空京

校長室

重層世界のフェアリーテイル

リアクション公開中!

重層世界のフェアリーテイル
重層世界のフェアリーテイル 重層世界のフェアリーテイル 重層世界のフェアリーテイル

リアクション


・お茶会ですよ 交流編


「とーちゃくーーー!!」
 イーファ・ブリギッド(いーふぁ・ぶりぎっど)が、お茶会の会場に着くなり元気よく声を発した。
「えへへ。そういえば二人でお出かけするのは初めてだねっ♪」
「…………」
 テンションの高い彼女とは裏腹に、月舘 冴璃(つきだて・さえり)はどうにも気分が乗らなかった。
「うーん、この景色と空気、とても懐かしいかも!」
「懐かしい……かも? ここを知っているんですか?」
「それは分からないけど……イーファ、花妖精だからかな〜?」
「……そうかもしれませんね」
 彼女の出自も気になるところだが、せっかくだからここでティル・ナ・ノーグのことを聞いておきたい。
「おとぎ話にあった、『大いなるもの』……それについてもっと聞いてみたいですね」
「だったら、あの可愛い女の子に聞いてみたら〜? 色々なことを教えてくれた人だからきっと知ってると思うの!」
 そこで、ドロシーの姿を探した。
「こんにちは、円谷 譲と申します。こっちはパートナーのアイラ・スーザです」
 挨拶をしている円谷 譲(つぶらや・ゆずる)アイラ・スーザ(あいら・すーざ)の真向かいに、ドロシーがいた。
「ああ、アイラはどうにも人と話すのが苦手でして」
「この村にも、そういう子はいますから。少しずつ慣れていけば大丈夫ですよ」
 そんな会話が耳に入ってくる。
 彼らがドロシーと話し終え、花妖精達と交流を始めた頃合で、彼女に声を掛けた。
「『大いなるもの』は、人の持つ負の感情の集まりだとする考え方もあります。封印の方法について詳しいことは伝わっておりませんが、結界が作られ、その中に封印されたとされております」
 断言こそしないが、ドロシーはおとぎ話としてだけでない何かを知っている、そんな印象を受けた。
 そして、イーファが覚えていないだけで、ドロシーは彼女のことを覚えていた。
「外の世界で何があったのかは分かりませんが……ゆっくりと思い出せばいいのですよ」
 とはいえ、時間を計らなくなったこの村では、イーファが今からどれだけ前にこの村を去ったのかまでは分からなかった。
 とりあえずは腰を下ろし、冴璃達もお茶会に混ざることにした。
「ドロシーさんは、普段は何をして過ごしてるの?」
 碑村井 そうすけ(ひむらい・そうすけ)が、ドロシーに尋ねた。
「お花の世話ですね。あとは、子供達にご飯やお菓子を作ったり、おとぎ話を聞かせたりしています」
「おねーちゃんの話、とっても面白いのよ。『大いなるもの』が出てくる『異国の戦士と四人の賢者』だけじゃないわ。『樹の守り人』なんかもいいわよ」
 それは、荒れ果てた大地を、自然溢れる森に変えようと一生涯をかけた人の物語であるらしい。きっとそれも実話を元にしているのだろう。
「おとぎ話もいいけど、君もいいですね。大きくなったら結婚しましょう」
 アーロン・パウエル(あーろん・ぱうえる)が花妖精の少女を口説きにかかった。そうすけと違いずっとお茶会の会場にいたわけではないようだが、こうやって村の少女に声を掛けて回っていたのだろう。傍から見れば、ただのロリコンだ。
「あ、別に気にしなくていいから」
 おそらく、そういう性格なのだろう。パートナーであるそうすけは慣れている雰囲気だ。
「外の世界にも、変わった人がいるのねぇ」
 口説かれた少女が、呆れたように呟いた。
「さっきお花の世話、って言ったけど、じゃあこの村の綺麗な花はみんなドロシーさんが育てたんですか?」
「元を正せば、私一人ではありません。今は、子供達にも手伝ってもらうことがありますが、ほとんどは私がやってますね」
 エレオノール・ベルドロップ(えれおのーる・べるどろっぷ)の問いかけに、ドロシーが物腰柔らかく答えた。
「お姉ちゃんがお昼寝しちゃってるときは、私達で面倒見たりもするんだけどね。ほら、同じ『花』だから、水が欲しかったり、何かあったりすると分かるのよ」
 ませた喋り方をする、マリーゴールドの少女が付け加えた。
「あら、そうだったの。ごめんなさいね、マリーちゃん」
「いいのよ。おねーちゃんにばっかり負担かけるわけにはいかないもの」
 ドロシーが苦笑する。
 そこへ、赤いリボンの付いたミニハットを携えたラビ・スカーレット(らび・すかーれっと)がやってきた。
「これ、俺の作った帽子なんだけど、ドロシーにプレゼントするさ。きっと似合うと思うんさ」
 ちょうど、今のドロシーは別の服に着替えたこともあり、ヘッドドレスを外している。
「ありがとうございます」
「うん。似合ってるわよ、おねーちゃん」
 マリーと呼ばれた女の子が嬉しそうにドロシーを見上げた。

