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【新入生歓迎】不良in女子校!?

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【新入生歓迎】不良in女子校!?

リアクション


part1  荒野の戦い


 雑草が生い茂り、瓦礫の転がっている、荒れ放題の空間。一見そうは見えないが、これでも波羅蜜多実業高等学校の校庭である。
その校庭に、パラ実の生徒たちが直立不動で整列させられていた。
 一年の担任、縄張凶作(しま きょうさく)が竹刀で自分の肩を叩きながら怒鳴る。
「てめえら、覚悟はいいか! 目的地はヴァイシャリー湖の東の岸じゃあっ! 気合い入れて行けっ!」
「どうして東なんだ? 西側だったら百合園を通らなくても済むんじゃねえのか?」
 浦安 三鬼(うらやす・みつき)が疑問を呈した。
 途端、凶作の目がつり上がる。といっても最初から目つきが悪いので、そう変わりはしないのだけれども。
「てめえは阿呆か!? もしくは恐竜様を恐れない思い上がりか!? フタバスズキリュウ様の巣が東にあるからに決まってるだろうが! まさかフタバスズキリュウ様に西から東の岸まで歩かせる気か!?」
「す、すまねえ。そういうつもりじゃなかったんだ」
 三鬼はすごすごと引き下がった。
「よし、他に質問はねえな? あっても答えないがな。じゃあてめえら、出発するぞ!」
 凶作が号令を発した。
 重く大きな靴音を立て、校庭からパラ実生たちが出て行く。地獄の直進行軍の始まりだった。


