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【2020春休み】パーティへのお誘い

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【2020春休み】パーティへのお誘い

リアクション


・バンドサウンド


「……なかなかいませんね」
 休憩時間終了間際、レイナ・ミルトリアは一緒に出てくれるメンバーを探していた。ジャズをやるには、パートが足りていない。
「三人ならなんとか連れて来れたよ!」
 ガルム・アルハが戻って来た。ギター、ベース、ドラムだ。
「ジャズはやった事ないけど、頑張るぞ!」
「アル、今度は走るなよ? 勢いでどうにかなるようなジャンルじゃないんだから」
 それは今回トップバーターを務めたバンドの三人であった。
「フォービートを刻んでくれれば大丈夫だ。よろしく頼むぜ!」
 ウルフィオナ・ガルムが三人に、にっと微笑みかけた。

            ***

 静かな、どこかクラシカルな曲調のSEが流れてくる。まるでそれは嵐の前の静けさのような穏やかなものだった。
「野外ライブの方がいいと思ったが、案外ライブハウスに近い感じで出来そうだな」
「だな。ここは後半戦一発目、派手に決めてやろうぜ!」
 バンダナを巻き、銀の飾り鎖り、ジーンズというロックな格好な上に右足首に足枷を嵌めた前田 風次郎と、デニムパンツに銀の飾り鎖りを身に付けた五条 武がステージ袖で軽く言葉を交わす。そして天 叢雲、テッド・ヴォルテールらとともに、それぞれの立ち位置につく。
 かくしてOUTRUNの「ライブ」が始まる。

「おいおい、みんな座ってていいのか、そんなんでついてこれんのか!?」
 雰囲気を察し、アリーナに観客が集まっていく。そこに入れない人は、座席から立ちあがって、少しでも前方に出る。
「まだまだ盛り上がっていくぞ! ついて来い!『Go For Broken!』」

今までの俺の生活はガラクタのようだ
あの時の思い出が重くまとわりつく
何も感じない、麻痺した心
猛烈な叫びで 心に喝を入れろ


「セイ!」
 武は爆炎波を行使し、サビに入る。手やギターから派手に炎が噴出している。ボーカルギターでありながらも、リードを担当するだけあって、恐るべき演奏力だ。それまで硬派に構えて弾いていた風次郎も、雷光の鬼気で電流を流し、演奏も激しさを増していく。

足枷を取り払え
失敗から成功を生み出せ
突っ立ってる暇はない
孤独に走れ、恐れるな
そのうち仲間が出来る
ビビってないで突っ走れ!


「突っ走れー!」
 アリーナの前列まで出てきていたクライスが叫ぶ。リフの部分ではヘドバンまでするほどだ。その流れに応じて、会場はあっという間に熱気に包まれた。
 ツービートと二本のギターによるかけ合いのリフは疾走感を生み出している。ドラムによってはそれほどのテンポにも関わず、一切リズムが狂う事なく、ツーバスタイプのドラムを叩いている。

今まで何度失敗してきた?
あの時の誰かがそう聞いてくる
何も感じない、麻痺した心
壮絶な叫びで、自分を取り戻せ


 二度目のサビに入る瞬間に、風次郎はドラゴンアーツによるカカト落としで足枷をぶっ壊した。その瞬間、大きな歓声が湧き上がる。武とベースのテッドはその時、同時にジャンプした。三人の息はぴったりと合い、その後ろでは叢雲が封印解凍で人間には不可能な速度でのタム回しによるフィル・インを展開する。黒のレザージャケットにも関わらず、自由に両腕が動くのも、機晶姫であるが故だ。


足枷を取り払え
失敗から成功を生み出せ
突っ立ってる暇はない
孤独に走れ、恐れるな
そのうち仲間が出来る
ビビってないで突っ走れ!


 最後はフロントの三人が、同時にジャンプし、綺麗に演奏が止まった。

 ステージから下がると、四人はパン、とハイタッチをした。
「テッド、お疲れ、良かったぞ!」
 武は初めて一緒に組んだパートナーに労いの言葉をかけた。


 続いて今度はステージが暗転し、控えめな照明となった。
 ステージで照らされたのは、シックな黒スーツ姿だった。唯一、ガルムだけは黒のワンピースである。助っ人の分は運営から借りたものだ。
 なお、トロンボーンとトランペットは、観客から助っ人としてギリギリ参加してもらったらしい。
 
