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【2020春休み】パーティへのお誘い

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【2020春休み】パーティへのお誘い

リアクション


第五章 ――ラストに向かって――


・再会


「迷子ですかぁ?」
 二階のパーティ会場で、アリアは子供の保護者探しをしていた。何か知らないかと、スタッフをしているメイベルに尋ねてみた。
「もしかしたら、子供を探してる人がどこかにいると思うんだけど……」
「聞いてみますね〜」
 無線を取り、確認を取る。
「メイベル様、あちらの方ではないでしょうか?」
 彼女のパートナーのフィリッパがそれに気付いたようだ。十六、七くらいの少年が何かを探すようにきょろきょろと辺りを見回している。
「あの、どうされました?」
 彼女が声を掛けた。
「実は、親戚の子を連れてきたんだけど、はぐれちゃって……あ!」
 その少年と、アリアが連れている子供の目が合った。ビンゴだ。
「よかった。心配したんだぞ!」
「おにいちゃーん!」
 子供は少年の元へ走り出していく。
「良かったね。もう離れちゃダメだよ?」
 アリアはその微笑ましい光景を見届け、パーティに戻っていった。

            ***

「さすが、コンテストなだけあって、どれも美味しいですね」
「うん……美味しい」
 樹月 刀真(きづき・とうま)とパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は料理を食べながらパーティ会場を見て歩いてる。
「どうだ、味は?」
 ちょうど刀真は涼介の作るカレーを食べようとしていた。
「結構辛いのかと思いましたが、違いましたね。ほどよく野菜の旨みが出ていてますし、非常に食べやすいです」
 涼介のドライカレーは、辛さ控えめであり、辛いものが苦手な刀真でも味わえるものだった。
「刀真、貰うね」
 聞こえるか分からない位小さい声で呟き、月夜は彼の皿から料理を取る。そこへ、アリアがやって来る。
「保護者の方は見つかったみたいですね」
「ええ、なんとかね」
 先程の迷子の保護者を探している時、一度二人は顔を合わせていたようだ。そこへ、さらに二人やって来た。
「さっきは大変だったぜ。なんか川が見えたりして、ほんとヤバかった」
「日頃の行いが悪いからよ」
 周とレミの二人だった。
「おっす、アリア!」
 軽く挨拶をし、雑談をする。
「二人とも、怪我はもう大丈夫?」
「ええ、なんとか治ったんで大丈夫です」
 刀真と周は遺跡の一件の際、最奥の『灰色の花嫁』相手に深手を負っていたが、もうほとんど完治していた。最上層の人達よりはいくぶんかマシだったようだ。
「良かった。テントで目が覚めた時は、みんなそのまま起きないんじゃないかって不安になったほどよ」
「まだまだやり足らねーことばかりなんだ、おちおち寝ちゃいらんねーよ」
 と、周。すっかり皆元通りになっていたようだ。
「そういえば、あの時一緒に戦った人って、他には来てないの?」
 アリアが辺りを見渡す。ふと目に留まったのは、スタッフとして奔走しているにゃん丸だ。
「にゃん丸、スタッフですか?」
「ああ。ほんとリリィも主催者も人遣いが荒くて嫌になっちまうよ」
 仕事中らしく、そのまま行ってしまおうとする。その際に、他に遺跡で会った人がいないかを聞いてみる。
「コンサートの方ね。この後ちょっと行ってみようかな?」
「そうですね。俺も、せっかくなので挨拶くらいはしておきたいですし」
 とはいえ、もう少しここにはいようとする。それから一旦、それぞれが料理を取りに出た。
「ノインまで助けようとするなんて……相変わらず女性には優しいですね」
 刀真が周に呟いた。大勢でいる時に言わなかったのは、せっかくのパーティの場だという空気を読んでの事だろう。
「見捨てるなんて出来るかよ。でも、助けられなかった……」
 思い出したように、目を伏せる周。
「彼女にはまた会えますよ、そんな気がします」
 刀真は、ノイン――遺跡で出会った銀髪の魔女が生きていると確信しているようだ。
「俺もノインに助けられたんでお礼言っておきたいですし、俺の目的の物が手に入るかもしれないので。あの灰色の花嫁の待ち人……ジェネシス・ワーズワースの事を俺なりに追ってみようと思います」
 彼はそう宣言してみせた。遺跡での出来事は、まだ終わっていないようにも感じているのだろう。
 二人が話している頃、彼らのパートナー同士もまた顔を合わせていた。
「遺跡では大変だったね、はいジュース」
 月夜はレミに飲み物を手渡した。
「ありがと。ほんとよ、周くんは三日間も目を覚まさなかったし、ずっと落ち込んでたしね」
 二ヶ月前の事を思い出す。
「刀真は何か気になるみたい、あの遺跡での事もう少し追うんだって」
「そうなんだ。やっぱりみんな気になってたんだね」
「うん。ジェネシスって人が関わった遺跡はあれだけじゃない筈だって」
 現在、最低でも五つは関連の施設がある事が判明している。彼女達はそれらを負うみたいだ。

