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先生、保健室に行っていいですか?

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先生、保健室に行っていいですか?
先生、保健室に行っていいですか? 先生、保健室に行っていいですか?

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CASE3 薔薇の学舎の場合

 薔薇の学舎、百合園とは正反対の男子高だ。
 ここでの保健室と見てみよう。
 やたらと派手めな恰好をしてとても保健医とは思えないラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)に、彼の助手として早川 呼雪(はやかわ・こゆき)ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)の二人。
 この三人が訪れる男子生徒を出迎えるはずなのだが、ラドゥは席をはずしていた。
 そのため、呼雪とヘルの二人が訪れる生徒たちの生徒に対応していた。
 そこへ一人の男子がやってきた。
 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)が扉を開けて現れると、クラスメイトと思わしき生徒を連れていた。
「失礼するよ、おやっ呼雪くんではないか。ラドゥ様は不在なのかい?」
「シェンか、ラドゥ様なら所用でしばし席を外すと申されていた」
「そうか……で、ヘルくんその格好は何かな?」
「え?保健室と言ったら看護、ということはつまり看護師。看護師が看護服姿になるのは当然じゃないか!」
 エメは連れてきた生徒を呼雪の傍にあった椅子に座らせる。
 彼は呼雪の隣にいるもう一人の保健委員、ヘルに視線が向く。
 看護服姿になるのは構わない、しかし男子のものではなく女子が着るものだ。
 だが妙に似合う姿にエメはそれ以上突っ込むことはなく、呼雪に至っては至って平然としている。
 呼雪は足首を捻挫した生徒の治療をして、その手伝いをするヘル。
 だがエメは何故か帰ろうとしない。
 ヘルは気になっているが、呼雪は普段からこうなのか無関心といった雰囲気を醸し出していた。
 その時、保健室の扉が開く。
 揚々と声を出して現れたのは、保健医のラドゥだった。
「ふむ、今戻ったよ早川くん」
「お疲れ様ですラドゥ様」
「お疲れさまでーす!」
「……ヘルくん、今日も素晴らしい恰好をしているな」
「わぁーい、褒められたぁー!!」
「ラドゥ様、ごきげんよう」
「おや、エメくんもいたのかい」
 治療していた生徒はラドゥと入れ替わりに出ていき、呼雪たちはラドゥに挨拶をする。
 静かに答える呼雪、陽気にしているヘル、気品あふれるエメ、保健医とは思えないラドゥ、なんとも異質な組み合わせだ。
 そんな彼らの下に別の生徒が現れる。
「失礼します。あっ、ラドゥ」
「おや、リュミくんではないか。」
「リュミ?どうかしたのか?」
 リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)、エメのパートナーである。
 ラドゥを見て声色が明るくなったので、どうやら彼に用があると誰もが思った。
 若干一名内心快く思わないものがいるが、リュミは気づくことはない。
「あの、少し相談があるのですが……」
「ふむ、構わんよ。では君たち、しばし席を外してくれたまえ」
 リュミの様子にラドゥは呼雪たちに保健室から出てもらうように指示する。
 他人の相談ごとに関心を持たないのか呼雪は言われるがまま出ていき、ヘルもその後に続く。
 エメはパートナーたる自分が知らなくてはどうすると思い、いようとしたがラドゥに無理やり出されてしまう。
 強制的に退出させられた後、律儀にも鍵まで掛けられる。
 気になって仕方がないエメは扉に耳を立てて盗み聞きをしようと試みた。
「何を話しているんだ……?」
「エメくん、人には話せないこともあるのだよ。少しは遠慮ということも覚えたまえ」
 どうやら気配でばれてしまったのか仕方なしに諦める。
 しかしそこから離れることができず、話が終わるまで保健室前の廊下をうろうろとするのだった。
 約30分後、相談を終えたリュミが保健室から出てくる。
 エメは冷静に待っていたかのような素振りを見せる。
 実際には気になっていても立っていられなかったのが正しいが。
「エメ、待っててくれたんだ。ごめんね待たせて」
「な、何。気にすることはない。パートナーを待つことも絆を深めるために必要なことさ。」
 平然を予想とするエメの様子を疑う様子もないリュミ。
 そのまま二人は教室へと変えるために歩を進める。
「ラドゥ様と……何を話していたんだ?」
「秘密、ちょっとね」
 もはや待っていられないと思い、思い切って質問するが案の定という答えが返ってくる。
 エメは諦めたような顔をするが、隣にいるリュミはとても楽しそうにしている。
 隣にいる人、彼の傍にいることがこんなにも自分の中を満たしてくれている。
 無自覚な剣の花嫁は今日もまた、大好きな彼との時間に心満たされるのであった。


