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前後不覚の暴走人

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前後不覚の暴走人

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第四幕 真相知らずの根源者

 
 校長室前の広く長く大きな空間は、正に混戦と呼ぶに相応しかった。
 先頭にいる巨大ゴーレムを筆頭に、二体のゴーレムがいきなり押し寄せて来たのだから当然だ。
 巨大ゴーレムを先頭に置いて、ゴーレム達はデルタ翼形態の陣形を組み徒党を組んで進んでくる。
「このお、来るな来るな来るなあ――――!」
 校長室の扉前に居座る神代 明日香(かみしろ・あすか)が魔道銃を連射してゴーレムを押しとどめようとするが、止まらない。
 巨大なゴーレムは弾丸を一発二発浴びた所で怯みもしなければ下がりもしない。他のゴーレムも当たれば多少傷つくが、ただそれだけ。
「え、エリザベートちゃんの所には行かせないんだから――!」
 決意を込めて放つ弾丸は、ゴーレムに直撃するもやはり効き目は薄い。だが、
「よく言った!」
「え?」
 その弾丸と共に接近する者たちがいる。鉄甲を身に付けたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)と黒色系ドラゴニュートのデーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)が、並走して巨大ゴーレムに向かったのだ。
「このようなテロリズムを許しては駄目だ。暴力で何もかも排除しようとする愚か者から重役護り抜き、その役目を果たして貰う為、俺は闘う! だからゴーレムよ、ここより先に進みたいのならまず俺、エヴァルト・マルトリッツを倒してからにしろ」
「え、えーと、盛り上がっている所悪いんだけど、情報はいってるよね? ディティクト・ノワールの行動で、上役批判だろうって話、いってるよね?」
 エヴァルトのテンション上昇っぷりに若干の不安を抱いた神代は問い掛けるが、
「何? 上役批判だと。つまりそれは、……テロって事だな。よし、分かった!」
 思い切り、自己認識に突っ走っていた。神代はデーゲンハルトを見るが、彼は諦めたように首を振ってみせ、
「すまない。エヴァルトは少々頭が固くてな。思い込んだら一直線のイノシシ思考の持ち主なのだよ。だからここは放っておくに限るぞ?」
「――何を余所見しているデーゲンハルト。もう接敵だぞ!」
 エヴァルトとデーゲンハルトの現在位置は巨大ゴーレムの右脚首。
「行くぞ! 鉄のフラワシ展開……!」
 叫び、頑健さを会得したエヴァルトは目の前の足首を殴ろうと拳を構えた。そして射出、しようとした。
 が、それより早く、
「――嗚――唖――!」
 巨大ゴーレムが蹴りを放った。膝下だけでのトゥーキック。
「何だと!?」
 その大きな巨体にしては破格の速さ。その点をエヴォルトは読み違えたのだ。
 蹴りは射出目前の威力の乗っていない拳に命中し、その重さが故に、
「ぬあああっ!」
 吹き飛んだ。腕に引っ張られるようにして、右方向にカーブを描いて転がった。
「ぐうっ――!
「大丈夫かエヴォルト」
 デーゲンハルトは直ぐに彼の下に駆け寄り、目視による簡単な診察を行う。
 目立つ怪我は特になく、額の辺りが少し擦り切れているだけであった。しかし、彼から来る答えは憂いに跳んだもので、
「……俺は大丈夫だが、この状況は大丈夫とは言い難い」
 彼らの目の前には一体のゴーレムが待っていた。
 最大のものよりは二回りは小さい、しかしごつく頑健そうなものである。
「ふむ、中々骨がありそうな相手だな」
「ああ、そうとも言える。だからやるぞデーゲンハルト。このようなテロ行為を防ぐために!」
「……だから、間違っていると言われただろう?」
 相棒のツッコミに耳を貸さず、エヴァルトは突進した。
 真正面から恐れも無く、だ。ゴーレムが拳を繰り出して来ても彼は慌てない。
 冷静にサイドステップ。一歩で踏切、出来得る限り加速力を減退しない。
 蛇行する様な動きでゴーレムの距離を詰めていく。そんな彼から離れた場所では、
「サポートは任せたまえよ」
 デーゲンハルトがヘキサハンマーを大上段で構え、
「ぬうん!」
 ドラゴンの膂力と共に、振り下ろした。狙うはエヴァルトに当て損ねた石の拳。
 上から圧迫し潰す打撃は、ただ一振りでゴーレムの腕を圧壊させ、床に縫い止めた。
 片手を塞がれるだけでなく、己の腕で自信を拘束する事になったゴーレム。その横面からエヴァルトは踏み込み、
「グッジョブだ。これでもう、恐れる要素は無くなった」
 超至近距離に己が身を置き、
「おお……!」
 則天去私をゴーレムの下顎に放った。拳が半ばまでめり込み、残骸を零す。その中で彼は追撃を怠らない。
「もう一発だ!」
 腕を戻す動きで変則的なチョッピングを後ろ首筋にぶち込んだ。
 既に中破していたゴーレムの頭部は、その威力に耐えきることが出来ずに、粉砕された。
 三体の内、一体が崩壊した。