「いいねえ、こんなのどかな場所でお茶会だなんて……」
 温かいハーブティーを一口飲み、天禰 薫(あまね・かおる)は息をついた。
「……天禰、俺みたいな男がこんな華やいだ場にいるのは、似合わないというか、滑稽じゃないか?」
 どこか複雑な表情で、熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)がそう口にした。
「あー、そうだねぇ……見た目が……」
 孝高は熊の獣人だ。渋い熊が花畑でお茶会。その絵面を想像すると、笑いが込み上げてくる。
「そだ、くまさんに化けてみるとかどう? それで、蜂未知を持ってさ。メルヘンでいいよね!」
「どこの物語だそれ! 大体、花妖精達が驚いて怯えるだろ。って言うか、参加者全員が驚くだろうが」
「それもそうだねぇ」
 それはそれで面白い気はするが。
「……まったく」
「孝高、もしかして楽しくないのだ?」
 薫はしゅんと肩を落とした。
「べ、別にそういうわけじゃない! ……お、お前と一緒なら、悪くない」
 孝高が慌てて首を横に振る。
「そ、そっか。ありがとう」
 ほ、っとしてカップに口をつけた。
「いい……雰囲気……」
 そんな二人のほのぼのとした様子が瞳に映っていたらしいルディ・アッヘンバッハ(るでぃ・あっへんばっは)が声を漏らした。
「茶は抹茶だけだと思っていたが、存外この紅い茶もうまいな。ん……急に茶器を置いて姿勢を正したがどうするつもりだ?」
 訝しそうにルディを横目に見たのは、居待月 彰良(いまちづき・あきよし)だ。
「仲が、良い。お二人は……恋人同士?」
 大胆な質問が飛んでくる。
 恋愛トークがしたかったようだが、薫達の様子を見てそう思ったようだ。
「いきなり!? 珍しく喋ったと思ったら……!」
 これには彼女のパートナーの彰良も驚きを隠せない様子である。
「うーん、そなのかねぇ……」
「まあ、傍からそう見えるんだろ」
 言われてみれば、とは思うが、薫としてはあまり自覚がない。孝高の方はあるらしく、微かに恥ずかしげだ。
「お茶会、楽しんでるかな?」
 そんな彼女達のところへ、霧丘 陽(きりおか・よう)が焼き立てのハーブクッキーを運んできた。
「うん……」
 ルディが受け取りつつ、答える。
「あなたも……恋の話、どう?」
「え、僕?」
 やや戸惑った様子の、陽。
「まあ、座りなよぉ」
 と、薫も促す。
 それからは会話を育みながら、ゆったりとした時間が流れていった。

* * *


「あ、なんだか盛り上がって来てるねー」
 お茶会の会場へ到着した鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)は、楽しげな参加者の顔を眺めた。
「で? お目当ては?」
「そんなの決まってるじゃんー。目指せ友達百人、だよ!」
 ベリル・シンブル(べりる・しんぶる)に対し、笑顔で応じた。
「お前は小学生かよ!」
「違うもんー、大人だもんー」
「どこをどう見たらお前が大人に見えるんだよ! アホだろお前」
「アホじゃないもんー」
 膨れっ面でベリルに反論する。が、氷雨の見た目は小学生、いいとこ中学生の女の子だ。ベリルの指摘もあながち間違ってはいない。
 そのまま口喧嘩という名のじゃれあいをしながら、会場を見て回った。
「わぁーお菓子がいっぱいー。何から食べようかなー」
「早っ。オイ、友達作りに来たくせに即効でお菓子の所に行くなよ」
「いいのー、お菓子があった方が話が進むものだよー」
「まあ、否定はしないが……」
 この村で焼かれたハーブクッキーを手に取り、近くにいた人に話し掛ける。
「あ、こんにちはー。よかったらボク達とお話しませんかー?」
「僕ですか? あ、宜しくお願いします」
 緊張した面持ちで、五百蔵 渚(いおろい・なぎさ)が一礼した。
「あー、どうも」
 氷雨の後に続いていたベリルが頭を下げた。
 まったりとお茶とお菓子を堪能しつつ、会話を始める。
「それにしても、こんなに綺麗なお花を眺めながらお茶を飲むなんて、すっごい贅沢ですよね!」
「だねー。お菓子も美味しいし」
 庭園の花々が、鮮やかに咲き誇っている。
「渚……楽しい」
「はい」
「そう。渚が楽しいなら……ワタシも楽しい……」
 リリアーヌ・バリエ(りりあーぬ・ばりえ)が微笑みを浮かべた。
「お、お菓子があるぞー」
 そこに現れたのは、ティープ・セラ(てぃーぷ・せら)だ。氷雨同様、お菓子に釣られたらしい。
「あ、これ食べるー?」
「おお、食う食うー!」
 クッキーに噛り付く、セラ。
「出来立てのお菓子も、持ってきたよ」
「あ、稲荷。ありがとー」
 稲荷 火好(いなり・ひよし)が氷雨達へと視線を向けてきた。
「セラ、迷惑掛けてなかったか?」
「え? 大丈夫だよー」
 さっき来たばかりであり、ただまったりとお菓子を食べているだけなので何ら問題はない。
「本当に、美味しそうに食べますね」
 感心したように、渚が息を漏らした。
「まあ、セラは甘党だからね。お菓子には目がないのさ」