 翌日、保健室には清泉 北都(いずみ・ほくと)ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が訪れていた。
 熱っぽいというソーマを北都が頑張って連れてきたようで、彼は呼吸を整えていた。
 ソーマは問題ないと先程から言っているが、明らかに顔色も悪く、視線が定まっていないこともあり風邪の表情ですと呼雪が冷静に答える。
「で、こんな時期に風邪をひくとは……原因はあるのかい?」
「いや、裸で寝ているからだと……」
「いいじゃねえか、俺がどんな格好で寝たって。誰かに迷惑をかけているわけじゃないしな」
「まぁいい。ヘルくん、彼をベッドへ。呼雪くんは風邪薬を……」
「薬か……どうせならあんたの血が欲しいな。栄養価もあってすぐに治りそうだ」
 診断をしてから助手二人に指示を与える。
 薬ということになると、ソーマはラドゥの血が飲みたいと話す。
 その発言にラドゥを除いた三人がその様子を見るが、誰も心配などしていなかった。
「この私の血を……?飲みたいのならば、それなりの奉仕を期待していいと、考えても良いのだろう?」
「ちぇ、やっぱりそうなるか……冗談だよ冗談。おとなしく薬飲んで安静にしていますよ」
 対価としての支払いがとんでもないことになりそうだったので、ソーマは掌返すように簡単に諦める。
 呼雪とヘルの肩を借りて、ベッドに向かう様子を北都は確認すると、ラドゥに質問をする。
「ぁ、あの……ラドゥ様?」
「ふむ、何かな?」
「や、やっぱり、ラドゥ様も裸、で寝るんですか?それに、ジェイダス校長先生も……」
「それはな、裸にならなければ出来ない行為もあるからな。実際に昨日も……」
「おい、北都に妙なことを吹き込むんじゃあねぇ!!」
 北都の質問に赤裸々に話そうとするのをソーマが力なく制止する。
 せっかくと思っていた内容を止められラドゥはつまらなそうにしているが、北都には訳が分からずにいた。
 興味あったのだが、その後もラドゥにあれやこれやと質問するたびにソーマが止めに入る。
 そんな押し問答を笑いながら見るヘル。
 その傍らにいる呼雪は関心が薄いようで、必要書類をまとめる仕事に取り組んでいた。
 そんな時間が保健室を流れていた。

 同じ頃、保健室とは別の空き教室にて悩める学生たちの相談に乗る者がいた。
 嵯峨 奏音(さがの・かのん)嵯峨 詩音(さがの・しおん)の二人はここで学生たちとの交流を主とした治療をしている。
 ラドゥ率いる保健室組も活動しているが、さすがに相談相手にふさわしいかどうかという点で躊躇う生徒いる。
 そんな人のために用意されたのがこの教室だ。
「おや、いらっしゃい。まぁまずは掛けて」
「コーヒーにしますか?それとも紅茶にします?」
 とある生徒が訪れる。
 奏音はやってきた男子生徒を椅子に腰かけるように導き、詩音は何が飲みたいかと尋ねる。
 ここはもはや保健室というより、カウンセリング室といった感じだ。
 訪れたことのある者は皆口を揃えてそう答える。
「先生!俺、この学校に入っておかしくなっちゃたんです!だって、男にこんな感情抱くなんて……!」
「気に病むことはない、ここでは意外とそういう人は多いから。代表的なのはジェイダス校長とラドゥさんの二人が良い例だし」
「そ、そうですよ!むしろそういった話は当たり前なんですから」
「詩音、とりあえず興奮しないでくれるか?」
 入学基準がかなり厳しいここ薔薇の学舎では、校長自ら試験に立ち会う。
 そういった過程でで入学する男子生徒はかなりの美形揃いだ。
 女人禁制の環境だけに、そういった綺麗な男に恋することは至極当たり前のようになっていたりする。
 当然、そのことに納得できない生徒もいる。
 現にこうして奏音はこのような相談を沢山受けていた。
 その度に詩音は瞳を輝かせて、楽しそうにしている。
 だが奏音は内心焦って仕方がない、詩音は見た目男子だが肉体的には女の子なのだ。
 もしバレたら退学は確実、それだけは避けなければならない。
 そのため詩音にも努力するように説得してはいるが、全くと言っていいほど垣間見えなかった。
 男子生徒の話が気になるのか、うずうずと続きが気になるようだ。
 体をそわそわさせて、まだかまだかと素振りを見せる。
 無駄なんだな、奏音はそう思わざるを得ない一日になった。


