南無阿弥陀仏・・・」と念仏を唱えて、落ち着きを取り戻そうとした。 「こ、これが俗世の誘惑か。これも修行だ・・・・・・負けんぞ」 愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)は、直実を見てクスリと笑う。 「あんた、なに赤くなってんのよ? ねえ、ローレライ、今度は俺と歌ってくれる?」 というわけで、次は愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)、神野 永太(じんの・えいた)、燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)の3人が、ローレライと一緒に歌った。 ローレライが主旋律を歌うと、ミサとザインはコーラスを口ずさむ。 みんな、レベルの高い歌声を披露していた。 歌い終わると、愛沢 ミサはローレライに駆け寄って、お礼をいった。 「ありがとう! すっごく楽しかったよ! また一緒に歌いたいな。駄目・・・・・・かな?」 「ううん、私も楽しかった。ぜひ次もご一緒させてくださいね、ミサさん、ザインさん、永太さん」 「やったー。じゃあ、機会があったら、いつでも連絡してね! 場所はどこでもいいから!」 そういって、ミサは自分の携帯番号をメモすると、ローレライに手渡した。 セルシア・フォートゥナ(せるしあ・ふぉーとぅな)も、彼女たちの歌に合わせて、旋律を口ずさんでた。 小さく・・・・・・だけれど、歌いたいという心のままに・・・・・・ 歌が好き、というみんな気持ちが、このパブで溶け合い、ひとつになっていた。 「歌って闘うアイドル! りうちゃん参上〜♪ ローレライ、最後は私と歌って!」 そういったのは、皇祁 璃宇(すめらぎ・りう)。 もちろん、ローレライは快諾した。 パートナーのトクミツ・オヅカ(とくみつ・おづか)も、踊りで応援。 歌は、璃宇の用意した「水面の月」だ。 いつも見た水面(みなも)にうつる いつも同じさびしい笑顔 光照らして 弧えがく月よ くもりはらって 優しい君よ いつか見たい あなたの笑顔 ここにあるのは ただの仮面(マスク) 優しいあなたの笑顔の先は いつも私じゃない人を見てる いつも見た水面にうつる いつも同じやさしい笑顔 光満たして 円えがく月よ かわりに笑うよ かわりに歌うよ あなたの笑顔 私、微笑む あなたの歌を 私、歌うよ 璃宇たちが歌い終わると、場内は盛大な拍手で締めくくられた。 「うん、やっぱり歌はいいね。音楽に、人間もモンスターもないよ」 高原 瀬蓮(たかはら・せれん)とアイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)は、こういうと、うれしそうにお互いを見つめ合っていた。 パブの外には、明るい冬の月が、煌々と輝いていた。 おわり
▼担当マスター
ヴァイオリン弾き
▼マスターコメント
こんにちは。マスターのヴァイオリン弾きです。 今回は、ドイツのライン川に伝わるローレライをモチーフにしたお話でした。 ライン川の観光船に乗ると、ローレライ岩を見学することができます。 この岩山に向かって声を出すと、それがこだまになって返ってくるといわれています。 こういう美しい風景で、きれいな歌声を聴いたら、本当に優雅な気持ちになれるのでしょうね。 また、別のシナリオでお会いできますことを楽しみにしています。
▼マスター個別コメント