 一曲目は、客もすぐにノれるスウィング・ジャズからだ。裏拍を取った手拍子がホール内に響き渡る。重厚なロックサウンドから急変したものの、こちらのシックな雰囲気にもいい具合について来ている。
 そして、ジャズの醍醐味であるそれぞれパートのアドリブソロに入る。
 トロンボーン、トランペットと続き、サックスソロの番になる。ウルフィオナがステージ最前の真ん中で、ワンフレーズ分奏でる。このジャズバンドの企画者だけあって、メロディに合わせて身体を動かすなど、かなりノリノリだ。
 次はハーモニカソロだ。ガルムがウルフィオナと入れ替わりに中央へ行き、ハーモニカを吹く。
 ハーモニカと侮るなかれ、なくらいのフレーズを披露すると、客席の声は大きくなった。彼女の小柄な容姿とのギャップにも驚いたのだろう。
 続いてはレイナのピアノソロだ。繊細かつ技巧的な指使いで、身体を揺らしてリズムを取りながら弾いていく。
 そして続いて助っ人三人のソロが続き、再び大サビで全ての音が一体となる。
「次の曲は、誰か歌ってくれないか?」
 ウルフィオナがステージから見渡すと、ちょうどジャズのボーカルにも合いそうな人を見つけた。ネージュだ。
「本日二度目だけど、いくよ!」
 コンサートの一番手と二番手が同じステージに立ち、しかも最初とは異なるジャンルを奏でている。
 ボーカルが加わった事により、次はソウル・ジャズとなった。ハスキーボイスと、息の合ったブラス・サウンドは見事にマッチし、観客を大いに賑わせた。

「……皆さん、ありがとう……ございました」
 レイナと彼女のパートナー達が礼を述べ、別れた。そのままステージ前方から下りるのも、と全員でステージ袖の方へはけていった。


「いよいよですネ。ステージ機材で出来ない演出はミーに任せて下サイ」
 ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)はそう言って、IMMのメンバーをステージ裏から送り出した。この時、彼は弱酸のアシッドミストを三人にかけ、見えなくしておいた。さらに、ステージの暗転も前もってPA側に頼んでいる。
「美央さん紗月さん、思いっきり楽しみましょうワタシたちも!」
 ルイが笑顔で二人に言い、三人は立ち位置についた。

 ステージ上に並ぶと、光術とサンダーブラストで三人のシルエットを浮かび上がらせる。

 「まずはメンバー紹介いくぜー! ギター、赤羽美央ー!」
 紗月のメンバー紹介から、彼らのステージは始まった。ジャーン、と美央はギターを立ててかき鳴らす。音ともに、ゴシック調の黒ドレスに、レース付きミニハットを纏った彼女の姿が露わになる。
「続いてドラム、ルイ・フリードー!」
 ドラマーっぽいタンクトップ姿のルイの姿がはっきりとし、軽快にスティックを回しながらドラムを叩く。
「最後に俺! ベース、椎堂紗月ー!」
 白のゴシック調のドレス姿が露わになると、ベースでスラップを披露してみる紗月。
「お前らー! 初ステージ、盛り上がっていくぜー!」
 メンバーに向かって勢いづけ、演奏に入る三人。ミドルテンポのポップな曲である。
 紗月と美央のツインボーカルは、二人の声が上手く合っていた。それぞれが前面に出るフレーズでは、もう一方がハモリを入れたりするなど、息の合っていないと難しい事もやってのける。その際、美央はさりげなくスキル「驚きの歌」を使用し、観客をより熱狂させようとしてみた。
 サビの第一声の際には、バン、と爆発のようなものが起こる。これはジョセフによる演出だ。
 大きな歓声が客席から上がる。リズムに合わせてペンライトを振っている姿も見受けられた。

「紗月ー!!」
 朔がアリーナの最前に立ってIMMのステージを応援していた。自前のイルミン風なハッピ着て、声を上げたり手を振ったりしている。その熱狂ぶりたるや、他の観客まで扇動してしまうほどのものだった。
「ふふふ、今日は大収穫ですな」
 ホールの客席の方からは里也がしきりに写真を撮っている。特に女性のステージはほぼ全て網羅していると言っても過言ではないほどだ。
 その熱狂ぶりを、複雑は表情で見つめている者がいた。紗月のパートナーの有栖川 凪沙(ありすがわ・なぎさ)である。
「紗月……やっぱりこの気持ちを諦めきることはできないよ……」
 ぼそりと呟いたその言葉を、椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)は聞き逃さなかった。
「なあ、凪沙」
 アヤメは彼女に、静かに語った。
「紗月はあの日から、ずっと近くにいたのに気づいてやれなかったこと、そのせいでお前に辛い思いをさせてしまったことを後悔してたよ……紗月を諦めろとは言わない。だが、あいつを大切に思うなら笑顔で傍にいてやれ」
 アヤメは、紗月がなぜこのコンサートに誘ったのかを理解していた。
「……うん」
「ああして騒いで自分が楽しんでるようでも、紗月は紗月なりにお前に楽しんでほしいと、気晴らしになればいいと思ってるのさ」
 ステージ上では、ステージ上を駆け、マイクに向かって声を張ってるパートナーの姿がある。そこにはそのような想いもあったのだ。

