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ジャンクヤードの一日

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ジャンクヤードの一日
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■逃亡者3


 裕也たちは暴走機晶ロボと遭遇し、その対処に追われている。
 ウルを守りながら逃げ続けていたのは二人――イヴとオーランド。
(まったく……あの黒服らは、どうしようもないのう)
 辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は、気配を潜めながら彼女たちのそばへと近づいていた。
(これならば、わらわたちだけで仕事をすませた方がよっぽどスマートに終えられた。連れて来るべきでは無かったな)
 向こうの方に回りこませたアルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)へと合図を送る。
 アルミナが歌を歌い出す。
「え――?」
 オーランドたちが唐突に現れた歌声の方へ気を取られている内に、刹那は素早く瓦礫の裏から滑り出て、ウルの片手と口を拘束した。
 そのまま物陰に引き込もうとした時――
「見つけたぞッ!!」
 黒服たちの声。
 刹那はげんなりとした。
 イヴとオーランドが振り返って、刹那に拘束されたウルに気づく。
 そこへ、通路向こうを駆けてくる黒服たちの銃撃が走った。
「あらあら」
「あれれれのれッ!?」
 オーランドが、ウルを連れ去ろうとする刹那を追い、イヴの方は迫る黒服たちにエアーガンで反撃していく。
「ひゃああ〜〜〜!? せっちゃ〜〜ん!」
 アルミナが悲鳴をあげながら、刹那の元へと飛んでくる。
「どうも良くないな」
 刹那は渋面で牽制のリターニングダガーをオーランドへと放った。
 それは薙刀に弾き飛ばされる。
 周囲では黒服たちの銃撃が狭い通路のあちこちで爆ぜ、塵と音が充ちていた。
 なかなか混沌としている。
 さて、どうしようかと刹那が思案を巡らせた時――
「魔法使い的にどうかと思う一撃ッ!」
 通路向こうの黒服が、緋桜 ケイ(ひおう・けい)のマジックスタッフに叩き飛ばされるのが見えた。
「事情はよくわからないけど、俺の友人に手を出すのは止めてもらうぜ!」
 次いで、赤いブレストプレートと腰鎧の魔鎧那須 朱美(なす・あけみ)を纏った宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、黒服たちの中へと滑り込む。
 祥子の爆炎波と悠久ノ カナタ(とわの・かなた)の光術が同時に炸裂する。
 そうして、炎と光による周囲の粉砕の後、辺りには一寸の静けさが訪れていた。
 間髪入れず、祥子が黒服たちと刹那へ向けて凛と言い放つ。
「警告します! あらかじめ決められていた撮影条件の反故、そして本人の了承の無い撮影の強要は許されるものではありません。ウル・ジは、シャンバラの法と秩序の下、こちらが保護します」
 アルミナが「せっちゃん……」と不安そうに刹那を覗く。
「ふむ……」
 刹那は、ウルを拘束した格好で考えを巡らせていた。
 ケイたちに牽制されてタイミングを計っているらしい黒服たちを見やる。
(ランドウの部下どもに退く気は無さそうじゃな……しかし、このまま強引に連れ帰ったところで、ランドウはともかく、わらわの依頼人が法的に裁かれる可能性は高い。そうなれば報酬を得られる可能性は低い、か。それに、ここまで事態をややこしくしたのは連中の方。これ以上付き合う義理も無い上に、請求した額だけでは割に合わな過ぎる――ならば、せめて様子を見るか)
 そして、刹那はウルから手を離した。
 それをきっかけに黒服たちが、再び動き出そうとして……
 リリの氷術と、ララのアルティマトゥーレと、ロゼのブラインドナイブスに、それぞれぶっ飛ばされた。
 それでも起き上がり掛けた一人の頭部を、ユリが恋愛指南書でベシッととどめを刺す。
 倒れた黒服たちの中、リリがウルを見やって言った。
「どうにもキナ臭いのだ。事情があるなら、明かしてみるのだよ」 




 第3住居跡の一角で。


 源 鉄心(みなもと・てっしん)は、魔道銃の引き金にかけていた指をためらっていた。
 目の前に現れた機晶姫の左腕はチェーンソーになっている。
 甲高い機械音と共に、その細かな刃を回転させながら機晶姫は鉄心へと距離を詰めてくる。
「ッ……やはり、暴走してるのか?」
 鉄心は呻き、機晶姫を牽制するようにその足元を狙って魔道銃を放った。

