First Previous |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
Next Last
リアクション
●とある宿の大部屋
修学旅行で泊まりといえば、お決まりなのは枕投げである。
それは、例え異国の地の生徒であっても変わりはない。枕を投げるという一見単純な行為に、生徒たちは一喜一憂するのであった。
「トヨミ、これは一体どういうことですかぁ!?」
「エリザベートさん、細かいことは気にしちゃダメですよー。ほら、抱き枕より本物の方がいいと思ったんです」
「何の話かさっぱり分かりませぇん!」
「あ、勝負が終わるまでそこから動いちゃダメですからねー。変なことしようとする人には私がお仕置きしちゃいますからー」
「……よく分かりませんが、協力してやるですぅ。あなたたちぃ、トヨミを沈めてやれですぅ! トヨミは横に広いから当てやすいですよぅ!」
「……エリザベートさんの方が背が高いから不利ですよ? ……うう、でもこれ、言ってる自分が悲しくなります……」
リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)とベアトリス・ウィリアムズ(べあとりす・うぃりあむず)の用意した、とってもよく出来た等身大抱き枕……ではなく、魔法少女だからまあいいでしょということで急遽両軍の大将役に収まった飛鳥 豊美(あすかの・とよみ)とエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)を確保すべく、生徒たちが西軍と東軍、両方に分かれて相対する。
「「枕投げといえば修学旅行の恒例! みんなで楽しくやろう♪」」
左右対称に枕を構えたリアトリスとベアトリスの宣言で、試合が開始される。
「わっ、わわっ! 二人なのに一人? でも枕は二つ飛んでくる? きょ、強敵だね……!」
フラメンコを踊りながら枕を投げるリアトリスとベアトリスの攻撃に、玖瀬 まや(くぜ・まや)はしゃがんで枕を回避する。
(さーてとっ、レオちゃんどっこかな〜♪ 勝っても負けてもレオちゃんに百合園の制服着てもらうんだ〜♪)
捜索を開始するまやの視界に、執拗に周囲の様子を伺いながら少しずつ前進する平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)の姿が映る。
「レオちゃん、覚悟っ!」
先制攻撃とばかりに枕を投げるまや、しかしそこに割り込む人の姿があった。
「師匠、ボクの気持ちを受け取ってっ!」
抱き枕をバット代わりに構えた水鏡 和葉(みかがみ・かずは)が、まやの投げた枕を見事打ち返す。飛んできた枕はまやの僅か横を掠めた。
「来たね、和葉ちゃん……! まだ弟子の下克上を許すわけにはいかないっ!」
まやと和葉、二人の間に火花が散る。真っ向からストレート勝負のまや、対する和葉もホームラン狙いだ。
「じょ、冗談じゃないよ! あんなのに巻き込まれたらケガじゃすまないって!」
嫌な予感を察知したか、ニノ・パルチェ(にの・ぱるちぇ)が全力で安全な場所に避難する。ふぅ、と息をつくニノの前に、シルフィール・ノトリア(しるふぃーる・のとりあ)がやって来た。その手には小さめの枕を持って。
「ま、まさかシルまで……嘘だよね?」
「和葉様からアドバイスを頂きましたの。「シルの想いを込めて、ニノくんに枕を投げればいいんだよっ」……そんな、わたくしには恥ずかしくてできませんの」
と言いながら、ひゅん、とシルフィールが枕をニノへ投げる。
「って言いながら投げてるし!? うわっ、ちょっ、危な……! シル、僕に当てたら絶交だからね!」
その言葉に、シルフィールの手がぴた、と止まる。
「……そ、そんな、ニノ様、絶交だなんて……」
シルフィールの目に涙が浮かび始め、ニノがまずったか、と思った矢先、視界が真っ暗になる。
「ニノくん! シルを泣かせたらダメでしょ!」
「そう、ニノ、あなたが私の盾になってくれたのね……ニノ、あなたの事は忘れない……!」
まやの投げた枕を打ち返した和葉の攻撃が、ニノに直撃したのだ。何か声が聞こえた気がしながら、ニノの意識が遠くなる。
(……おかしい。まやの姿は確認できたけど、可憐の姿が見えない。ドSな二人が僕を狙ってこないはずがない……!)
