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【七 真実】

 爆音を聞きつけてルナパーク内に駆けつけてきた光一郎、オットー、そして加夜の三人は、そこで同じく別方面から駆けつけてきたルカルカとザカコの両名とばったり出くわした。
「やぁ皆さん、お揃いで!」
 ザカコが挨拶しながら手を挙げたその瞬間、不意に、光一郎の所持するHCのLCDコンソールに、輝度の高い波形が幾つも同時に出現した。
「おぉっ、何だ!?」
 所有者たる光一郎が、誰よりも一番びっくりした。
 実はこれよりも以前に一度、同様の波形が出現していたのだが、その時はほとんど一瞬で消えてしまった為、光一郎も気づいていなかった。
 その『前回発生タイミング』というのが、あゆみやシズル達が、北斗とエイコさんの戦闘に乱入しようとしていた、あの時だったのである。
 そして今回。
 さすがに光一郎も、これだけ輝度の高い波形が一斉に、しかも長時間に亘って出現し続けた為、今度は見落とすようなことはなかった。
 慌ててタブレットキーをタップして、波形の方向と数を確認する。
「……あっちから流れてきてるみたいだね」
 ルカルカが、真澄池方向に視線を走らせて、小さく呟く。爆音も、その方角から聞こえてきたのだ。
「でも、よく見つけたね、そんな波形」
「いやぁ、俺様ってば天才だしぃ」
 光一郎がHCで波形を監視していたのは、決して偶然ではない。
 彼はもともとエイコさんが、外部にデータが流れる筈のIOポートに不具合を発生させているのではと踏んでいたのだ。そこで、持参したHCで数千にも及ぶIOポートを常時HCで監視させていたところ、今回やっと、それまで一度も把握出来ていなかった不自然な波形を捉えることに成功したのである。
「とにかく、いってみましょう」
 加夜が促すと、全員が小さく頷いた。
 やがて五人が真澄池ほとりの音楽堂にまで達すると、カレーニナのエイコさんとコントラクター達の激闘によって、そこらじゅうが破壊されまくっているような有様であった。

「おや? こいつぁ……」
 エイコさんと戦うコントラクター達と、自身が手にするHCのLCDコンソールとを交互に眺めていた光一郎だが、ややあって、彼はある一定の法則に気づいた。
 誰かが攻撃を繰り出すほんの一瞬の前に、比較的強い波形が出ているのである。逆にエイコさんの方からは、どのような攻撃・防御行動に出ようとも、一切波形が出ていない。
 つまりこれらの波形は全て、コントラクター達が攻撃の意思を持って何らかの行動を見せる直前に於いてのみ出現しているといって良い。
 では何故、コントラクター達の攻撃の意図だけが波形となって出現するのか。
 波形となる以上は、何かのデータに変換されて、どこかに流れているという事実が厳然として存在しているのである。これは決して見逃して良い話ではない。
 光一郎がその旨の内容をルカルカとザカコ、加夜に説明すると、ルカルカが眉間に皺を寄せてHCのLCDコンソールを覗き込んできた。
「この波形を見る限り、どこかのポイントでシリアライズされているようだね。でも逆にいえば、別のポイントでデシリアライズされる可能性が高いってことになるよね」
 いってから、ルカルカは加夜に視線を転じた。加夜は何事かと、一瞬小さく身構える。
「加夜、何か遠隔攻撃の技か魔法は無い?」
「えぇっと……パイロキネシスならありますけど」
「良いね。それ、いっちゃってみてよ」
 ルカルカに指示されるまま、加夜は炎のイメージを頭の中で作り上げ、それをカレーニナのエイコさんの姿の上に被せてみせた。
 するとその直後、エイコさんの巨躯がほんの一瞬ではあるが、業火に包まれた。
 さすがに接近戦を挑んでいた者達は驚き、慌てて距離を取ってはいたが、炎はすぐに消えた為、肉弾戦は数瞬後には再開されていた。

「どう?」
 ルカルカが問いかけると、光一郎がにぃっと笑い、何故かサムアップのポーズを取った。
 光一郎が加夜の方向に別の波形トリガーを仕掛けて待ち構えていたところ、果たして、加夜が炎撃を放った際には、それまでとはまるで異なる形状の波形が出現していたのである。
 そしてその輝度も、他の波形を一瞬画面上から消し去る程の強さであった。
「ビンゴ、ですね。通常の接近戦よりも、加夜さんがパイロキネシスを駆使すると、更に強烈な波形が出現しましたね……」
 ザカコが半ば感心しながら呟いた。
 では魔法ではなく、技であればどうなるか。
 ザカコは愛用のカタールを抜き、光一郎にちらりと視線を投げかけた。対する光一郎もザカコの意図を察したのか、小さく頷き返す。
 シズル、美羽、北斗、エヴァルト、和麻、美晴、クドといった面々がエイコさんを包囲する形で肉弾戦を挑んでいるところへ、ザカコも加勢する形で飛び込んでいった。
 だが、さすがに多勢に無勢である。
 カレーニナのエイコさんに叩き込まれた数々のダメージは相当に効いているらしく、コントラクター達が優位に戦いを進める中、遂に、総金属製のドラゴニュートががっくりと片膝を地面につく瞬間が訪れた。
 ザカコが必殺の一撃を加えようと、カタールを腰だめに構えた。が、そこへあゆみとヒルデガルトが慌てて割り込んできた。

「あー! ダメダメダメ! 壊しちゃうようなことはダメだーって!」
 ピンクレンズマンは、あくまでも平和主義だった。既に勝負がついているのに、これ以上死者に鞭打つような行為を黙って見ているのは、どうにも忍び難かったらしい。
 だが、どちらかといえばヒルデガルトの方が納得のいく台詞を口にしていた。
「皆さん、破壊してしまってはいけません。エイコさんはOSなのです。この方を破壊してしまっては、私達は全員、ここから出られなくなってしまうかも知れませんよ」
 確かにその通りである。
 それまで接近戦を挑んでいた面々は、ようやく得物や拳を下ろして、互いに顔を見合わせていた。
 ところが、である。
 意外な声が、その場の全員の鼓膜を打った。
「まだだ……まだ、終わっておらぬ。もうあと一撃、私に加えるのだ。そうすれば、私のメインルーチンをロックしていたキーウィルスが破壊される。だが技や魔法は一切使うな。それをやってしまうと、奴らの思う壺だ。他なら何でも良い、とにかく君達の誰でも良いから、もう一撃だけ私に加えて欲しい」
 何と、語りかけていたのはカレーニナのエイコさん当人であった。

     * * *

 コントラクター達の間に、困惑が広がった。
 まさか、エイコさんが冷静な声で語りかけてくるとは。しかもその内容は、もう一撃だけ攻撃を加えろ、というのである。
 だが、何となく事情を察したらしいクドとエヴァルトが、同時に最後の攻撃を叩き込んだ。
 すると、どうであろう。
 それまで凶悪な程の破壊力を撒き散らして暴れまわっていた総金属製のドラゴニュートは、実に穏やかな様子で静かに立ち上がり、深々と頭を下げてコントラクター達に礼を述べたのである。
 困惑は更に、戸惑いへと変わっていた。
「君達の攻撃のおかげで、私のメインルーチンから制御を奪っていたスレッドが破壊されて、やっと本来の機能を取り戻せたよ」
 電脳過去世界を管理するOS、カレーニナのエイコさんと、初めて邂逅した瞬間であった。