 鉄心たちは暴走機晶ロボ出現の原因に辿りついていた。
 目撃情報と実際の遭遇位置などから根源となっていそうな場所を探した結果、彼らは一つの部屋を見つけた。
 部屋には様々なジャンクパーツと工具があり、壊れた機晶ロボが積まれていた。
 そして、その中に居た男は目をギョロつかせながら笑った。
『良いところに来タネ。イマ、新しイのが出来たバかりなンダ』

 鉄心を狙ったチェーンソーがジャンクパーツを裂き散らしながら迫る。
「――ッ」
 鉄心は床を転がって作業台の影へと逃れた。
 男の狂った喚き声が続いている。
「あの日ッ、あの時ッ、あの場所ッ、ボクは見たンダ! 亡霊艇かラ現れタ、機晶ロボ! たダひたスラにッ、ひたムキにッ、戦ウ美しい姿! あれナル、アレこソが、機晶兵器のあるベキ真実であッタ! ボクはダカらッ、だカらボクはッ――」
 ごんっ、と鈍い音がして男の声が途切れる。
「強烈に気分の悪い方ですわ」
 男を殴り倒して気絶させた金属パイプを手にイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が吐き捨てる。
 と、そちらへ狙いを定めた機晶姫がチェーンソーを閃かせながら跳躍した。
「イコナ、逃げろ!」
 鉄心はすぐに魔道銃で機晶姫を狙ったが、それを止めることは出来そうになかった。
 迫る機晶姫にイコナの歯の根が震える。
「っは、お、愚かですわ、ここんなポンコツロボっこなんかにわたくしが……」
 足がすくんで動けないイコナの前に、ティー・ティー(てぃー・てぃー)が割り込んで、則天去私で機晶姫をふっ飛ばした。
「後は大丈夫、私と鉄心に任せて」
 ティーがイコナに微笑みかけて、ジャンクの山の中で体を起こした機晶姫の方へと距離を詰めて行った。
 機晶姫が吠えるように激しくチェーンソーを振り回しながらティーを迎え撃とうとする。
「――悲しい、ですよね。ずっと寂しい場所に居て、なのに身勝手な人に命を遊ばれて……」
 鉄心の魔道銃がチェーンソーを撃ち砕く。
 機晶姫が砕けた左腕の欠片をまき散らしながら、なおもティーに襲いかかって行く。
 ティーは、それを止める方法が一つしかないことが分かったようだった。
 彼女の表情が寂しげに淀む。
「今は、少しだけ眠っていてください」
 そうして――ティーの一撃により、機晶姫は動きを止めた。

 それから。
「……あの、どうですか?」
 ティーの問い掛けの先では、壁にもたれるようにして活動停止している機晶姫を鉄心が診ていた。
「あの男の無茶な改造のせいで、ほとんどのパーツが限界だ……これは多分、放っておいてもその内に停止していただろうな」
「そうですか……」
「大丈夫」
 零したティーの方へ鉄心が振り返り、微笑む。
「なんとかしてみせる。時間はかかるかもしれないけどな」




「見つけましたか。……ええ、なるほど……私たちも向かいましょう」
 東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)は携帯を手にジャンクの中を進んでいた。
 電話の相手はバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)
「ロイたちにも伝えておきましょう。では、手筈通りに」
 雄軒は電話を切り、ランドウの方へと笑みを向けた。
「契約者たちに守られているようですが、まあ、なんとかしてみせましょう」
「大丈夫かァ? 俺の部下はアッサリやれちまったみたいだが。つか、オカマ野郎の方に向かわせた連中も駄目だったみてぇだ。まあ、数が足りねぇし緊急度も低いだろうから、あっちはとりあえず放置するが……しかし、面倒臭ぇな」
「やり方というものがあるんですよ。ところで、上手くいったなら約束は守っていいただきますよ」
「分かってる。ボスにも確認済みだ、安心しな」
 ランドウの言葉に雄軒はにんまりと笑った。
 ランドウとの交渉の決め手になったのは、以前手に入れた情報だった。
 そして、もう一押しの信用で、完全な協力を得られそうだった。