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リアクション
■ こんな準備 あんな準備 ■
編み物をしている窓際と、料理の練習をしている厨房辺りに生徒たちが固まっているけれど、それ以外の場所でももちろん12月の用意をしている生徒たちの姿があった。
「……さん……沙幸さん?」
さっきから呼ばれていたことに気付いて、久世 沙幸(くぜ・さゆき)は顔をあげた。
「あ、ごめん。何だった?」
聞き返すと向かいに座っていた藍玉 美海(あいだま・みうみ)が軽く睨んできた。
「もう、沙幸さんたら……一体何をそんなに熱心にご覧になっていらっしゃるのかしら」
たまにはお茶を飲みながら学食でおしゃべりしようかとやってきたのに、沙幸は美海のことなど忘れてしまったかのように、さっきから雑誌の記事に夢中になっている。少し面白くなさそうな美海に謝りながら、沙幸は読んでいた雑誌のページを見せた。
「ねぇ、次の休みはここに遊びに行こうよ〜」
沙幸が読んでいたのは今日仕入れたばかりの情報誌だった。
12月はイベントシーズン。ツァンダの街で催される様々なイベントをチェックしていたのだ。
「何かと思いましたら、休暇に遊びに行く計画を練っていたのですね」
「うん。この日はオフだからめいっぱい遊べるよ」
沙幸があんまり楽しそうに休みの計画を立てているから、美海はついからかってみたくなり、
「そんなところよりもこっちなんかどうですか?」
沙幸が見ていたページの隣にあった、ぐっとアダルティなデートスポットを指さしてみせた。
イベント内容を見た沙幸はちょっとひるんだが、すぐに何でもないようなそぶりで答える。
「だったら他の友達誘うから良いんだもん」
軽くあしらっているつもりなのだろうけど、つんとそらした頬は赤いし、動揺しているのが見え見えだ。
「あら、でしたらわたくしも他の方と……」
「え! ねーさま、それは……」
途端に慌てる沙幸の反応に、美海は口元を綻ばせた。とはいえ、沙幸がグラビアの仕事を頑張っていることを知っているから、そのオフを狙って遊ぼうという気持ちに水を差すつもりはない。
「ふふ、もちろん半分くらいは冗談ですわ。沙幸さんの選ばれたイベントも面白そうですわね」
「ねーさまってば、すぐからかうんだから」
今日こそはうまくあしらおうとしたのに、やっぱり美海の方が上手らしい。
そんなことを思っていた沙幸は、すぐ隣のテーブルで何かを作っている様子のオデット・オディール(おでっと・おでぃーる)たちに目を留めた。
「それは何? なんだか楽しそうだね」
「これはアドベントカレンダーだよ」
「アドベントカレンダー?」
「ここに書いてある数字が日付で、毎日1つずつ開けられるようになってるの。この中にお菓子とかを入れておいて、クリスマスまでのカウントダウンを楽しむんだよ♪」
オデットはそう説明すると、フランソワ・ショパン(ふらんそわ・しょぱん)にそこのシール取ってと頼んだ。
「はい、これね。……それにしても、アドベントカレンダーを手作りするのは初めてだわ」
フランソワの言葉に、オデットは顔を上げて笑った。
「どこに何を入れたかは内緒だからね♪」
「オッケー。サプライズってことね。私はいくつか最近のオススメお菓子を入れておこうかしら」
「あ、それ嬉しい!」
オデットははしゃぐ。
「フランが持ってるお菓子、どれも美味しいよね」
「ふふ、でしょー?」
フランソワは得意げに笑うと、カレンダーの窓を幾つか開けて、手元のマカロンやキャンディを入れていった。いつこのお菓子が食べられるかと、オデットは楽しみでならない。
「私はね、メッセージカードを何枚か書いてきたんだ」
オデットは色とりどりの小さな紙をカレンダーに入れる。
「あら、楽しみね」
「メッセージカードだけじゃつまらないから、ミッションカードも入れとくね!」
「……ミッションカード?」
何やら嫌な予感を覚えて、フランソワは聞き返す。
「うん。書いてあるミッションには、絶対従わなきゃだめなの♪」
「何それ怖い!」
「ふふっ、大丈夫だよ〜、安全、安全」