「ラストだ。コンサートはあと一組だけど、ちゃんと最後まで楽しんでけよ!」
 楽しみながら演奏を続けるステージ上の三人。ルイが力強いエイトビートを刻み、それにフロントの二人が音で彩りを加える。

「みんなありがとう!」
 演奏終了の折、美央が「バラの花束」を上に放り投げた。それを光術で攻撃し、花を観客席に飛ばす。
「ろっきゅー!」
 花を受け取った観客へ向けて言い放ち、ステージを去った。


「いよいよですね。頑張りましょう、皆さん」
 ついにコンサート(既にライブと化しているが)は、最後の一組、この日のために再結成した「Fairy ring」の番となった。
「よし、俺達にできることを全力でやろう!」
 椎名 真が気合を入れる。
「じゃあ、始めるよ」
 ヴィナ・アーダベルトが煙幕ファンデーションを使い、ステージに霧を立ち込めさせる。
その間に、五人はステージにスタンバイする。
 その煙から最初に出てきたのは、二体の紙ドラゴンの使い魔だ。横断幕を両端で噛んでおり、ステージから飛び出すと、

「新天地へ旅立つ皆へ、親愛を込めて」

 というメッセージが露わになる。
 次第に客席がざわつく中、光条兵器のクロスボウ乱射により霧の弾幕が切り裂かれ、黒スーツ黒ネクタイの五人が登場した。シャツの色が各々異なっている。

 真のドラムのカウントから、楽曲に入った。

【ボクらの奇跡】


キミに会えて良かった
それは、奇跡
小さくて大きな僕らの奇跡

キミは知らない
どれだけキミが
僕らを救ってくれるか
キミの何気ない一言が
僕らに歩く力をくれる

キミは知っている?
キミが笑うと
僕らも嬉しいこと
キミの明るい笑顔が


 間奏に入り、ボーカルの遠野 歌菜がメンバー紹介を行う。
「優しくってクールな研究者。夫にはちょっぴりヤンデレ? 人妻、幸!」
 白いシャツの島村 幸はキリッとかっこよく微笑み、キーボードを即興でアレンジして演奏する。短いながらも、ソロパートだ。
「焔の魔術士。雨の日はちょっぴり無能な湿気たマッチ? 陣!」
 蒼紫のシャツの七枷 陣は、少しズッコケかけるも持ち直し、グリッサンドなどを入れながら、ベースを流れるように弾いて応える。
(だから無能ちゃうから! 湿気ても無いから! 不本意な異名やから! マジで!)
 歌菜にツッコミを入れつつも、その声は演奏の音でかき消える。
「こう見えて人夫(ひとおっと)、一児の父。老けてる? いいえ、大人の魅力です、ヴィナ!」
 ダークグレーのシャツのヴィナは、会場に向かってウインクと投げキスをすると、ギターを構えてソロフレーズを弾いていく。かっこよさ、というより艶やかさが引き立つメロディだった。
「執事の鑑。ご主人様の為なら身体を張るよ、どMじゃないよ、真!」
(どえ……ちょ!? って……あはは)
 青緑色のシャツの真は苦笑、一瞬ガクッとなって演奏がもたつきそうになってしまう。すぐに照れたような顔つきになるも、ちょうど小節の境目だったために、うまくドラムのフィル・インが決まる。
 そして最後は、マイクを握っている薄い桃色のシャツの歌菜の番だ。
「戦って踊れる騎士。背後にナニカイル? 気のせいです、私、歌菜ー!」
 すると、「カナちゃーん!」という声が飛んできた。その方向には、バラの花束を抱えて手を振る虚雲の姿があった。
 微笑み返し、ラストに向けて心を込めて声を発する。

キミに会えて良かった
それは、奇跡
小さくて大きな僕らの奇跡


恥ずかしいけど、今言うよ
僕ら、ずっと一緒に歩いていこう……


 「皆さんにも良き出会いが訪れますように」
 曲が終わった直後、フラワーシャワーが巻き起った。会場中にバラの花弁が舞っていく。このために、幸は前もってバラの花束を集め、小人の小鞄で小人を呼び出しておいたのだ。

 舞う花弁の中、「Fairy ring」の五人はステージ袖に消えていった。