自信にしていいのかどうか分からない自信を抱いて、レオが葉月 可憐(はづき・かれん)の姿を探す。
――瞬間、世界が漆黒の闇に包まれた。
「者どもかかれーっ♪」
可憐の声が聞こえ、西軍へ向けて無数の枕が投げられる。電気を消しに行った可憐に合わせて、東軍が猛攻を加え始めた。
「おっと、間違えてしまった。ま、持ち物を投げてはいけないというルールではなかったはずだしな」
手元にあった枕を投げていたはずの毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が、本人曰く『間違って』ペンギンを投げてしまう。しかもそのペンギンが爆発すると来たものだからたまらない。
あちこちで爆炎が生じ、プスプス、と煙を吐いた生徒たちが朝までぐっすり眠りにつく。
「……眠い」
一方ライラック・ヴォルテール(らいらっく・う゛ぉるてーる)はと言うと、既に半分以上眠った状態で枕と、眠っているので仕方ないとばかりにわたげうさぎを投げる。これまた何故か爆発するのだからたまらない。たちまち西軍の戦力が削られていく。
その時の彼女を見た生徒からは「すげえあの娘、寝ながら枕投げしてやがる……」という言葉が漏れたとか。
「えーん、ほのぼのだと思ったのにぃ!」
この状況は可憐が引き起こしたものだと勘違いしながら、アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が自棄っぱちで枕を投げる。
「マズい、このままでは……」
いつの間にか自分だけになってしまったレオの前に、和葉に師匠の格を見せつけたまやが現れる。
「レオちゃん、今度こそ覚悟っ!」
まやの投げた枕がレオの顔面にヒットし、レオが仰向けに倒れかかる所へ、跳躍した祠堂 朱音(しどう・あかね)がレオの顔面を踏み台に、枕をまやへ投げる。
「レオくん、君の勇気は忘れない♪」
直撃を受けて床に伏せるまやを背後に、とん、と足を着けた朱音がにっこり笑顔を浮かべる。
「な……何で……こんなことに……」
「ゴメンね〜、朱音ちゃんが是非ともレオを踏み台にしたいって言ってたから〜」
こちらもにっこり笑顔を浮かべる久遠乃 リーナ(くおんの・りーな)、どうやら二人組んでレオを囮にした様子である。
(何ともまあ……さて、私は今のうちに、枕を確保しておきましょうか)
パートナーの行為に少々呆れつつ、シルフィーナ・ルクサーヌ(しぃるふぃーな・るくさーぬ)が飛んできた枕を回収し、自軍の分として利用しようとしていた。
「うわー……等身大抱き枕が動くと思ったら、今度は爆発してるよ……」
「あ、あのー、私本物なんですけどー」
西軍本陣近くに陣取っていたセルマ・アリス(せるま・ありす)が、何だか凄い事態になっていくのを見守っていると、ミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)の姿がないのに気付く。
「……あれ? ミリィ、どこ行った? ……この状況だと放っておくとマズイかな。探すか……」
周囲から少しずつ捜索範囲を広げていくセルマ、一方豊美ちゃんの下には、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)と舞衣奈・アリステル(まいな・ありすてる)の姿があった。
「豊美ちゃんに予め大広間を別空間に複製してもらっててよかったねー。ただの枕投げじゃ終わらないかなーって思ってたし♪」
「あはは……皆さんの弾けっぷりはよく知ってますからねー。色々やっておかないと迷惑になっちゃいますからねー」
「ネーおねえちゃん、あたしたちもそろそろ行くのですよ。この抱き枕で勝利を、なのですよー」
舞衣奈が、秋葉原のショップで作ってもらったと思しき、自身が魔法少女に変身した時の姿をプリントした抱き枕を掲げる。ネージュの傍にもそれはあった。
「あっ、可愛いですねー。じゃあ魔法少女に認定しちゃいますねー」
どこからか取り出したノートに豊美ちゃんが舞衣奈を魔法少女に認定する旨を記載して、そして二人はそれぞれの抱き枕を武器に、壮絶な枕投げ? を繰り広げるのであった。
「ふふ、オルフェもマイ枕を持参してきたのですよ♪」
抱き枕による叩き合いがあちこちで繰り広げられている最中、オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)も持参した巨大なバナナ型抱き枕で、飛んできた枕を次々と打ち返していく。