 所変わって左のゴーレムが前。
 相も変わらない巨体の前に、堂々と腕組みをして立つのは背の高い一人の女性、緋ノ神 紅凛(ひのかみ・こうりん)だ。
「さあて、やろうか無機物。あたしとの楽しい楽しい勝負をさ!」
 大口を開けて宣戦布告した紅凛は、やはり堂々と闊歩してゴーレムに迫っていく。
 そして、彼女に並び行く者がもう一人いた。ブリジット・イェーガー(ぶりじっと・いぇーがー)、彼女は紅凛と共に歩き、共にゴーレムの射程圏内へ侵入した。
 無機物故の反応が即座に帰って来る。
 反応は左の直突きであった。しかしそれを二人は避けない。言葉通り真正面から受け止める。
「くっ、重い事この上ないですね」
 愚痴りながらブリジットが石の拳の右半分中指から小指の辺りでを抱き込むように受け、
「ふふ、本当に、これは重量級だけど、だからこそ面白いのよ!」
 第一指と第二指の太く厚く硬い部分を紅凛が担当して受け持った。
 二者による推進力分散での掴み取りは成功。残るは攻撃。その手を彼女らは保持していた。
「天音、イヴ、やってしまいなさい!」
 呼ばれた二人は、ゴーレムの背後を取っていた。
 光条兵器を取り出した姫神 天音(ひめかみ・あまね)はゴーレムへと武器を向け、
「一発ぶち込ませて貰います!」
 そのまま打撃しに行く。狙うのは膝裏。人型である以上、関節の駆動域限界からは逃れられない。
 それを見越した上で、天音は膝の裏を払うように撃った。力学的法則で、ゴーレムの上半身は逸れていく。
 倒れようとする上半身にイヴ・クリスタルハート(いぶ・くりすたるはーと)は銃撃を放つ。それも肩関節にピンポイントで。
 倒れ込む力と銃弾の威力。二つか相乗し、与える力は増加したが、それでも砕くには至らない。そして、
「そ、そろそろ限界ですかね」
 左拳の制動が限界に達しようとしていた。瞬間的にしか最大の力を発揮できない人間と、感情もリミッターもない無機なる人形が力合わせをすれば、自然とこうなる。
 それが解っていながら紅凛は、脂汗を噴出しつつ歯を食いしばり、
「何言ってんのよブリ公。まだまだ、女の根性見せてないでしょうが」
「そうだよ。諦めちゃ駄目!」
 彼女の声に賛同して走り寄って来た騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、ステッキを片手にゴーレムに跳びかかった。
 柄の部分を握りしめて中段に構え、手首の返しだけでゴーレムの左肩を打撃した。
 ゴーレムは片腕を封じられ、上半身を使用できぬ無防備状態。
 何の変哲もないただのマジカルステッキが、ゴーレムの左肩を砕き、腕を落とさせた光景をその場にいる誰もが目撃した。
「詩穂がただの魔法少女だと思ったら大間違いだからね。それをその身にとくと味合わせてあげる!」
 石像からの返答なしに、詩穂は飛びかかりを再開した。
 そう、跳びかかりだ。決して直線的ではない、少しばかりの跳躍を繰り返して移動する武術的な技法を彼女は行っていた。
 それでも、感情の無いゴーレムだ。向かってくる。
 詩穂はただそれにカウンターを合わせるだけであった。右拳が来れば、腕の内側に入り力をいなして肩を撃つ。
 蹴りが来そうであれば、ステッキで軸足を狩り転ばす。正にそれは杖術。
 力を力で対抗しない。技術としての戦闘方式。数十秒も経てばゴーレムは四肢を失った。
 その全てが自身の力を往なされ、反発させられた事による自滅であった。
 残るは頭。統制機関である頭部を前に詩穂は、
「壊しちゃって、御免ね……」
 深々と自分の頭を下げてから、思い切りよく石像の頭に脳天にステッキを振り下ろした。
 目にもとまらぬ豪速。
 幹竹割りを食らったその石像の頭は真っ二つになり、最早ゴーレムとしての存在を保てず、消滅した。
 
