空京

校長室

【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行

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【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行
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リアクション

 
 やがて日が落ち、鋭峰の下に青軍大将の岩造と赤軍大将のクレーメックが結果を報告する。
「……ふむ、面積では青軍の方が広いが、団員の働き振りは赤軍の方が優れている、か」
 報告によれば、青軍と赤軍は面積で計算すれば青軍の方が若干多く土地を清掃したことになっていた。
 但し、青軍は当作戦除外処分を受けた者がいるのに対し、赤軍は脱走を図った者がいたが後に連れ戻され、結果として規律が守られていると判定されたようであった。
「……よかろう。貴官らは今日一日、実によく働いてくれた。その働きぶりを評価し、貴官ら全員を温泉宿に宿泊することを許可する」
「ハッ、ありがたき幸せ!」
「早速、団員に伝えてまいります!」
 岩造とクレーメックが敬礼を交わし、すぐに両軍に作戦の終了と、今後の予定が伝達されていく。
「はぁ……このような場所で訓練と聞いて、一時はどうなることかと思ったけど、なんとか上手く収まりそう……なのかな?」
 忘れ物がないか、不要な物を置き去りにしていないか辺りを確認しながら、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)がほっ、と息をつく。下手をすれば地元民の反感を食いかねない事態に発展していたことを考えると、このまま終わってくれることが何よりの報酬ともいえた。
「それにしても、最初はムチャな命令をと思いましたが、まるで人が変わったかのような素振りでしたねぇ。団長に何かあったのでしょうか」
 作業を手伝う魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)の疑問は尤もである。自他共に厳しい鋭峰が、作戦変更のみならず団員全員を労うなど、そうそう考えられない。修学旅行というお祭り気分だからという理由は、鋭峰には当てはまりそうもない。
 というかそうであったなら、そもそも訓練などと言い出さない。
「理由は分からないけど……とにかく、観光客がこれからもこの戦場ヶ原を楽しんでもらえるようになってくれればいい」
「そうですな」
 二人が後始末を続け、そして教導団は戦場ヶ原における全作業を完了した。
「よし、撤収!」
 最後に鋭峰が号令を下し、教導団員が今晩の宿へと引き上げていく――。
 
「宿の中の規律は、ボクが守るのであります!」
 宿に辿り着いた教導団員は、自由行動を言い渡され思い思いの行動を取り始める。その中で孔 牙澪(こう・やりん)ほわん ぽわん(ほわん・ぽわん)は、まるで修学旅行における風紀委員の如く、いち早く室内着に着替え笛を持ち、荷物検査を開始する。
「あの、皆さんにお雑煮を振る舞おうと思うのですが」
「ダメです! 風紀を乱すものは、没収です!」
 クエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)サイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)が用意していた雑煮を、容赦なく二人が没収にかかる……が、雑煮から漂ういい香り(わざわざ関東風醤油と京都風味噌、二つ用意されていた)が、牙澪の胃袋に強烈に作用する。もはや一種の化学兵器だ。
「くっ……い、いいでしょう。特別に許可するであります! ……ボクにも一つ欲しいであります」
「ああっ、孔!?」
 クエスティーナから雑煮をもらい、牙澪が早速口にする。餅の他にも野菜や肉が盛られた雑煮は、栄養価も高そうであった。
「……ハッ!? こ、これは必要経費なのであります。今後の取り締まりを磐石にするためであります」
「……次、行きますよ」
 ぽわんに疑心の目を向けられつつ、牙澪が次の部屋へと向かう。
「皆様に湯葉料理を振る舞うのですよ」
「ダメです! 風紀を乱すものは、没収です!」
 オットー・ツェーンリック(おっとー・つぇーんりっく)ヘンリッタ・ツェーンリック(へんりった・つぇーんりっく)が用意していた湯葉料理を、今度こそ容赦なく二人が没収にかかる……が、またしても湯葉料理から漂ういい香り(味付け湯葉・湯葉の刺身・湯葉カレー・豆乳スープと豪華に取り揃えられていた)に加え、たまり漬けの香ばしい香りが、牙澪の胃袋に強烈に作用する。これまたケミカルウェポンだ。
「くっ……い、いいでしょう。特別に許可するであります! ……ボクにも一つ欲しいであります」
「ああっ、孔!?」
 オットーから湯葉料理をもらい、牙澪が早速口にする。大豆の成分が濃縮されているそれらは、栄養価も高そうであった。
「……ハッ!? こ、これは必要経費――」
「…………ちゃんとしてくださいよ?」
 もはやすっかり疑心暗鬼といった視線を向けるぽわんが、曲がり角に差し掛かった時、大量の教導団員の集団に巻き込まれる。
『宴会だヒャッホー!!』
「み、皆さん、廊下は走っては駄目ですよ」
 上機嫌で温泉に向かっていく一行を、夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)デュランダル・ウォルボルフ(でゅらんだる・うぉるぼるふ)が追いかける。そして後には、無数の足に踏まれてすっかりぺしゃんこのぽわんの姿があった。
「ぽ、ぽわん!?」
「…………」
 返事がない、どうやら精魂尽き果てたようだ。
「……ボクも本当ははしゃぎたい……」
 後でこっそり温泉に入ろうかな、そんなことを思う牙澪であった。
 
「……うむ、少し、湯あたりしたか」
 浴衣姿で、顔を少し赤くした鋭峰が一人、夜風に当たっていた。
「教導団を預かる者とは思えない体たらくね。ま、たまにはそういう姿もいいと思うけど」
「……何用か」
 そこに現れたミツエに、鋭峰が無下にせず、さりとて親しくせずの態度を向ける。ミツエの立場のこと、自らへの無礼のことが態度にそのまま出ていた。
「別に、大した用じゃないんだけどね。ちょっと面白い物手に入れちゃったから、見せておこうと思って」
 言ってミツエが、一枚の写真を鋭峰に見せると、それまで平静を保っていた鋭峰が途端に取り乱す。
「な、どこでその写真を――」
 ミツエが手にしていたのは、瑠樹が日光大江戸村で撮った写真を、本人たちのお咎めなしを融通する代わりにとショコラが買い取ったものであった。相手の女性の顔は映さず、しかし『鋭峰が日光大江戸村で女性とデートしている』という場面が分かるようになっていた。
「それは言えないわね。ま、これを私が手にしたからといって、何かを迫るとも限らないし。とりあえずこれ持ってるから、とだけ言っておこうって思って」
「ぐっ……!」
 鋭峰の顔に、明らかな憤怒の感情が浮かぶ。
 一方のミツエは涼しげな顔で、じゃあね、と言ってその場を去っていった――。