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■ クリスマスの準備 のための準備 ■
日本では12月のことを師走と呼ぶと聞く。
師も馳せるような忙しい月になる前にと、黒崎 天音(くろさき・あまね)は鬼院 尋人(きいん・ひろと)を誘って、クリスマスツリーのオーナメントを作ることにした。
クリスマスはわくわくする行事だ。荒野の孤児院のツリーをオーナメントで色とりどりに飾れば、子供たちの気分を盛り上げるのにも役立つことだろう。
緑ヶ丘キャンパスの学食を生徒たちの活動に開放してくれていると聞き、天音と尋人は様々な材料や道具を持って蒼空学園に向かった。
その途中、すぐ先を歩く白の三つ揃いスーツに白手袋、背に乳白金の髪をかからせた後ろ姿に気付き、足を速めて追いついた。
「おや、お出かけですか?」
振り返ったエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、天音と尋人、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)という顔ぶれと、その手にした荷物を見やる。
「蒼空学園の食堂のテーブルを借りて、空京の孤児院に持っていくツリー用のオーナメントを作ろうと思ってね」
「ああ、それはきっと子供たちも喜びますね」
天音の答えを聞いて、エメは微笑んだ。
「それで……出来れば手土産に手作りのお菓子があったら良いなと思うんだけど、お願いできるかな? 材料を持ち込めば学食の厨房を使わせてもらえるという話だから、良ければ一緒に」
「ではそうしましょうか」
途中でお菓子の材料を調達すると、3人は蒼空学園の学食へと赴いた。
厨房に行くエメと別れると、天音は食堂の一角を借りて持ってきたものを並べた。
メタルカラーのオーナメントボール、手芸用ビーズにスパンコール、ラインストーンやエアーパール。トレーに材料をあけると、きらきらと輝く。それ以外にも、ガラスリーフに薔薇、レースの手芸テープなど、かなり材料の種類が多い。
「ずいぶん色々な材料を用意してきたんだね。どういうものを作るかはもう決まってるのかな?」
「オーナメントボールを色々飾ってみるつもりだよ」
「そうか……綺麗なものが出来そうだね。ブルーズのは……毛糸?」
ブルーズが用意した材料は、白い毛糸やフェルトボールという天音と比べて柔らかいものが多い。
「これはこうしてだな……」
ブルーズは白い毛糸を手にすると、それで小さな雪の結晶を編んだ。フェルトボールは組み合わせて、サンタクロースやトナカイ、雪だるまや天使等を作ってゆく。
天音とブルーズの作るオーナメントに気後れして、尋人は少し離れた席を選んでそこで自分もオーナメント作りに取り組んだ。
器用な方ではない自分だから、良く知っているものをオーナメントにするのがいいだろうと、尋人は馬のオーナメントを作ることにした。
馬ならばありありとそのフォルムが思い出せる。
薄い木の板を馬の形に切り、子供たちが触れたときに手を痛めたりしないように、周囲には丹念にヤスリをかける。
ツリーに吊す為の紐は、馬のたてがみを輪に結んでつけた。
けれどそれだけではどこか寂しい。
尋人は水晶を砕き、銀の飾り紐を分解して、それを飾りにつけてみた。ちょっとワイルドなオーナメントだ。
もう少しオーナメントらしくしたかったけれど、それ以上どうして良いのか思いつかない。後で何か考えてみようと、尋人はとりあえず馬のオーナメントを黙々と作っていった。
天音とブルーズも、次々にオーナメントを作り上げてゆく。こういうものは数も種類も多い方が楽しいものだ。
「少しビーズを貰ってもいいか?」
ブルーズは天音のビーズを拝借すると、フェルトとあわせて小さなリースや蝋燭を作った。細かい縫い物だが、慣れた手つきでちくちくと縫い上げてゆく。
天音はオーナメントボールに何色からのビーズを規則的に並べて紋様を描いてみたり、レースをリボンに結んでみたりとそれぞれに工夫を凝らし、1つとして同じ仕上がりのものは無い。
大ぶりの薔薇のビーズを貼り付けた下にスイングするスパンコールの葉をつけ、緑系のビーズを曲線に並べて蔦を描いてみたりと、かなり楽しんで作っている。
大人しくオーナメントを作っているパートナーの様子に安心しつつ、ブルーズは作業をしていたが、ふと気になって顔をあげた。
「そういえば、ラテルの本屋で買った絵本は忘れて来てないだろうな? ……天音?」
さっきまでオーナメントボールにビーズを貼り付けていたと思ったのに、その作業に飽きたのか天音はフェルトボールや、フェルトの切れ端を指で弾いて尋人の頭に当てては、くすくすと笑っている。
「材料で遊ぶな」
尋人を慮ってブルーズは天音に注意した。
飛んできて髪に引っかかったフェルトを、尋人は幾分むっとして取った。
クリスマスカラーの緑の小さな欠片だ。
「あ、そうだ」
尋人は思いついてそのフェルトの欠片をリボンの形に切り抜いて、オーナメントに貼ってみた。それだけでぐっと、クリスマスらしさが増した。
そうしているうちに、今度は赤のフェルトと白いフェルトボールの欠片が天音から飛んでくる。
これも何かに使えるかも。
こっちのはオーナメントを吊す紐の飾りにしてみようか。
飛んできたものを材料に使ううち、尋人はだんだん楽しくなってきた。
その様子を、さっきから気になる様子で眺めていたブルーズはほっとして立ち上がると、飲み物を3人分購入してきた。
「あまり根を詰めてもなんだからな。少し休憩しよう」
きらきらの、ふわふわの、色とりどりの。
孤児院の子供たちの為のオーナメントを前に、3人は温かな飲み物でしばし休息するのだった。
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