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【初心者さん優先】ダンジョン☆鍋物語

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●SCENE04 (part3) : 大橋奪取戦

 幅十メートルにもなろうという大橋には、整然とモンスターが配置されていた。蟹や海老といった装甲の厚いものが前衛、中衛は、やわらかいが独自の攻撃方法を持つ糸コンニャクやつみれの類が占め、後衛には魔法を使うキノコ類が控えている。不気味なのはこれら魔法生物が、警戒態勢にありながらまったく動かず、橋を守り続けているところだった。
 一行は、大橋の怪物が射程距離に入るギリギリの位置で停止していた。ここで睨み合いの状態となる。
(「マグマが流れてるのに何でだろう……悪寒がする」)
 セルマは、身を震わせた。その正体を彼は肌で感じている。
(「これは……殺意?」)
 コミカルな鍋具材モンスターであるにもかかわらず、手で触れられそうなほど濃い殺意を発しているのだ。セルマにはそれが不気味だった。
 永遠にも思える睨み合いだったが、唐突に破れる瞬間が来た。
「今です!」
 大橋の上の敵が動揺するのを見て取り、カムイは全員に合図した。これが戦いの狼煙となる。
 一気に全員が行動に移った。渡河部隊だけではない。戦闘部隊、地図作成部隊、対『キング』部隊も全員結集し大橋へ突撃を敢行する。しかし、この戦いの中心はあくまで渡河部隊だ。
「マグマの河かー。ここは確かに大変だったけど……」
 愛らしいクマのぬいぐるみみたいなゆる族、されど手には機関銃を抱えているというミスマッチなところが魅力の彼女はミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)だ。
「ミリィ、突撃する人たちの援護を!」
 セルマの声を受け、いま、ミリィはその実力を遺憾なく発揮する。
「『このはしわたるべからず』っていう謎かけには、『端(はし)ではなく真ん中を歩きました』ってトンチで答えるのが正しいんだよね。だったらその状況、作ってみせましょワタシたちが! 道の真ん中、開っけなさーい!!」
 撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ! これぞ驚異の弾幕援護、ミリィは機関銃から鉛の弾を撒き散らした。恐ろしいほどの弾が飛ぶが、ミリィはしっかりシャープシューターをかけ的確な狙いでモンスターだけを撃っていた。
「すごいすごーい、カッコいいクマちゃーん♪」
 ノーン・クリスタリアが駆けてきて、嬉しそうに節を付けて歌いはじめた。
「マシンガンとクマちゃーん、マシンガン抱いたくまちゃーん♪」
「いえ、クマちゃんではなくてですね……できればミリィと呼んで下さい」
 ミリィはいささか当惑気味だ。なおノーンの歌はただの歌ではない。味方を励まし活力を与える『幸せの歌』なのである。
「わたしが『ふぉろー』してみるよ、任せて!」
 ノーンの歌とメッセージは橋の仲間たちに広がっていった。
 楓も、ノーンの歌により力を得た一人だ。駆けながら抜刀し、手近な怪物に切りつける。相手は豆腐だ。体格ばかり大きいが鈍重な怪物で、
「せいっ!」
 と突きだした楓の一撃を裂けきれず、ずぶりとこれを胴体に喰らった。本来ならばここで、怪物も反撃に出るべきところだが、挟撃状態となり浮き足立っているのでそうもいかない。豆腐は橋から落下しマグマの河に消えていった。
 決死部隊が崖を征くのを護衛しつつ見送った緋雨も、今は橋を奪取すべく二丁拳銃を抜いている。コルト・パイソンとデリンジャー、本来は一丁ずつ扱うものだが、敵を撹乱させるには弾数が多い方がいい。それに、あふれるほど数がおりしかも混乱している相手ゆえに、二丁とも面白いように命中していた。
「橋の鍋モンスター軍団、たしかに多いけど乱れてる乱れてる♪ 撃ち放題の落とし放題じゃない。麻羅たち、見事に成功したのね」
 長い黒髪をなびかせスカートを翻し撃ちまくる緋雨は、まるで西部劇の戦うヒロインだ。
 フィリップの氷術が蟹を氷に変え、これに躓いた海老が橋から落下した。
「頼りなさそうと思ったけど、案外やるじゃない、彼。私も頑張らないとね!」
 そんなフィリップに感心しつつ、美春は三本編みおさげを振り乱し、大鎌を振りかぶって横凪いだ。刃が閃くも一瞬、つみれと思わしき柔らかな怪物が、すっぱりと横に切断され崩れ落ちた。
 無論、いくら状況が有利でも、敵の反撃で負傷する者は少なくなかった。その間を巡ってカムイが治療を施していく。
「傷は癒えましたか? 危なくなったらすぐ下がって下さいね。無理は禁物です」
 いくら大規模作戦であろうと、回復役がいなければ完全遂行は難しい。カムイのような存在こそが、数々の作戦を支えているのである。

 橋の対岸側では、崖を渡った面々が激闘を繰り広げている。
「さあ、あと一頑張りだね。これだけ敵を混乱させてるんだもん、もう勝ったも同然だよ」
 レキは元気に明日歌に呼びかけ、明日歌は明日歌で、レキを治療しつつ、
「はい、これで治療は終わり。あと…あなたよく見たら素敵なお人やね……」
 と、濡れたような瞳で彼女に言い寄っている。
「えーっと、ボク子どもだからそんなに素敵って感じじゃないと思うけど……でも、ありがとね……って、あっ!? 戦闘中戦闘中!」
 響きは同じ『あすか』だがこちらは明日香、レキと明日歌のすぐそばで、明日香は敵を誘っている。
「こっちですよぅ♪」
 明日香はにこにこと笑った。橋の縁一杯のところに立ち、スカートの裾を両手でつまんで挨拶する。これを見て海老モンスターが激昂した。尖った頭を槍のように下げ突進してくるも、
「えいっ」
 明日香は背後を見ず、バックステップで橋から身を投げた。捲れ上がりそうになるスカートを手で押さえる。瞬間、彼女はマグマにブリザードを撃ち込み、発生する蒸気をブラインドにすしていた。当然、海老は気がつかない。そのまま突進してきた。
「残念でした〜」
 つづいての展開は、明日香と海老とでは対称的だ。
 明日香は飛行魔法を使い、海老の頭部を逃れて大橋に帰還した。
 一方で海老は、マグマに落ちて火に包まれ、すぐにきれいさっぱり溶けてしまった。

 作戦は成功だ。橋を固めていたモンスターたちは、背後からの急襲に驚き、つぎつぎと橋からマグマに転落していく。大橋の奪取も時間の問題だろう。