「……ふむ、この辺りだな」
 セリア・ヴォルフォディアス(せりあ・ぼるふぉでぃあす)は荒野の真ん中で足を止めた。
 彼女の手にはシャンバラ地方の地図が握られている。地図には波羅蜜多実業高等学校と百合園女学院の位置が蛍光ペンで記され、両者のあいだに直線が引かれていた。セリアはパラ実生たちの行進ルートを地図上で予測してやって来たのだ。
「しかし、直進しかできないとは、パラ実らしい愚直さだな。神も恐れぬというか……」
 ぶつくさ言いながら、スコップで穴を掘る。薄っぺらい正方形の地雷を敷き詰め、土で覆った。無関係な人間を巻き込まないよう、今回はリモート式にしている。セリアは近くの草藪に身を潜めてパラ実生を待った。
 千種 みすみ(ちだね・みすみ)が先頭になって、地雷の仕掛けられている方へと歩いてくる。
「よりにもよって、こんなに目立つ大勢で荒野を行進なんてね。盗賊の注意を惹きすぎちゃうよ」
「安心してください、私がみすみを全力で護ります。みすみのファンとしてね」
 鬼崎 朔(きざき・さく)が力強く請け合った。
 彼女のパートナーであるエリヌース・ティーシポネー(えりぬーす・てぃーしぽねー)も並んで歩きながら言う。
「あたしが来たからには、この行進は成功したも同然よ! なんたってあたしは最凶の種もみ戦士なんだから! まあ、ついでだし? みすみを護ってあげてもいいよ? みすみのライバルとしてね!」
「ライバル、ねえ……」
 斜め横に視線を反らす朔。
「私、エリヌースさんをライバル認定した覚えはないんだけど……」
 みすみも微妙な反応。
 エリヌースは慌てた。
「えぇ!? あのとき夕陽に誓ったじゃん! これからずっとライバルでいようねって! 強敵と書いて『とも』でいようねって!」
「いつの夕陽!? 本当に記憶にないよ!」
 そんな、地獄の行進軍にしてはグダグダな雰囲気の中、エリヌースが急に表情を引き締めた。
「っ……。みんな、ちょっと止まって!」
 肩をぴくくっとさせて立ち止まる。彼女のスキルの殺気看破が、隠れているセリアを察知したのだ。
「敵……なの?」
 朔のパートナー、イロハ・トリフォリウム(いろは・とりふぉりうむ)が背中の弓を外して手に持った。
 エリヌースがうなずく。
「うん、近くに隠れてるみたい」
「地面の表面の色がわずかに変わってるわね。トラップを仕掛けて、私たちが引っかかるのを待っているといったところかしら」
 イロハは罠を解除しに行こうとした。
「待ってイロハ!」
 エリヌースがイロハの腕を掴んだ途端、前方で爆発が起こった。一直線に敷設された地雷が、土を吹き上げて連鎖的に破裂する。
「……読まれたか」
 セリアは舌打ちし、すみやかにその場から去った。敵も味方も、誰一人として彼女の姿を視認したものはいなかった。
 だが、みすみたちの様子をうかがっていた者はいた。
 これが好機と、湯島 茜(ゆしま・あかね)がスパイクバイクのエンジンを唸らせて飛び出してくる。
「千種 みすみ! 最近ちょっと調子こきすぎじゃない!? この茜様がシメてやるよ!」
 光るピンクのモヒカン盗賊、ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)も現れる。
「種もみをよこしな、ガキども! 脱穀して精米して、俺様が今日の晩飯にしてやるぜえ! いい女もいるじゃねぇか、おっぱいもませろや!」
「下がって、みすみ!」
 朔がみすみの前で盾となり、ゲブーを睨みつける。
「貴様、パラ実生だろう! なぜこんなことをする!」
 ゲブーは手をわきわきさせながら高笑した。
「なぜかって? 教えてやろう、パラ実は自由だ! 授業も命令もくそくらえ、好きにするのがパラ実だ!
 おぅ、分かったのか、そうかよしモヒカン戦士にしてやろう!」
「なに一つとして分からん! 一人で勝手に話を進めるな!」
「げはぁ!」
 朔が飛竜の槍でゲブーを薙ぎ払った。
 相手の胸に気を取られすぎてノーガードだったゲブーはまともに喰らう。
「く、くそっ、いいチチゆれを見せて貰ったぜ。今日はここまでにしておいてやる!」
 きびすを返し、一目散に逃げ出した。
「ふん、時間稼ぎにもなりゃしない! まあ、はなっから期待しちゃいないけどね!」
 茜がスパイクバイクのアクセルを吹かして突っ込んでくる。
 パラ実生の列が紅海の水のように縦に割れた。茜は急ブレーキをかけ、振り返ってフライングギロチンを投げる。
 鋭い刃をぎらつかせたギロチンが、みすみのやわらかな喉を狙って高速で飛んでくる。
「みすみ、危ないっ!」
 エリヌースがみすみを突き飛ばした。ギロチンがエリヌースの服を切り裂く。エリヌースは胸を押さえて倒れる。
「エリヌースさん!」
 みすみが血相を変えた。
 エリヌースは弱々しく微笑んだ。
「ふ、ふふっ、ヘマしちゃった……。でも、駄目だよ、みすみ。みすみを倒していいのはさ、あ、あたし、だけなんだから……」
 首ががくっと折れる。
「エリヌースさああああん!」
 ああ、戦闘能力皆無のエリヌース。
 歌が下手なエリヌース。
 私たちはあなたの犠牲を決して忘れないだろう。
 頑張れ負けるな、エリヌース!


