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ピンクダイヤは眠らない

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ピンクダイヤは眠らない

リアクション


「ねえ、あたしといいことしない?ここはホテルだから……わかるよ、ね? 」
 二人組の盗賊を見つけ、色香漂う声で誘いを掛けるのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)である。警戒心をほどかない盗賊に向けて、例のアレな格好(メタリックブルーの トライアングルビキニの上にコートを引っ掛けただけの姿)で現れて戸惑わせる作戦なのだ。当然のごとく、そして意味違いではあるが、盗賊は戸惑っていた。
「どちらが先に相手してくれるのかしら?あたしは三人でもいける口だけど」
例のアレな格好(メタリックブルーのトライアングルビキニの上にコートを引っ掛けただけの姿)を妖艶に見せるために二刀流に見立てた懐中電灯を自らに照らしている。
じりじりとにじり寄る黒マスク姿の盗賊の足取りには、すでに戸惑いが消えている。
「ふふ。男って本当にスケベね、今の状況を忘れて女とヤりたがるなんて」
 完全に勘違いをしてる。盗賊にその気はないらしいことを、微塵も疑ってない様子のままである。
 にじり寄った盗賊の膝がカクリと折れて、地に付した。
「今の状況忘れてるのは、セレンでしょ?」
 崩れ落ちた盗賊の背後に現れたのはセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)である。
「ああん!もう!邪魔しないでよ!もう少しで誘惑成功するところだったのに! 」
「もう少しで囚われの身になるところだったのよ」
「いやいや、あんたは、わかってないなぁ。あたしのカラダは囚われた瞬間、相手の心を虜にするんだから」
「虜にしてどうするつもりだったの?」
「そりゃあ、ギリギリはだけて、男たちが興奮したところを、折る!」
「折る?」
「あれを折る!」
「つか、もう、すでにギリギリまではだけていると思う」
「まだまだ攻めるわよぉ」
気を失った盗賊の横に腰をおろし、腰をひねるようにして両手を床に置き始めるセレンフィリティは、懐中電灯をトライアングルパンツに照らした。
「なにやってんの?」
「目を覚ましたら、もう一度誘惑して」
幻想モノケロスの柄でセレンフィリティの頭を小突くセレアナ。
「いた! 」
「神聖な槍をこんなところで、使うはめになるとは」
「ちょっと、あたしの作戦邪魔しないでよ」
「この刃先突き立てて、脳みそ解毒してあげようか? 」
 聖獣の角には解毒効果があると言う。
「あ、セレンに突き刺したら、聖獣が性獣になってしまう……くわばらくわばら」
「もう」
軽くため息をつくとセレアナは続けた。
「色仕掛けに動じなかったコイツら、結構訓練されてる盗賊だよ」
「そうみたいね」
 立ち上がり、トライアングルパンツについた埃を両手でぱんぱんと払いのけながら、セレンフィリアは頷いた。
「俺が、相手してやろうか? 」
 いつの間に背後をとられたのか?セレンフィリティは声を聞くや否や、くるりとカラダを反転させ、長くのびる左足を弧を描くように振りまわした。鈍い衝撃音がするものの、男はソバットを右腕で防御しながら、のけぞるようにして、セレンフィリティの右くるぶしを左手で打掌した。バランスを崩し、セレンフィリティは尻もちをついた。
「失礼」
 そう言った先に、眼前に飛び込んで来る幻想モノケロスを男は、上体を後ろへ逸らせスウェーでかわす。
 セレンフィリティもすぐに態勢を立て直し、コートに忍ばせた二挺拳銃【シュヴァルツ】【ヴァイス】を両手に構える。幻想モノケロスが横なぎに襲いかかるのをもろともせずに、男は更に低い体勢でセレアナをタックルした。勢い余って客室へと転がりこむ二人を見届けたセレンフィリティは、転がった懐中電灯に螺旋状の回転を掛けるように客室に蹴り込み、客室を一瞬の光に満たせて、飛び込んだ。ソファの背面にセレアナの姿。男の姿は……
「こっちだ」
 天井から声。【シュヴァルツ】【ヴァイス】が天を向くよりも早く、男は体をひねるようにしてセレンフィリティの頭上に逆立ちをし、銃撃を避けた。
「こいつ」
「天辺から見てもベッピンさんだな」
 男はセレンフィリティの正面、数センチのところに着地し、抱きしめるようにして、そのまま体躯を後方に投げ出し、ベッドに体を預けた。
「真正面から見てもベッピンだ」
