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【初心者さん優先】ダンジョン☆鍋物語

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【初心者さん優先】ダンジョン☆鍋物語

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●SCENE06 (part2) : Dream of Nabe 

「さあフィリポ、座って座って」
 赤城 花音(あかぎ・かのん)はフィリップ・ベレッタの腕を取り、自分のテーブルに座らせた。
「今日はダンジョンに参加できなかったけど、その分海鮮鍋を頑張るからね!」
 花音は流れるような手際の良さを見せた。昆布を浸した水はもう沸騰している。そこには白菜が入れてあった。煮立ったら今度は鰹節だ。
「こうやるとね、白菜の青臭さが消えるんだ」
 続いて彼女は灰汁を引いてから椎茸を投入した。さらによく頃合いを見計らって、手際よく海鮮物を入れていった。
 出来上がるまでの間、リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)がロイヤルミルクティーを淹れてくれた。
「海鮮鍋の完成までの間、暖まってくださいね」
 リュートによれば、鉄分を嫌う紅茶は、実は土鍋で淹れるのが最適なのだという。給湯ポットから注ぎなつつ、作り方を語ってくれた。
「水は軟水、茶葉はアッサムを選びます。沸騰したお湯に、茶葉を入れ煮立たせます。三〜五分程度が目安ですね。煮立てた紅茶に当分量の牛乳を加えますがここでご注意、鍋をかき回す事はNGです……茶葉が傷つき渋みが強くなり過ぎますからね」
 後は、沸騰寸前に火から下ろして完成です、と、リュートが渡してくれたロイヤルミルクティーは、夢見るような色と味わい、香も素晴らしかった。
 そして花音の鍋作業も終わった。
「仕上げは……適量の塩!」
 ぱらぱらとふったのち、小皿にスープを取って味をみた。完璧だ。
「うわ、すごく上手ですね。本職の人みたい」
「そう? あ、フィリポは良かったら、ボクの鍋作りを覚えてよ。ほら花嫁修業ってことで! ルーレンさんが待ってるよ!」
「えっ! そ、それはないですよそれはっ……ていうか僕、男ですっ」
「冗談だって! 半分……」
「半分じゃなくて全部でお願いしますー!」
 フィリップは明らかにうろたえた。
「フィリップさん……花音は恋愛感情が分かっていません……気にしたら負けですよ」
 リュートは彼を安心させるべく穏やかに微笑んでくれるのだが、フィリップはこういう話が大の苦手なのである。別の話題に言ってくれないかなあ、と彼は願うも、世間は許してくれなかった。
「恋愛、といえば」
 このとき、茅野菫が鍋の向こうから顔を出した。彼女はフィリップの対面に座っていたのだ。
「ねえ、ちんちくりん?」
 菫の『ちんちくりん』はフィリップの呼称だ。フィリップはそう呼ばれるのを好まないが、強く言い出せず「はい」と応じた。すると間髪入れず、
「ちんちくりんは恋人や好きな人はいるの?」
 ストレートに菫は言ったのである。
 どうやら、多くの人の興味を引く話題だったようだ。フレデリカ・レヴィもフィリップの隣に座り、反対側の隣に陣取った光智美春は、フィリップの器に鍋の具を盛っていたのだがその手をぴたりと止めた。他にも数人、聞き耳を立てている者もいるようである。
 その気配を察知したフィリップは、(「どうしてみんなそんな事知りたいんですか……!?」)とひたすら汗をかきつつ、弱々しい声で答えた。
「そ……そんな人、いません」
 すると菫は悪戯っぽい目をして、
「じゃあ、立候補しちゃおうかな?」
 と軽い口調で述べたのである。
 これに真っ先に反応したのは、フィリップ本人ではなかった。
「えーと、菫さん。悪ふざけにしては度が過ぎていませんかね?」
 すっと音もなくルイーザ・レイシュタインが手を伸ばし、テーブルの調味料を取るふりをして菫に顔を寄せた。しかも彼女は、
「フリッカの気持ちも考えてあげてください」
 と述べたので、今度はフレデリカが仰天する番だった。
「ルイ姉、突然何を……! え、えーとフィリップ君ごめんね。菫さん、少し向こうで話しましょう」
 言うやいなやフレデリカは立って、菫の腕を引っ張るようにしてその場から離れた。
 しばし、困惑したような沈黙が場に流れた。
 これを破ったのは美春だった。
「なんていうか……君も大変ね」
 苦笑気味に器をフィリップの前に置いた。食べるのが勿体ないくらい綺麗に盛りつけてあった。
「食べた食べた。力を付けておかないと、これからどんな修羅場があるかもわからないんだもん、やっていけないよっ!」
「しゅ、修羅場って……?」

