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リアクション
「一度こんなのに乗りたかったんですよね〜」
巨大なカメ型フロートに乗ってゆったりと波に揺られる上月 初芽(こうづき・はつめ)は思わず笑みを浮かべていた。
「みなさん、楽しそうですね。見ているだけで、至福の一時です」
楽しそうにはしゃぐ生徒達を見て、自分まで楽しい気分になっていた初芽。
ところが――
「ッキャア!? な、何ですかいきなり!?」
突然顔に何か冷たいものが飛んできて、フロートの上の初芽はバランスを崩し、飛沫を上げて海へと落ちてしまったのだった。
「くっくく、成功だな!」
慌てる初芽をビーチから眺める影があった。それは、パートナーの正宗・ランドール(まさむね・らんどーる)だ。
「ゆる族の拙者には、この灼熱の下は地獄だというのに……それを知ってか知らずか、楽しそうにカメさんフロートに乗って海の上をたたずんだ天罰だ!」
彼の手には、子供達が遊ばなくなったポンプアクション方式の水鉄砲が握られていた。
「くくくっ、ざまー見ろ!!」
邪悪な笑みを浮かべ勝ち誇っていた正宗だったが、このあと熱射病で倒れてしまう。天罰がくだったのは、彼の方だった。
「うふふ、クラゲさんみたーい」
仰向けになって浅瀬を漂うクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)は、のんびりゆったりと楽しそうであった。
「今日はお日様が気持ちいいですねぇ。上は日差しを浴びて、下は涼しくて……目蓋を閉じ、ゆらゆらゆらと楽しみましょう。遠くの砂浜から歓声が聞こえますねぇ、あれは騎馬戦の声かしら〜」
本当にゆったりとした時間が流れていく。
だが、流れているのは時間だけじゃなかった。
「お、お嬢様っ!?」
クエスティーナのために日傘を取りに行っていた、パートナーのサイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)は、砂浜で驚きの声を上げた。
「このままでは、ドザエモンですよ!」
なんと、クエスティーナ自身は気付いていないのだが、彼女は相当遠くの方まで流されていた。しかも、彼女ののんびりした性格では絶対に自分が流されていることに気付かないはずだ。
焦ったサイアスは、慌てて彼女のもとへ泳いで行き、驚かさないようそっと声を掛けた。
「お嬢様」
「あら、サイアス。どうしたの?」
「そろそろお昼ごはんにいたしませんか? 海の家に用意してありますので、一旦帰りましょう」
そう言って優しく手を取るサイアス。
だが、しばらく一緒に泳いだところで――
「ふぅ……今日は朝が早かったので、少し疲れましたわ」
どうやらクエスティーナは泳ぎ疲れてしまったようだ。
「仕方ありませんね……それでは、仰向けに浮いて下さい。後ろから抱えて泳ぎますから、力は入れないでください」
「うふふ、ありがとう」
嬉しそうな笑みを浮かべるクエスティーナ。どうやら、自分が救助されているというのに気付いていないようだ。
そんな彼女をみてサイアスは――
「まったく……困ったお嬢様ですよ、貴女は。ふふっ」
小さく苦笑したのだった。
「え? 砂で城を作りたい? 手伝ってもいいけど……まぁ、案外おもしろいかもな」
スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)は、パートナーのアレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)の願いにより、ビーチの砂を使って城を作ることとなった。
「で、どんな城を作るんだ?」
「えーっと、どうせなら旧王宮を作りたいです。アレナさんとエメネアさんから色々聞いて、それを参考に作ってみるというのはどうでしょうか?」
「なるほど、いい考えだな。それじゃあ、さっそく二人を呼んでくる」
アレフティナの提案に納得したスレヴィは、海の家へとエメネアたちを呼びに行った。
そして数分後――
「どうやら、私たちの力を借りたいようですねぇ……うぷぅ」
「だ、大丈夫ですか? まだ無理をしないほうが良いですよ?」
エメネアとアレナがビーチにやって来た。海の家でずっと休んでいたたエメネアは、そろそろ何か海らしい遊びでもしたいと思い始めていたので、スレヴィの誘いにはとても乗り気でやって来たのだった。
四人は何を作るかを話し合い、旧王家の礼拝堂を作ることとなった。理由は、巫女であるエメネアが一番知っている場所だからだ。
「くっ……砂で物を作るのは難しいな。絵とは全然違う」
「スレヴィさん、どうやら砂は水分が多すぎると崩れやすくなってしまうみたいです。乾いた砂を適度に混ぜてみてはいかがでしょう?」
「なるほど、いい考えだアレフティナ。適当な気持ちでいたんだけど、意外と楽しいな!」
