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御神楽埋蔵金に翻弄される村を救え!

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御神楽埋蔵金に翻弄される村を救え!

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第二章 防衛線

 不気味な静けさが広がっていた村の片隅に、金属が積み上がる音と、木材が擦れあう音が入り混じる。
「そっち持って!」
「おう。っと……そこ、もう少ししっかり留めた方がいいぞ」
「ん? あぁ、ここか。任せとけ」
 ガラガラと投げつけられるように集められる木材を、次から次へと組み上げてながら如月 玲奈(きさらぎ・れいな)が的確に指示を出し、それに合わせて弥涼 総司(いすず・そうじ)中原 一徒(なかはら・かずと)がバリケードを組んでいく。
 村にあった資材で組んだバリケードは、強度の面では不安が残るものではあったが、敵の急襲を耐えるには十分な物が出来上がった。
「この辺に覗き穴を……」
「バリケードに覗き穴は要らないんじゃないかな?」
 組みあがったバリケードに向かって両手でカメラマンの様に指で四角を作り、構想を練る総司に向かって玲奈が呆れ顔で答える。
「いや、だがのぞき穴と一口に言っても、戦いにおいては相手の様子を見るには、やはり必要なもので」
「ま、とりあえず今回はいらないんじゃねぇか? バリケードって言っても、全面貼れたわけじゃないからな」
 切実に覗き穴の必要性を説く総司の肩に一徒が手を置く。一徒の言うとおり、村の資材をかき集めて作ったバリケードは村の入り口の四割を覆った所で目ぼしい資材が尽きたのだ。
「それにホラ、あちらさんが作ってるバリケード、何か考えが有りそうだろ?」

 玲奈達が作ったバリケードの横では、村に有った柵を引き抜いて並べ直している真白 雪白(ましろ・ゆきしろ)の姿があった。
 一通り柵を並べると、満足そうな笑みを浮かべながら汗をぬぐって
「ま、こんなもんだよね」
 と隣で黙々と穴を掘り続けていたアルハザード ギュスターブ(あるはざーど・ぎゅすたーぶ)へ視線を向ける。
 その声に、素手で地面を抉っていたアルハザードが首の骨を鳴らしながら
「おう、じゃあ俺はもう行くぞ」
 と、小型飛空艇に跨って上空へ飛翔していった。

「ちょっとゴメンよ?」
 雪白が、上昇していくアルハザードにヒラヒラと手を振っていると、八神 誠一(やがみ・せいいち)が抱えていた大きな岩をバリケードの脇に降ろした。
 その横で、綺麗な黄色の髪をサイドで揺らしながら机を運んでいるのはオフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)
「……はぁ。久方ぶりに二人でお出かけと思っていたのに」
 溜息と共に、抱えていた机を誠一の足の上に迷い無く降ろした。
「はは……痛い、かな」
 緩く笑いながら、足を引き抜いた誠一の顔を見もせずにオフィーリアはそっぽを向く。
「……イチャついてる暇があるなら手伝えよ」
 そんな二人を見ながら、日比谷 皐月(ひびや・さつき)が冷笑しながら、淡々と机を並べていく。
「イチャついてるつもりは無いんだけどねぇ」
「知らねーよ。あんましダラダラしてると撃ち込まれるぞ」
「……うーん、それは怖い」
 苦笑いする誠一に皐月が顎で指し示した先で、如月 夜空(きさらぎ・よぞら)がスナイパーライフルを弄んでいる。
 その後も二人は、何かとギクシャクしながらもバリケード付近に障害物を置いていった。
「仕上げ仕上げ、っと」
 完成したバリケードの横に、オフィーリアが前面に大きく「車間距離に注意」と書かれた立て札を突き立てる。
「楽しそうだねぇ」
「お・か・げ・さ・ま・で・ね♪」
 笑顔で返事をしたオフィーリアの額に青筋が立っていた気がしたが、誠一は見て見ぬフリをするのだった。



