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召しませ! 吉凶鍋判じ

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召しませ! 吉凶鍋判じ

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第三章 鍋役襲名 鍋役多数登場 〜時は戦国鍋時代らしいですよ〜

 空京神社の大鳥居から横に外れて少し進んだところ――本殿の脇の広場に吉凶鍋判じの会場はあった。
 何が入っているのかわからない、掴んだものは食べなければならない。
 闇鍋の特性を使って吉凶を判じるというアイデアは面白い。
 だが、振る舞うのであれば、もっと別の何かはなかったのかと小一時間問い詰めらずにはいられない。
 そんな物騒極まりないイベントに興味を持った人々がぞろぞろと集まりはじめていた。

「お鍋がめいっぱい食べられるんだねー」
「やめろ。マーリア。今日は皆がいるから食べ過ぎるなよ?」  
「なによー。その言い方。そのためにカオルが大量にあたしのお肉持ってきたんでしょ」
 飛んできた橘 カオル(たちばな・かおる)のツッコミにマリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)は頬を膨らませて抗議する。
「いやいや。マーリアのってわけじゃないし」
「堅いことを言うなよ、カオル」
「シヅリ」
「鍋ってもんはよ、ぎちぎち凝り固まった状態で食べるより、皆でワイワイ騒ぎながら楽しく食べた方が絶対に旨いって!」
 確かに鍋は団欒の象徴だ。一つの鍋を皆で囲んで垣根なく盛り上がれるのがいいところだ。
 思わず納得しかけたカオルだが、喋るパンダ――否パンダの着ぐるみに身を包んだ朝霧 垂(あさぎり・しづり)の姿に肩を落とす。
「そうだよー。垂の言う通りだもん。今日も垂は凄いよっ!」
 隣でパートナーのライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が肉団子と地球農家とパラミタ農家が共同で開発したブランド米
『パラミタの蒼い誉れ』を持って小躍りしながら言い放つ。
 確かに格好は格好だが垂は掃除、洗濯、人ペットの世話何でもござれの有能なメイドだ。
「料理の味付け以外は!!!」
 過去に彼女の作ったおにぎりの味が舌先に甦り、カオルは思わず叫んだ。
「待ったーっ!! オレが鍋奉行だー!!」
 そして、その一言は更なる混乱を呼んだ。
「じゃーあたし、鍋底なしー!!」
「鍋底なしって、穴あいてんのか!? 底なしに食う気だなっ!!」
「僕は鍋小悪魔ー!!」
「鍋が小悪魔っておかしいだろ!! 辛いのか? ちょっと辛かったりするのか!?」
「……俺はさしずめ鍋パンダ、だな」
「それはお前の格好だー!? 鍋付ければいいってもんじゃないからー!?」 
 チャララーン♪
 そこへ時代劇よろしくなBGMと共に謎のナレーションが響いた。
――時は群雄割拠の戦国
 騒ぐ三人とツッコミ一人が振り返るとそこにはでんすけスイカ――ではなく。
 見事なスイカを抱えた配下の文官武官を従えたルカルカ・ルー(るかるか・るー)とパートナー夏侯 淵(かこう・えん)がいた。
「白菜や大根はどうした?」
「だいじょぶ、だいじょぶ。他の人が持ってくるって。そう言う淵だって、買ったのはチョコ大福じゃない」
「俺は餡子の方が――そうではない。これはデザート用だ。鍋には入れぬ」
 ――くいくい。
 注目されてるいるのに気付かず言い合いを続ける主の裾を配下が引いた。
「「あ」」
 再び、曲が流れ、ナレーションが響く。
――時は群雄割拠の戦国鍋時代。いずれ劣らぬ猛者達の最強闇鍋伝説が始まる
「そんなわけでルカは鍋将軍だよ!」
「……よくわからんが鍋武将だ」 
 と、真っ先に我に返ったライゼが真っ先に淵の傍へと駆けて行く。
「相変わらず可愛いね。流石、男の娘!☆」
「御主は……俺は男の娘ではないと何度言ったら」
 それはもはや挨拶代わりとなっている言葉で。
 受け流そうした淵だが、何も反論しないのはその言を認めたことになってしまう気がして、無駄だとわかっても反論が口をついてでた。
 どことなく不満そうにむくれている姿は――とても可愛らしかった。本人に自覚がないもの色々と問題である。
「うーん。怒った顔もまた可愛いね! いよっ! 男の娘☆」
 ぶちっと何か切れるような音がして、ライゼと淵の追いかけっこが始まる。いつものことだ。
 残された面々はそれを止めるでもなく、鍋会場へと向って走っていく二人の後を追った。

「うーん。50点。なんかイマイチだよ」
 鍋会場の入り口。
 米粉のパスタを入れた紙袋を持ったままレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は視界を横切る人波を眺めていた。
「そなた、さっきから何をしておるのじゃ。早く会場へ参ろうではないか」
 呆れたようにパートナーのミア・マハ(みあ・まは)が促せば、諦めたのかようやくレキは腰を上げる。
「誰ぞと待ち合わせでもしておったのか?」
「ううん。そうじゃないけど」
 ――ドン
「うわっ!?」
「――っ。相済まぬ。大事無いか?」
 レキの指先から紙袋が離れて地面に落ちた。  
 後ろから走ってきた誰かとぶつかったらしい。
 相手もどうやら荷物を落としたようで、詫びながら荷物――レキの紙袋とよく似た紙袋を拾い上げた。
「こりゃ。そなたら、このような場所で走るとは何事じゃ!!」 
「ご、ごめんなさい〜」
「許されよ」
「まったく。レキ、怪我はないかえ?」
 気遣うミアの言葉に上の空で頷きながら、レキは頭を下げる青年の顔見て残念そうに呟いた。
「……イケメンじゃない」