空京

校長室

重層世界のフェアリーテイル

リアクション公開中!

重層世界のフェアリーテイル
重層世界のフェアリーテイル 重層世界のフェアリーテイル 重層世界のフェアリーテイル

リアクション


イコン防衛戦

「洋さま、無線開放しました!」
乃木坂 みと(のぎさか・みと)は{ICN0003067#シュトルム・ブラゥ・イェーガー}の無線を解放する。
 相沢 洋(あいざわ・ひろし)がオープンチャンネルで呼びかける。
「迎撃機へ、こちらには交戦の意思はない。繰り返す、交戦の意思はない。そちらの所属を答えられたし。こちらシャンバラ教導団少尉、相沢洋だ」
「未確認機発泡。距離至近!回避を!」
 謎の飛行物体の物体――、いや明らかに何かのイコンにからの攻撃を緩ロールで避け、呼びかけをする。しかし無人機のごとく応答が帰ってこない。
 それどころか、あれから向こうも増援を読んだらしく、次々と黒い靄が不気味に虚空を裂いて収束する。そのどれもに通信を通しても、返事がない。代わりの銃弾ならいくらでも返って来た。
「俺は、天御柱学院に所属している、{ICN0003454#ヒュドラー01}のパイロット轟 ハイドラ(とどろき・はいどら)様だ! 返答しやがれ!」
「どう呼びかけてもダメみたいだよ、ハイドラくん。交戦するしか無いよ!」
 斬 アダマス(ぜっとえぬ・あだます)はそう思う。このままじゃ防戦一方でツマラナイと。
『しかし、撃墜はマズイです。威嚇射撃に留めて下さい』
 ヒュドラー01動きを察知し、御凪 真人(みなぎ・まこと)は直接攻撃を辞めるようアダマスに伝える。
 準備チームが通信インフラを整えたお陰で、無線の感度も良好。データ通信で各機体の情報も戦闘区域内では連動できていた。
「とにかく今は、回避に集中して相手の情報を集めましょう」
「了解。一定の距離で付かず離れず動いてみるわ」
 アイテール 飛行形態を操り、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が旋回を開始する。洋分析を開始する。
「けど黙って殺されるわけにはいかない」
 ライゼンデ・コメートを操る新風 燕馬(にいかぜ・えんま)は専守防衛の考えに懸念を抱く。
「燕馬がいいなら、いつでもガチ射撃に移行します」
 攻撃系統を担当するサツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)は答える。今はまだ威嚇に攻撃を留める。
 同じように天貴 彩羽(あまむち・あやは)イロドリERで不明機をロックオン。回避に専念し相手の機体状態を確認していく。
「なによあれ……ほとんど壊れているじゃない」
 可動部などの亀裂を見るに、彩羽にはあの機体がどうして動いていられるのか信じられなかった。しかも亀裂には黒い靄が蠢いているのが分かる。
「あれが未知の世界の未知の技術でござるか」
 スベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)も固唾を呑む。彩羽が驚くということは、彩羽にもわからないことがるということだ。一層、相手を見極めないといけない。
「いつまで威嚇射撃を続ければいいんだ!」
 Sword Breakerのサイコブレードで敵武装を切断し、ヒットアンドアウェイ。ウォーレン・クルセイド(うぉーれん・くるせいど)が疑問を投げる。
「せめて、相手から返答さえあれば……」
 呼びかけを続ける水城 綾(みずき・あや)
 イコン戦闘には稼働時間が限られる。長引くほどに防戦一方では不利だ。
ライネックスははくへい武器しかないのに……こっちに敵意がないことを知らせないと」
 村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)は敵の攻撃を避け、ヒヤヒヤする。
「どうする一旦引いて、装備を変えてくるか?」
 怖がりなパートナーにアール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)が尋ねる。
「だいじょうぶだもん! なんとか通信するんだから」
 蛇々はムキになって返す。アールは「そうか」と短く答え回避に専念する。
「けど、そう呑気に防戦していられなくなってきたな――」
 攻撃は防衛部隊だけではなく、ツーク・ツワンクにも及び始めていた。


 ミサイルが飛んでくる。ツーク・ツワンクも壊れたイコンたちの標的にされてしまったようだ。
「危ない!」
 直撃を避けるべく、リン・リーファ(りん・りーふぁ)が《毒虫の群れ》を使う。玉色の虫たちがミサイルを包み、チャフとなって爆散した。《ディテクトエビル》で即座に対応したお陰で甲板の人には被害はなかった。
 爆風に対して関谷 未憂(せきや・みゆう)が《氷術》で氷の盾を作って対処した。
「ちょっと、のんびりした船旅じゃなかったの!?」
 過激な旅の始まりに、未憂はピエロに文句を付けた。しかし、自己責任。
 ミサイルを誘爆したのはいいが、爆発したミサイルの破片が船艙に突き刺さったらしく、船が右舷に傾く。燃える破片を喰らって、エンジンルームに火の手が上がっていた。
「なんてことだー! 早く鎮火しないと!」
 エンジンルームで整備の手伝いをしていた神野 永太(じんの・えいた)は頭を抱えた。とにもかくにも、《氷術》と《火術》で消化に当たる。エンジンに引火させる訳にはいかないから大慌てだ。
「永太の口から出任せ、当たりましたわね。船艙に穴があかない限り、とか言うから」
 燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)は穴の開いた箇所を見て溜息を吐いた。エンジンに火の手が上がっていないか確認する。
「エンジンは大丈夫みたいです」
 永太はホッとする。エンジンの爆発なんかに巻き込まれたら、皆まとめて空の藻屑だ。
――、視点を甲板に戻す。
「クソ拉致があかねー!」
 【梟雄剣ヴァルザドーン】のレーザで威嚇射撃しながら伏見 明子(ふしみ・めいこ)が喚く。
「戦闘空域に突っ込んだんだから仕方ないよ!」
 九條 静佳(くじょう・しずか)が答える。向かってくるミサイルなどの攻撃を【対イコン用爆弾弓】で射落とす。
「拉致があかねーなら、落とされる前に落とすしかねーよな!」
 夢野 久(ゆめの・ひさし)が嬉々として、不明機を見て拳を鳴らした。
「……え、本気? 馬鹿か? ああ、そういや馬鹿だったね君は……」
 佐野 豊実(さの・とよみ)は彼が生身でよくわからないイコンに喧嘩を売ろうとしていることに呆れた。
 甲板を掛けて、久が跳躍する。近場のイコンに飛び乗るようにして《ヒロイックアサルト》を叩き込んだ。動力部を壊したと確信した。が――、
「なんだとぉーーーー!?」
 殴り返された。イコンは落ちず、胸部が凹んでも顕在する。
 甲板に弾き返される久に対し、豊実が冷ややかに「馬鹿だね」と笑いかけた。
「無理をなさるな。貴殿の体がもたぬぞ?」
 オットー・ハーマン(おっとー・はーまん)が倒れる久に近寄って、お急手当をする。体は頑丈なせいか、大したことはなさそうだ。
「何だアレ……確かに手応えがあったのによ――」
 久は自分のコブシの着弾点を見る。そこには黒い靄が渦巻いていた。