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先生、保健室に行っていいですか?

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先生、保健室に行っていいですか?
先生、保健室に行っていいですか? 先生、保健室に行っていいですか?

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CASE7 波羅蜜多実業高等学校の場合

 波羅蜜多実業高等学校、学校と呼ぶにはかなりあやふやな学校だ。
 校舎は全壊して、授業が行われいても青空教室という何とも斬新な授業風景である。
 ところが、こんな朽ち果てた学校でも保健室は存在する。
 しかもそこは伝説とまで呼ばれ、実際に目にした者は歓喜溢れて突入してしまうほどだ。
 本来なら保健室もすぐに破壊されてしまうが、何故だか校舎がまだ原形をとどめていた形を保っているという。
 永世中立地帯、様々なわけありの人々がいるこの場所唯一のオアシスなのだ。
 そんな保健室を探している一人の生徒、白菊 珂慧(しらぎく・かけい)だ。
 授業中なのだが、基本自由が売りなので特別何も告げずに保健室を探していた。
 本当にあるのだろうか、半ば疑問に感じつつ珂慧は目的の場所を探す。
 すると、何故か天井もしっかりあって外から中の様子が分からず、なおかつ扉もある鉄筋性の小屋を見つける。
 もしかしたらと、恐る恐るそこに近づいて扉を開ける。
 珂慧の鼻に薬の臭いが入ってきた。
 ひび割れは目立つものの、照明もしっかりと付いて、ベッドが三つ、そして薬やら怪我の治療に欠かせない道具が入った棚。
 そこは夢にまで見た保健室だった。
 珂慧は感激した、この学校にこんな憩いの場所が存在するなんてと。
 室内に入ると、そこには一人の女子生徒が珂慧を出迎える。
「あら、いらっしゃい。どうかしましたか?」
「……あっすみません、少し体調が悪いので横になっても良いですか?」
「大丈夫ですよ、好きに使ってください。あっ、左奥のは使用しないでください。それ以外でしたら平気ですから」
 出迎えたのはリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)だった。
 自称パラ実唯一の保健委員として彼女はここで待機している。
 もっとも、保健室の存在を知らない生徒が山ほどいるので、彼女の仕事は基本暇なのだ。
 リリィの指示に従って右奥のベッドを拝借する珂慧。
 その時、保健室の扉が勢いよくもう一度開く。
 電子煙草をくわえた女性、雉明 ルカ(ちあき・るか)はゆらりと室内に入る。
 リリィは念のために病状について尋ねる。
「……持病の発作よ」
「そうですか、いつものベッド空いていますよ。どうぞ」
「邪魔するわ……」
 ルカの言葉にそれ以上の追及をしないリリィは、先程珂慧に使用しないようにと言ったベッドにルカを誘導した。
 どうやら彼女が来ることが分かっていたらしく、そのため珂慧に一言注意をしたのだ。
 なるほど、と珂慧は一人ベッドの中で納得するのであった。
 ふらふらとベッドに辿り着いたルカはもぞもぞと布団の中にもぐり、1分としないうちに眠りについてしまう。
 余程疲れていたのか、と考えるリリィだが彼女がただの低血圧ということも知っている。
 どうやら保健室の常連らしく、リリィとルカは何気に仲良しだった。

