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第三章 甘い香りに包まれて
「まぁ、兎に角コレでもうミニスカサンタせずに済むのですよね?」
 クリスマスプレゼント作りの会場である孤児院に辿りついた月詠 司(つくよみ・つかさ)は、ホッと安堵の息を吐いた。
 当初は臨時サンタをする予定だった司の現在の格好は、可愛いサンタさんである。
 ミニスカサンタは正しく女装……このまま去年と同じ轍を踏むのかと半ば諦めていた司にとって、
「奈夏を放っておいたらダメよね」
 というシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)の言葉は救いの声であった。
 ただその救いの主が、実はそもそもの元凶だというのを司はウッカリと忘れていたのだが。
「えぇ、もう女装は良いわ、じゃぁ早速このエプロンを着てね♪」
 ニッコリ、笑顔で差し出されたのはそう、エプロンだった……正しくは、エプロンドレスである。
「……いや……シオンくん、確かに料理にエプロンは欠かせませんが……コレ普通にメイド服……」
 悟り、試みた一応の抵抗は、シオンの鉄壁の笑顔の前に脆くも崩れ去った。
「……ハァ〜」
 やっぱり女装なんだ、諦めの局地の司を、そして自らを慰めるようにイブ・アムネシア(いぶ・あむねしあ)がポンと優しく肩を叩いてくれた。
「……うんうん、二人とも似合ってるわよ★」
「に、似合ってないですよっ! 司さんからもシオンさんに何か言って下さいですぅ〜!」
「いや、ホントに似合ってる」
 実際三人で着てみると、イブの似合いっぷりは半端なかったりして。
「ところでツカサ、魔法少女だったらお菓子くらい作れるわよね?、って事で、任せたわよ♪」
「……いや、言い出したのはシオンくんなのですから、ちゃんと手伝って下さいよ。教えますからっ!」
 そんな和やかな雰囲気の中、唐突に言われた司はムダかなぁと思いつつ、とりあえず言ってみた……すると!
「そこまで言うんなら仕方ないわね〜、良いわ手伝ってあげる♪」
 クリスマスの奇跡なのかシオンがアッサリと了承してくれたのです、ハレルヤ!
「……って。ぇ?、シオンくんが真面目に手伝う?……一体何を企んで」
 内心、司が警戒してしまったのは、シオン本人にはナイショだけども。

「じゃあ、各チームで作って貰うリストはこっちね」
 集まった者達の準備が大体出来たのを見て取り、総括・未沙が声を上げた。
「プレゼントの必要数と種類が書いてあります。どれを担当するか、分かる様にチェックして取り掛かって。タイムリミットはフレデリカさん達が取りに来るまで。準備が出来た所から、始めて下さい」
 慌ただしくそれぞれがお菓子作りに取り掛かる中。
「あの、私にも教えて下さい!」
「司さん、ボクにもです! 奈夏さんやプレゼントを待ってる子供達の為にも頑張ってお菓子作るですっ!」
「分かりました、皆で頑張りましょう!」
 奈夏とイブの真剣さを受け、拳を握り固めた司(メイドさん姿です)は、だがしかし、早々に試練にぶち当たる事になるのであった。
「「……あっ!?」」
 ほぼ同時に何もない床で蹴つまずき、ボウルの中の粉をぶちまけるイブと奈夏。

 ドっかぁぁぁぁぁぁぁン

「いっいや! 何で爆発するんですか?!」
 更に何故か爆発するオーブンに、さすがの司も青ざめた。
 イブがドジっ娘属性なのは分かっていたが、それにもう一人加わるとその破壊力は数倍にも膨れ上がるのだ、と思い知った司である。
 ちなみに視界の端でシオンが舌打ちしていた気がするのは……スルーしておいた。
「とりあえず、落ち着いて。言いですか、ゆっくり一つずつ、やりましょう」
「「はいっ!」」
 深呼吸を一つ、言い聞かせる司に返ってくる返事は、どこまでも真剣だったけれども。
「奈夏さん、よろしければこちらで一緒にクッキーを作りませんか?」
 このままドジっ娘×トジっ娘を一緒にしておいていいものか、司の逡巡を察したエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が、奈夏にそっとガーベラのプチ花束を差し出し誘った。
「はっはい、よろしくお願い、します」
 花束なんて貰うの初めて、と呟いた奈夏はイブと「お互い頑張ろう」と励まし合い、一つ隣の作業台へと移った。
「そういえばあのドロボーさん達ですけど、きっとあの子達はただプレゼントが欲しかっただけだと思うんです、寂しかったんですよ」
 見送り、今度はと慎重に進めながらふと、イブが呟いた。
「だからあの子達の分のプレゼントも用意してあげれば、きっと、二度とこんなイタズラしなくなると思うですよ♪」
「イブってばホント優しいわねぇ〜♪」
 撫でられたイブは「ぇへへへ♪」とご機嫌だったが、眉根を寄せている司に気付くと小首を傾げた。
「……司さん、どうしたですか?」
「イタズラ好きがその程度で止める訳がない!」
「う〜ん? でも、優しく接してあげればきっと大丈夫ですよぅ〜♪」
 根拠はどこにも無いけれど、イブはそう信じていた。

