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第1幕 動く石像とバーサーカー
【アトラスの傷跡】の近くにある砂漠の洞窟前で全員と落ち合うことが出来たアラン・バンチェスター(あらん・ばんちぇすたー)。
「ここがチラシに書かれていた会社のある場所なのだな?」
洞窟の中を覗き込みながらアランはセバスチャン・コーラル(せばすちゃん・こーらる)に聞く。
「はい。チラシによりますとこの中にあるようです」
セバスチャンがそう答えるとみんなも洞窟を見る。
洞窟の入り口にはいくつものこわもてな石像が並んでいた。
「そのチラシ、見せてもらっても?」
水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)はセバスチャンからチラシを受け取るとマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)と一緒に読む。
(どう考えても詐欺でしょう……)
(うん……)
ゆかりとマリエッタは目だけで会話した。
そして、ゆかりはアランの方を見てみる。
あまりにも目を輝かせているアランに、ゆかりはため息を1つついた。
(仕方ありませんね。きっと言っても聞かないでしょうし……いざとなったら助けます!)
ゆかりは腹を決めたようだ。
(あまりにアレでむしろ気になるよね)
マリエッタは違う理由でこのままついていくことを決めたらしい。
「やあ、アラン。久し振りだね」
「う?」
声に反応して、後ろに向いた瞬間、アランはほっぺをつつかれていた。
後ろにいたのは黒崎 天音(くろさき・あまね)だ。
「また、そなたか! 余のぷにぷにほっぺに勝手に触るでない!」
アランは天音の背後に回ると、ひしっと背中に抱き着いた。
「どうだ! これでぷにぷに出来まい!」
「あ! アランくん! やっと会えましたね」
そこに近寄ってきたのはマユ・ティルエス(まゆ・てぃるえす)だ。
「おお、そなたか」
マユの方へ行こうとするアランを天音が呼び止める。
「そういえば……」
天音はすっと手を後頭部へやり、髪の毛をかきわける。
その動作に思わず、アランとマユが天音の後頭部を見た。
「僕には後ろにも目があるって言ってなかったっけ?」
髪の毛の間からいくつもの目がぎょろりと――
「きゃーーーーー!!」
アランとマユは思わず叫んでいた。
「きゃーーー☆」
なぜかヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)も声をあげていたが、明らかに楽しんでいる。
「こら天音、小さい子ども相手に何をしている」
恐怖におびえる2人の背中をやさしくなでながらブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が天音を叱る。
「反応が可愛くてつい。ごめんね、玩具だよ」
天音は悪びれる様子もなく、謝ると頭部から【大帝の目】と目玉のおもちゃを外す。
その様子を早川 呼雪(はやかわ・こゆき)はやれやれといった感じで見ていた。
「よ、余は気付いておったぞ! おもちゃだとな!」
「ほんとですか? すごいです。ぼく全然気づきませんでした……」
アランの言葉をうのみにするマユだったが、周りの大人たちは温かい目でアランのことを見ていた。
なぜならまだ膝が笑っていたし、涙目だったからだ。
「では、みんな揃っているし中に入るとするのだ!」
アランがそう言うと、みんな中へと歩き出す。
先頭の少し後ろを歩いているアランの横にきたのは白雪 椿(しらゆき・つばき)だ。
「う? どうしたのだ?」
「バンチェスターさん……あまりコーラルさんを困らせてはダメですよ……? ……ね?」
白雪 椿はそう言いながらアランの頭を撫でる。
「余は……セバスチャンを困らせているのか?」
「魔法のランプ探し……大変だったのではないですか?」
「むぅ……そうかもしれん……」
白雪 椿の言葉にアランはちょっと考えるようなしぐさをする。
「むぅ……少しだけ……わがままを減らすかもしれん。お茶をむやみにねだらない……とかな!」
「ふふ、はい」
白雪 椿はアランの頭をいいこいいこと撫でてあげる。