「はい♪ 私もスレヴィさんと協力できて楽しいです」
スレヴィと初めて協力しあえたアレフティナは大喜びだ。
「コラァ! そこでグズグズしてたら日が暮れるですよぉ! うぷっ……」
「あ、あの、やっぱり無理はしない方が……」
結果として、旧王家の礼拝堂は完成した。その出来栄えは決して立派なものとは言えなかったが、四人は協力して得た達成感で大満足だった。
「う〜ん、みんなビーチバレーとかで忙しそうだなぁ……どうしよう?」
みんなんで楽しく遊びたいミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は、砂浜を一人でウロウロしていた。
一緒に遊ぼうと思っていた、パートナーの高島 恵美(たかしま・えみ)は――
「わたしは影から見守っておくよぉ」
と言って、早々に海の家へと入っていってしまったのだ。
「みんな、何かとやることがあって熱中してるな〜」
なかなか声をかけられないミーナ。
と、そこへ――
「あら、あなたもしかして一人ですの?」
「もしよかったら、一緒にお城作りでもしませんか?」
ちょうど砂の城を作り始めた九蘭 鈴音(くらん・すずね)と、パートナーの桃瀬 千早(ももせ・ちはや)が声をかけてきた。
「わたくしたち、これから誰にも負けない巨大な砂の城を作るつもりですの」
「それで、もしお暇でしたら一緒にどうでしょう?」
見れば彼女たちの手元には、作りかけの城が建っていた。
そして、誰かと楽しく遊びたいと思っていたミーナは――
「うん。私もまぜて!」
元気よく二人の城作りに参加したのだった。
結局、鈴音の計画していた城は、あまりにも巨大すぎて半分も完成しなかったのだが、三人は協力していく過程で仲良くなれたことに何よりも満足したのだった。
「あー、波ですぐ崩れちゃうー!」
波が押し寄せ、リア・リディル(りあ・りでぃる)が作った砂の城を崩していく。
「でも、諦めない! もう一度挑戦っ!」
城が崩れても諦めずに作り続けるリア。
だが、パートナーのアレニア・コーア(あれにあ・こーあ)はその行動がイマイチ理解できなかった。
「何故、先ほどから同じことを繰り返すのですか? すぐに消えてしまう物を作るなんて、無駄な気もしますが……」
小首を傾げるアレニア。しかし、リアはそれでも砂の城を作り続ける。
「全然無駄なんかじゃないよ? だって、楽しいもん。アレニアも一緒に作ろう? きっと楽しくなるよ?」
笑顔でアレニアを誘うリア。
そんな彼女の笑顔に、アレニアは何か感じたのか――
「……そうですね。色々お話しながら、一緒に何か作る。たしかに、そのこと自体が楽しいのかもしれませんね」
少しほぐれた様子でリアと一緒に城作りを始めた。
「では、私はここに防波堤を作りましょう。そうすれば、波の被害を食い止められるはずです」
「なるほどぉ! アレニア、頭いいー! よしっ、頑張ってすごいの作ろうね♪」
「はい」
こうして、二人は日が沈むまで城作りに没頭し、見事な砂の城を完成させたのだった。
「ふぅ……なんとか形になってき――ぬぁああ!? わしのアークダイカン城が!?」
ダイカン・アーク(だいかん・あーく)が一人でコツコツと砂で作り続けてきたアークダイカン城は、偶然コートを飛び出したビーチバレーのボールによって、見事原型を留めないほどに破壊されてしまった。
「くっ……この場所はいかん! 別の場所で作り直すぞ!」
そう言って、場所変えて再びアークダイカン城の作成を開始するダイカン。
しかし――
「ふぅ……なんとか形になってき――ぬぁああ!? わしのアークダイカン城が!?」
今度は騎馬戦の騎馬隊がやって来て、コツコツと作り続けてきたアークダイカン城は、ただの更地にされてしまった。
「くっ……この場所はいかん! 別の場所で作り直すぞ!」
そう言って、場所変えて再びアークダイカン城の作成を開始するダイカン。
しかし――
「ふぅ……なんとか形になってき――ぬぁああ!? わしのアークダイカン城が!?」
今度はスイカ割りに熱中していた生徒がフラフラとやって来て、コツコツと作り続けてきたアークダイカン城は、バットの一撃によって粉々に粉砕されてしまった。
「ぐぬぬ……エチゴはどこだぁ!? 人員をかき集めてくると海の家に向かったっきり、戻って来んではないかぁああ!」
そのダイカンのパートナーエチゴ・ヤー(えちご・やー)はというと――
「もし、そこなお兄さん。ちょいとコレでダイカン様の手伝いを……っえ? たこ焼き1パック、200G? いえ、わいは食べ物を食べにきたわけじゃ……え? おまけしてくれはるんどすか? そ、そんなら……1パックもらいましょか」
見事に海の家を満喫していた。
「うぅ……エチゴがおらずとも、わし一人の力で――ぬぁああ!?」
結局、ダイカンは日が暮れるまで創造と破壊の終わらない輪廻にたった一人でとらわれ続けたのだった。