 抱きしめられたまま、二丁拳銃を男の両こめかみに当てるセレンフィリティ。
「拝みながら昇天しな」
 トリガーに力を込めようとした瞬間、腰もとに固いものがあたる。
「あんたの程ごつくはないが、女は腰が命だろ? 」
 男の手には小型の拳銃M1910が握られている。気配を経って背後に忍ぶ足さばき、変幻自在な態勢を操るバランス感覚、密着した態勢で小型拳銃を抜きとる手さばき、敵ながらやるもんだと、セレアナは感心した様子で立ち上がった。
「あんたも参戦するかい?三人でやるのも悪かない。明かりがないのが残念なところだが」
 減らず口も一流である。
「あなた誰? 」
 セレアナは刃先を男の眉間に当てながら前髪を揺らすように顎をしゃくった。
「そちらさんこそ、何ものだい?オオミヤの連中にしては露出が多いようにも感じられるんだが」
「あなた達盗賊よね? 」
「ま。話会おうぜ」
「ベッドで話し合うだなんて、やってもないのにもうピロートークの始まり? 」
セレンフィリティがツインテールで男の鼻先をくすぐった。雲が晴れ月が顔を出す。男の精悍な顔立ちがセレンフィリティの緑色の瞳に映った。よく見れば、意志の強そうな男の瞳はヘーゼルである。
「状況は悪くない」
「そりゃ、こんな美女のカラダの下で死ねるんだからね」
「いや。死ぬときは女のカラダの上でって決めてるんだ」
 扉のすぐそばでカチリと音がした。さきほど倒したはずの盗賊が意識を取り戻し、銃口を二人の美女に向けていた。
「さてと」
 男はセレンフィリティの二丁拳銃をそっと払いのけて、器用に体を入れ替えた。立場逆転である。
「なにしに来たのか話してもらおうか? 」
「待って」
 セレンフィリティの緑色の瞳は天井を射抜くように大きく見開いていた。
 【シュヴァルツ】が吠え、天井の一点に風穴があいた。
二人の盗賊は拳銃を構え直す。
「まて」
 男に制止され、二人の盗賊は歩を下げた。
「……なにを撃った? 」
「……カメラ」
「え?」
「天井に隠しカメラがあった」
「なんだって? 」
「この子カメラ慣れしてるからなぁ」
セレアナは呆れたように言ってのけた。
「盗撮はキライよ」
顔をしかめたセレンフィリティから男は離れ天井を見上げた。
「おねぇさん達、オオミヤの人間じゃないのか? 」
「あたしたちは仲間を助けに来ただけ。そのためなら邪魔ものは排除する」
 セレンフィリティの発言に(誘惑しに来た癖に!)(折りに来た癖に!)と心でツッコミを入れながらセレアナは状況を見守った。
「仲間? 」
「今度はそっちの番」
「俺たちは盗まれたモノを取り戻しに来た」
「取り戻す? 」
「ピンクダイヤさ。知ってるんだろ」
「メモリークラッシャーが爆発したら、ダイヤどころの話じゃないじゃない。記憶がけし飛んじゃうのよ」
「メモリークラッシャー? 」
 男はいぶかしげにヘーゼルの目をひそめた。
「あなた達が仕掛けたんじゃないの? 」
「初耳だ」
「時限式でもうすぐ爆発する。その前に止めないと」
 喋り過ぎなのはセレンフィリティの悪い癖だと思いながら、セレアナは、セレンフィリティが話してしまうだけの雰囲気がこの男にはあるのだと感じていた。悪い人間には思えない。もちろん誤解かもしれないけれど、さきほどの戦闘中も、この男はタックルをしながらもソファ底に光る金属製の足にセレアナの頭蓋が激突しないように頭をかばってくれたのだ。男の手の甲からはその時の血が流れている。
「初耳だ。俺はてっきり、オオミヤの連中が俺達を襲っているものだとばかり思っていた」
「家宝と、孫娘を取り返すためだったら、そのくらいはしてしかるべきよ……」
 セレアナが意地悪そうに言いのけた。
「……なのに、ここには、私たちと盗賊のあなた達しかいない」
「そういえば……シズクさん、会長さんに嫌われてるとか? 」
「どうかな? 」
「俺は、孫娘さんに危害を加えるつもりはない。それに……そんな物騒なもんが仕掛けれれているんなら、今すぐ、みんな、ここを非難したほうがいい」
 思いもよらぬ男の言葉に、セレンフィリティとセレアナは目を丸くした。


「さてと、充電も完了した事だし、先をいそごっ」
 幸いにもマーガレットから電話は掛かってこない。きっとうまく盗賊たちを引き寄せて、ホテル外に誘導したに違いないと、リースは直観していた(そうではなかったのだけれど)。
携帯の充電コードを巻いているリースは背筋にぞわりと妙な感触を覚えた。
「ん? 」
手で払ってみると、大きな蜘蛛が床を掛けていくのが見えた。
「蜘蛛? 」
