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序の夜:蝋人形工房


 「あんたのつくる蝋人形がすごいって評判らしいんだが……これは噂も広まるってもんだ」
 ローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)は貴婦人の蝋人形の顔を覗き込んでいた。
 「これも美術館に展示するものか?」
 「いえ、それはシャンバラ人のさる貴族の方に依頼されて作ったものでして。その方のお屋敷に納入する商品になります」
 「美術館に展示する以外の蝋人形も作ってるってわけか」
 「ええ。ほとんどが貴族ですね。ご自身の蝋人形を希望される方、ご家族一同で記念にという方もいらっしゃいますし、亡くなったご先祖様をということも。
まぁ中には離縁されたお相手を内緒でなんていうご注文もありますがね。貴族の方々は『お金ならいくらでも出す』と仰ることも多い。
その恩恵でわたしの道楽、この美術館もできたってわけですよ」
 夜の工房には照明が明々と照らされているにもかかわらず、外の闇が入り込んでいるかのような風情がある。
おそらくは人そっくりなのに全く動かない蝋人形の存在と……美術館の主で蝋人形作者のロベルトの存在がそうさせているのだろう。

 「おーい、フルーネ。大事な『作品』には触るなよ。ロベルトさんに失礼だぞ」

 工房内をくるくる廻るように蝋人形や道具を見てたフルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)が足を止める。
 「ほんとに生きてるみたいだもん。動くんじゃないかって」
 「あははは。触って頂いても大丈夫ですよ。むしろ手で触れて頂いた方が」
 「え、これ、これって……」
 ロベルトがローグにも蝋人形に触れるように促しながら言う。
 「とても蝋とは思えない感触でしょう? これにたどり着くにも苦労したんですよ」
 生身の暖かさはないものの、その皮膚には弾力がある。
 「これは益々、どうやって作るのか見てみたくなるってもんだ」
 「ご覧になられますか? そちらのお嬢さんをモデルにして作れますよ?」
 ロベルトの軽い返答に一瞬構えたローグだったが、「そうなったなら、証拠になるか」と心を決めた。

 「すぐに作れるものなのか?」
 「ええ、ほとんどの工程は今すぐにでも。モデルになっていただけますか、お嬢さん」
 好奇心いっぱいのフルーネが頷く。
 「少しの間、動けなくなりますが大丈夫ですよ。その間、呼吸が止まりますが息苦しさはありませんからね」
 ロベルトがフルーネを台座に立たせる。数秒もかからないうちにフルーネが動かなくなった。
台座から半円形の扉が二つ出てきてフルーネを覆い隠す。
そこにロベルトが液体を流し入れる。
ロベルトが扉を開くとフルーネが出てきた。
 「まるで魔法でしたぁ」
 無事に出てきたフルーネをローグが迎える。
 「ここからも『魔法』に見えるでしょうね」
 ロベルトは先ほどとった”型”に液体を流し入れた。そして型を外して出てきたのは……
 「どうやったら水着になるんだ?!」
 ローグの驚く顔を嬉しそうに見つめるロベルトが笑う。
 「やはり衣装は大事でしょう? TPOにあわせて着替えさせたいんですよ、作品にはね。
しかし裸像に作るのはわたしの性分にはあいませんでしてね。それにお客様に水着になって頂くのも手間でしょう? ”型”の液体にはこの仕組みもあるのですよ」
 「髪の毛、眉毛、まつげまで……まるでボクのコピーだよね」
 「特殊加工した『魔法の蝋』ですからね。モデルさんの毛髪状態も再現するんですよ、瞬時にね。どうです、記念にお写真でも」

 フルーネの蝋人形を真ん中にローグとフルーネを写真に収めたロベルトが笑顔でローグに写真を手渡す。
 「フルーネさんの蝋人形は美術館に展示させてもらいます。よろしいですよね」
 「ああ、もちろんかまわないよ。しかし、これだけ本物みたいなら流れる噂も仕方ないのかもな」
 「噂ですか」
 「『美術館にあるのは本物の人なんじゃないか』だってさ」
 ロベルトの目がほんの少し笑ったように見える。
 「本物と間違われるなら、作者としては光栄ですがね」


