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暴虐の強奪者!

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暴虐の強奪者!

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――第一章 黒いマントの男たち――


「(お……来た来た、集まって来た!)」
 マクルバ村の西の入口で、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)とパートナーのアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は歌を奏でていた。
 その声色に騙されて、村の見張りをしていた黒マントが数人吸い寄せられたが、その彼らを挑発するような歌詞に次第に怒りを覚えていった。
「楽しそうだと来てみりゃあ人をおちょくった歌ばっかり歌いやがって……気に食わねぇ! 村人より早く殺してやるッ!」
 彼らは怒りに身を任せ、剣を抜いて彼女らに斬りかかろうとした。
 その瞬間、見る見るうちに彼らの見た目が変貌する。髭が生え、目がくぼみ、走っていたその足は筋力を失ってその場に倒れることを余儀なくされる。
「な、なんだ、体が急に老けちまったみてぇに……」
「ふふっ。罠にかかってくれてありがとね!」
 さゆみが剣を抜いた瞬間、その場に凄まじい轟音と共に雷撃が駆け抜けた。
 歌で我を忘れさせられ、タイムコントロールで一瞬で老いた体に、轟雷閃と天のいかづちは凄まじく効いたようで、集まった男たちは物も言えず気絶した。
「ふぅ。やったねアディ! 惹きつけ作戦大成功!」
「……うん!」
 これで西の入口を見張っている敵はいなくなった。二人は目線を合わせてニッコリとほほ笑み、すぐに後方に合図を送る。
 それを受けて、後続の契約者たちが疾風のごとく突入した。

「おい、お前悪か?」
「!? 誰だお前!?」
 西側の騒ぎを聞いて、何事かとあわてている東門の警備に一人の男から声がかかる。
 見ると、そこにはイルミンスールの学生服を着た男、木崎 光(きさき・こう)が立っていた。
「なぁ、悪者だろ? 悪者なんだろお前?」
「な、何を言って……」
 光は歩き出す。その物々しい雰囲気に強奪者は一瞬おびえるも、学生服で契約者だと察し、臨戦モードに頭を切り替えて剣を抜いた。
「よし悪だな! じゃあくたばれ、正義の為になぁ!!」
「ひぃぃ!!」
 一瞬、一瞬のうちに彼は後方へ吹き飛び気絶した。
 その体には無数の刃の傷があった。音速を超える斬撃……それを繰り出し、いつ抜いたともわからない剣を鞘に納めると、光は笑顔でこう言い放った。
「村を占拠するなんて相当な悪者だなぁ。全部ブッ倒さないとなぁ、ははははは!」
 傍から見れば、どちらが悪人かわからないだろう。その高笑いはより多くの強奪者を引き付け……東門の警備を壊滅させるには、たったの数十分しか要さなかった。

「村を返せー!」
「返してくださーい!」
 ばたん! と勢いよく扉が開く。西と東の警備が奇襲を受けて怯んでいるその混乱に乗じて、芦原 郁乃(あはら・いくの)とパートナーの荀 灌(じゅん・かん)は家屋を堂々と見て回り、村人を探すことにしたのだった。
 しかし、その扉の奥には村人はいなかった。それどころか、三人の黒いマントを羽織った厳つい男と、これからアジトに運ぶであろう農作物のぎっしり詰まった荷車が一台置いてあるだけだった。
 男たちは、二人のその容姿を見るや否や笑い出し、うち一人が立ち上がって言った。
「はっはっは! 何者かと思えばただの女じゃねぇか! しかも幼女だ幼女。どうしたんだいお嬢ちゃん? お兄さんたちにそういう趣味は無……」
「村を返せって言ってるんだっ!」
「ごふぁっ!!?」
 へらへらと笑って歩み寄っていた成人男性が一人、その鳩尾付近を思いきり殴られる。
「子どもと思って甘く見ないでください」
「これ以上痛い目を見たくないんだったら、さっさと村を開放して出て行け!」
「野郎……なめ腐りやがって! おいおまえら! やっちまうぞ!」
「「おう!!」」
 うおおおお! と雄たけびを上げながら襲い掛かる男たちを見て、郁乃と灌の目の色が変わる。
 ―――二人は彼らよりも遅く剣を抜き、彼らよりも早くその剣を目先に突き付けた。
「さっさと村を返せ。これで三度目だよ?」
 少女は剣に力を込めつつそう言う。男たちは途端に弱腰になり、小さく悲鳴を上げてから逃げるように家屋から出て行った。
「ふぅ……。食べものはあったけど、村の人は居ないね」
「そうですね……。他の家を探してみましょう」
 素早く気持ちを入れ替えた少女たちはまた家屋を出て、口々に村を返せと言いながら家屋を巡り始めた。

