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魔列車を襲う鉄道強盗

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魔列車を襲う鉄道強盗

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第一章 乗客たちの抵抗


「へへ、乗客どもを捕まえて身ぐるみはがしてやるぜ」
「思わぬ副収入だな」
 強盗たちの一部が、下卑た笑いを浮かばせながら客車へと近づこうとした。
 するとそこに、休暇中の黒乃 音子(くろの・ねこ)が立っていた。
「さあ、そこのお嬢ちゃん。大人しくつかまってもらうぜ」
 男たちが音子に歩み寄ると、突然彼女は動き出した。
「ぐえぇっ!」
「にゃんこ大尉、見参!!? もとい、にゃんこヒーローっ、見参!!!」
音子のゲンコツが、強盗たちの頭に降りかかった。
「なな、なにしやがんだ。こいつ!」
「どうやらやる気らしいぜ、遠慮はいらねえ。撃っちまえ!」
 強盗たちは銃を乱射した。音子がそれを避けようと動くたび、ひらりひらりとワンピースの裾が舞った。
「くそ、うまく集中できねえ! 変なもんチラチラ見せやがって!」
 その場の強盗は足止めされた。しかし、別の場所から違う強盗たちが客車へ近づいていく。
「なあに、さっさと人質さえ取ればこっちのもんよ!」
 彼らは客車の扉から、内部へと侵入した。先頭の強盗が言った。
「へっ、入っちまえば、こっちのもんだ……ってうおお!」
 強盗の体は、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)によって持ち上げられていた。そして、そのまま強盗は外へと投げられた。
「む〜、せっかく楽しんでたのに、なんてことするんですか! 許しませんよ!」
「まったく、のんびりしていたのに台無しじゃな。」
と、ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)がそれぞれ言った。
「おい、てめえらひるむな! 相手は武器もねえんだ! 攻撃しろ!」
「たしかに武器が無いな。これじゃ戦えないぜ」
 甚五郎は何か使えるものはないかと周りを見回した。するとあるものを見つけた。
「撃て撃てーっ! っておい、今度はなんだ!?」
 強盗たちのもとへ、今まで乗客たちの座っていた座席が飛んできた。甚五郎が、客車からはがして投げたのだった。そして、羽純の稲妻も同時に飛んできた。
「わらわたちを邪魔した報い、受けてもらうぞ」
「くそっ!なんとかならねえのか」
強盗たちは必死に攻撃を続けたが、ホリイのガードラインにより防がれてしまった。
「ココは進入禁止です!」
強盗はまたも足止めを食らってしまった。

「扉が駄目ってんなら、窓だ! 窓から入れ!」
 強盗は銃で窓を割った。驚いた乗客たちの悲鳴が響く。
「さあ、行け行け!」
 強盗たちは窓から客車へと侵入した。
「ここまで来たらこっちのもんだぜ! おい、全員手を背中に回して床に伏せろ!」
 乗客たちは銃を向けられ、指示通りに床に伏せた。
「よし、お前らそれでいい。 素直が一番だ」
 車内は強盗たちに制圧されたかに思われた。するとその時、突然大きな音がした。
 神崎 荒神(かんざき・こうじん)が音を立てたのだ。
「おい! そこのお前なにしてやがる!」
 一瞬、車内の強盗たちの注目が全て荒神に向けられた。その瞬間、後方にいた蒼魔 綾(そうま・あや)
が動いた。強盗は誰も綾を見ていなかった。その間に、彼女は武器を構えた。落ちていた木の枝で作った即製のパチンコだった。
「ぐおえっ!」
綾は持っていた硬貨をパチンコで打ち出し、強盗たちに命中させた。手に硬貨が当たり銃を落とす強盗もいた。ひるむ強盗たちに、綾は硬貨を乱射した。そのうえ、落とした銃をサイコキネシスで操り他の強盗へぶつけた。それは、少し過剰なくらいの攻撃だった。攻撃は見境なく、他の乗客たちにも当たりそうになった。客車は綾の攻撃によって混乱に包まれた。
「おいおい、さすがにやりすぎだぜ。綾」
荒神は綾を止めようと話しかけた。しかし、綾はとても不機嫌で聞く耳を持たなかった。綾は小声でなにかを言っていた。
「このっこのっ……!せっかくのデートをっ!」
 荒神はそれを聞き、綾が不機嫌な理由を悟った。そして、荒神は綾の耳元に口を寄せ、小声でなにかを囁いた。周りの乗客たちには、荒神が何を言ったのかは分からなかった。
「っ……!」
 荒神のささやきを聞いた綾は、パチンコを乱射するのをやめた。冷静さを取り戻したのだ。しかし、綾の顔はとても真っ赤になっていた。