            ***

「このケーキと紅茶、美味しいですね」
 未憂は、明日香が作ったケーキと紅茶をつまみつつ、悠司と会場内を見回っていた。
「俺にはちょっと甘過ぎるな。でもま、結構紅茶とは合ってるからバランスはいい感じだ」
 吟味しながら、悠司は他の料理を一通り見渡す。
「それに、コンテスト用に並んでるやつ。あーいうのって普通に作ってうまいのは当然だけども、新しいアイデアも必要なんだよな……参考になるねぇ」
 オーソドックスなものから斬新なもの、謎の物体(?)とバリエーション豊かな料理に感心する悠司。
「新しすぎるアイデアはちょっと……普通に美味しいのがいいです」
 未憂は新しいけど食べ慣れない味よりは、自分の口に合う料理の方がいいと思っているようだ。
「先輩もお料理するんですか?」
「少しくらいはな」
 会話をしながら、二人はまた料理を取りに行く。
「こういう普通のおにぎりもいいですよね。古き良き味って感じで」
 未憂はエントリーナンバーワン、瑠樹が作ったおにぎりを手に取った。
「ツナマヨか、なんだかよくコンビニにあったのを思い出すな」
 その時、瑠樹がちょうど追加分のおにぎりを置きに来た。それぞれ一目で具材が分かるようになっている。
「味はどうかねぇ? ……あ」
 瑠樹は悠司に見覚えがあったようだ。
「ん、どうかしたか? なかなか美味しいぜ」
「ああ、ありがとう」
 すぐに平静に戻る。あえて遺跡での事には触れなかった。
(無事だったみたいだねぇ。だけど、あの時の事を言うのもなぁ……)
「お一つ頂いても宜しいですか?」
 夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)が、おにぎりに手を伸ばした。
「どうぞー」
 彩蓮と顔を合わせる。さらに、悠司や未憂も見遣る。彼女もまた、遺跡の一件に関わっていたために、見覚えはあったようだ。
「その後はお変わりありませんか?」
 遺跡消滅後、彼女は調査団の医療チームとして、怪我人の手当てもしていた。
「特にないねぇ。大丈夫だよ」
 二ヶ月経ち、ほとんど皆元の生活に戻れているように見受けられた。実際は、まだ重傷者には完治してない者もいるのだが。
「それは何よりです。やはりといいますか、あの時の調査団の方、多くいらっしゃってますね。司城先生がおられればとも思ったのですが……」
 どうやら彼女は司城に挨拶しにやってきたらしい。だが、会えなかったため、こうしてパーティ会場を見て回っているようだ。
「そういえば、先程あちらの一角で悶絶してる方がいらっしゃったのですが、何かあったのですか?」
 ビーフシチューに成り損ねた物質の件である。彼女もそれを口にしたらしいが、平気だったらしい。
「何かやらかした料理が出ちゃってたらしいねぇ。今はもう誰も近付かなくなったみたい」
「それは……勿体ないですね」
 この後、彼女はそれを残さず食べたが、その光景を見た他の参加者は唖然とするしかなかったという。


