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軍人に恋愛など必要なーい!

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軍人に恋愛など必要なーい!

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 19:50

 一度は見失ったものの、麗子は小次郎を追い続けていた。もはや二人とも体力の限界が近い。しかも時間もない。ついでに言えば、ついてきている審判二人、リーヴァとマクスウェルの存在がうざったかった。
【血と鉄】で命中率を上げているものの、走りながらの射撃は難しく、小次郎は【スウェー】でギリギリかわし続けていた。
「三田殿!」
 息を切らせながら、それでも冷静さを失わない声で小次郎は呼んだ。
「私には分からんのです。あなた方の言い分は、最強の兵士は感情の無い強化人間であると言っているように聞こえるが、それでいいのですか!?」
「私にはどうでもいいことですわ!」
 麗子にとって、バレンタイン・デーの存続は、本当にどうでもいいことだった。今回のゲームは、講義やシミュレーションや訓練に飽き飽きしていた彼女には格好の気晴らしであったのだ。
 パートナーのクレーメックならば対立する意見を堂々と述べるだろうが、そこまで教えてやる暇は今はない。
 麗子と小次郎、それにリーヴァとマクスウェルは屋上に飛び出した。
 そこで四人ははたと硬直した。
 屋上で大の字になって寝転んでいる派手な人物を見つけたからだ。
 その人物――ゲドーは、がばっと起き上がると舌打ちした。
「とうとう見つかったか」
「何だ、おまえは!」
 マクスウェルが睨み付けた。どう見てもゲドーは参加者ではない。
「あの人は――!」
「知っているのか、リーヴァ?」
 リーヴァは頷いた。
「僕の通うイルミンスール魔法学校では有名です」
 お、お、とゲドーはちょっと誇らしげな顔になった。
「非常に恐ろしい術を使うネクロマンサーで」
「では、校内に出たアンデッドは、あいつの仕業か」
「そのと〜り!」
 ビシッ! とマクスウェルを指差し、片手を腰に当て、ゲドーは高らかに笑った。
「何なんだ、貴様は!」
「一体、何の目的で……」
 小次郎と麗子は、戦いを忘れて思わずゲドーを睨んだ。場合によっては、ゲームそっちのけでこの男を捕らえるつもりでいる。
「別に何となく」
 ゲドーはあっさり言った。「敢えて言うなら、バレンタイン撲滅のため? というより、幸せな連中を全員不幸のどん底に落とすため? いややっぱり、何となく?」
「……何なんだ、あいつ」
 ゲドーの言動が理解できず、マクスウェルは呟いた。
「有名なんです。いやらしくて嘘つきで一度もモテたことがなくて、他人の不幸を何より喜ぶ外道だって」
「……ああ、それはモテないわね」
「単なる僻みだ」
 麗子はため息をつきつつ、小次郎は冷たく言い放つ。
「やかましいっ!! 俺様のことを馬鹿にしやがって! 俺様がモテないのは、お前らみたいなリア充のせいだっ。お前ら全員、死ねっ!」
 言うなり、ゲドーは再びアンデッドを召喚した。それはドラゴンだった。この世を呪うような咆哮を上げ、天へとブレスを吐き出す。
 その恐ろしい姿に、四人は硬直した。
「ひゃ〜はははは! どうだ、ビビッたか、俺様の凄さが分かったか!?」
 ゲドーは屍龍の背に乗ると、「いずれお前ら全員、不幸のどん底に叩き込んでやるからな!」
 高笑いを残し、暗い空へと去っていった。


 19:59

「何だあ、今のは?」
 次の獲物を探していた亮司は、ドラゴンの咆哮を聞いて立ち止まった。
 バタンッ、とロッカーのドアが開き、岩造が飛び出してくる。
「覚悟!」
「ゲッ!」
 ちょうどその時、ゲーム終了のベルが鳴った。
 岩造の踵が、亮司の顔寸前で止まる。
「む……間に合わなかったか。運が良かったな、貴様」
 岩造はゆっくりと足を下ろした。
「戦いが終われば、同じ教導団の仲間だ。争うことはない。貴様も本当は恋人が欲しかっただけなんだろう?」
「ああ、うん、まあね」
 亮司はゆっくりと後ろへ下がっていく。
 岩造は窓を開け、空を見た。
「ところでさっきの音は何だったか、知らないか? 俺はずっとロッカーに潜んでいたので……」
 振り返ったとき、亮司の姿はどこにもなかった。