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ピンクダイヤは眠らない

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ピンクダイヤは眠らない

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 2
「そですか。わかりました」
 電話を終えた大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は怪訝そうな表情を浮かべている。その表情を横目にパートナーのレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)は廃墟ホテルへとワンボックスカーを走らせていた。
「泰輔さん? 」
「レイチェル、悪いけど、行き先変更や」
「え? 」
「寄り道するで、オオミヤ会長の別荘に行ってみるわ」
 住所を告げられ、レイチェルはハンドルを右に切る。後部座席に搭載された電子機器のコードがゆらりと揺れた。
「……どうゆうこっちゃろ?まるで、話がかみ合わん」
 ヘッドライトに照らされた車両追い越し線が点々と瞼の奥にしみ込んでゆくのを感じながら、大久保は頭を整理するように目を閉じている。
 住所を告げられ、レイチェルはハンドルを右に切る。
「オオミヤ会長からは良いお返事がもらえなかったのですか? 」
「この場合、返事してくれたんかどうかすらわからん」
「え?オオミヤ会長まで、お電話がつながらなかったのですか? 」
 大久保は、廃墟ホテルで盗賊から身を潜めているシズクと名乗る少女の実家に電話をしていたのだ。オオミヤシズクは国内有数のセキュリティ会社「オオミヤ」の会長の孫娘だと、瑛菜は言っていた。だとすれば、「オオミヤ」と連絡をとり、廃墟ホテルのセキュリティ情報や、メモリークラッシャーの情報を引き出せるかもしれないと大久保は踏んでいたのだ。
「孫娘が大切やったら、会長はんに話して、助力願うたらええやん。急がば回れちゅうけど、回り方もはよないとあかんねん」
 そう言って、何やら怪しげな機械を携帯電話にとりつけながら、オオミヤ会長へのホットラインを結び、電話をしていたのだ。
「いや、機晶技術を駆使して、会長はんとホットラインで話したんや」
「強引な電話ですからね。会長さんも怪しがって取り合わなかっただけでは? 」
「いや。僕、最初に<シズクさんの身代金の事で話がある>いうて、切り込んだやろ? 」
「ええ。一瞬、泰輔さんが黒幕なのかと思いました」
「パンチのある言葉でないと、食いつかんと思って、あえての言葉選びや」
「ええ」
「けど、会長はんはシズクさんちゅうキーワードにも身代金ちゅうキーワードにも、微動だにせんかった」
「……孫娘が行方不明なのに、ですか? 」
「そうや。オオミヤシズクちゅう女の子は確かにオオミヤ会長はんの孫娘や」
「そりゃあ、そうですよ」
「だけどな。ここにおるって言わはった」
「……え?ここって? 」
「実家や。実家で寝てる言うとった。家宝のピンクダイヤの件で襲われとるはずや、言うたら、ピンクダイヤなんてものは知らん言うとったわ」
「どういう事です? 」
「……とりあえず、別荘の様子を確認や。襲われたんなら、警察も来てると思うし、何か目撃証言も聞けるやろ」
 大きな思い違いをしているのかもしれないと大久保は切れ長の細い目を更に細くした。