 
 巨大なゴーレムは未だ止まっていなかった。神代の銃撃も焼け石に水であったが、
「それ以上の手が見つからないよう……」
 既に校長室まで二十メートルを切っている。あと三歩踏み込まれただけで、恐らく巨大ゴーレムの攻撃射程に入ってしまう。それくらい巨大石像の手足のリーチは長かった。
 神代はあくまで、校長室前に居座った。効かないと解っても弾丸を放つ行為を止めはしない。
 しかし、石像は容赦なく接近してくる。
 ここまでなのかなあ、と情けなさに似た諦観を覚えた、その時、
「そ、そっちじゃないってルイ! ここまではっきり音が聞こえるのに何で別方向行くかなー」
「ははは、全く申し訳ない。……おや、いましたいました。目標発見です!」
 筋骨逞しい男、ルイ・フリード(るい・ふりーど)とその肩に座るシュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)が、猛烈な勢いで走行してくるのだ。
 埃を舞い上げながら迫るルイの顔には素晴らしく造形の取れた笑顔が浮かんでおり、
「はーい、みなっさん! 元気良く快活に、この私がお手伝いに来ました!
「散々迷っておいて何を言うか。それに今はあのデッカイのを止めるのが先決だろ?」
 その通りですね、とゴーレムと校長室の間を陣取ったルイは、肩のセラエノ断章を床に降ろして、
「さあさあ、トレーニングです。あなたは良い相手になりそうだ。最初から全力で参ります!!」
 鬼人力、龍鱗化など己の持ちうる肉体スキルをフル活用したルイは、その身体を肥大化させていく。
 腕や足の太さなどではゴーレムに負けぬ程に巨大化した彼は、やはり笑顔のまま膝を曲げて体勢を作り、、
「レッツ、トレーニングッ!」
 躊躇なしに、正面激突を選択した。巨大ゴーレムの土手っぱらに肩からぶち当たる。
 轟音。
 五メートル超の石像が、その衝撃に押された。後退りではない。単純な力で地面ごと押し下げられているのだ。
 が、やはり機械的な人形。直ぐさま体勢を制御し、
「お、おお……?!」
 己の後退を止めた。片足を一歩分下げ、つっかえ棒代わりにしている。
 突入時の勢いを消されたルイは、石像の力を味わった。
「な、中々……、力強い……!」
 石像はルイの肩と腰を諸手で押す。静止状態から腕だけの力で、ルイは押されていく。上半身を押し切られていく。
 今度はルイが下がる順番だ、と言わんばかりの力が、ルイの全身に作用する。石像の膂力に推される。それでも、
「む……ぬああ!!」
 四股踏み体勢でルイは耐えた。
 両者はがっぷり四つに組み合い、そのまま動きを停止する。
 それを傍から見ていたセラエノ断章は苦笑いを浮かべ、
「うっわあ暑苦しい。何あの相撲状態」
 ゴーレムとルイは動かない。が、見えない力の作用を両者ともに探っていた。
「あんな所に割りこみたくないから、応援だけしとこ。さあ、残った残った――!」
 それは応援じゃない、と皆が小声で突っ込むが、目の前で繰り広げられている汗水を流しながら満面の笑みで石像と組み合うルイに関わりたくないのか、誰も明確には言えず結果的にスルーとなる。
 そして、そんなルイと石像の相撲も、終焉に近づいていた。何故なら、ルイの身体が動き始めたからである。
 後ろではなく前方向に。
「ぬう、あなたは本当に素晴らしいパワーと肉体をお持ちです。が――」
 彼は言葉を区切り、身を沈めた。更に至近距離へ迫ったのだ。
 ゴーレムの腕を肘でかち上げ、その腕力を無意味とし、
「はああああ!!」
 全力でゼロ距離突っ張りを見舞った。
 左右の二連打。石像を押し出す。その威力は石像が僅かに浮く程。
 ゴーレムは何とか姿勢制御しようとするが、地に足が付かぬのなら、どんな力があろうと正しく発揮される事は無い。それは姿勢についても同じ。石像は、体勢を崩した。そこへ行くのは、ルイの拳。
「今日この時は私の方が一枚だけ上手でした」
 左右の拳を開いた彼は、左右二連の張り手をゴーレムに撃ち込んだ。スナップなどない純粋な打撃の張り手。
 打撃音がした。
 ルイの剛力を顎とこめかみに貰ったゴーレムは、その部位を粉砕されて身を倒す。
 仰向けになり、ただの瓦礫に戻っていく元ゴーレムを見ながらルイは大胸筋をアピールするポージング付きで、
「決まり手は突き倒しといった所ですね!」
「……本当に最後まで暑苦しいね、ルイは」


