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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~
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リアクション

 
 第15章 魔竜対戦 

 お弁当もあらかた食べ終わり、シーラ・カンス(しーら・かんす)が持ってきた食後用の緑茶を皆で飲んでいると。
 海の向こうから、何か巨大なものが襲来するのが見えた。
「ドラゴンだ! ドラゴンが海から飛んでくるよ!」
 おにぎりを持ったピノが立ち上がる。ドラゴンは真っ直ぐに海の家に近付いて来ていて――
「って、あれ……カルキちゃん?」

「ん? 何だろー?」
 遠泳後は自由に泳ぎ、屋台の焼きそばをのんびりと食べていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)達は、やにわに騒がしくなってきた皆の様子に顔を見合わせた。騒ぎの元になっているらしい海側に目を遣ると、ごおおおおっ、と特大サイズのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が火を吹きながら飛んできている。
「「…………」」
 ルカルカと夏侯 淵(かこう・えん)はつい目を点にした。あれはカルキノスだ。サイズは違うが、どこからどう見てもカルキノスだ。
 さて、海に来た時の会話をちょっとリピートしてみよう。
『……そういえば、いつまでも脱皮しないな。最終脱皮は考えとらんのか?』
『ん? ……でかいと街中で不便だぜ』
 …………。海ならいいのか?
「あやつ、言っておることとやってることが違うではないか!」
 急いで空飛ぶ魔法↑↑を使うと、淵はカルキノスを止めに急ぎ飛んでいく。ルカルカも、慌てて焼きそばをかきこんでから空中戦闘でそれに続いた。
「カルキノスー!」
 淵が叫ぶが、聞こえていないのかカルキノスはまたごおっ、と炎を撒き散らす。
「ええい、完全に己を失しておるわ!」
 勢いを衰えさせず浜へ行こうとする巨体に、淵は氷術を連打した。
「い、一体どうしちゃったの!?」
 突然の変貌に驚きつつ、ルカルカも氷術でカルキノスに対抗する。脚での反撃は、それぞれ歴戦の立ち回りで回避していく。岩場でのんびりしていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)もカルキノスを追いかけるように浜に戻ってきて同様に氷術で対抗する。
 ――3人共、まさかカルキノスが釣りの途中で寝こけているうちにデカくなったなどとは想像もつかなかった。しかも寝ぼけて夢だと思っているなど。
「浜辺に近寄らせるな! ここで食い止めろ! 俺達と同程度の戦闘力が巨大化で底上げされたら、強いなんてもんじゃないぞ!」
 だが、カルキノスは――

