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リアクション
ツーク.・ツワンク出航
「ウッウウウッウッッッッッしゅっ出発ッ!」
面舵を切り、サイコロ ヘッド(さいころ・へっど)が妙な出航の合図をする。大型飛行艇がゆっくりと花妖精の村の空に浮かんだ。
「皆様ぁ、ツーク・ツワンクにご乗艇いただきぃ、ありがとざまぁすぅ。これからぁ皆様の旅のお供になるナガァンでぇすぅ」
ツアーの主催者であるナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が道化姿で挨拶する。ガイド役のつもりだ。
「この船はアズ、佐伯 梓(さえき・あずさ)が船長でぇす。副船長はカリーチェ・サイフィード(かりーちぇ・さいふぃーど)ですぅ」
「飛空艇の所有者で船長? 艇長? だよ。よろしくー」
「えへへ、快適な旅になるようにがんばるわねっ」
梓とカリーチェも皆に挨拶する。その二人の姿をシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)がポラロイドカメラで撮る。
「舵取りはぁサイコロ ヘッドが努めておますぅ、長い旅になりますがどうぞよろしくお願いしますぅ」
ナガンは道化らしくお辞儀をした。
「なー船長、ナガンとは恋人なのか? 女同士みてぇだが……」
「ちょっと、リョージュくん何聞いているの!?」
白石 忍(しろいし・しのぶ)はリョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)が失礼な質問をしたことに頭を下げた。
「イエスぅ。アズとは毎夜ファビュラスマックスしてますぅ」
ナガンは忍をからかうように答えた。彼女の顔が赤くなる。
「それはちょい残念。あ、お友達なら俺いいすか?」
「抜け目無いですね。君は」
ユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)がシャウラの素行に呆れていた。
「すみません……この船、本当にタダの乗ってよかったんでしょうか?」
オジオジと忍がナガンに訊く。
「ええ勿論。ただぁ行く宛も分からない気ままな遊覧の旅でございますぅ。当船は帰りのことを一切をかんがえておりませぇん」
ナガンの答えにデイビッド・カンター(でいびっど・かんたー)が唖然とした。ただより高い物はないとはよく言うが、まさか片道切符の乗船と成るとは思いもしなかった。
「ちょっと待て、オレらの身の保証とかそういうものはどうするんだよ!」
無論、そんなものはない。乗船料金がタダなので保険も掛かっておりません。
それに案内板にはちゃんと小さく『※何がっても全て自己責任でお願いします』と書いてあります。
「まあまあ、それも楽しそうじゃない? どっちにしろ右も左も分からない世界に行くんだ、慌てても仕方ないよ」
椅子に腰掛け、ハルディア・弥津波(はるでぃあ・やつなみ)がデイビッドを宥める。
「そうでございますよ。落ち着くためにお紅茶は如何でございますか? 菊様にお願いしてお菓子も用意してございます」
聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)がデイビッドの手にティーカップを差し出し、テーブルにつかせる。
「そうだそうだ。細かけーことぁいーんだよ。俺様にもお茶を入れてくれ」
椅子にドカッと座って、南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)は悠然と構えた。これも遊びと思えば、なんてことはない。むしろ心躍る。
テーブルクロースにはガラスの灰皿が置かれていた。雑用のキャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)が風でテーブルクロースが飛ばないように置いたものだ。ただし当船は禁煙でございます。
「なぜキャンティちゃんが雑用なんてしなくてはならないんですの〜」
愚痴をこぼしながら、厨房よりクッキーを甲板に運んでくる。一つつまみ食い。
甲板に出ると、ツーク・ツワンクはゲートの境目を潜るところだった。
キャンティはクッキーを置くと、デジカメで船内から風景を写真に撮った。殺風景な風景が広がったが、船腹から近未来都市が見えた。
「とりあえず、あそこに見える都市に行こうかー」
「そうね。上空から街の上を遊覧だね」
梓とカリーチェが方針を決める。はじめの目的はそこになった。
が、甲板からみえるのは、未来の都市だけはなかった。
目の前では調査部隊のイコンと謎の飛行物体の攻防戦が始まっていた。流れ弾が甲板に被弾した。
「死んだら祟ってやりますわ〜〜〜!!」
キャンティは悲鳴を上げた。
「む――、これはヤバイな……お疲れ様でしたァ」
「おい、待て――」
一人先に逃げようとする無責任なガイドは取り押さえられました。