「そこまでしてやることはないのでは?」
ちょっと不機嫌そうにネオスフィア・ガーネット(ねおすふぃあ・がーねっと)が言う。
「まだまだ子どもですから、気付かないことも多いと思います。それを教えてあげるのは大人の務めだと思いますよ……?」
「それはそうだが……椿は構い過ぎなのだよ」
「そうですか?」
「うむ……椿、警戒を!」
ネオスフィアの言葉を聞き周りを見ると、そこには先ほどまでただの石像だったものが目を赤く光らせ飛び回っていた。
ネオスフィアが白雪 椿の前に出ると、そのちょっと後ろをヴィクトリア・ウルフ(う゛ぃくとりあ・うるふ)が固める。
気が付くと、周りはもう戦闘に入っているのだった。
「きゃー!」
さっそく目をつけられた御神楽 舞花(みかぐら・まいか)がガーゴイルに体を持ち上げられ、上空へ。
「下ろしてくださいー!」
舞花は必至にスカートを抑えている。
そこへ飛んできた矢がガーゴイルのしっぽに命中し、しっぽが崩れると舞花は地面へと急降下する。
仕事で一緒に来られない御神楽 陽太(みかぐら・ようた)が心配して護衛としてつけていた【アマゾネス】の放った矢だったようだ。
しかし、舞花は持ってきていた【パラソルチョコ】を取り出し、広げ、スピードを落としながら、ゆっくりと地面に着地。
着地すると、舞花はさらに護衛の【特戦隊】【賢狼】のサポートも受けつつ、今度は攻撃に転ずるのだった。
「やりますよー! 陽太様たちにお土産話いっぱいしてさしあげる約束してますから!」
「きゃー! な、なんかきたのだー!」
アランを守ろうと、白雪 椿が前に出て、その前をヴィクトリアが守る。
さらにその前をネオスフィアが守るという形だ。
「ガテン系少女コンクリートモモ参上〜!」
【コンクリートブレーカ】通称・掘削機でガーゴイルを粉砕したのはコンクリート モモ(こんくりーと・もも)だ。
「うふふふ……言ってくれれば魔法のランプなんてあげたのに」
「なんと!? そなた持っているのか!?」
「ほら、これなんかなんと手元を照らしながら両手が自由に使える魔法のような――」
「それは工事用ヘッドランプだろう!」
「あ、違った? じゃあ、これ! 道路工事用ポールランプ! 夜間でも魔法みたいに車がよけて――」
「自分で道路工事用ポールランプって言ってしまっているではないか!」
「あ、そうね。ランプ違いだったわね。とりあえず、ガンガン進むわよ!」
そう言うとモモは掘削機をうならせ、アランめがけてやってくるガーゴイルたちを粉砕していく。
「……すごいけど……ちょっと怖いのだ……」
アランは白雪 椿の後ろにぎゅっとへばりついたのだった。
「でも、頼もしいでしょう?」
モモを見ながら、ハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)がアランに話しかける。
「う、うむ……そうだな」
アランは白雪 椿の後ろからこっそりと顔を出し、モモの雄姿を見つめるのだった。
「って、ギルティも狙われてるじゃねーか! 気をつけろよ」
ギルティを狙って急降下してきたガーゴイルは、ギルティを尻尾で捕まえ飛ぼうとする。
それを狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)が【奈落の鉄鎖】で動きを止める。
そのまま、まだ低い位置にいるガーゴイルの羽を狙って【魔銃マハータパス】で撃ちぬく。
すると、羽を打ち抜かれたガーゴイルはバランスを崩し、地面へ。
ギルティは、自分で尻尾から抜けだし、地面に無事着地していた。
「やるじゃない」
「まあな」
ギルティにほめられ、乱世は嬉しそうに笑った。
「どうやら、このガーゴイルたちは小さい子と商人、判事ばかりを狙っているみたいだな。……何かあるのか?」
乱世は少し頭を傾げた。
「アランくんって、ほっとけないのよね〜。何があってもお姉さんが守ってあげるから任せてね!」
秋月 茜(あきづき・あかね)が胸を張って言う。
「なんと! 頼もしいな!!」
「えっへん♪ ということで……しっかり守ってね〜」
茜はエーベルハルト・ノイマン(えーべるはると・のいまん)にかわいらしくウィンクをした。
「出来るだけ……頑張るよ」