大丈夫、はともかく、安全を強調されるとフランソワは逆に不安になってくる。
「心配しないで。ちゃんと手加減するように言っとくよ」
「言っとくって誰によ?!」
一体自分は何をやらされるのかと、フランソワは目を見開く。
「それは当日までのお楽しみ。頑張ってね、フラン!」
オデットの満面の笑顔に、フランソワは言葉を失って食堂の天井を仰いだ。
どうか、無事に12月を過ごせますように――。
柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は熱心に、集めておいたデータに目を通していた。
もうすぐ12月。12月といえばクリスマスや冬休み等、カップルが一緒に行動する機会も増える。
となると。
(当然、妬む連中も現れるはずだ……そう、リア充爆発しろと騒ぐ奴等が! 奴等を放っておくと聖夜の街に嫉妬の被害が広がってしまう……)
それは恭也の単なる懸念ではない。実際これまでにも、事件が勃発していたりもする。
流石に聖夜まで妬みで暴れるのは無粋なことだと、恭也は事前に要注意人物の洗い出しにかかっているのだ。
「えーっと、過去のデータはっと……」
その時の状況、その人物の現在の状態等から、今年の危険度を割り出す。
「あ、こいついつの間にかリア充になってやがる……今年は狙われる側か。これで狙われる気持ちも理解出来るだろう。げ、こっちは先月失恋したのか……かなり暴れそうだな」
暴れる危険性に応じてランク分けしているのだが、かなり去年と変動がある。日々、カップルが生まれ、壊れ、それにつれて嫉妬も生まれたり消えたりしているのだろう。
まだクリスマスまで少し時間があるが、今のうちにやれることはやっておかないとと、恭也は細かく要注意人物をリスト化してゆくのだった。
「ったく、おまえいつの間に忍び込んでたんだ?」
温かいものでも飲みながら弁当を食べようと学食にやってきた瀬島 壮太(せじま・そうた)は、鞄の中から出てきた上 公太郎(かみ・こうたろう)に驚いた。
「最近壮太殿はアルバイトが忙しいゆえ、下宿先に帰ってきてもすぐ眠ってしまうであろう。頼み事もおちおちすることが出来ぬ。だからこうしてついてきた次第である」
「頼み事って何だ?」
尋ねた壮太に、公太郎は答えではなく質問を返してきた。
「最近、とみに寒くなってきたとは思わぬか?」
「ああ、まあな」
「冷たい北風が、我輩の小柄な身体に容赦なく吹き付ける季節となった。しかし我の体型にあった冬服はなかなか店に売っていないのである。このまま12月に突入してしまったら我輩、凍死の危機である」
ジャンガリアンハムスターの獣人である公太郎は、体長20cm。身体にあった服を探すのは一苦労だ。
そこで、と公太郎は壮太の手にに自分のカーキ色のベストを載せる。
「この襟や肩口にふわふわのアレを縫いつけて欲しいのである」
「急にそんなこと言われても、道具も何も持ってねーし」
そもそも、どうして自分が縫い物をしなければならないのか、と続けようとして壮太ははたと気付く。
(そういやあの下宿でまともな縫い物ができるのはオレだけだったな……)
壮太の考えを知ってか知らずか、公太郎はごそごそと鞄を探ると、ファーとソーイングセットを取りだした。
「道具ならば心配無用。ちゃんと用意してきたのである」
こうなっては断れない。壮太はしぶしぶそれらを受け取った。
「……仕方ねえなやってやるよ」
ベストといっても小さなものだ。縫う距離も短いからすぐに縫い上がるかと思いきや、これがなかなかうまくいかない。
「ちくしょう小さすぎて縫いづれえよ。おまえもうちょっとデカくなれよ……」
文句を言いつつちくちくとファーを縫いつけている壮太を横目に、公太郎はきょろきょろと学食内を見回している。
「ここは暖かくていいにおいがして良いところであるな」
「ハム、ファーはつけてやるからそこ動くなよ」
ひくひくと鼻をうごめかせる公太郎に壮太は釘を刺したた。
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