空京

校長室

【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行

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【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行
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リアクション

 
●日光:日光大江戸村
 
 日光大江戸村は、日本の江戸時代中期の町並みを再現し、忍者活劇や華麗な花魁道中などのアトラクションが呼び物のテーマパークとして、観光客を楽しませていた。
 マスコットキャラクター『みょんまげ』が出迎える中、生徒たちは園内での一時を満喫していた――。

「まことの江戸はもっとも殺伐としていんす。物陰、屋根、地面、あらゆる場所から刺客が命を狙ってありんすぇ」
「そ、そうですか……江戸とはそれほどまでに物騒だったのですね……」
「なるほど、ということは、一見普通の住民に見える彼らも、一度刀を抜けば熟練の技で「切り捨て御免!」……なのですか?」
「そうでありんす! それでこそまことの江戸でありんすぇ」
 大江戸村の町並みを歩きながら、ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)の持つ知識を少しでも会得しようと、話を聞く透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)に向かって、ハイナが自前の見解に基づいた江戸の様子を長々と語っていた。
「……なぁ、あれ絶対間違ってんだろ。そんなに物騒な街だったら、ここで言うように二百数十年も持たねぇ」
「そうでござるな。……総奉行はアメリカの西部時代と勘違いなされているのではござらんか?」
「オウ! 言われてみればそんな気がしますネ!」
「ふむ、彼の者には後で助言を――むっ!?」
 ハイナの話にあれこれツッコミを入れつつ、一緒に行動していた丹羽 匡壱(にわ・きょういち)真田 佐保(さなだ・さほ)ティファニー・ジーン(てぃふぁにー・じーん)ゲイル・フォード(げいる・ふぉーど)たちだったが、ふとゲイルが何かの気配を感じ一行の先頭に立つ。
「そこに隠れているのは分かっている、出てくるがよい。さもなくば……」
「おいおい、マジで総奉行の言う通りになっちまったってか?」
 匡壱が呟いた直後、気配が動き、何かが一行の足元目がけて飛んでくる。地面にトス、と刺さったのはくない手裏剣、その輪になっている部分には紙が挟まっていた。
「何かメッセージを残していきましたね」
 佐保がそれを拾い上げ、紙に書かれた内容を読み上げる。
 
『ゲイル・フォード殿
 
 おぬしに勝負を申し込む。
 忍者屋敷にて待つ。
 
 式丞 智知丸(しきじょう・ともちかまる)
 
「オウ、果たし状デスネ!」
「どうする、相手は同じ学校の生徒だぜ。ここは本物の忍者としていっちょ、腕を見せてやったらどうだ?」
「……そうでござるな。ちょうど総奉行の話にも聞き飽きてきた頃。同じ生徒同士、交流するのもよかろう」
「じゃあ決まりでござるな。忍者屋敷はこっちでござるよ」
 一行が、忍者屋敷へと足を運ぶ。そして、彼らが通り過ぎるのを屋根の上から見届けた葉月 ショウ(はづき・しょう)が、物陰に潜む葉月 フェル(はづき・ふぇる)に頷いて、懐から手裏剣を構える。
(ハイナ・ウィルソン、その首もらった!)
「……ん? 総奉行! お控えください!」
 投じた手裏剣は、ハイナの眼前でそれを察した透玻と璃央によって弾かれる。
「さあさあ、切り捨て御免だよ!」
 同時に、新撰組のコスチュームに身を包んだフェルが、刀を抜いて迫ってくる。
「は、ハイナ殿、こここれはあのその、辻斬りというやつですかぁ!?」
「葉莉、ハイナ様、ここは危険です、下がられた方が……」
 突然の事態に、土雲 葉莉(つちくも・はり)があわあわとした様子で樹龍院 白姫(きりゅうりん・しろひめ)に抱きつき、白姫はハイナに下がってもらうようお願いする。
「わっちに刀を向けることがどういう意味か……その身体に教えてあげんす!」
 一歩、二歩と歩を進め、差していた刀に手をかけたところで、横から一人の声が飛ぶ。
「おおっと、ちょっと待った。お奉行様はここでな、「この桜吹雪、散らせるもんなら散らしてみろぃ!」っつって桜吹雪を見せつけてから刀を抜くって決まりがあるんだぜ」
 瀬島 壮太(せじま・そうた)の言葉に、ハイナが刀にかけていた手を一旦引き、片肌脱いで(というより既に脱げているが)、啖呵を切る。
「こなたの桜吹雪、散らせるものなら散らしてみなんし!」
(くっ、な、何!? 身体から、力が抜けるにゃ……)
 飛び込む桜吹雪と、豊満に揺れる胸の威圧を受けて、フェルが気落ちしたようにどさり、と地面に膝をつく。武力以前に二人の勝負は、胸の大きさで決していた。
「……で、実際その話は本当なのかしら?」
「ま、時代劇の話だ。しかも大分端折ってるがな。ちょうど丸く収まったみてぇだし、一件落着ってとこだろ」
 フリーダ・フォーゲルクロウ(ふりーだ・ふぉーげるくろう)に問いかけられた壮太が真相を口にして、そして二人は見学へと戻っていく。
 
