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リアクション
『ねえリオ、もう帰ろう……? 人多くて怖いよ』
周りの熱気にオドオドした様子のフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)が、声援を送る十七夜 リオ(かなき・りお)に『声』で呼びかける。
『もうちょい! このバンドが終わるまで!』
しかし、目の前のバンド『DISORDER』に夢中のリオは、フェルクレールトの『声』をあっさり無視する。
『むぅ〜〜』
フェルクレールトが不機嫌を募らせる中、『DISORDER』の演奏が盛り上げりを見せていく。
「はーい、それじゃメンバー紹介、いってみよっかー!
ドラム、林田 樹(はやしだ・いつき)!」
赤髪をなびかせステージを盛り上げてきた少女、『ちぎのたくらみ』で外見年齢を15歳にし、化粧を施したファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)の紹介を受けて、樹がスネアドラムとバスの連打を披露する。徐々にテンポを落としていき、シンバルで一旦ドラムを止めて観客の反応を確かめた後、バスドラムのビートから再びリズムを刻み始めていく。
「キーボード、林田 コタロー(はやしだ・こたろう)!」
「みにゃしゃーん、げんきれすかー?」
コタローがキーボードの上を跳ね回って――演奏は彼のプログラムによる自動演奏――、観客にアピールする。
「ベース、テッド・ヴォルテール(てっど・う゛ぉるてーる)!」
「ギラつく夏! 火の恵みの季節だぜ!」
直後、舞台下から飛び上がるように現れたテッドが、お腹に響く音色を観客に届けていく。
「ギター、五条 武(ごじょう・たける)!」
「テメェら、アツくなってっかァ!?」
テッドと同じくステージに飛び上がって現れた武が、魂の叫びで観客に訴える。
「そしてボーカルはあたし、ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)! それじゃ最後の曲、『HEAT BEAT』、
みんな最後まで乗り遅れんなよー!」
まるで煽るような口調――言っている本人は恥ずかしいらしい――で観客の熱気をさらに高め、メンバーの演奏の中、ファタがヒルデガルド・ゲメツェル(ひるでがるど・げめつぇる)と武、テッド作詞の『HEAT BEAT』を熱唱する。
ギラつく太陽 夏の思い出
サラつく髪に 魅惑のボディ
ギラつく男 欲望の視線
ザワつく波は 誘惑の予感
ヤケドしたけりゃ寄ってきな
アタシが全て抱きしめる
ヤケドしたけりゃ抱いてみな
アタシは全て受け入れる
武とテッドがアイコンタクトを交わし、ピックに爆炎を纏わせ演奏を始めれば、ステージ後方からも幾度となく爆炎が巻き起こり、ステージを否応なく盛り上げていく。
「サラ、ちょっと張り切り過ぎじゃない? あたいが柱維持してるってこと忘れないでよね」
「ああ、済まない。友が楽しんでいる姿を見て、つい……な」
すっかり汗だくのカヤノの愚痴に、涼しげな顔のサラが申し訳なさそうに答える。
貴方がHEARTにBEATを刻み
私の体が燃え上がる
乱らに乱れて 刹那の愛情
私のHEARTがHEATしていく
火照りを鎮めてよ、ねえ
燃え尽きても良い 今この時だけ
アタシの全てを 燃やして 満たしてよ ねえ
ギターの余韻が響く中、惜しみ無い拍手と歓声がメンバーへと送られる。
「ありがとー! まだまだ盛り上がっていくよ!」
最後にファタが観客へキッスを投げた直後、ステージ後方でひときわ大きな爆炎が巻き起こり、演奏の終了を告げた――。