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リアクション
●夏の思い出に、みんなでロックフェスだ!
太陽も大分傾きかけてきた頃、砂浜の一角に周りからの砂が集められ、少しずつ盛り上げられていく。今からここで、有志によるロックフェスが開催されようとしていた。
「はぅ〜大忙しですぅ〜。砂集めにステージ作り、人手がもっともっと必要ですぅ〜☆」
日下部 社(くさかべ・やしろ)から会場設営の全権を委託された望月 寺美(もちづき・てらみ)が、砂浜を走り回って協力者を募っていく。
「……で、拙者たちはどうしてここにいるでござるか?」
「あ、あはは……多分、戦力として期待されたから、じゃないかなぁ……」
そして、協力者としてステージの作成に当たっている生徒の中には、椿 薫(つばき・かおる)と影野 陽太(かげの・ようた)の姿もあった。彼らは『のぞき部』の活動の一環として、『のぞき穴のある表彰台』を作成していたところ、その腕を見込んだ寺美に半ば拉致られる形で作業に放り込まれたのであった。
「ほらほら、突っ立ってないで働いたらどうだい!?」
「麻利愛殿、失礼でござるよ」
同じく作業に当たっていた柳馬 麻利愛(やなぎば・まりあ)とルードウィング・アルフォード(るーどうぃんぐ・あるふぉーど)にハッパをかけられる形で、薫と陽太も作業を始める。本来表彰台として使われるはずだったベニヤ板をステージの外枠として打ち込み、砂の圧力に耐えられる程度に固定する。陽太が用意した道具、そして薫の土木建築の特技により、瞬く間に骨組みが完成する。
「おぉ〜流石やなぁ〜。……なぁなぁ、ちょう作っときたい仕掛けがあるんやけど、手ぇ貸してくれんか?」
そんな二人の仕事振りを目撃した社が、『舞台下から飛び出してくる仕掛け』を作らないかと画策する。
「案自体は分かりましたけど、流石に僕たちだけじゃ人手が足りないと思いますよ?」
陽太の意見に、薫も同意するように頷く。もっとも彼の場合、のぞきのためにならないことは極力したくないからという理由もあったが。
「そっかぁ〜、ちょう残念やけど、そんなに時間かけられんしなぁ……」
「社さん、ちょっといいですか?」
腕を組んで唸っていた社が、離れた所にいた神裂 刹那(かんざき・せつな)とルナ・フレアロード(るな・ふれあろーど)に呼ばれてその場を後にする。瞬間、薫の目がキュピーン、と光り輝いたのが陽太には見えた。
「……陽太殿、やるでござるよ」
「えっ、な、何をですか?」
振り向いた陽太は、真剣な表情の薫に詰め寄られて思わず後ずさる。刹那の水着姿を目の当たりにした薫に、『巻かれたパレオを下からのぞきたい』という欲望が生まれた結果であった。
「陽太殿、拙者たちは何のためにここに来たのでござるか!?」
「そ、それは……『のぞき部』の部活動の一環として……」
「そうでござる。どんな時でものぞきを遂行するために、拙者たちは行動するのみでござる」
言い切って、薫が浮かんだ案を口にする。
「それでしたら作れなくはないですけど……バレないでしょうか?」
「バレることを気にしていてはのぞき部失格でござる。バレたらその時に考えればいいでござる」
「そ、そうですか……分かりました、僕もやります」
陽太が頷き、そして二人は新たな作業に取り掛かる――。
「海に行くっていうから、また怪しい物でも作るんじゃないかって心配してたけど、うん、真面目に働いてるわね。のぞき活動も引退するみたいだし、改心したのかしらね?」
着々と作業を進めていく薫を横目に、休憩を取っていたイリス・カンター(いりす・かんたー)が安堵の表情を見せる。その隣では、たくさんの食べ物を陽太から買い与えられたノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が幸せいっぱいといった様子で寛いでいた。
「後で差し入れでも持っていってあげようかしら。……楽しい催しになるといいわね」
返事の代わりにこくこく、と頷いたノーン、そしてイリスはこの時、薫と陽太の本当の目的を知る由もなかった――。
「ちょうそれはキツいんちゃうかな〜。この暑さやし、一本立てるだけならまだしも、維持するんは厳しいとちゃうんかなあ」
「そう、ですね……皆さんを疲れさせるわけにも行きませんし」
社の言葉に、刹那が若干気落ちした表情で応える。彼女の提案した『ステージ後方に、ステージに沿うように氷の柱を立てる』という案は、生徒たちだけの力では無理があるとの判断であった。
「ふーん、面白そうなことやってるじゃない」
声に振り向くと、カヤノを先頭として、セリシア、サラにセイラン、ケイオースと五精霊が揃い踏みしていた。
「……そや! 彼らに頼めば出来るかもしれないで!」
「えっ、ですが……」
社の言葉に首をかしげる刹那へ、カヤノの声がかかる。
「ま、そのつもりで来たんだけどね。セイランとケイオースがビーチバレーで負けて、ロックフェスの演出を頼まれたらしくって。あたいは面白そうだから付いてきたんだけど」
カヤノの発言の通り、セイランとケイオースは、ビーチバレーの勝負を挑んできた渡辺 鋼(わたなべ・こう)とセイ・ラウダ(せい・らうだ)に敗れた際、「ロックフェスの演出を手伝ってくれんか?」と声をかけられ、ここにやってきた次第であった。
「勝った負けたでここに来たのではありませんわ。わたくしたちは、あなた方の力になりたくてやって来たのです」
「皆で力を合わせて一つのことを成し遂げるのは、素晴らしいことだと思う。俺の力が必要だと言うのなら、出来るだけのことはしよう」
セイランとケイオースの言葉に、サラ、セリシアも頷く。
「皆さん……ありがとうございます」
刹那が精霊たちへ礼を言い、先程口にした案をカヤノへ伝える。
「オッケー、特大のを据えてあげるわ!」
髪飾りが消え、代わりに伸びた羽を羽ばたかせてカヤノが宙を舞い、両手に氷柱を生み出す――。
「はぅ〜、疲れましたぁ。後はバンドの皆に任せますぅ〜」
生徒と、そして五精霊の協力もあって、無事にステージが完成する。後方には陽の光を受けて煌く氷柱、そしてステージの左右と前方中心には、ボーカルやギタリスト、ダンサーが舞台下から飛び出してこれる仕掛けが用意されていた。
(……張り切って一つ多く作ってしまったでござる。……それにしても暑いでござるな)
(こ、これを耐えるのがのぞき部としての使命ですよね……)
仕掛けの下、微かに空いたのぞき穴の奥には、仕掛けを作った薫と陽太が汗をかきながら潜んでいた。
「みんな〜、盛り上がっとるか〜!」
代表として挨拶に上がった社を、割れんばかりの歓声が迎える。観客席に置かれていたメガホンが、早速便利アイテムとして利用されていた。
「こっからバンバン盛り上げていくからな〜! みんなちゃんと付いてくるんやで!」
社のその言葉を耳にしたルナが、ステージに控えていたサラとセイランに合図を飛ばす。
「サラ様、セイラン様、お願いします」
「心得た。……行くぞ、セイラン」
「ええ、いつでも構いませんわ」
サラが炎を、そしてセイランが光を操り、ステージの下から上へ、巻き上がる炎と光を生み出す。
「『メトロック』、開幕や〜!」
生徒たち主催によるロックフェス『メトロック』開催を告げる仕掛けに、観客の盛り上がりは既に最高潮を迎えていた――。