「くっ、負けたでござる……」
「だから言うとんに。それにしても、ゲイルはんの鮮やかなお手並み、流石どすなぁ」
 智知丸との勝負を終え、伊達 黒実(だて・くろざね)の賞賛を受けながら、ゲイル一行が江戸の町並みを歩いていく。事実、自身の努力によって葦原藩の下忍に取り立てられるまでになったゲイルの身のこなしは、まさに忍者そのものであった。
「某もまだまだ修行が必要でござるよ――」
 直後、一行を阻むように人の壁が見えてくる。
「む、何の騒ぎであろうか」
「ちょっと見てくるでござるよ」
 佐保が行き、周囲の人たちに話を聞いて戻ってくる。
「向こうで何か、明倫館の生徒が『ライブ時代劇』というのをやってるそうでござる。ちょうど殺陣のシーンみたいでござるよ」
「オウ、斬り合いデスネ! チシブキデスネ! クビハネデスネ!」」
「……そんな物騒なことにはならんと思うが……一応様子を見ておくか」
 一行が人混みを抜けて、舞台を見通せる位置につく。佐保の言う通り、着物姿の生徒が数名、多種多様な武器を抜いて殺陣を演じていた。
「な、なんだこの紙吹雪は……ぐわぁ!」
 辺りを舞う紙吹雪に注意を取られた所へ、舞うように近付いた橘 柚子(たちばな・ゆず)の振るった扇が走り、悪人の息の根を止める。
「……最期に綺麗なもん見て死ねるは、幸せどすえ」
 パタ、と扇を閉じて柚子が告げる。
「くっ……な、なぜこんなことに……」
「申し訳ございません、勝手ながらご協力願いました。勝手続きで恐縮ですが、あちらにお部屋をご用意いたしましたので、今からはお連れの方とどうぞ心ゆくまでお楽しみ下さい……」
「ええっ!? そ、そんな、お楽しみだなんて……ボクだってその、嫌いじゃないけど……でもでも、こういうのって勧められてすることじゃないと思うし……ハッ!? それだとボクが好きでやってることになっちゃう!? ……はうぅ、どうしよぉ……」
 江戸村に観光に来ていた所を、いつの間にか悪人役になっていたカルナス・レインフォード(かるなす・れいんふぉーど)に謝罪して、天乙 貴人(てんおつ・きじん)がカルナスとアデーレ・ローエンハイト(あでーれ・ろーえんはいと)を用意した部屋へと誘う。
 その後中から「あーれーお代官さま〜」「よいではないかよいではないか」などといった声が聞こえてくるが、その内荒い息遣いが聞こえてきたところで人の喧騒に紛れてしまった。
「あれ、いつの間にか紐が――!!」
 首筋に絡みついた紐が、悪人が見た最期の物だった。そのまま彼は吊り上げられ、しばらくの後に弛緩しきった姿を晒すこととなる。
「この鈴の音が、あなたを冥府へ誘うでしょう」
 リン、と鈴を鳴らして、紐を回収した十六夜 朔夜(いざよい・さくや)が告げる。
「な、なあ雅彦……俺、何しようとしてたんだっけ……?」
「あーあれだ、大江戸村だしな、いきなり襲われることだってあるだろ」(よし、どうやら忘れてくれたようだな)
「あ、あの、ごめんなさい、いきなり巻き込んでしまって」
「いや、いい。こちらも中々楽しめた」(それに、こいつに頭を悩ませることもなくなったしな)
 ムクリ、と起き上がり、直前のことを忘れてしまった様子のリー・カイファ(りー・かいふぁ)を見遣って、「ほらあの帯をくるくるーってほどくヤツ! 後で二人っきりでやろう!」と迫るカイファをどうしようか悩んでいた高津 雅彦(たかつ・まさひこ)が仏頂面ながら気分よく頷き、突然の事態に巻き込んでしまったことを謝る小鳥遊 花梨(たかなし・かりん)に答えて去っていく。
「闇に咲いた徒花は、散るが……運命」
 蒼い光を放つ刃を収め、九頭 御影(くがしら・みかげ)が決まった、といった様子で告げる。
「残念だったな、そいつは偽者……本物はこっちだ!」
「何――!!」
 しかしその直後、忽然と現れた沖田 聡司(おきた・さとし)に虚を突かれた形で、刀の一撃を受けた御影が地面に崩折れる。
「……雫……話が違う……どういうこと……?」
「それはこっちの話ですぅ……ま、まさかわたくしを影武者に仕立て上げるなんて、なんということ……」
「一芝居打たせてもらいましたわ。……ああ、約束通り甘味処食べ放題の件は手配しておきましたので、ご存分にお召し上がりくださいませ」
「本当……? ありがとう……」
 甘味処食べ放題、と聞いて即座に復活した御影が、エリス・ヴァイシャリー(えりす・う゛ぁいしゃりー)から渡された案内書を手に意気揚々と向かっていく。
「あぁ、御影、待つですー」
 そして、あわよくば役者の女の子と仲良くしようとしていた村雨 雫(むらさめ・しずく)が、しかし願い果たせず残念といった様子で御影の後を追う。
 そんな舞台裏がありつつも、企画された『ライブ時代劇』は無事幕を降ろし、役者たちは聴衆者から拍手を以て迎えられる。
「皆はんも役者としてどうどすか?」
「そんな、拙者はこういうの向いてないでござるよ」
「俺は面白そうだと思ったぜ。佐保、ちょっとやってみようぜ」
「ゲイルはどうするデスカー?」
「私は、貴殿らの活躍を見守らせてもらおう」
 そして、柚子の誘いにより、佐保と匡壱、ティファニーを役者に加え、再びライブ時代劇の幕が開けようとしていた。