「ねえ、リカイン。やっぱり行くのやめない? 自分からなっておいてなんだけど、風紀委員ってパラ実の人たちから嫌われてるみたいだし、みんなこっちの話なんて聞いてくれないんじゃないかな」
 シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)はパートナーのリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)と共に、パラ実生たちの行進ルートへと急いでいた。
「聞いてくれなかったら、脅してでも聞かせるまでよ。『自称』パラ実生に暴れられて、これ以上パラ実のイメージを悪くされたら困るからね」
 リカインは歩調を緩めようとしない。
 パラ実生たちのところにたどりつくと、険しい表情で一同を眺め回した。思った通り、パラ実生には見えない生徒がかなり混じっている。
「あんたたち! 行進するのはいいけど、せいぜい道沿いの人たちに迷惑をかけないようにしなさい! 野盗の群れじゃないんだからね!」
 ディーバの体から発せられる咆哮に、パラ実生たちは震え上がる。前をさえぎる存在は殲滅する、と意気込んでいた者たちも少し考えを改めた。
 そこには藍川 美月(あいかわ・みずき)もやって来ていた。百合園生である彼女の目的は、パラ実と百合園の衝突を未然に防ぐこと。
「皆さん、止まってください! このまま進んだら我が校の更衣室にぶつかってしまいます。そしたら大変な戦いになっちゃいます! イコンや空を飛べるスキルで百合園の上空を飛ぶというのはどうですか!?」
「なにを言っとるんじゃ、この小娘があ! 乗り物は禁止に決まっとるだろうが! おのれは山にバスで登って登山家気取るつもりかあ!」
 凶作が怒鳴った。
 美月はパラ実生たちを追いかけながらさらに代案を出す。
「じゃ、じゃあ、ふたばすず……フタバちゃんだけは私が必ずシャンバラ湖に連れていきますから、あなた達は迂回してもらう……というのはダメですか?」
「駄目じゃ! この行進の目的は単なる恐竜様の護送ではない! どんな障害にも屈せず、乗り越えていく漢としての強さを鍛えるためにやっとるのじゃ! さあてめえら、もっと急げ!」
 凶作に急かされ、行進の速度が上がる。
 舗装されていない道なき道を、ただひたすらに進む。枯れ木が行く手を遮っていれば切り倒し、沼があればずぶずぶと入っていく。
 汚いなどとは言っていられない。疲れたなどとぼやいてもいられない。一行の後ろには、鬼の形相をした凶作が竹刀を打ち鳴らし、歯列を剥き出しにして構えているのだ。
 そうこうするうち、パラ実生たちの前に廃墟が立ち塞がった。古代の城だろうか、物の見事に破壊され、岩の塊と化している。その高さは十階建てのビルにも等しく、エレベータはもちろんついていないし、階段も崩れ落ちていた。
「先生、これも迂回しちゃいけないのか?」
 屋良 黎明華(やら・れめか)が尋ねた。
「当たり前じゃあ! 東京タワーだろうとピラミッドだろうと、障害に屈してはならん! それがパラ実じゃあ!」
「志方ないね。まずはおねーさんが手本を見せますか」
 志方 綾乃(しかた・あやの)は石材の突き出した箇所に飛び乗り、外壁を登っていく。『志方ないね』と自分の名前をもじるのは彼女の口癖だった。
 大昔は城の屋上だったであろう、岩山の頂上に到着すると、一同を猛々しい唸り声が出迎えた。
 ――巨獣。
 八メートルは超す大きさの狒々が待ち構えていた。赤い鼻が顔の前面を占領し、その下には鋭い牙を覗かせている。
「どきなさい、クソ猿! 秘慰擦毛(ぴーすけ)様の御前です。どかなければ始末しますよ!」
 綾乃が険悪な声で警告した。
「うききっ?」
 狒々は頭を掻く。思いついたように後ろを向くと、真っ赤な尻を叩いて挑発する。
「……警告は、しましたからね。殺されても志方ないよね!? 『死になさい!』」
 綾乃は死刑宣告した。
 狒々はびくともしない。相変わらず阿呆みたいな顔で、体を掻いている。死刑宣告は効果を発すれば最強だが、発動確率が低いのだ。
「ここは黎明華の出番だね! 言うことを聞かないお猿さんには、きっつーいお仕置きをプレゼントなのだ!」
 黎明華は禍心のカーマインを連射した。大量の弾丸がばらまかれ、狒々の毛皮に食い込む。
 狒々は顎を耳まで割るや、咆哮を上げて飛びかかってくる。
 黎明華はひらりと避け、空中にその身軽な体を踊らせる。
「ふふん、届かない届かない。これで終わりだぞっと!」
 最後に一発。
 直上から放たれた弾丸が、見上げた狒々の右目を貫いた。弾は脳に達し、狒々は大音声と共にくずおれる。
「ひゃっはあ〜♪ 我らの行軍、遮る者無しなのだ♪」
 黎明華は着地し、禍心のカーマインをホルスターに戻した。