 ・結果発表


「ただのスクランブルエッグと思ったけど……油断していた」
 一徒が口にしたのは、エントリーナンバーツー、マティエのスクランブルエッグだった。
「お味はどうですか?」
 尋ねるマティエ。
「なかなかですわね。卵のふんわりとした食感に加えて、加減よく塩コショウが効いていますわ。ケチャップをつけるよりも、そのまま頂いた方が食材本来の味が引き立ってますわ」
「あ、ありがとうございます」
 グレースの物言いに圧倒されてつつも、自分の料理を褒めてもらえたので、マティエは喜んだ。
「うん、これは美味いな。びっくりしたぜ」
 篠宮 悠(しのみや・ゆう)もまた、絶賛していた。
「どの料理もなかなかだけど、手軽な料理をはっきりと美味しいって作るのは難しいもんだ」
「そう言われると少し恥ずかしいですよ」
 謙遜するマティエ。
 悠はそれからも、他の料理を味わいつつ、ゆっくりとパーティ会場を見て回っていた。料理をつまみつつ、コンテスト参加者との会話に興じた。
「これは、なんでありますか?」
 迷彩服の大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)が口にしたのは、真希のおみくじ餃子だった。食感では中の具材が分からなかった。
「うーん、全部食べちゃったら確認出来ないからねー」
 中身が見えない以上、仕方のない事である。
「では今度は一口……これは、オクラ!?」
 驚く剛太郎。これには作った当人も苦笑するしかない。それなりに調理から時間は経っているが、まだおかしなものが残っているらしい。
「いやはや、びっくりしたであります……どうしたでありますか?」
 ふと彼は自分のパートナーを見遣る。
「……なんでもありません」
 コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)はどこか不機嫌そうである。剛太郎が女の子と話しているため、嫉妬しているのだろう。
「まだ他の料理も気になります。行きましょう」
 見かねたのか、剛太郎を引っ張り他のテーブルも回ろうとする。

 投票締切は過ぎたようだが、まだまだ料理を堪能している人は多い。もっとも、コンテストが終わっても、下のコンサートが終わるまでは料理を食べ続ける事は出来る。
「はい、ありすちゃん……あーんして」
「しょうがないですわね」
 アルコリアは箸で掴んだ料理を亜璃珠の口に運ぶ。おそらく普段の亜璃珠を知ってる者からすれば、この光景は大変奇妙に映ることだろう。
「ふふ、かわいいです」
「か、かわいいですって?」
 どうやら彼女は可愛いと思われるのが不服なようだ。
「かわいいの嫌なの? 照れてるの? それもかわいいーのー」
 そんな亜璃珠をよそに、アルコリアはあくまで自分のペースである。
「まったく、もう……じょうがないですわね」
 半ば諦め半分である。結構慣れてもいるようだ。
「今度は何が食べたいですか? ロールケーキ? メロンパン? それとも私?」
 どれでもとりますよー、とアルコリアは亜璃珠に聞く。
「じゃ、ロールケーキをお願いしますわ」
 アルコリアは、早速持ってくる。
「はい、あーん」
 なぜかそれを加えたまま口移しのような形になっている。さながらポッキーゲームのような光景だ。しかし、彼女は一度口から離す。何か気になったようだ。
「ロールケーキ、縦ロール、どっちが美味しいんですかねー?」
 亜璃珠の髪の毛を見ながら首を傾げて呟く。
「だから……髪の毛は食べ物じゃありませんわ。まったく、公の場でなかったらアル子を特別メニューで頂いてもいいのよ?」
 彼女達がこのようなやり取りをしていると、唐突に声がホールに響いた。