 ローグは雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)から受け取っていたメールを思い出していた。
 雅羅とアルセーネ・竹取(あるせーね・たけとり)がこの美術館のモデルになって帰ってきていない。
 雅羅は「美女が失踪する」と噂の「『蝋人形美術館』のモデルになりに行って調査する」、
「自分たちが帰ってこなければ、『蝋人形美術館』に助けに来てほしい」と携帯電話のメールで友人に知らせていたのだ。


 「フルーネは助かったが……あの『動かなくさせる術』。あの状態の人が並んでいても不思議じゃない、か」


第一章:深夜の侵入者たち


 「案外ザルだな、ここの警備システムは。ちょろいぜ!」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)は「光学迷彩」を使って姿を消して忍び込んでいたのだった。
武尊は昼間に客として入り、”今宵のターゲット”を定めてきていた。
 「作りが精巧すぎるから色々と気になっちゃうのは仕方ないだろ。ウヒヒのヒー」
 一度来場しているとはいえ、数多の人形の中からターゲットにたどり着くこの速さは……執念だろうか。
 「さてと、失礼しまーす。 ああ? なんだこれ?」
 味気ない水着は人形と同化しており、着脱式ではなかったのだ。
 「許せん! けしからん! 下着をないがしろにするとは!」
 武尊は鞄から女性ものパンティを何枚も取り出した。そしてターゲットに似合うと結論づけたものを数枚、選び出した。

 「下着だと? 俺様にはそのようなものなど蛇足にすぎぬ!」
 全裸に薔薇学マントの変熊 仮面(へんくま・かめん)は担いでいた「全裸に薔薇学マントの変熊仮面」を武尊に見せつけるように立たせた。
 「貴様、私を見ているなっ! ならばじっくりと見てもらおうか! 姿をあらわせ、下着野郎!」
 「君……薔薇学の人か? ここの美術館の関係者か?」
 「この美術館に陳列されるべき美しいモデルではあるが、あの野郎、俺様の蝋人形を廃棄しやがったのだ!」
 「それが廃棄された蝋人形か?」
 「そうだ。ゴミ捨て場からあるべき場所へと帰還した俺様自作の蝋人形だ」
 「自作? 自分で作ったのか、それ?」
 「ああ。俺様の美しさをヤツが再現できるとは限らんからな。持ち込みをしたのだよ」
 「君さぁ……自作の根性は買うよ。でも美化してないか、それは」
 「なんだと?!」
 「いや、筋肉だとかさぁ、こうあって欲しいと思ってるパーツがさぁ、違って見えるけどな」
 「そんなわけがあるものか! このポーズをしたときの俺様の形態に忠実だぞ! さぁよく見ろ!!」
 「うーん、そうかぁ? しかしだな、オレとしてはこのブリーフをおすすめするな」
 武尊は鞄からブリーフを数枚取り出して並べていた。
 「完璧なる俺様の肉体に下着は蛇足だと言ったろうが」
 「いいや、このブリーフの履き心地、機能美は是非とも味わってほしい! 世界観が変わるぞ?」
 右手にブリーフを、左手に女性用下着を持った武尊は変熊仮面につかみかかろうとした、その時。

 「……下着は最低限つけていただかないと、陳列できませんと言ったではないですか」
 この声と共に2体の蝋人形プラス1体が美術館に加わった。
 「変熊さんには修正をいれさせていただきます。下着だけってのもねぇ」

第二章:美貌のモデル志願者

 ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)トリア・クーシア(とりあ・くーしあ)が『蝋人形美術館』のモデル面接に訪れたのは数日前である。
2人は帰ってきていないのだが……メアリア・ユリン(めありあ・ゆりん)は気にしていない様子だ。

