空京

校長室

【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行

リアクション公開中!

【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行
【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行 【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行 【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行 【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行

リアクション

 
 修学旅行の一つ目の行き先は、日光。
 趣を感じさせるこの地で、生徒たちは思い思いの時間を過ごしていた――。
 
●日光:鬼怒川温泉街
 
 日光市を流れる『鬼怒川』、その両岸は古くから温泉地として、訪れる観光客の心と身体を癒してきた。
 現在では周囲一帯を『鬼怒川温泉街』と称し、日光の一大観光スポットとして人々に親しまれている――。
 
「かぁー、いい湯だ。こう、身体の中から疲れが滲み出ていくのを感じるな」
 露天風呂に浸かりながら、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が上気した頬をほころばせる。ソフィア・エルスティール(そふぃあ・えるすてぃーる)と共に、現地をよく知るガイドや住民から情報を得た結果、『知る人ぞ知る』秘湯に辿り着いた二人は、そこで一時の極楽を満喫していた。
「パパ、お酌しますね。どうぞですよー」
 ソフィアが、風呂に浮かべた桶から徳利をラルクに差し出す。
「おっ、すまねぇな。……かぁー!! たまんねぇな、こりゃあ」
 一気に飲み干したラルクの顔が、まるで猿のように紅く染まる。
「のぼせないように気をつけてくださいねー」
「あぁ、そうだな……っと、後で大学のヤツらに土産でも買っておかねぇとな」
「そうですね、どんなお土産にしましょうか……あら?」
 近くでガサガサ、と音がしたかと思うと、ひょこ、と頭を出したのは、タヌキだった。
「わー、可愛いですー。……ふふ、お土産はタヌキのアクセサリーにしましょうか」
「おいおい、可愛過ぎやしねぇか? ……ま、ソフィアがそれでいいってんなら構わねぇけどな」
 珍客を交え、二人の幸せな一時が過ぎていく。
 
「ここの温泉の効能は……あら、美肌ってあるじゃない。ふふ、じゃあよーく浸かって、お肌すべすべにならないと」
 立て看板で温泉の効能を確認したフォルトゥーナ・アルタディス(ふぉる・あるたでぃす)が、妖艶に微笑んで温泉に身を沈める。
(……あら、視線を感じるわね。混浴ってこともあるけど、あたしの身体をただで見せるとでも思って?)
 視線の方角へフォルトゥーナも視線を向けると、湯気の向こうでジャポン、と水飛沫が上がる。どうやら慌てて潜ったようだ。
(もう、肝が小さいわね)
 少しの落胆を含んだため息をついたところで、遅れて神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)が温泉に身を沈めるのが見えた。
「もう、遅かったじゃない。怖気付いて入ってこないのかと思ったわ♪」
「ええ、少し手間取りまして――あっ、こら、何を」
 翡翠が振り返るや否や、フォルトゥーナの手が翡翠の肩に伸びる。
「うふふ♪ 翡翠はここが弱いのよねー。……んー、ちょっと凝ってるんじゃない? もっと肩の力抜いて、楽に行きましょうよー」
「そ、そんなこと言われましても――ですから、そこはっ」
 本気で抵抗しないのをいいことに、本人曰く『スキンシップ』を続けるフォルトゥーナ。
 そのじゃれ合った様子は、何とも微笑ましいカップルにしか見えなかったとか。
 