 その二人と手分けをする形で家々を見て回っているのは、ウィル・クリストファー(うぃる・くりすとふぁー)とパートナーのファラ・リベルタス(ふぁら・りべるたす)ルナ・リベルタス(るな・りべるたす)である。
 彼らは侵入した西側から目につく家を一つ一つ調べて回っている。
「これで四軒目……ここでも無いようですね」
「……のうウィルよ。おかしいとは思わぬか? ダインスレイヴとは確か傭兵団の名称じゃ。なぜ傭兵団がこんなことをしているのじゃろう?」
「そうですね。何か裏が……」
「あ、危ない!」
 そのルナの声によって、三人は急いでいた足を止め、一瞬停止した。
 その瞬間だった。
 ルナがもう少し、後半歩でも前に歩いていたらそこに首があったであろう、その場所を、
 一つの白い光線のようなものが空気を歪めて駆け抜けた。
「おっとぉ、外しちまったか。こりゃ驚き。まともに動いてたら確実に当たってるはずなんだがねぇ……へへへへ」
「誰だ!」
 ウィルは凄んでその光線の元を見る。そこには見ず知らずの男……左腕を銃に支配された、薄ら笑いを浮かべる気味の悪い男が立っていた。
「ああ〜失敬。名乗り忘れていたねぇ。俺の名前はヤバル。ダグザ様にここを任された、誇り高きダインスレイヴの幹部さ」
 猫背気味の男、ヤバルはひひひと耳障りな音階で笑った。
 ウィルとファラは無言でルナの前に立ち、それぞれの武器に着手する。目の前の男は強い。明らかに他の団員とは異質で、異様な雰囲気を保っていた。
「っはは。そう構えないでくれよぉ! この『バイオガン』の軌道を曲げるのが大変だろう?」
「バイオ……ガン……?」
「ああ、そうそう。こいつはうちの組織の特産品でねぇ、使い手の思い通りに弾丸が曲がるのさぁ。例えば?」
 ヤバルと名乗った男は左腕を上空に構える。直後、ドウッと言う音を立てて……光線は地面に穴を開けた
 ―――三人は唖然とした。光線であるが故に軌道は目で見える。しかしその軌道はまるで滝のように、打ち出されてすぐに緩やかに百八十度角度を変え、自分たちの足元へと潜って行ったのだから……
「こんな感じ! ははははは。いいねいいねぇそのこわばった顔。最高だよ、苦痛の与え甲斐があるよ……ひひ、ひひははは」
 その高笑いの消えない内に、ウィルはヤバル目がけて本気で拳を振りぬいた。
 余波で轟音が鳴り響き、土が爆ぜ、地面に亀裂が入る。しかし、ヤバルはそれをもう片方の生身の腕、たった一本で受け止めた。
「おいおい、死に急ぎすぎだよぉ君ぃ!」
「ファラ、ルナ! 早くここから逃げなさい! 早く!」
 ウィルは余念なく攻撃を繰り出す。まさに達人のそれと言った動きだ。だが、ヤバルの動きもまた達人のそれと言って差支えが無く……
「おや、なかなかどうして楽しめる。でも逃がすのはいただけないなぁ。これでおしまい。キヒ」
 ヤバル大きく距離を取ってバイオガンを構える。放たれた光線の軌道を見てウィルはスウェーするも、軌道自体が曲がって自分に進むのならば意味をなさない。
 その圧倒的な攻撃に被弾を覚悟した直後―――

