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■ ランダムチェンジ ■



 目の前に現れたのはサイコロ。
 さぁ、振るか振らないかは自由だか、振ったら最後あなたの運命はサイコロが決める。



 サイコロを握り締めた右手ごと左手で胸を抑えるネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は、体の奥底から沸き上がってくる感情に、ごくりと生唾を飲み込んだ。
 休日の午後ということもあり空京は人々に溢れ、視界に入る通行人のその姿に胸のときめきが止まらない。
「か、可愛い……」
「ネージュちゃん?」
 共に空京に来ていた常葉樹 紫蘭(ときわぎ・しらん)はうわ言の様に呟いたネージュに首を傾げる。何を見て、可愛いと呟いたのだろうと彼女の視線の先を見止めて、納得した。おもちゃ屋の前で可愛い子供達がキャッキャウフフしている。
「まぁ、本当。可愛いですわ」
 それは、紫蘭のストライクゾーン直撃の光景だった。軽く声をかけて仲良くなって少しだけ、こう、ふんわりと、
「抱きしめたい……」
「へ?」
 自分の考えがまさか違う口から漏れるとは思っておらず紫蘭はネージュを見た。ネージュもネージュでハッとして自分の口を勢い良く抑える。
「ネージュちゃん?」
「違うの! 違うのよ! でもね、でも、可愛いって感じて、とってもとっても可愛いって思えちゃって、いつもの可愛いって以上に可愛いって思っちゃって、抱きしめたいとか抱きしめてあげたいとか!」
 ネージュは少し混乱気味だ。自分の口から出る説明はまるで紫蘭の言い分そのものだからだ。紫蘭は紫蘭でネージュの力説に理解者を得たとばかりに、グレイトですわ! マーベラスですわ! と喜びネージュの手を取ると、では堪能いたしましょうと歩き出す。
 こんなのは自分ではないと迫り来る子供達の群れに興奮する自分を否定しながら、しかし、歩みを止められない自分の足に、ネージュは心のなかで助けの叫び声を上げた。



 空京に買い物に来ていた時見 のるん(ときみ・のるん)は、その一歩を踏み出せずにいた。
 おもちゃ屋のゲームコーナーからお菓子コーナーへ行くまでのほんの二メートルの通路を通過できないでいた。
 白と黒のタイルでお洒落にチェック柄になっている通路の、そのタイルの一枚一枚のどこかに爆弾が仕掛けられているんじゃないかという考えに足が竦んでそのままうずくまる。
 ゲームを見ているだけでは飽きてしまいお菓子を物色しに行こうと考えた自分を恨めしく思うほど、その場から動けない。
 そんなのるんの肩を下川 忍(しもかわ・しのぶ)は叩く。
「なにしてるの? 立てないの? 具合でも悪いの? ていうかあなた誰?」
 横に一緒になって蹲った忍にのるんは救世主かと顔を輝かせる。
「あ、あの、のるんちゃんの名前はのる――」
「買い物に来てたの? でもここで蹲ってても何も買えないよ? 買い物に来たんじゃないの?」
 のるんの自己紹介が終わらぬ内に被せるように忍は続けた。
 すっと、指を指す。
「あ、白と黒のチェック柄だね、ちょっとお洒落だよね? でも、なんでチェックにしたんだろうね?」
 じっと見つめられながら首を傾げた忍にのるんは生唾を飲み込んだ。
「のるんちゃん、そこまでわからない」
「え、うーん。知りたいなぁ。なんでこうなんだろう」
 戸惑っているのるんとは対象的に忍の疑問は留まるところを知らない。だって、わからないことが多いのだもの。
 ひとつわからないことがあるとあれもこれも知りたくなってくる。
「ねぇ」
 そもそも自分はこんなに好奇心が強かっただろうか。
「ボクはこうだったっけ?」
 感覚に違和感がある。これは果たして自分だろうか。問う忍の質問に答える者はまだ現れない。



 ちょっとなんかおかしい。
「教えて緑色の恐竜さぁぁーーーん」
 突然道の真ん中で叫びだしたのは風馬 弾(ふうま・だん)である。
 彼もまたサイコロを振った人間だった。
 ビシっと通行人を指さすと隣に居るノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)に好奇心に満ちた眼差しを向ける。
 叫んだと思ったら急に振り向いた弾にノエルは反射的にビクッとした。
「なんでパラミタは美少年や美少女や巨乳ばかりなの?」
「……え?」
 突然、いきなり、何を、言い出すのか。
「ねぇ、なんでパラミタは美少年や美少女や巨乳が多いの?」
 切り口を変えたようで変わっていない教えて君状態の弾の質問にノエルは、では自分で調べてくださいとも言えず、えとですねと答え始めた。
「地球人の中でもひときわ自信を持った方がパラミタに来られるのでしょうね」
「つまり厳選されてるってこと?」
「断言はできませんが」
「じゃぁさ、赤ちゃんはどこから来るの?」
 質問レベルが突如として飛躍した。一瞬だけ思考が追いつかずノエルは目を瞬く。
「BLって流行ってるようだけど、そもそもBLって何?」
「あの、えっと……」
 目まぐるしいまでの質問の支離滅裂さだ。答える暇すら与えてくれない。赤ちゃんに関しても、BLの一般的な定義も説明できると言えばノエルはできるが、答えたからと言って弾の暴走が止まるとも思えなかった。
 そうだ、これは暴走している。
 質問内容が聞こえ様によっては全て際どい!
 暴走が止まるとも思えなかったが、何故暴走しているのかわからないノエルは少しでも彼を抑えられるよう止まることのない質問に丁寧に答えていた。
 が、
「ねぇ、じゃぁ、さんぜ――」
 ノエルは反射的に光条兵器でもって弾の頭部をどついていた。
「す、すみません、体が、つい……」
 これだけはこの質問だけは聞いてはいけないと体が全力で拒絶した結果だった。
 倒れて沈黙してしまった弾にノエルは謝罪の言葉を述べると休める場所を探し始めた。