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紅葉狩りしたいの

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紅葉狩りしたいの

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第五章 乱入者あり!
「ひっさしぶりに陣くんや真奈さんと一緒にデートデートぉ♪」
「ご主人様達とお出かけ出来て嬉しいです。それにしても綺麗な紅葉ですね」
 七枷 陣(ななかせ・じん)はパートナーのリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)小尾田 真奈(おびた・まな)の嬉しそうなピッカピッカの笑顔に、幸せを噛みしめていた。
「本当に、久しぶりのデートらしいデートやな」
 ジ〜ン。
 けれども感慨はそう長くは続かない。
「って……んに? 一瞬で紅葉が消えて……ふぇっ!?」
 咥えていたタイヤキを落っことすかと思ったくらい驚くリーズ。
 紅葉を刈る機晶姫と対峙する岩造達は、どこか現実味を欠きながらも酷く物騒で。
「ちょ、ちょっと君!何で紅葉を刈り取ってるの!? 駄目だよ、紅葉狩り出来無くなっちゃうよー!」
「……は? 紅葉狩りの最中? だから葉っぱを刈り取ってる? 全部? えっ……なにそれこわい」
 本郷翔から簡単に理由を聞いた陣は思わずポロッともらし。
「……っ」
「あっあの、ご主人様」
 真奈に窘められた。
 結構距離あるけど聞こえたらしい、機晶姫イヤー。
「お待ち下さい、何故そんな事を……マスターから命令された?」
 真奈は納得いかないとばかりに微かに眉をひそめた。
 エンジュは止めようとするショウや雪原に対して攻撃しなかったらしい。
 そんなエンジュの主が、紅葉を刈れなんて命令をするだろうか。
「失礼ですが、その命令と言うのを復唱願えますか?」
「『紅葉狩りに、行ってくれない?』、マスターは確かにそう……命令して下さいました……」
 主の言葉を再生するエンジュはちょっと幸せそうで。
 そして、思い出した事で命令を果たさねば!、という意志を強くしたようで。
 ゆるっとし掛けた空気が即座に緊張を含んだモノに変わる。
「何だか段々と大事になってってるっぽいけど……止めた方がいいのかな?」
「ま、まあ、みなさん楽しそうですから、いいんじゃないでしょうか」
 少し離れた場所で唖然としていたユアに、涼はどこか見当外れの応えを返し。
「じゃ、こっちはこっちで楽しもうか」
 持ってきたお弁当やお菓子を広げるのであった。
「……何やら騒がしいな」
「あっ」
 むくり、身体を起こした剛太郎に名残惜しそうなコーディリア。
「まぁ誰かが何とかするだろう……どうした?」
「いっいえ、別に……」
 応えつつコーディリアはハンカチの端っこを口元に、ギリギリと歯噛みした。
 先ほどまでの『二人のラブラブ空間(願望含む)』が、あの機晶姫の起こす騒ぎで破られてしまったからだ。
 少なくとも、こんな人がたくさんいる場所で(注:さっきもいました)、剛太郎がラブい事をしてくれる確立は限りなく低い。
(「今日こそ、今日こそチュウかと思いましたのに〜っ!」)
 コーディリアの胸中の絶叫に、剛太郎は今日もまったく気付かないのであった。