ガーゴイルたちが飛びながら尻尾を使ってアランやマユを狙ってくる。
その攻撃をエーベルハルトが【ナイトシールド】で防ぐ。
尻尾を跳ね返されたガーゴイルたちは悔しそうにエーベルハルトを睨み付ける。
「さすがエーベルハルト♪ やる〜♪」
茜はそんなエーベルハルトを応援する。
「そなたは何もしないのか?」
「私? 私はね、エーベルハルトが危なくなったら助ける予定だから! ちゃんとその用意もしてあるしね♪」
アランの質問に答えた茜は【サイコキネシス】や【ダークビジョン】を披露する。
「おおー!! すごいのだ!」
「ね♪ だから、安心して守られてなさい。ちみっこ諸君!」
「うむ!」
「はい、ありがとうございます」
アランとマユはほとんど同時にうなずいたのだった。
「なんかいっぱいきたー!」
皆川 陽(みなかわ・よう)はとっさにエーベルハルトの背後に隠れる。
「そもそもボク、子どもじゃな――またー!?」
陽めがけてくるガーゴイルもエーベルハルトがなんとか退治していく。
「ちょ! なんでこっちにこないのさ!」
そんな様子に不服のテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)が陽のもとに行こうとするガーゴイルを倒しながら声を上げた。
「そりゃ……テディだから」
陽とユウ・アルタヴィスタ(ゆう・あるたう゛ぃすた)が同時に言うと、テディはがくりと肩を落とした。
「つか、守るならオレも守らんかい!」
中身おっさんのユウもなぜかガーゴイルの標的にされている。
「さっき誰かが小さい子が狙われるって言ってたのに!?」
びっくりしたテディが思わずそう叫んでいた。
「オレ様ちゃん、超若者よ? 誰がなんと言おうと若者よ? 狙われて当然だから!」
「……いやぁ……ありえないでしょ」
ユウはそのあたりに落ちていたガーゴイルのかけらを拾うと、戦闘していたテディの後頭部めがけて投げつけた。
「うがっ! な、なになになに!?」
「ふん! 馬鹿には制裁って言葉を知らんのかいな」
「そんな言葉知らないよ!」
テディはそう言い返しながらも戦っていたのだった。
「いやぁ、しっかし紅月とレオンにこんな可愛い子ができるなんてなぁ」
泉 椿(いずみ・つばき)は歌戀・ラーセレナ(かれん・らーせれな)の頭を軽くぽふぽふする。
「えへへ♪」
可愛いと言われたことがよっぽど嬉しかったのか、歌戀はとびきりの笑顔を向ける。
「よかったな」
城 紅月(じょう・こうげつ)がそう言うと、歌戀は紅月に近寄って後ろ手を組みながら体をちょっと傾け嬉しそうにする。
「うん」
「3人とも危ないよっ!」
上空から声がしたと思ったら、シューティングスターとともにガーゴイルが落ちてきた。
上を見上げると空飛ぶ魔法で飛んでいるネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)がいた。
「ありがとう、ネージュ」
紅月がネージュにお礼を言うと、歌戀もぺこりと頭をさげる。
「どういたしまして♪」
それにネージュは笑顔で答えた。
「戦闘はボクたちに任せて!」
さらに襲ってきたガーゴイル1体をシンク・カルムキャッセ(しんく・かるむきゃっせ)が『名伏し難い光線銃のようなもの』(フューチャー・アーティファクト)で撃ち落とす。
「魔法のランプ、手に入れたいんでしょ?」
シンクは次の狙いを定めながら歌戀に向けて話しかける。
「うん! ありがとう!」
「まあ、でもその前に少し戦闘に慣れておこうな」
紅月の言葉にどぎまぎする歌戀。
「で、でも……大丈夫かな? 僕でもできる?」
「もちろん。俺もついてるから」
「うん……じゃあ……頑張ってみるっ!」
歌戀はそう決意するとこちらに向かってきたガーゴイルをにらみつけるが……どうみてもにらみつけるというよりは見つめているみたいに見える。
視線を感じたからなのか、見つめられたガーゴイルはまっすぐに歌戀の方へとやってきた。
「き、きたー! ど、どうしよう!? えっと……えっと……!」
こっちに向かってきたは良いが、どうして良いのかわからずパニックになる歌戀。
もうあと少しでガーゴイルのしっぽの範囲に入るというところで、とうとうパニックが頂点に達した歌戀がハイキックをガーゴイルに食らわせる。