 氷雨達の賑やかな様子を、ノア・リティローグ(のあ・りてぃろーぐ)はじっと見つめていた。
「ノア様、第一印象は大事ですよ〜。にこやかに話しかけてみてはどうですかぁ」
 ルーク・セドリック(るーく・せどりっく)が手本を見せるかのうように、笑顔を作る。
 あまり人付き合いに慣れてはいないが、この機にと意を決して飛び込むことにした。
「うん、じゃあ行ってきます」
 ルークに対して頷き、パウンドケーキ片手に声を掛けにいった。
「良かったら、これもどうですか?」
 言われたように、微笑みを持ってそれを差し出す。
「お、またお菓子だ」
「これも、良さそうですね。頂きます」
 セラ、渚が受け取る。
「ハーブティーと、いい感じに合いますよ」
 お茶のカップを持ち、自然な流れで切り出した。
「お、何だか楽しそうだな」
 声のした方にいたのは、浅端 志摩(あさばな・しま)だ。
「まあ、俺はこの景色やちっこいフェアリーちゃん達が戯れてるのをのんびり見れるだけでも元気百倍なんだけどよ。それよりも、そこにいる寂しがりーなうちの相棒を構ってくれると、嬉しいぜ」
 視線の先に、彼女のパートナーのアンダース・デュピュイ(あんだーす・でゅぴゅい)がいた。
 彼女と目が合う。
「ほら、うちのデュピュイって可愛い顔してるから、目の保養になるだろ? そいじゃ、頼んだぜ」
 にやにやとしながら、志摩がお菓子片手に庭園を眺め始めた。
 入れ替わるようにして、今度はアンダースがやってくる。
「うちの相方、また変なこと言ってでしょ。いつものことだから、気にしないで」
「え? ああ、うん。大丈夫ですよ」
 ノアが答えた。実際はそこまでおかしなことは言っていない、ような気がする。
「あ、そうだ。良かったらうちの相棒にも構ってあげてくれないかな? 彼女、悪い奴じゃないんだ。ただ、変態なだけで」
 強面な志摩に一瞬はびくっ、となったが、話した感じだと気さくな印象を受けた。
「そうですね。みんな話した方が、楽しいでしょうし」
 ノアも大分会話に慣れてきた。
「お、可愛い女の子達、発見!」
 その声は、鮭延 美苗(さけのべ・みなえ)のものだった。
 確かに、今この場に集まっている人達は、大体が女の子である。見た感じ、ではあるが。
「私もご一緒させてもらっていい?」
「はい、どうぞ」
 美苗がお茶会の席に加わる。
「こうやって、女の子同士で和気藹々と……可憐な乙女同士の美しくも甘い恋はまさに芸術そのもの。野郎同士のむさ苦しい、トゲトゲとした傷つけ傷つくの、文字通りの『薔薇』なんざほんと論外よね〜」
 美苗の目戦上には、スコルティス・マルダー(すこるてぃす・まるだー)の姿があった。
「あら、何よ? 女同士のドロドロして、愛憎あふれた『百合』なんて、ホビロンもいい所だわ」
 彼女とは対照的に、男と積極的に絡んでいる。
「聞き捨てならないね。この際だから、はっきりさせるよ」
「望むところよ!」
 なぜかヒートアップする二人。
 美苗が立ち上がり、スコルティスと取っ組み合いを始めた。
「なんだか愉快なことになったねー」
 そんな二人を見ながら、氷雨が呟いた。
「ってか、止めた方がいいじゃね?」
「多分本気で喧嘩してるわけじゃないから、大丈夫だと思うよー」
 ベリルが言うも、特に気にした様子もなくクッキーをかじっていた。
「ほんと、賑やかでいいですね」
 そう言葉にして、口にお茶を運んだのは渚だ。
「僕、皆さんとお話出来て……うれしいです……!」
「ボクも、こうやって色々話せて楽しいよ」
 すると、渚が大きくあくびをした。
「すいません……なんだか……眠くなってきちゃいました……」
 暖かな日差しもあってか、眠気がやってきたようだ。
「ゆっくりお休み……ずっと緊張してたもんね……」
 リリアーヌが膝枕をし、渚を支えた。
「……お茶会の後はお昼寝、ってのもいいかもしれませんね」
 緊張していたのは、ノアもそうだ。
 ただ、お茶会を通して結構話せるようになった……ような気がした。