 だがそこに代わりとばかりに突如響き渡る咆哮、あり。
ぐんもーっ!
 其は、山をつんざく巨大な咆哮。
「やたらいい匂いするやんけ!」
 木々を裂いて現れるは、体長18メートルの巨大熊。
 変熊 仮面(へんくま・かめん)のパートナーである巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)なのだが……山だしリアル野生生物に見える。
「ああっ、それは勇平くんの為に作った……ッ!?」
 突然上がる、悲鳴。
 狙われた、ウイシアのお弁当。
「食わせろ!ひとくち食わせろ!」
「折角ウイシアが用意してくれた料理、誰が渡すか!?」
 目を血走らせるイオマンテに一歩も引かず、勇平が睨みつけるが、荒ぶる巨熊は更に吼えた。
「お前らの都合なぞ知るか、ぼけぇーっ! 腹減っとんじゃー!」
「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」
 紅を割り天を突く巨大熊、その幻想的な悪夢に堪らず、子供達が悲鳴を上げる。
「あんな所に幼等部の生徒さん達が…!」
「あっ、おい!?」
 上がった悲鳴に顔色を変え、迷いなく駆け出す遠野 歌菜(とおの・かな)を、パートナーであり旦那様である月崎 羽純(つきざき・はすみ)は慌てて追った。
「折角、歌菜と紅葉狩りに来たのだが……実に無粋な事になったな」
 溜め息まじりに、もらしながら。
「とにかくココは一旦、下がりましょう!」
「みんな大丈夫、大丈夫ですからね」
 翔やベアトリーチェが必死に子供達を宥め、パニックを抑えようとする中。
「君達、危なぁぁぃっ!」
 何処からともなく、幼等部の生徒達の前に現れたるは、全裸に薔薇学マント……変熊仮面!
「この山には熊が出るぞ、熊が!この熊除けの鈴をだな……のわっ、何をする!」
「きゃあっ!?」「うわキモっ?!」「ヤダヤダぁ〜」「え〜ん」
 顔を覆ったり泣きだしたりしながら、子供達もペチペチと必死に応戦。
 さすがの変態……じゃなかった変熊仮面も、子供に手を上げるわけにはいかず。
「子供達から離れなさいっ!」
「変質者にはお仕置きだよ!」
 勿論直ぐに反応したアリアや美羽がすっごい形相で詰め寄り。
 更に。
「状況は分かりませんが、お手伝いします!」
「ありがと、助かる!」
 ジュジュに礼を言われた歌菜は、子供達を護るべくキッと変熊仮面を睨みつける。
「やれやれ……仕方ない」
 とはいうものの、歌菜を知る羽純に否やはなく。
「ただ、俺は子供の相手は経験があんまり無いから、上手くは振る舞えないから、そのつもりでな」
 言いつつ羽純はその背に子供達を庇う……怯えるその視界から変熊仮面を隠すべく。
「紅葉達が嘆いている『声』が聞こえたと思ったら……ッ!」
 珍しく怒りを露わにする蓮見 朱里(はすみ・しゅり)アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)は胎教に悪いとその肩を軽く叩いてやりながら、変熊仮面とイオマンテを見据えた。
「子供達も怯えている……他人に迷惑をかけてはいけないと教わらなかったのか」
 こちらも眼差しは冷たく鋭い。
 そんな朱里や美羽達の差すような視線を浴びながら、だが、変熊仮面はどこか不満そうに首を捻り。
 殺意や殺気をサラリと受け流しつつグルリと見回し。
「むぅ、いまいち俺様の注目が少ないな〜……って、貴様か! 皆の注目を集めているのは!」
 ビシィッ、変態仮面が指を突きつけたのは、エンジュであった。
「美しい俺様を見て眉ひとつ動かさぬとは……噂に違わぬ常識なしめ」
「…………」
 変熊仮面に、エンジュの表情に微かに怒りに似たものが滲む。
「子供はクニのタカラです……哀しい顔をさせるの……ダメです。……人に迷惑をかけては……ダメです」
「「「「「いやいやいやいや、それエンジュが言うな!」」」」」
 場の総ツッコミに、きょとんと小首を傾げるエンジュ。
「だから、俺様より目立つなと言って……ッ!」
「……ほぅ、よく避けたな」
 岩造の【龍吹氷牙】が華麗なマントの裾を切り裂き。
 続けざま【龍腱具】による蹴りが襲いかかる。
「とりあえず、変態は即・排除!」
「放置しておいたらゆっくり紅葉見物も出来ないしな」
 同じく美羽がショウが動き。
「エサが欲しいのかもしれないが、人を襲うなら止めさせて貰う」
「エンジュもそう思うだろ?」
「……はい」
 アインや雪原、近遠達がイオマンテに挑む。
「あの大きさにしては動きが俊敏なのが厄介ですね」
 アルティアの【咆哮】などで支援を受け、【氷術】を放つ近遠。
「そのような攻撃、喰らうか! わしが食いたいのは食いモンじゃあぁぁぁぁぁっ!」
 避ける巨熊、だがそこにイグナが【バーストダッシュ】で肉迫し打ち据える。
 弾かれた巨躯はあやまたず近遠が【氷術】を放った地点へと落ち。
「ぐんもーっ!」
 だが、まだだ。
 まだイオマンテは堕ちない。
「さぁ、ここにも紅葉があるぞ〜。」
 バッと肌蹴たマントの中、白い肌に浮かび上がるは無数の子供の手形。
「ヘイ、カマ〜ン。狩れるものなら狩ってみろ〜!」
 マントを広げ逃げ回る変熊仮面と岩造達との追いかけっこは、終局を迎えようとしていた。
「とりあえず、そろそろ大人しくしてろって」
 退路を塞がれた変熊仮面の眼前まで肉迫したショウが【ヒプノシス】を掛け。
「はははっ、俺様がそんな子供だましに……ぐぅ」
 パタン、と倒れる変熊仮面。
 ココに悪は潰えたのだった。
「……ちっ」
 さすがに放っておけなかったのか、ハクトやトマスを相手どっていたイオマンテが、その巨躯からは予想できないくらい素早い動作でもって倒れ伏す変熊仮面の元へと飛び。
「ちなみに、秋にはキノコ狩りってのもあってだな、男の……」
「死になさい」
「滅びて」
「サンダーブラスト」
 アリアや近遠、ユーリカ達女性陣から本気MAXの殺気を叩きつけられ、ふっ飛ばされお空の星になった、キラリン。
「……人が気持ちよく寝てれば」
 エンジュを中心にもめていた間も惰眠を貪っていたジルヴェールだったが、この騒ぎには流石に寝入り続ける事は不可能であり。
「あぁぁぁぁぁもう、うるせぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
 我慢の限界、な絶叫が、イオマンテの後を追うように、高い空に吸い込まれた。