 校長室に張り巡らされたアーチ状の木。幾本もの大木が織りなすその立体の上ではディティクトが頭を抱えて悶えていた。
 それは、ゴーレムの全体破壊を術者として理解したからであり、計画の失敗が確実になってしまった事への悔やしさの発露でもり
「くそう、全て破壊されたのね。結局はいつも通りの直接攻撃じゃない」
 まあいい、どうせ一発入れたかった、と彼女はこれから向かう場所に対して気合いを入れる。
 邪魔ものたちは全て校長室前に集結している。いや、集結させたのだ。
 他の場所に注意が行かないように。
「馬鹿正直に真正面からいく者は普通いないわよ」
 これまでの騒動全て、ディティクトが外から校長室へ侵入するという狙いを隠すための陽動である。
 彼女は木から飛び降り、難なく校長室内に侵入する。
 だが、校内のトップを務める実力者がそれに気付かぬ訳がない。
「何事ですかあ。私は昼寝をしようと思ったところなんですよお? 煩いのは勘弁して貰えますかねえ?」
 校長室の中心、ディティクトが降り立つ地の隣にエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は立っていた。
 睨むでも警戒するでもなく、ただいつも通りの自然体で、彼女はディティクトを意識の中に入れ、
「あー、騒ぎの元凶である弱小ゴーレム使いがが何しに来たんですかあー。面倒なので用件を言ってさっさと帰ってください」
「言ってくれるわね畜生。私がやった事は何から何までお見通しって事!? なら当然、あんたが私にやったことも覚えているわよね?」
「? 何のことですかあー?」
「っく、あんたが昔、ここで問題起こした際私のゴーレムをぶち壊したでしょうが! それも奇跡的に出来た私の最高傑作を!」
 彼女は苛立ちにまかせて言葉を続け、
 ディティクトの台詞にエリザベートは首を捻り、
「……覚えてないですねぇ、そんな事。恐らく偶然の、故意ではない出来事だったんでしょう。けれど悪い事をしたと思うなら私も謝っていた筈ですし、きっとその時の悪いと思っていなかったんじゃないですかぁ?」
「ええ、そうね。何しろ精神的ダメージ食らった私に、『ああ、良かったですねえ。犠牲になったのが弱っちいゴーレムが一体だけで』とか追撃ブチ込んだものね!」
「そんな事言いましたかぁ? でもまあ、あなたを貶したのは本当みたいですねえ」
 何ですって?、とディディクトは睨みを利かせるが、校長は全く意に介さず、
「……何せ、その時を超える様なゴーレムを作れないのはあなたの力不足が原因ですよぉ。自分の未熟を、問題を起こして発散する輩に謝る頭は持ち合わせていませんしぃ。昔の私の判断も正しかったって事ですねえ」
 力が足りていない、とはっきり言われたディティクトは、自信を落ち着かせるように深呼吸を一つし、
「……良いわ、目にもの見せてやる!」
 いきなり、校長を殴りにかかった。狙いは顔。
 ディティクトとエリザベートの身長はほぼ同程度。つまりは自分の肩より上を殴っている事になる。不安定な殴りの拳が校長の顔面に飛ぶ。
 が、校長はそれを難なく受け止め、四つ手状態での力比べに突入する。
「あなたみたいな後方型の魔女が打撃してどうするんですかあー。魔法を一杯使わないからいつまでも弱いまま何ですよおー」
「うるさいわね、この幼女がーー」