 特大の鍋を前に、メイベル一行はシルミット姉妹を交え鍋を囲み歓談している。
「ゴブリンの皆さんとこうして食事を共にできる日が来るとは思いませんでしたわ」
 フィリッパ・アヴェーヌは微笑した。テーブルの高さが違うので鍋は同じではないものの、ゴブリンも同じ座にいるのである。
「それに、頼もしいルーキーとも知り合えて嬉しいよ。よろしくね!」
 セシリア・ライトが笑いかける。梅沢夕陽や杉原龍漸も同じ席にあるのだった。
「は、はい。よろしくお願いしますぅ……」
 やや緊張気味に夕陽は頭を下げ、彼のパートナーのブリアント・バークも胸を叩いた。
「こういう冒険ならいつでも駆けつけるぞ」
「学校は異なれどこれからまた同行することはあろうかと思われる。以後、宜しくでござる」
 いささか格式張ってはいるが、龍漸は爽やかに挨拶を返す。
「エビができたようです。食べますか?」
 シャーロット・スターリングが声をかけた。
「おう、エビか。ほら、我が取ってやろう。食え食え」
 ブリアントは夕陽の世話が焼きたいらしく、彼の器をとって山盛りにしてくれている。
「いや、自分はそんなに……」
 と言いながら、夕陽はふうふう吹いてエビにかじりついた。ぷるぷるに煮えてもっちりと歯ごたえがあり、出汁がじんわりと染みこんだ美味しいエビだった。

 ルイ・フリードはゴブリンに入り交じって、勇ましく筋肉談義に花を咲かせていた。
「確かい胸筋を鍛えると見栄えしますが、胸筋ばかり鍛えていると姿勢が悪くなることがあるので、バランス良くトレーニングすることが大事ですね☆」
 きらっ、と歯が光るルイは、今日はほとんどゴブリンたちのアイドルで、あっちからこっちから声をかけられ、その度に肉体美を披露していた。
「何をやってるんだか」
 シュリュズベリィ著・セラエノ断章は苦笑しつつも、こうしてゴブリンと友好を深めることができて嬉しそうである。
「今日のルイって、筋肉友好大使ってところかなぁ……」
 かくいうセラは食欲友好大使だ。無類の食べっぷりでゴブリンを驚嘆させていた。

 レキ・フォートは椎茸が好みらしく、
「シイタケ、シイタケ」
 と、せっせとこれを鍋に入れ、また食べている。したがって彼女の鍋は椎茸鍋のようになってしまうが、
「椎茸はがん予防の効果があるといいますし」
 カムイ・マギは黙々と食べていた。

「チゲ鍋になるのかなぁ?」
 と、呟きつつ、リュウノツメを少しずつ鍋に入れているのはミレイユ・グリシャムだ。
 同じ鍋をつつきつつ、桑田加好紘は上機嫌である。
「おっ、だんだん辛くなって来たな」
 加好紘はすでに、さっぱりしたメイド服に着替えていた。エイリス・ミュールはおたまを使って、
「注ぎ足しますね」
 と、自分の隣の席に置かれた丼に出汁を注いだ。丼? そう、エイリスの隣には、席ではなく丼が置かれていた。丼には出汁がたっぷり入っており、その中にモス・マァルがお風呂のように浸かっている。これがマァルの鍋の食べ方なのだ。元が苔玉なので、体から直に汁を吸うのである。マァルは、
「あっつあーつ♪ うっまうーま♪ えーびかーにじゅぅー!」
 と歌いつつ、
「じゅー!」
 と音を出しちょっとづつ汁を吸っていた。
「こういう場合は……」
 向かいの席から、黒杉アサギがマァルに声をかけた。
「湯加減は? と訊いたほうがいいのだろうかな?」
「うまい おまえ つかる?」
 両目をぱっちり開いてマァルは答えた。