 変熊仮面とイオマンテという脅威が去り、場に安堵というかどこか気の抜けた空気が漂う中。
 再び紅葉を刈ろうとエンジュが動く、その前に。
「頼む、話を聞いてくれ」
 政敏が、その身体を羽交い絞めにした。
 咄嗟に振りほどこうとするエンジュに、カチェアとリーンが身構え。
 だがその前に、政敏の一喝が空気を震わせた。
「頼む。話を聞いて、聞かせてくれ! じゃないと、本当に戦わなくちゃならなくなる!」
「ずっと気になっていたのですが、紅葉狩りの、狩り……というのは、動物等を捕獲・討伐する等の意味ではなく、草花を眺める事って意味なんですよ」
 チャンスは今しかない、と近遠が説得を開始した。
「……?」
「つまり、紅葉を楽しみましょう……って、事です。それを言った人は、一緒に来たかったのではないですか?」
「そうやな! 紅葉狩りの意味激しく間違っとるから! 君にお願いした子に一回確認し直してみろって!」
 陣の言葉にようやく気付いたらしいエンジュから、政敏は手を放し。
 だが、携帯はスッパリ斬られて使いモノにならなかったりして。
「でっでも、思い出して下さい、パートナーさんの言葉を。やはりアレは、一緒に行ってくれないかと言う事だと思うんです」
 やはり信じられない、エンジュが思う前にと必死に言葉を重ねる真奈。
「折角の秋の彩を散らしていってしまうのは、喜ぶ人の少ない……多くの人にとって残念な事だと思うのでございます」
「もしかして……この紅い葉を散らすのは……迷惑なのでしょうか?」
「今頃気付いたのか」
 アルティアに告げられ、本格的に気付いたらしいエンジュに思わず天を仰ぐイグナ。
 それでも、誰かを悲しませたとしても、真実それが主の命令ならばエンジュは頑なに実行するだろう、けれども。
 今、近遠や真奈達の言葉で、エンジュは揺らいでおり。
「この紅葉を楽しみに……。散らしてしまってからでは、寂しがらせてしまうかも知れませんよ?」
 そうして、近遠にダメ押しとばかりに言われ、エンジュはようやく獲物を収めるのであった。
「それが良いですわ。あたしは、意地を張らずに、その方の言っていた”紅葉狩り”の真意を確認して来てからの方が良いと思うのですわ」
 素直になって、確認して下さいと告げるユーリカ。
「うん、丁度いいトコよ」
 小さく頷いたエンジュにその時、携帯でどこかへ連絡をつけていた朱里が、にっこりと笑顔を寄こした。

 応えるように。
「あっ、そこ……足元、気を付けてね」
 朱里と連絡を取っていた理沙に先導されてきたのは、そう奈夏だった。
 エンジュを認め、その背後の丸裸になった木を見つめ、足を止め掛けた奈夏に。
「奈夏さん、うまく気持ちが伝わらない事もあると思いますが諦めないでくださいね。諦めて伝えようとするのを辞めてしまったら本当にすれ違ったままになってしまいます」
 姫乃は祈る様にそっと告げた。
 エンジュとの距離を寂しく感じているだろう、奈夏……それは昔の自分を少しだけ思い出させた。
 巫女として大切なされていた、けれど。
 でも今は。
「私は理沙さんや他のパートナーさんと一緒に居ると楽しいです♪ 奈夏さん、パートナーさんの事をどう思ってますか……?」
「大切だと、思う……ううん、大切なパートナーだよ」
「なら、それを伝えて上げて下さい。相手を好きで大切に思う事を想ってるだけじゃなくて、きちんとした言葉で伝える事が必要だと思いますよ」
 奈夏は今度こそ確り頷くと、パートナーへとゆっくりと歩み寄った。