 1時間後、再び保健室へと足を運ぶものが一人。
 ビンセント・パーシヴァル(びんせんと・ぱーしばる)、ルカのパートナーだ。
 扉を閉める前に、辺りを確認してから扉と鍵の両方を占める。
 何事かと思いきや、ビンセントはリリィの傍にある椅子にゆっくりと腰掛ける。
「どうかしたんですか?」
「……俺は昔、マフィアの世界で生きていた」
「まぁ、そうなんですか」
「あぁ、常に死と隣り合わせだ。他の奴らになめられたら足元をすくわれ、常に気を張っていなければならない世界で生きてきた」
「大変でしたね」
「……そんな俺が、何故こき使われなければならないんだ!?」
 ビンセントの話を大真面目に聞くリリィ。
 彼もポツリポツリと話す言葉に徐々に力が入っていく。
 どうやらここからが本題のようだ、とリリィは声に出さずに悟る。
「年下かもしれねぇあの女に何故俺は逆らえないんだ!?」
「そうですわね、じゃあ試しに今度軽く意見を申してみては……」
「駄目だ!些細なことでさえ俺の発言は許されないんだ!気に障ることがあれば、あいつは間違いなく散弾をぶっ放す気だ!」
「脅しなのではないですか?」
「いいや違う!あの瞳はマジだ、嘘をつくように見えない!あの凄みは一体何なんだ!?どうしたらあいつの尻に敷かれないようになるんだぁ!!
 日頃からこき使われているのか、ビンセントのボルテージは増すばかりだった。
 不幸中の幸いか、と内心考えているリリィはそっとある方向に目を向ける。
 その時、扉をぶち破って入ってくる一人の生徒が現れた。
「ひゃっほうい!ついに見つけたぜ伝説の保健室!!夢にまで見た酒池肉林のハーレムだ〜!!」
 ピンク色のモヒカンが特徴的な生徒、ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)が颯爽と登場した。
 今日は来客が多いな、とリリィは特別驚く様子もなくゲブーを見ている。
「……?おいおい、何処だよエロい保険の女医さんは!?話が違うんじゃねぇの!!」
「どのような話をお聞きになったのか定かではありませんが、ここに保険医は存在しませんよ」
「何ぃ!?それじゃあ話が違うじゃねぇか!!ちっくしょお!しかたがねぇ、てめぇで我慢してやるからおとなしく胸揉ませろ!!」
「即効でお断りします」
「拒否権なんぞあると思ってるのかぁ!?世の中弱肉強食なんだぜぇ〜!!」
 どんな展開が彼の中で巻き起こっているのか、とリリィは分析をしている。
 冷静にしている分、彼女もまたかなりの兵なのだろう。
 女医さんがいないことに愕然とするゲブーだが、すぐさま開き直ってリリィに襲いかかった。
 その行動を的確に読んでいるのか冷静に避けるリリィに、苦戦を知られるゲブー。
 一人取り残されてしまったビンセントから、先程から自分の中で危険信号が発せられていた。
 ここにいてはいけない、自分の中の第六感がそう告げていた。
 一方リリィは突然立ち止まり、好機とみたゲブーは彼女に飛びかかる。
 捕まえた、そうゲブーは確信したがその直後にリリィは避ける。
 彼女の後ろにはカーテンで仕切られた左奥のベッドがあった。
 カーテンレールを引きちぎって、そのままベッドに倒れ込むゲブー。
 この時、彼の鎮魂歌・最終楽章が流れ始めていた。
「いてて、ちょこまかと動き……ん?この柔らかな感触は……間違いねぇお宝じゃねえか!!あんなペチャンコとは比べ物にならねぇぞ!!」
「寝ている女にちょっかいを出すとは、獣め……」
「そうですね、自分がもうすぐ死ぬかもしれないというのに」
 ゲブーは自分の手の中にある求めていた感触を感じて、そのまま揉みし抱く。
 それを見てビンセントは侮蔑の言葉を吐き、リリィは意味深な発言をする。
 何のことかと見ると、彼女を見ればいつの間にかヘルメットに盾と防御態勢になっていた。
「中々の大物じゃねぇか!!さて、それじゃあそろそろ顔を拝見するとしますか……」
 その時だった。
 ジャコンッ!!という銃弾を装填する音が響き渡る。
 何事かと思いきや、何かの先端がゲブーの顔に突きつけるように掛け布団越しにあった。
 炸裂した。
 布団の中身をぶちまけるように飛散した中身は辺りをゆらゆらと舞っている。
 ゲブーはベッドから落とされるように地面にいたが、トレードマークのモヒカンの半分が跡形もなく消し飛んでいた。
 いきなりだったためにビンセントも床に伏せていたが、よくよくゲブーの後ろを見るといくつもの銃弾の跡が壁にある。
 散弾だ、ということはまさか、という予感が彼の中でよぎりそれは現実のものとなった。
 ベッドからゆっくりと起き上って立ち上がるは、そこに寝ていた彼女・雉明 ルカだった。
 彼女の手の中には立派なショットガンのグリップがあり、空いている手は電子煙草をくわえるために口に運んでいる。
 その過程で、彼女に表情はない。
 その目つきは本物だった。
「る、るるるるるるる、ルカぁぁぁぁ!?」
「……一つ、私は自分の安眠を妨げるものは何人も許さない」
「あ、あのぅ〜……」
「二つ、寝ている女の胸を揉みやがるセクハラ野郎にもれなく死を……」
「……!!」
「三つ、こそこそ人がいないことを良いことに陰口をたたく奴には懲罰を……」
「待て待て待て!!俺は関係ないぞ、そいつが勝手にやっていただけだ!」
「おいこらぁ、てめぇ逃げる気か!!」
「巻き添えはごめんだぁ!」
「四つ、仮にもパートナーたる者を見捨てる不貞な奴には、死よりも恐ろしい苦痛を……」
 その瞳に冗談も嘘などと悠長なものは感じられない。
 このままでは自分たちの命がまずい、男たちはそう直感した。
「まぁ、寛大な私だから言うことを聞けば許すわ」
「な、何だよ……?」
「蒼空学園の焼きそばパンと、耳栓とアイマスク、今すぐ買ってきなさい。お金はビンセント持ち。3分以内、さぁ行け」
「ふざけんな!3分で行って買って帰ってこられるかぁ!!」
「この俺様がそんなめんどくせぇことするとでも思ってぇぇぇぇぇ!?」
「そう、じゃあもれなく死をプレゼント」
 男二人の悲鳴が保健室に響き渡る。
 本気で始末するつもりなのか遠慮なく散弾をぶっ放しているルカ。
 大変な騒ぎになったなぁと感じているリリィはいつの間にか保健室の入り口にいた男子生徒に気づく。
「こんにちは、ごめんなさい。今少々取り込んでいまして……」
「いや、白菊 珂慧という生徒を迎えに来ました」
「……クルト?ふわーぁ、なんかすごい騒がしいんだけど何なの??」
「お気になさらずに。さぁ参りましょう、ここにいては非常に危険です」
 珂慧を迎えに来たのはパートナーのクルト・ルーナ・リュング(くると・るーなりゅんぐ)だった。
 彼の声を聞いて、どうやら今まで寝ていたらしく起き上る珂慧。
 やたらと騒がしい保健室で何が起こっているのかとクルトに訪ねる。
 クルトは気にする必要はないと言ってその場を早足で立ち去って行った。
 お大事にどうぞ、そういうリリィもさすがに中にいれば巻き添えを食らうのでしばらく離れた場所で様子見として保健室から出た。
 これだから保健委員は止められない、とリリィはこの状況を一人楽しんでいた。
 波羅蜜多実業高等学校は、今日も元気に騒がしかった。