「はぅん、ぬくぬく……」(確かに、理沙の言う通りかもしれませんね……)
 恐る恐る温泉に身を沈めたセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)が、直ぐにその気持ち良さに表情を緩ませる。『日本の旅行は温泉』と言い張る五十嵐 理沙(いがらし・りさ)の言葉を、今なら信じられそうな気になっていた。
(何か出て行きそうな気分ですわ……ここでマッサージでもすれば、もしや……)
 何かを思い立ったセレスティアが、自分の二の腕辺りを手でむにむに、とマッサージし始める。
(ここの余分なお肉ちゃんも、出て行って欲しいですわ……)
「……隙ありっ!」
 腋が開いたその時を狙っていたかのように、背後から理沙がセレスティアの胸をむにっ、と揉む。
「あっ、理沙、何を――んんっ!」
「んー、また大きくなったんじゃない? セレスティアだけ不公平よ、このお肉も一緒に出て行っちゃいなさい! そしてそれを私が回収……ふふ、完璧ね!
「理沙、言ってることが無茶苦茶――いやんっ、そんなところまで――ああんっ!」
 なおも続く理沙の責めに、身体をびくり、と震わせながらセレスティアが喘ぐ。
 その様子を湯気越しに覗き見ていた幾人の観光客が、ブクブクと泡を立てながら沈んでいったのは、二人には知る由もなかった。
 
「ふわー、最高っ。星も綺麗、月も綺麗……」(そして、桃花も……うーん、綺麗だけど、なんかこう、羨ましいというか妬ましいというか……)
 温泉の中でうーん、と身体を伸ばして目を細める芦原 郁乃(あはら・いくの)が、隣に同じく身を沈める秋月 桃花(あきづき・とうか)の白く透き通るような肌、柔らかく豊かな胸、細くくびれた腰から太腿にかけて流れるラインを思い返して恍惚に浸る。
(うん、でもいいんだ! 今日の映像は永久保存だもんねっ)
 ふふふ、と微笑む郁乃、そんな彼女を見つめる桃花も、幸せそうな表情を浮かべていた。
(はぁ……郁乃様の肌が、ほのかにピンク色に染まって、それが月夜にきらめいて……あぁ、なんでしょう、この思わず抱きしめたくなってしまう感情は)
 身体を突き動かさんばかりにのたうつ衝動の影響か、桃花がいえいえそんな、とかいけませんわ、とか呟きながら少しずつ、郁乃との距離を縮めていく。もう少しで手が届くといった距離まで来たところで、郁乃がすっ、と口を開く。
「今度は二人で来ようね」
「……はい、ぜひ来ましょう」
 ちょっぴり残念な気持ちと、また今度があるという嬉しさに桃花が身を震わせる。
 そして、二人は肩を並べて幸せな一時を過ごしていた。
 
「あら、これは……」
 温泉に足をつけたエルサーラ サイジャリー(えるさーら・さいじゃりー)が、意外といった様子でそのまま身体を沈めていく。
(日本はセカセカして狭いとばかり思ってたけど、そうでもないのね。見直したわ)
 広々とした温泉の中でぐっ、と手足を伸ばすと、すっ、と気持ちがほぐれていくかのような気にさせられる。
「ほら、ペジェも入りなさいな」
「あっ、ぼ、僕はいいよ。エルが気持ちよさそうにしてるのを見てるだけで十分だよ」
 隣にいたペシェ・アルカウス(ぺしぇ・あるかうす)を、恥ずかしがっていると勘ぐったサイジャリーが温泉の中へ誘うが、ペジェは頑なに入ろうとしない。
「温泉は皆で入るもの、と教わりましたのよ。さあ、いらっしゃい」
「そ、それはそうかもしれないけど――うわっ!」
 立ち上がったサイジャリーに手を引かれ、ペジェが温泉の中に入る――というよりは転げ落ちる。
「ああっ、お湯、お湯があぁぁ……」
「気持ちいいでしょう? 私、すっかり気に入ってしまいましたわ……ペジェ?」
 ふとサイジャリーが視線を向けると、そこにペジェの姿はなく、ポコン、と気泡が水面に弾けるのが見えた――。
 
「もう、駄目なら駄目とおっしゃいなさい」
「う、うぅ……死ぬかと思ったよぉ……」
 危うく溺死しかけたペジェを介抱しながら、サイジャリーがきつい口調の中にペジェへの配慮が至らなかったことへの謝罪を含ませて呟いた。