 翌日の放課後、保健室へと続く廊下を傷だらけの生徒が歩いていた。
 鬼院 尋人(きいん・ひろと)、活発な印象を与える彼は何故か至る所の衣服が破けて全身引っ掻き傷だらけなのだ。
 尋人は馬術部所属で、今日は久々に愛馬での乗馬を楽しんでいた。
 しかし油断大敵ということになってしまう。
 愛馬ということで専用の服装をせずに普段着で乗馬をしたことが後の悲劇となる。
 久々ということで落馬してしまったのだ、運悪く薔薇の花畑に頭から突っ込む形で。
 結果はこのように、服の至る所は破けて露出した肌からは紅い液体がとめどなく溢れていた。
 痛みに耐えながら、ようやく辿り着いた保健室。
 扉を開けて室内を見渡すと、運悪く保険医不在だった。
 仕方がないと、室内に入ってまずは消毒ということで薬瓶が収納されている棚をあさる。
 そこで見つけた消毒液をガーゼに染み込ませて、目に見える手や足の傷口に乱暴に塗りたぐる。
「いって!くっそ、ついてねぇなぁ……」
 自分が悪いということを分かっているせいか、込み上げる感情に苛立ちを隠せずにいた。
 小さな傷の消毒が終わり、次は上半身の大きめの傷に取りかかろうとする。
 ところどころ破けているシャツを脱ぎ始める。
 しかしここで博人に思いもよらぬ展開が起こった。
「あぁ、もうくそ……ってしまった瓶が!?」
「おっと。気をつけろ、備品を勝手に壊したらラドゥ様に怒鳴られるぞ?」
「……あ、天音!?な、なんだってここに……!」
「何、そこのベッドで寝ていたら誰か入ってきたと思って目が覚めてな、誰かと思えば尋人とはな……」
 苛立ちで大振りな行動を起こしていた尋人の肘が薬瓶に当たってしまう。
 地面に落ちてしまう、と焦った瞬間薬瓶は誰かの掌に収まる。
 見るとそこには黒崎 天音(くろさき・あまね)が薬瓶をしっかりと持っていた。
 予想外の人間が登場したので尋人は焦り始める。
 そんな様子を天音は楽しそうに眺めていた。
「しかし何だその傷は?また落馬でもしたのか?案の定、薔薇の茂みに頭から突っ込んだとかそういうオチだろう」
「うっせぇなぁ!今から手当てするんだから、あっち……!?」
「背中もかなりひどいな、どれ。」
「や、止めろよ!!」
「良いのか?せっかく手の届かないところを治療してあげようと思ったのだがな」
 尋人は押し黙ってしまう。
 確かに背中からはかなり痛みが走っている。しかしどうやっても一人では消毒できない。
 傷の場所も把握できないので的確に包帯も巻けないから、天音の申し出はありがたい。
 だが心の内では天音に治療してもらえるということで、舞い上がっていた。
 そんなこともあってか、すぐに暴れるのをやめて小声で頼み込む。
 そんな姿が可愛らしかったのか、征服欲に満ちた笑みを浮かべて傷の手当てを始める天音。
 尋人は違ってガーゼをピンセットで持って消毒する。
 先程の乱暴な消毒とは違い、的確な治療方法に博人も痛みを感じることは少なかった。
 全ての傷口の消毒が終わり、包帯を巻きはじめる。
「……あ、ありがとな」
「ふむ、しかし顔が真っ赤だな。風邪でもあるのかな?」
 包帯を巻く過程で天音と向き合っていたので、尋人は顔が紅くなるのを隠せずにいた。
 そんな様子に天音は悪戯心が芽生える。
 尋人の顔にそっと手を添えて彼と瞳が合うようにする。
 不意に、尋人の額に軽く唇をあてたのだ。
 何が起きたか分からない、尋人は自分の中の時間が止まるのを感じた。
 数秒、その時間が続くとゆっくりと天音は離れる。
 茫然としている尋人を今度は顎を掴んだ。
「どうした?暴れなかったご褒美をあげたんだが、こっちの方がよかったのかな?」
 何も答えられない尋人を良いことに天音は今度は顔ごと近付ける。
 その柔らかな唇が尋人のものとくっつこうとした時だった。
「天音、治療が終わったのならそろそろ帰らぬか?」
「ん?何だ、ブルーズいたのか。声を掛けてくれれば良かったものを」
「すまん、随分とお楽しみのようであったからな」
 二人の様子に構わず声を掛けたのはブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)だった。
 ブルーズは天音の姿が見えなかったので校内を探し回っていたのだ。
 そしてようやく見つけた保健室でこの調子である。
 面白くないといった感じでムードの最高潮である場所で邪魔してやろうと決めていたのだ。
 室内に入り、天音の使った道具を綺麗に片づけていく。
 一方の天音は乱れた服装を直して立ち上がる。
「ん?鬼院、鼻血が出ているぞ。ほれ、ティッシュを突っ込んでおくぞ」
「おいおい、手荒だな。じゃあ俺は帰るから、尋人は鼻血が収まるまでここにいたら良い。それじゃあな」
 何の反応もない尋人は、自分も気づかないうちに鼻血を垂らしていた。
 ブルーズはティッシュをいくらか取り、尋人の鼻に突っ込む。
 その乱暴なやり方に天音は笑い、放心状態の尋人を置いてブルーズと共に帰宅した。
 誰もいなくなった保健室で、上半身の尋人はそっと額に手をあてる。
 まだ暖かみを感じて思い出したのか、鼻にあるティッシュがさらに赤みを増したのだった。