 客車内は一時落ち着いたが、まだ攻撃が終わったわけでは無い。また窓から強盗が侵入してきた。
「私も戦わなければいけませんね……」
リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は座席に隠れながら一人つぶやいた。リースは初めてパラミタの列車に乗るラグエル・クローリク(らぐえる・くろーりく)とこの鉄道に同乗していた。
「お客さんを守らなけなければ。それにラグエルちゃんもいますし……って、あれ!?ラグエルちゃん!?」
 隣にいたはずのラグエルが、いつの間にかいなくなっていた。リースは車内を見回した。
「ラ、ラグエルちゃん!」
 ラグエルは、車内を平然と歩き回っていた。幸い、強盗たちはラグエルに気付いていなかった。
「は、速く助けないと……強盗たちがラグエルちゃんに気付かないうちに!」
 リースはひっそりと動こうとした。すると、リースにとって予想外のことが起こった。
「おじちゃんおじちゃん」
「ん?なんだこいつは?」
 なんと、ラグエルは自分から強盗たちに話しかけてしまった。強盗の服の裾を引っ張っている。ラグエルは、強盗に言った。
「おじちゃん、ラグエルにもそのてっぽう貸して」
「なに!?」
「おじちゃんたち、悪者さんゴッコしてるんでしょ。ラグエルも、『それで手をあげろー!』って悪者さんゴッコするの」
 強盗は予想外の出来事に困惑してしまった。
「い、いや、これはごっこ遊びじゃなくてなあ」
「今です!」
 リースは座席から飛出し、持っていた旅行鞄の中身を強盗にぶちまけた。洋服やタオルなど、さまざまなものが強盗の視界を遮った。そしてリースは銃を狙い、凍てつく炎を放った。銃は凍った。
「な、なんだ!?」
 強盗が混乱している間に、リースはラグエルを抱えて座席へ戻り隠れた。
「あー! リース! 悪者さんゴッコの邪魔するの?」
「ラグエルちゃん、悪者さんゴッコはまた今度にしましょう、ね?」


「まったく、客車にいった連中はなにしてやがんだ」
 金庫のある貨物車の前で、強盗のリーダーが言った。彼らは、まだ金庫には近づいていなかった。客車の制圧がすぐ終わるものと思い、それが終わってから金庫を爆破しようと考えていたのだ。
「どうやらてこずってるようです。乗客に良いようにやられてるようで」
「ふん、情けない奴らだ。まあいい。なら金庫を爆破しろ。俺たちの目的はそいつだ」
「へい!」
 強盗たちは、貨物車に近づいた。すると、カル・カルカー(かる・かるかー)夏侯 惇(かこう・とん)
が現れた。
「怪我したくなくば寄るな! 我が名は夏侯惇元譲! 無為な殺生は、我の記録更新にはなるが、そんなものを増やしてもつまらん! どうせ逃げ道は確保できぬ、降伏せい!」
と、夏候惇が大声をあげた。しかし、強盗たちはそれをまったく気にせずつっこんできた。
「ふん、お前丸腰じゃねえか! さすがに素手の連中に負けるほど俺たちは甘くねえぜ」
「武器ならいくらでもある!」
 そういって、夏候惇は列車の手すりを車体から無理やりとった。夏候惇はそれを槍の様に構え突進し、強盗の一人を倒した。しかし、強盗たちの進撃は止まらなかった。
「構うな構うな! 金庫をさっさと爆破しちまえ!」
彼らは夏候惇をバイクや馬で交わし、貨物車へとたどり着いた。
「へへ、残念だったな!」
 強盗は貨物車の扉に手を掛けた。すると、その瞬間強盗の体が弾き飛ばされた。
「お前らこそ残念だったな! 扉に雷術を掛けておいたのさ! 子犬には子犬なりのやりかたがある!」
と、カルは言った。強盗は列車に触れられなくなった。うかつに振れれば感電してしまう。強盗は、はぎしりをした。
「くっ、ならお前らを先に始末してやる! 金庫はその後だ」
強盗たちがカルに向かっていった。まともに戦えばカルに勝ち目はなかった。
「やばいな……」
 するとそのとき、売り子姿の布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)が客車から飛び出てきた。佳奈子たちは、戦闘中にもかかわらず車内販売の台車を押しながら出てきた。
「こちらは車内販売だよ。お茶、アイス、お弁当、いろいろ取り揃えているよー!」
「なんだ、おめえはあ!」
 強盗たちは動きを止めた。佳奈子は強盗とカルの間に入った。そして強盗にはなしかけた。
「強盗さん、商品を見る?」
「おねえちゃん、俺たちゃ遊んでるんじゃねえんだぜ」
「じゃあ、とびっきりの魔法、見てみる?」
 そういうと、佳奈子の推していた台車からまばゆい光が放たれた。佳奈子の光術だった。
「く、くそおっ! なんだっ!?」
 強盗たちの目はくらんだ。その隙にエレノアが強盗達を攻撃した。エレノアももちろん武器は無かったが、バーストダッシュで高速で動き回り、強盗たちを何度も攻撃した。それは目の見えない強盗には、大人数で攻撃されているような感覚を与えた。
「武器がなくても、誤魔化すぐらいはできるわ」
と、エレノアは言った。
「ちっ!いったん引け!」
 強盗はなんとかバイクや馬を操り、貨物車から離れた。佳奈子はカルに話しかけた。
「強盗、戻ってくるだろうね、守り切れるかな?えっと、カルさん?」
「うーん。どうだろう。応援が来るまでなんとかかく乱するしかないね。」
「そうだね、金庫がやられたら、次は乗客を狙ってくるだろうし、それは避けないと!」
 4人は貨物車の防御を固めた。