「基本中の基本、絞り出しクッキーとアイスボックスクッキーを作ろう。どちらもココア味とプレーン味でいいよね」
 エースに問われ、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は頷いた。
「エースもずいぶんお菓子作りが上手くなりましたし、バッチリでしょう」
 慣れた道具の方が使いやすいだろう、と持ちこんだ道具をエオリアは並べながら説明していく。
「絞り出しで形を作るのは初め難しいかもしれませんが、慣れると色々な形が作れて楽しいですよ。とはいえ先ずは、材料を計るところからですね」
「あ……と。お菓子は好きなんだけれど、作った事無いのよ」
 奈夏と同じようにエオリアの丁寧な説明を聞いていたリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が、少し照れたように言った。
「奈夏ちゃんもクッキー作り初めて? 私も初めてよ、よろしくね」
 とはいえ、実際の作業を始めてみればリリアの手際は中々だった。
 エオリアに言われた通りに材料を計り、混ぜ合わせる。
「ここは思いきってやっちゃって大丈夫みたい」
 生地が出来たら、それを絞り袋に入れて。
「絞り袋はちょっと緊張するわね……。ハートと、小さめのお星様と、くるくるっと丸く描いた感じでクッキーの形を作るわね」
「クリスマスらしくメレンゲクッキーも作ろう。そう、お星さまの形にして」
「うわっ何か手が震える」
「もう少し肩の力を抜いた方が良いかな?」
 エースやエオリアの指導を受け、奈夏もエオリアも集中する。
「メレンゲクッキーは独特のカリカリ感がいいわよね。私、結構好き」
「でも、上手な形に出来なかったぁ」
「これはこれで風情があって良いと思うな。一生懸命な感じが伝わって」
 エースが言うと、奈夏とリリアは顔を見合わせ、照れたように嬉しそうに笑って。
 そんな教え子達に、エースとエオリアもまた微笑みを浮かべたのだった。

「お菓子いっぱい作るアルヨー。爆発しないお菓子作るアルヨー」
「あぁうん、そこは重要やね」
 由乃 カノコ(ゆの・かのこ)は楽しそうなナカノ ヒト(なかの・ひと)にダメ元で釘を刺してみた。
 ナカノさんは【調理】な特技持ちではあるが、同時に【謎料理】スキル所持者でもあり……うん、正直ドキドキだね☆
「何か元気ないね、置いて来た事、気になる?」
「ちゃう……事もない、なぁ」
 お菓子作りの邪魔にならないように、と髪を両サイドの三つ編みにしているロクロ・キシュ(ろくろ・きしゅ)に、カノコは少しだけ苦く笑んだ。
 そもそも、皆で来ようと思っていたのだ。
「いざバカノコファミリー全員出動!  バカノコっていうな!」
「……いってらっしゃい」
「えっエフさん来やへんの? えっ寒いからやだ? えっ……」
 テンション上げ↑上げ↑、のカノコにしかし、由緒正しいひきこもりの『仮想現実』 エフ(かそうげんじつ・えふ)は布団の中から出てくる事はなかったわけで。
「まぁ仕方ないよ、寒いし」
「お土産に美味しいお菓子持って帰るアルヨー」
「……せやな。よし、気合いれて作るで!」
 気合を入れ直すカノコの背で、やはり邪魔にならないようにした一本の三つ編みが、跳ねた。
「その意気アルヨー」
「ボクも頑張る! 頑張って作るからね」
「……いや、気合はほどほどでええからね」
 それでも、頬に笑みを浮かべ【幸せの歌】を口ずさみながら、カノコはクッキーを作り始めたのだった。