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花粉注意報

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花粉注意報

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イルミンスールの森の中――

「あ……あんっ!」
 鳥達の声に混ざって、詩穂の嬌声が響き渡っていた。
 その全身に塗られた蜜という蜜を、蜂達が貪り食らっている。

「もう、みんな食いしんぼさんなんだから……」
 詩穂の蜜を求めて群がってくる蜂達の為に、詩穂は新たに蜂蜜を開封する。
 ぬりぬり……
「ああ……杉の花粉をいっぱい受粉しちゃってるよぉ……」
 蜂達が運んできた花粉等と蜂蜜が混ざり、詩穂の身体はえらいことになっていた。
 
「ふぅ……さぁ、どうぞ……」
 蜂達が食べやすいようにと、盛り上がった部位を中心に塗られた蜜に、さっそく蜂が群がってくる。
「ふふっ……おいしい? ……あっ……そんなにがっついちゃらめぇ……」
 そんな蜂蜜プレイに興じる詩穂だったが、一匹の蜂の様子がおかしいことに気付いた。
「あれ……キミは食べないの?」
 その蜂は何かを伝えたそうに詩穂の周りを旋回していた。
「ひょっとして……ついてこいって言ってるのかな?」
 詩穂がそう言うと、肯定するかのようにその蜂は森の奥へと飛んでいく……
 その先にいったい何があるというのだろうか……
 詩穂はその蜂の後を追うことにした。


 森の中では一人の女性が行き倒れていた。

「はぁ……はぁ……」
 熱い息を吐き出すアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)……着物から覗く太ももが艶かしい。
 もはや言うまでもなく、彼女は花粉にやられてしまっているのは明らかだった。
 しかし、うだるような暑さに苛まれながらも、彼女は着物を脱ぐことはなかった。
 ぎりぎりまで着物をはだけさせているが、それ以上は脱いでいない。
「あぁ……あ……」
 花粉の混ざった汗が、はだけた胸元にねっとりと絡みつく……
 意識は朦朧、息も絶え絶えの状態だった。

「だ、大丈夫?」
 蜂に案内されアルメリアを発見した詩穂が駆け寄る……
「う……うーん……」
 既に返事をする体力も残っていない様子のアルメリア……危険な状態だ。
「ど、どうしよう……」
 見たところ、彼女が暑さにやられているのは明白だ……
 とりあえず、着物を脱がすことにする詩穂だったが、すぐに気が付くことになる……彼女が着物を脱がなかった理由を……

 ……下着を身につけていなかったのだ。

「わわ……ご、ごめんなさい!」
 とっさに謝る詩穂だが、その声はアルメリアに届いているかどうか……
 彼女は荒い息遣いを繰り返すだけだった。
「これはもう、非常事態、だよ……ね?」
 思い切って着物の帯を解く……これでだいぶ違うはずだ。

 と、そこで詩穂は、今の自分がそれほど暑さを感じていない事に気がついた。
 もちろん下着姿だからそれで涼しくはなっているのだが……
 花粉によって引き起こされる『身体の芯からくる暑さ』……それがだいぶ収まっているのだ。
 周囲は相変わらず花粉が飛び交っている、花粉がなくなったわけではない……となると……
「ひょっとして、蜂蜜が効いてるのかな……」
 自らの身体を見下ろす詩穂……その身体を覆っているのは蜂蜜と、蜜蜂が持ってきた花粉……それだけではなかった。
 高い抗菌作用を持つプロポリスと言えば、蜜蜂が生成することで知られている。
 それ以外にも自然界に存在する様々な物質が、蜂達の手によって詩穂の身体の上に調合される形になっていたのだ。
 もちろん、そんなことは詩穂が知るわけもない……だが……

「よくわからないけど、ここは試してみるしか……」
 蜂蜜を取り出し、アルメリアの身体に塗りたくる……
 詩穂の身体に付着している何かがもたらした作用の可能性も考慮して、詩穂は全身を使って蜂蜜を塗り広げていった。
「はぁ……ああっ……」
 アルメリアの熱い吐息が詩穂にかかる……なんとも妖しい光景だった。
「お願い……元気になって……」
 アルメリアの回復を願い、熱心に身体を絡みつかせる詩穂。
 花粉がネバつき、思いのほか体力を奪っていく。
「はぁ……はぁ……これで……きっと……」
 全身くまなく塗り終わる頃には詩穂もぐったりしてしまっていた……しばらくは動けそうにない。
 あられもない姿で寝そべる二人……そこへ……

 がさがさ……

 近くの茂みが音を立てた……何かが来る。

(……ダメ、逃げられそうにない……)
 森に住む猛獣だろうか……蜂蜜で味付けされた自分達はさぞご馳走だろう……詩穂は覚悟を決める。

 しかし、茂みを掻き分け現れたのは、意外な人物だった。

「大変! 二人とも花粉にやられちゃってるわ……早く旅館に運ばないと……」
(……旅館?)
 薄れゆく意識の中……詩穂が最後に見たものは……花粉の飛ぶ森に場違いな和傘を差した女性の姿……
 温泉旅館・薫風の若女将……縁だった。