 トリアとユーリにメアリアはこう言った。
 「蝋人形館に戻ってこないモデルたち……かーさまの予想はきっとモデル自身を素材に蝋人形にしているのだわ! ユーリちゃんもその恋人ちゃんも体験してみたら?うふふ♪」
 「囮捜査ってわけだね!」
 ユーリ・ユリンが答える。
 「ユーリのお母さん面白いこと言うわね?」
 トリアとメアリアは意気投合したかのようにほほ笑みあう。
 「自分を素材に蝋人形にされる……か、ユーリと一緒ならちょっと体験してもいいかも♪」
 「そうでしょうしょうでしょう」
 「ちょっと待った、囮捜査には賛成だけど、蝋人形にされちゃう気はないよ、僕は」
 「蝋人形になれる機会なんてそうそうないわよ? ユーリちゃん」
 「そうですぅ。ねね?いいでしょ?ユーリも蝋人形になろうよ〜?私も一緒になるから……ね?」
 「蝋人形になっちゃったら囮捜査の意味、なくならない? 二人とも言ってる意味が分からないよ!」
 逃げ腰になるユーリにトリアが抱き着く。
 「怖いなら私が抱き着いてあげるから!ぎゅっぎゅっ……」
 「それ、そのポーズがいいわ!」
 「どうしてトリアもかーさまもノリノリなの!? あ、でも帰ってこないって噂は美女だけだったよね」
 「あら、ユーリ、知らないの? 見た目年齢は関係なく、本当の性別も関係なく失踪しているそうよ。だから”男の娘”もいるのよ!」
 「えーっ!」
 「わたしも一緒に蝋人形になりますから……ね。ぎゅぅ〜」
 トリアがさらにユーリを抱きしめる。
 「メイド服の男の娘を抱きしめる美少女! これで、これで勝つるわ!」



 「この雰囲気には『キャンドル』だよね」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は『式神の術』でこの美術館の趣味にあいそうな『キャンドル』を潜り込ませた。
 「それにしても、耽美趣味っていうの? ゴシック調っていうのかな……典型的な悪魔趣味の『やかた』よね」
 詩穂はモデルに応募し、今から面接を受けるのだ。悪魔を見破れるように『司書の眼鏡』を装着している。
 「でも、悪魔っていっても『本当に悪魔なの?』っていう人も多いんだよね」
 「お待たせしました。どうぞこちらへ」
 工房のドアが開き、ロベルトが詩穂を呼ぶ。詩穂が工房へ入る。

 「お名前をお聞かせ願えますか?」
 「名前は匿名希望でお願いします☆」
 名前を明かさないことで術を回避しようと詩穂は考えたのだ。
 「左様ですか。ちょっと失礼しますよ」
 「あっ」
 「やはり。ふふ。蝋人形には本物の眼鏡を装着するのですよ。採寸しますから、しばらくの間お借りしますね」
 「それがないと、ものが見えなくなっちゃう」
 「そのようには見えませんけれど? これ、伊達眼鏡でしょう? しかも」
 「しかも、なに?」
 ロベルトが指さした先には詩穂が放ったキャンドルを胸に抱く少女の蝋人形があった。
 「なにもかもお見通しってわけね? そうはいかないわよ!」
 詩穂は『武器の聖化』を施した両手でロベルトの腕をつかんだ。
 『ウェポンマスタリー』の技術で「握る」ことに特化させた詩穂の握力は破壊的なものであるはずだったが、ロベルトは顔色を変えない。
 「しまった! これ……」
 その姿のまま詩穂は固まってしまった。
 ロベルトは硬直した詩穂に近づき、その顔に先ほどの眼鏡をかけさせながら、うっとりと詩穂を見つめ、
 「わたしを捕らえようとやってきたのですね? 単身乗り込むその気概、気に入りました。
それにしても実に美しい瞬間を手に入れられたものです。わたしはきっと幸せ者でしょうね」