「あなたも体格的にはそうでしょう? ああ、そうでしたねぇ。魔女だから実は年増何でしたっけぇ? 解りませんでしたぁ」
「白々しく言うな――!」
 もはや取っ組み合いの口げんかとなって来た二人を、見る者はいない。部屋の陰で何かが、というより校長のパートナーらしき人物が笑って見学しているようにも見えるが気のせいだ。
 その取っ組み合いもあっと言う間に終了する。ディティクトを突き飛ばした校長の勝利で、だ。
「両者ともに魔法で身体を強化しているのなら、魔法の実力がある方に軍配が上がると何故気付かないんですかぁ?」
 押され、尻から床に着地したディティクトは、
「く、くそう。子供の癖にその上から目線が本当にムカつくわね!」
 ディティクトの吐く文句をエリザベートは鼻で笑い、
「全く、子供子供とバカにしていた私に腕力勝負で負けるなんて恥ずかしくないんですかあー?」
「ムキイ――! 毎度毎度バカにして……、これでも食らいなさい!!」
 吠える彼女が懐から取り出すのは一本のフラスコ。内容物は紫と黄が不完全に混じりあった色彩で、その上発光していた。
「ふ、ふふ、ゴーレム作成のついでに作ったゴーレム爆弾。これで一矢報い――」
「だから魔女が魔法使わなくてどうするんですかぁー。というより、奥の手を相手の前にさらけ出すなんて馬鹿以外の何者でもないですよぅ?」
 ほれ、とエリザベートが人差し指を動かした。第一関節から第二までの極僅かな振り、ただそれだけで、
「……へ?」
 フラスコが独りでにディティクトの手から放れた。超短略化したブリザードの風によるものだ。
 そして、当然、重力の影響で独りでに床へと落下する。
「ちょっ――」
 驚き声の直後、
「――――!」
 校長室前の空間に爆音がとどろいた。共に朱色が舞い踊った。
 ゴーレムが爆発したときとは違い、爆圧も爆風もある。無いのは熱だけ。
「たーまやーですねえー」
 いつも通りの口調で自分の周りだけを魔法で防護したエリザベートの目が追う先には、爆風によって服をぼろぼろにして吹き飛んでいくディティクトの姿があった。
 彼女は世界樹の外まで飛ばされながらも美味い具合に空中で姿勢制御し、
「お、覚えてなさいよ――。いつか必ず……って落ちる――――!」
 捨て台詞を残して、その場にいる皆の視線から消え失せた。
 空中でめげずに文句を放って落下していった彼女の軌跡を、校長はうろん気な瞳で見つめ、
「やれやれ、ともあれこれでこの騒動も終わりですねえ。一件落着、と」
 適当に呟いてその場を去っていった。

担当マスターより

▼担当マスター

アマヤドリ

▼マスターコメント

 初めましての方は初めまして。そうでない方がいらっしゃっても関係なく初めまして。アマヤドリです。
 ワタクシのこの場における処女シナリオに参加して頂いた皆さまに全幅のご感謝を。
 今回、ディティクトの立場の変化に驚かれた方もいらっしゃると思います。
 騙されたー!とかやられたー、くらいで明るく留めて頂けると大変有り難いのですが、アマヤドリテメエこの野郎っ!!といった感じで息を荒くさせてしまったら済みません。ええ、ワタクシ小心者なので弁解せずに即座に謝りますとも。
 と、いうわけでそれでは今後も宜しくお願い致します。
 最後まで読んでいただき再度の感謝を。