「あー、いいないいなー、にゃーもバナナ持ってご主人と一緒に投げる投げるー」
その様子を見ていた夕夜 御影(ゆうや・みかげ)が、自分も一緒にやりたいとオルフェリアにせがむ。
「では、両端を持って、走って行くですよ♪ このまま本陣までまっしぐらなのです!」
「にゃー♪」
オルフェリアと御影が、抱き枕の両端を持って敵陣目がけて走る……すぐそばで、すっかりやる気満々の夕月 燿夜(ゆづき・かぐや)に手を焼いていた七姫 芹伽(ななき・せりか)を巻き込んですっ転んでしまう。
「にゃー、埋もれたにゃー」
「あはははは、御影ちゃん可愛い〜♪」
「笑ってないで助けるにゃー」
ジタバタ、と手足を動かす御影をオルフェリアが笑っていると、背後にオーラを感じて振り返る。
「……よくもやったわね? やられたからには黙ってないわ、覚悟なさい!」
「きゃー♪」
オルフェリアに反撃しつつ、そういえばこうして誰かと騒いだことなかったわね、と思い至った芹伽が、次の瞬間微笑んで、次の枕を投げる。
「ここどこー!? ルーマ、助けてー!!」
そして、セルマが探していたミリィはというと、大量に積まれた枕の下に埋もれて身動きが取れないでいた――。
「ここは通さないわよ? 良い子はそろそろ眠る時間よね!」
東軍本陣は、シア・メリシャルア(しあ・めりしゃるあ)とヴァーゼリア・リナリア(ばーじりあ・りなりあ)によって硬く守られていた。尤も、本陣のエリザベートは眠くなったのか、枕の一つを抱いてすやすや、と眠っていた。
「はぁ〜、校長先生可愛いですぅ。このまま持って帰っちゃだめでしょうか?」
そして、エリザベートに近付いてもふもふしようと企む咲夜 由宇(さくや・ゆう)だったが、後頭部にアレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)の一撃を喰らってうぅ〜、と頭を抱える。
「ははは、悪い由宇、手が滑った――」
直後、ひゅん、とアレンのすぐそばを枕が飛び荒ぶ。
「何するですかー!」
「わっ、ちょっ、待て由宇、何でそんな勢い良く投げられ――」
ぼふっ、といい音がして、アレンの顔面を枕が直撃し、そのままアレンは地面に伏せ、朝までぐっすりとお休みである。
「がははははっ!! 俺様の『MY枕』はこれだぜ!!」
そう言ってアリマ・リバーシュア(ありま・りばーしゅあ)が、枕と称して自分の腕と膝で次々と打ち返していく。
「キッキー!!」(おい、俺は枕じゃないって言って――!!)
しまいには、白いテナガザルの キキちゃん(しろいてながざるの・ききちゃん)や他のゆる族や人間までも投げ始める。
「もー! やり過ぎはダメですー!!」
もちろんその後、豊美ちゃんに『お仕置き』を喰らったアリマは、朝までぐっすりお休みコースであった。
「おら、寝てんじゃねぇ! 落ちるなら役に立ってから落ちろ!」
布団に隠れていたエミリオ・ザナッティ(えみりお・ざなってぃ)を、飛鳥 菊(あすか・きく)が蹴り飛ばして前線に放り込む。
「え、ちょ、なんでえぇぇ!?」
渋々前線に出てみたものの、枕の攻撃が尋常ではなかったので、エミリオは再び掛け布団で防御を試みる。その位置からこっそりパワーブレスをかけてみたエミリオは、直後菊のものすごい勢いで飛んできた低反発枕の直撃を受けて朝までぐっすりお休みコースと相成る。
「ふん、自業自得だぜ」
そのまま菊が、安眠枕やら低反発枕やらを武器に、敵陣へ攻めこむ――。
「あららー、皆さんすっかり眠っちゃってますねー」
結局、勝負はつかないまま、生徒たちが次々と眠くなってすやすやと眠ってしまった。
こうして勝負がつかないままウヤムヤで終わるのも、修学旅行の枕投げのお約束でもあった。
「すぅ……すぅ……」
「……ん……」
豊美ちゃんの傍では、ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)と高島 恵美(たかしま・えみ)が仲良く眠っていた。
「皆さんお休みなさいですー。……あ、エリザベートさんはちゃんとお返ししないとですね」
魔法でエリザベートをエリュシオンに戻して、部屋も元通りにして、最後にミーナと恵美に布団をかけてあげて、豊美ちゃんがその場を後にする。
心身ともにリフレッシュした生徒たちは、お土産を手にパラミタへの帰路についたのであった――。
First Previous |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
Next Last