 ――さらに、その横。
「これで、六割ぐらいか、よし。そろそろココは終わらせよか」
「いえ、まだまだです! こっちと、ほら、そこも!」
 避難をせずに残ってバリケードの設置をする村人達に、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が声を掛けるが、一緒にバリケードを組んでいたフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)は満足がいっていないようで、あちらこちらと壁面の補強をしている。
「かなわんなぁ……」
「音楽の事となると人が変わりますからね」
 頬を掻きながらぼやく泰輔に、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)が後ろから応えた。
「ま、しゃーないわな。で? そっちの首尾は?」
「上々、と言いたい所ですけど……そう上手くもいかないですね」
 レイチェルは単身、仲間内で抜け駆けをしようとしてる者がいる、と敵の情報をかく乱しようと試みたが「まるでそんな事は当然」と言わんばかりに鼻で笑われ、軽いため息と共に防衛地点まで戻ってきていた。
「ふぅ、とりあえずこんな所ですね」
 話し込む二人に、バリケードを組み終わったフランツがやりきった顔で入ってきた。
 どこから持ってきたのか、と言うほどの木材と鉄辺を組み合わせて作られたバリケードに満足そうに頷いている。
「……要塞か」
 とりあえずお決まりのツッコミを見せる泰輔にフランツが誇らしげに胸を張る。
 満足そうなフランツを横目に、泰輔が杖を手に持つ。振るわれた軌跡が円を描くと、瞳を閉じて膝を突いた姿勢で讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が現れた。
「どう? 何か分かった?」
「えぇ、多少は」
 顕仁は返事をしながら顔に掛かる銀色の髪を指で避け、袖の中から半紙を取り出すとそれを広げる。
 敵中に身を隠しながら情報を収集していた顕仁が言うには、敵陣の中央で陣の外と頻繁に情報が行き交っている、と言う事が分かった。

「アレが敵の統率者に見えたんだが……他に黒幕でもいるのか?」
「かもしれないですね」
 顕仁の発言に後ろから応えたのは、マクシベリス・ゴードレー(まくしべりす・ごーどれー)。横にはフランツも立っていた。
 遠目からでも目立つ大きさのモヒカンを揺らすならず者は、いかにも偉そうにふんぞり返っている。
「わざとらしい程に他の者よりモヒカンが大きいのぅ」
 さらにその横で、敵陣を見てポニーテールを纏め直しながらフラメル・セルフォニア(ふらめる・せるふぉにあ)が、適当な相槌を打つ。
 
「ま、大将叩いたらなんとかなるやろ。それに、援軍来るまでの我慢や」
 こっちの準備さえ整ったらやけどな、と胸中で呟きながら、泰輔は横目で他のバリケードを見る。
 いまだ完全とは言えない防衛線の向こうでは、ならず者達が士気を上げていた。



 程なくして、入り口の七割が封鎖されようとしている頃、上杉 菊(うえすぎ・きく)グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が、何やら話し合いながら隙間の開いた壁を組み上げている。
「とりあえず、これぐらいで大丈夫よ。私の方も終わったわ」
 バリケードを組み終えた菊とグロリアーナに、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が声を掛けた。敵に対して水平ではなく、僅かに斜めに配置するだけではなく、わざと隙間を開ける様に設置されたバリケード。
 ローザマリアは、その隙間に仕掛けた罠を見つめていた。問題は無いだろうか? きちんと起動はするだろうか? 様々な考えが浮かんでは消える。
「はわ……エリー、みんなの楽器隠してくる」
 ふ、と目の前を見るとエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)が、大きな目をぱちくりさせた後、音楽堂へと走っていった。
 走るたびに揺れるツインテールを見ていたら、何故か自分の考えが杞憂なのではないだろうか、と思って笑いがこみ上げてきた。
「御方様……?」
「何でもないわ、大丈夫」
 突然笑い出したローザマリアに、菊が眉根を寄せるが当のローザマリアは何事も無かったかのように、いつもの顔に戻った。