 携帯電話を懐中電灯代わりに照らす、リースの目に飛び込んできたのは、壁一面にびっしりと寄り集まった蜘蛛の群れであった。腰砕けになって、膝を折るリースめがけて、ひときわ大きな巨大蜘蛛が、硬質シリコンのような糸を吐き、リースの足首を縛り上げ、逆さにつるした。
「きゃ」
 ずり落ちそうになった眼鏡を支えながら、とっさに魔法を唱えようとするリースの口元に、別の巨大蜘蛛が糸を吐く。
「(しまった)」
 口元を塞がれ、続いて両腕を糸で封じらてしまった。このままでは魔法が唱えられない。盗賊を縛り上げるどころか、盗賊に縛り上げられるどころか、蜘蛛に縛り上げられるだなんて、屈辱です、とリースが思ったかどうかは不明だが、独りで暗闇にいすぎたと反省したのは確かだった。暗闇に住む者の生活力を侮ったつもりはないけれど、「なぜコンセントを使うことが出来たのか?」について考えている最中、無防備であったことは確かなのだ。糸を切ろうと必死でもがくリースではあったが、巨大蜘蛛の糸はたやすくは切れない。このまま宙づりにされるだけなら、脱出方法を練る時間はあるけれど、きっとおなかを空かせた蜘蛛はリースを消化吸収してしまおうという魂胆だ。窓ガラスに逆さまに映った自身の姿を見つめながら、力づくで腕に絡みついた糸をほどこうとするが、力が足りない。窓ガラス越しに月が見える。月は逆さまになっても月なんだなあ、など考えていると、窓越しに逆さまでない男が姿を現した。
「(あれ?)」
 黒髪短髪の男が窓の外壁の縁にぶら下がっていたのだ。男は逆さまのまま、大型拳銃を構えると、銃剣の先が輝き始め、ながく伸びる光の剣となった。そのまま窓越しにリースを真っ二つに斬った。
「あわ! 」
 真っ二つになったとはいえ、空中で宙返りをしながら、着地したリースは、自分の体をギュッと抱きしめた。真っ二つよ、もとに戻れ!と念じるように。
短髪の男は、窓ガラスを丸く切り取りながら、リースに近付く。
「光条兵器だよ」
 男は国頭 武尊(くにがみ・たける)であった。
「さっき切ったのは蜘蛛の糸だけだから心配しなくていい」
 リースは自分のカラダを確かめてみる。確かに蜘蛛の糸は切断されているものの、肉体に損傷はない。
「びっくりしました」
「とりあえず、ここはもう蜘蛛だらけだし、面倒だから、外行くぞ」
「え?外?」
 国頭はリースを抱え上げて、入ってきた窓の入口を抜け、外壁に直角に立った。
「蜘蛛みたいな人ですね」
「……猿みたいとはよく言われるが」
「体が蜘蛛で、顔が猿なんですか? 」
「気持ち悪! 」
「ごめんなさい、私助けてもらったのに」
「行きがかりだから、気にすんな」
 国頭は外壁の上へ上へと歩を進める
「何処に行くんですか? 」
「瑛菜のところだよ。中には盗賊がいるって言うんだから、外を歩いていこうと思ったんだ」
「なるほど。って、あなた盗賊じゃないんですね! 」
「……え?盗賊だと思っていたの? 」
「ええ。このままアジトに連れていかれるのだと思っていました」
「外壁を登ってしかたどりつけないアジトって何処だよ? 」
「屋根の裏っかわとか? 」
「俺のアジトは鳩の巣か? 」
「体が蜘蛛で、頭が猿で、鳴く声は鳩」
「気持ち悪!」
「こんなところで立ち話もなんですよね」
「立ってるのは俺だけだから、気にするな」
 リースは国頭に抱えられながら疑問に思っていたことを口にした。
「廃墟ホテルなのにコンセントが使えるて、どう思います? 」
「ぁぁ。ここが廃墟じゃないってことだろ」
「え? 」
「俺の仲間も、スプリンクラーが作動したって言っていたしな。外壁の途中途中にも監視カメラが設置されてた」
難なく外壁を登っているように見える国頭だが、実際は監視カメラを避けながら迂回
に迂回を重ねているのだ。
「廃墟じゃない? 」
「このホテルには何か目的があるんだろうよ。瑛菜達が逃げ込んだ客室にメモリークラッシャーがあったって言うのも偶然じゃあないと思う。誰かが手引きで、瑛菜達はメモリークラッシャーのある部屋に辿り着いた……そういう風にも考えられる」
「手引きって? 」
「瑛菜はオオミヤシズクと2人でここに逃げ込んだ。手引き出来る人間はオオミヤシズクしかいないんじゃないかって俺は踏んでるんだが……」
「でも、オオミヤシズクさんはメモリークラッシャーのそばから離れられないんですよ?自分から、その客室に入っていくだなんて考えにくいです」
「……瑛菜に聞いてみよう」
「え?」
「ここだ」
 国頭の指示した窓の奥に、膝を抱えて突っ伏した瑛菜とオオミヤシズクの姿が、あった。オオミヤシズクは敵側の人間かもしれない……国頭の脳裏を黒い影がかすめた。