「海で暴れるドラゴネットを見ながらの海見酒……、まぁこれも、乙なモノかもしれないねぇ……」
 映画さながらの迫力ある場面が間近に迫りながらも、氷柱に囲まれて涼んでいたノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)は全く焦っていなかった。相変わらず冷酒を呑んでいる。隣に立つニクラス・エアデマトカ(にくらす・えあでまとか)もほぼ不動だ。まあ、もし襲われそうになったら、氷術の塊をぶつけるまでである。
 事実、ドラゴネットは確実に浜に近付いてきている。その影響で波も荒れ放題だ。
「暑い暑い! わしも中に入れてくれえ!」
 ルイに誘われてブートキャンプをしていた平賀 源内(ひらが・げんない)が汗だくだくで氷柱に走り寄ってきた。ドラゴン云々というより、純粋に暑くて仕方が無いらしい。だが、ノアは源内に小さい氷の塊をぶつける。入店お断りのようだ。
「源内、お前さん好きでこの海に来たんだろう? なら氷なんて使わないで思い切り楽しめばいいじゃあないか」
「なっ……なんちゅう酷い扱いじゃ……!」
 源内が愕然としている間にも、カルキノスは浜に迫ってくる。そしてとうとう、その脚を浜につけた。翼がもの凄い風を起こす。
 ――いやあ、竜から見たら人は小せぇなあ。
 まるで爪楊枝である。カルキノスは楽しくなって、浜辺の人々にブレスを吐いた。
「凄く大きいのー! 凄いのー!」
 それを見て、バーベキューをしていたキャロが嬉しそうな声を上げる。
「私が丸焼きにしてさしあげますよ」
 怖がるどころかはしゃぐキャロを肩に乗せたまま、公台は悪役かと思うぐらいの笑みを浮かべてカルキノスの足元をヒロイックアサルトで炎の海にした。厚着がたたって暑さにやられたようだが、ヒロイックアサルトでの炎の海は演出効果しかない。攻撃自体は、大きなダメージを与えているように見えなかった。
「ワンモアセット! ワンモアセット! 何です、巨大生物ですか!?」
 海岸の空気などどこへやらでブートキャンプに興じていたルイもさすがに無視できなかったらしく、カルキノスを拳でおとなしくさせようと出動する。が、殴っても殆ど効果が無い。
「伽藍ちゃん、準備はいいですか〜?」
 シーラもパイルバンカーの紅爛を持ち、一緒に来ていたパラミタ虎にまたがってカルキノスの元へと走り、廉も常備している妖刀紅桜で全力で対処しようと斬りかかる。
 ――んー? 何か、喧嘩売ってきてんなあ……
 カルキノスは攻撃してくる皆に対し、適当に空高く舞うとまた口からブレスを吐いて一気に薙ぐ。
「うおわぁ!」
「あ、危ないですわ!?」
 その炎に追いかけられ、氷柱に入りそびれた源内やノートが慌てて逃げる。が、ノートは途中でこけて、蒼学水着の上の部分を燃やされた。豊満な胸がぽろり、とあらわになる。
「きゃああっ!?」
 アクシデントによるポロリ事件に、避難している客達から「おおっ!!!」とエロいどよめきが起こる。浜を警邏していたヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が、そこでカルキノスに咆哮を放った。神ですらおののくと言われるその声に、空中の巨体が動きを止める。
『……な、何だぁ?』
 身体のサイズがサイズだけに、その一言だけでも海全体に響く。
「もっと遠くに離れるんだ!」
 今のうちに、とヴァルは客達を安全な場所に誘導していく。キリカ・キリルク(きりか・きりるく)も攻撃が及ばないようにと各種オートスキルを発動した。
「自分のエクセレントでアルティメットな一撃で落とすッスよ!」
 シグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)がアルティマ・トゥーレで攻撃を仕掛ける。
「いっけぇ!」
『うおっ、冷てぇ!!』
 驚くカルキノスに、空中から更に淵が氷術を放つ。
「ええい、カルキノスー! いい加減にしろ! ……そうだ!」
 淵はそこで、同じく空飛ぶ魔法↑↑を使っていたダリルに叫んだ。
「ダリル、ヒプノシスで眠らせて隙を作れ!」
「……分かった」
 ダリルは行動予測を使って攻撃を回避しつつカルキノスの正面に周る。そして、ヒプノシスを使った。
『……ん……?』
 眠気に襲われ、もともと寝ぼけていた彼は段々と飽きてきていたこともあり、大きくあくびをして一気に浜に急降下した。最後に、と翼の風で海水と砂を巻き上げて皆を翻弄する。
「う、うわあぁあ!?」
『じゃあなー』
 砂塵から顔をかばう皆を見ながら、カルキノスは浜から飛び去っていった。

              ◇◇◇◇◇◇

「すごかったですね、モフタンはこわくなかったですか?」
 浜辺が落ち着きバーベキューも再開され、美央はモフタンに話しかける。
「モフタン、ビックリ、ビックリ」
 びっくりしたらしい。そんな彼は、取り皿に載せられた焼き魚を食べていた。取り皿の上には、キャロの持ってきた向日葵の種も乗っている。
「おいしいですか? モフタン」
「オイシイ、オイシイ」
「うー、もうおなかいっぱいなのー、食べすぎたのー」
 暑さでイっちゃった公台の肩では、おなかをこれでもかと膨らませたキャロがふーふー言っている。肉や種、野菜の後に、焼きマシュマロもしっかりと食べていればこうもなるだろう。廉はやれやれと息を吐く。
「やはり、結局はこうなるか……」
 そして、皆の持ち寄った食材も完食し、片付ける頃合。
「勇刃さん」
 くららはパラソルを畳むと、勇刃に改めて声を掛けた。
「楽しかったですわ、ありがとうございます」

              ◇◇◇◇◇◇

「……どこだぁ? ここ」
 ドラゴネットからいつものサイズに戻ったカルキノスは、覚えの無い場所できっちりと目を覚まして周囲を見回す。人声のする浜辺からは、随分と遠く離れていた。
「? ……おっと、皆のところに戻んねぇとな」
 よく分からないが、とりあえず慌てて皆の居る浜辺に戻る。浜は何故かパラソルが倒れていたりと荒れ気味で、ルカルカ達は砂浜にへたりこんでいた。
「……なんでぇお前等、海くらいでバテたのか?」

「「「誰のせいだ誰の!」」」

 首を傾げるカルキノスに、3人は一気にツッコミを入れた。