「結果はっぴょ〜う!!」

その掛け声とともに、来場者は動きを止め、エミカを注目する。
「はい、じゃーコンテスト参加者は前へ一列に!」
 出場者が一列になって並ぶ。準備が出来たと分かると、順位を告げていく。
「第三位……」
 ライトのように、光術の光が出場者の頭上を往復している。終夏による演出だ。
「やっぱりこのくらいはやらないとね」
 こっそりと呟く。
「エントリーナンバー8、春野菜のキッシュ!」
 ミレイユら三人が照らし出されると、拍手が送られる。三人はハイタッチで喜びを分かち合う。
「第二位……」
 同じように光術が繰り出される。
「エントリーナンバー6、ドライカレー!」
 今度は涼介が照らされる。よし、といった感じでガッツポーズした。
 そして、
「優勝は……」
 今度は室内の照明もいじり、暗転させた上で光を動かす。

「エントリーナンバー2、スクランブルエッグ!」

 ばん、雷術の閃光の後、光術の光でマティエが照らしだされる。本人は意外そうな表情である。
「え、ほ、本当ですか?」
 まさか豪華料理もある中、シンプルな料理で優勝するとまでは思っていなかったのだろう。コンテスト自体は極めてハイレベルなものだった。
「優勝おめでとー! まさかの三人とも逆転、何が起こるかは分からないねー。得票数はほんとに僅差だったんだよ」
 なぜか票数は言わない。別に言う必要もないと判断したらしい。
「それでは改めて、入賞した方々に拍手を!」
 盛大な拍手と歓声が、会場内に湧き上がる。
「あ、賞品とかは特にないからー。ま、みんなからの『美味しい』の言葉がご褒美って事で!」
 え、という空気が流れそうになるが、元々誘いの紙には賞品の事などどこにも書かれていない。そのため、文句を言う人は出なかった。
「それでは引き続きパーティを楽しんでってねー! あ、そうだ」
 エミカは何か妙な物体を取り出した。
「会場内でこんな落し物があったよー。もし自分のだって人がいたらあたしのところまで来てね。大丈夫、怒らないから」
 最後の一言は、怒ってやるという意味だろう、おそらくは。
(げ、丸のやつ何で来てんだよ!? しかも今の運営の口ぶりからすると、絶対何かやらかしたな)
 休憩時間のステージで散々暴れ回っていたそれは、悠のパートナーの天上天下唯我独尊 丸(てんじょうてんがゆいがどくそん・まる)であった。今も気を失ってるらしく、ぴくりとも動かない。
(名乗り出ると裏に連れてかれそうだ。他人のふり、他人のふり……)
 そのまま視線を逸らす悠。
「もし誰も名乗りでなかったら、処分しちゃうからねー。もし、契約者がいたらちゃんと引き取りに来た方がいいよ」
 その言葉に、悠はびくりとする。もし処分される事になったら、自分にもダメージが与えられる。
(……ったく面倒な事になりやがって)
 それから彼は一応助け出す事も考えたのだが、後ほど丸が目を覚まして会場を脱するのを知ると、そのまま放置するのであった。

            ***

「お疲れ、エミカちゃん」
 アルメリアはエミカに近付いていく。料理コンテストが終わったため、エミカと会場の巡回と称していろいろと見て回るようだ。
「コンテストうまく行ってよかったわね」
「まーねー。あたしにかかればざっとこんなもんよ!」
 誇らしげに言うが、彼女は他のスタッフほど働いていない。
「あ、そういえばまだみんなお昼休みとってなかったっけ」
 エミカはこれまでずっと他のスタッフに休みを与えずに仕事を手伝わせていた。そこで、無線を使って伝達する。
「料理コンテスト終わったから、お腹すいた人は休憩していいよー。なんなら、コンサートの方のスタッフにも何か持ってってあげてねー」
 ようやく運営側に余裕が生まれた。