「―――づ、ぐぅ―――ッ!」
 その光線はウィルの手前に割って入った、大きな影によってせき止められた。
 無限 大吾(むげん・だいご)である。彼は両手を大きく広げたその姿勢のままで前を向く。
「……打ち出された弾丸は、俺には見えない……だが、受け止める事は出来るッ!」
「無茶しすぎだよ! 大吾!」
 腹部で弾丸を受け止め、歯を食いしばって痛みを耐えている大吾の横に、すぐさまパートナーの西表 アリカ(いりおもて・ありか)が走り寄る。
「ここはボク達に任せて早く村人を助けてあげて!」
「大吾さん、アリカさん……ありがとうございます、ここは頼みました!」
 三人は急いで戦線を離脱する。そんなもの目に入らないといったように、ヤバルは心底愉快そうに笑った。
「ひゃはははハハハハハ!!! 何という気概、何という生きる意志! 心の力比べで俺のバイオガンが負けてしまったぁ! あはハハハハハ!」
「笑っている暇はないぞ!」
 大吾とアリカは二人がかりでヤバルに襲い掛かる。二人の手練れを前に、さすがのヤバルも片手で捌くとはいかなくなった。
 ヤバルはマシンピストルの弾丸を避け、刀をバイオガンで受け止めいなしつつ、ひたすら愉快そうに笑っている。
 ―――戦闘狂であり、根っからの異常者。それがヤバルの正体だった。

 このままじゃらちが明かない。またバイオガンを撃たれたら命の保証はない。そう思って焦る二人の前に、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が現れた。
「よくよく行動は見させてもらったわ、金の刺繍入り!」
 銃声と轟音の鳴り響く三人の戦いに、一瞬の静寂が訪れる。
「おおやおやおやぁ……また新しいお仲間かい? まったく楽しみが増えて嬉しいよ……」
「あら、そんなことを言っている暇があるのかな?」
 詩穂は剣を手に取り、ヤバルを見据える。ヤバルは左腕を右手で押さえ、思い描いた方向に曲がる光の弾丸を撃ち出した。
 詩穂はその弾丸を避ける。それでは駄目だ。弾丸はしめたとばかりにその方向に傾く。
 だが、当たるかのように見えた弾丸はしかし、ヤバルにとらえられない速度……物理法則の限界ギリギリの速さで軌道変更をした詩穂の横を掠め、あらぬ方向へ消えて行った。
「な、何ぃ!?」
 続けて放たれる弾丸を全て避け、軽々しくヤバルに近づき、ディスティニーソードをヤバルの腕目がけて軽く一振りした。
「あなたの動きは単調なの。だからたぶん、何年かかっても詩穂の事、倒せないと思うな」
「そ、そんなばかなあああああああ!!!!」
 ヤバルの腕にあった銃が銃身から真っ二つに切り裂かれる。ヤバルはそのあまりに理想から乖離した現実が受け入れられず、悲鳴を上げて泡を吹き、その場に気絶して倒れ込んでしまうことでしか自分の心を保てなかった。

「ありがとう、詩穂さん」
「助けに入るのが遅れてごめんねぇ。でもおかげで行動が予測できたの。ありがとう」
「さあ、後は村人を助けに行くだけだね!」
 言葉を交わす三人の横で、気絶したヤバルの腕の銃から何かが転がり落ちた。
 近寄って見てみると、それはトウモロコシだった。しかもドロドロに溶け、原型をとどめている部分は少ししかない。
 何故こんなものが銃の中にあるのだろう。あいにく三人にはその意味を考える時間が無く、その事象を心の隅にとどめたまま、村人の探索を再開することにした。