ひらりとした短いスカートからのびる人形のようなかわいらしい足とニーソ。
スカートが舞い見えそうで見えないぎりぎりのライン。
攻撃は見事に入った、しかし――
「いったぁーい!」
ダメージを受けたのは歌戀の方だった。
「あぶない!」
しっぽの攻撃をされそうになった歌戀に紅月が【熱狂】と【震える魂】を、そしてディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)が【ディアーヌのドキドキ花粉】を使う。
【熱狂】により花粉の耐性が多少はついたのか、仲間たちは被害に遭わずにすんだのだが、歌戀だけはぽ〜っとなってしまっている。
心配する紅月だが、とりあえず目の前のガーゴイルを【アンボーン・テクニック】で一撃で沈める。
粉々になったガーゴイルを見て、歌戀が涙目になりながら紅月の腰にへばりついた。
涙目の理由はそれだけではなさそうだが。
「ママ、ありがとう。それと……ディアーヌさん……その……ありがとう」
顔を真っ赤にしながらディアーヌに歌戀がお礼を言う。
「ボクの出来ることは少ないけれど、それでもボクは歌戀ちゃんのお手伝いをしたいって思うんだ」
ディアーヌのその言葉にさらにドキドキしてしまっている歌戀はとうとう紅月の後ろに半分顔を隠してしまった。
「おまえら仲が良いな♪」
泉 椿はさらに襲ってきていたガーゴイルに【鳳凰の拳】を叩きこみながら言う。
「なあ、父ちゃ……パパは優しいか?」
泉 椿は歌戀と紅月をやさしく見つめる。
「うん、ママもパパも優しくて大好き」
「そっか」
それを聞いた泉 椿はさらに嬉しそうな顔をする。
「よっし、頑張るかな!」
泉 椿は腕をぐるぐる回しながら気合を入れたのだった。
「なんで私ばっかり狙われるのよ〜!」
芦原 郁乃(あはら・いくの)はガーゴイルのかみつき攻撃をかわしながらそう叫ぶ。
「郁乃様!」
「へっ?」
背後からの尻尾の攻撃を秋月 桃花(あきづき・とうか)が【レッドラインシールド】ではじく。
「ありがとう、桃花♪」
「いえ、郁乃様がご無事でなによりです」
「それにしても……」
郁乃は自分に襲い掛かってくるガーゴイルの攻撃をかわしたり、受け流したりしながら、不思議に思っていることを口にする。
「なんで桃花もいるのに私ばっかり狙ってくるの!? 私、何かしたっけ!?」
「たしかに、桃花は狙われませんね……」
2人で顔を見合わせ、首をかしげる。
そこへほかの人と話している乱世の言葉が聞こえてきた。
「どうやら、このガーゴイルたちは小さい子と商人、判事ばかりを狙っているみたいだな」
「私小さくないよ!?」
「そうですよねぇ……?」
乱世の言葉にも首をかしげる2人。
だが、確かに狙われているのは子どもたちばかりだ。
そこへ乱世の言葉がまた聞こえてきた。
「もしかして……15歳以下の子が狙われてるのか……?」
わなわなと震えだす郁乃。
「郁乃……様……?」
「18歳ですけど何か……? ふ……ふふふふふ……」
郁乃は禍々しいオーラをまとい、怒りに全身を震わせている。
それでも、ガーゴイルたちの攻撃はやまない。
「私は……18歳だぁぁぁぁぁ!!!」
郁乃は怒りに任せ襲い来るガーゴイルのあごにアッパーを食らわせる。
そして、その突き上げる動きに合わせ自分も飛び上がると、そのまま【ダブル・スレッジ・ハンマー】をお見舞いし、ガーゴイルを地面に叩きつけた。
その怒りに任せた動きはまさにバーサーカーの如し。
郁乃を見ている桃花にアランが近づいた。
「そろそろ行くぞ?」
ほとんどのガーゴイルを郁乃が相手にしてくれているため、道を進むことが出来るようになっていた。
桃花はアランと目線を合わせるためにしゃがむ。
「桃花は郁乃様をこのままにしていくわけにはいきません。どうぞ皆様先に進んでください」
みんなは郁乃を見て、このままガーゴイルを任せて大丈夫そうだと判断したのか洞窟の奥へと進んでいく。
(まだまだ終わりそうもありませんねぇ)
そうため息をつくと、桃花はクールダウン用のお茶の準備を始めたのだった。
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