* * *


「ほら、シオン。あたし達も行くわよ」
「待ってよ姉さん!」
 広場へ向かって駆け出したシエル・リメイカー(しえる・りめいかー)の後を、シオン・トレーダー(しおん・とれーだー)は追った。
(ってもう見えないや……。これだけ人がいると見つけるのは大変かもしれないけど、姉さんのことだから一人でも大丈夫……なはず)
 とりあえず、シエルの姿を探そう。
 この村にあるゲートが異世界に繋がっているなら探すついでに話をすれば、何かしら興味深いことが分かるかもしれない。
「すいません、ネコっぽい耳で額にゴーグルした人見ませんでしたか?」
「ゴーグル? へえ、あたしのパートナーと同じトレードマークの人もいるのね」
 意外そうに、モフモ・フモッフー(もふも・ふもっふー)が答えた。
「あ、あそこにいるわ」
 そこには、モフモのパートナーである甘木 めのう(あまぎ・めのう)、そしてシエルがおり、焼き上がったばかりのケーキを食べていた。
「これでも、『リメイカー』だから機械をいじったりするのも得意よ」
「私も好きですね。ああいいう細かいものをいじったりするのは」
 趣味が似ているためか、いつの間にか打ち解けている様子だった。
「あ、シオン。ここにあるお菓子、美味しいわよー!」
 自分の姿を見つけたシエルが、手招きしてきた。
「姉さん、何してるのさ。聞き込みは?」
「ん? まあ、それは必要だけど、まずは楽しまなくっちゃ」
 とりあえず、この村でのお茶会を堪能することにしたらしい。
(へえ、あそこで作ってるんだ)
 小屋の裏手から煙が上がっている。そこを覗くと、ちょうどお菓子を作っている人の姿があった。
「すいません、私も作ってみたいんで材料を分けてもらっていいですか?」
「うん、いいよ。ハーブの組み合わせ次第で、味も変わるんだ。試してみて」
 蒼魔 綾(そうま・あや)ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)から分けてもらった材料でお茶菓子用のクッキーを作り始めていた。
「何だか困った顔してるねぇ」
 話し掛けてきたのは、神崎 荒神(かんざき・こうじん)だ。
「本当は色々な話を姉さんとここで聞こうとしてたんですが、あの通り……」
「まあ、そんなこともあるさ。遺跡調査に来たはずが、お茶会やってるのを知るなり綾が、ね。どうしてこうなったて感じだけど、せっかくだからと楽しませてもらってるよ」
 その手には、一本お瓶が握られていた。
 しばらくすると、クッキーが焼き上がり、綾が持ってきた。
「あ、荒神。出来たよ」
「うん、何と言うか……相変わらずだなぁ」
 見た目は綺麗だと言い難いが、香りはいい。
「おっと、せっかくだから一緒にどうかねぇ」
 口元を緩めて、荒神がシオンと目を合わせた。
「あ、では頂きます」
 しかしその瓶の中身が酒であるとは、知らなかった。

* * *


「……という感じで、シャンバラ地方の中でも、不思議とジャタの森はよく襲われるんだ」
 白砂 司(しらすな・つかさ)が、ドロシーや花妖精の子供達に、自分達の紹介も兼ねて彼の身近な土地についての話をしていた。
「そこに住んでいる人達はジャタ族って呼ばれてるんですけど、その中には様々な種族がいるんですよ。私の一族、『猫の民』もその一つですねっ」
 不器用ながら頑張って会話をしている司をニヤニヤと見守りつつ、サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)は紹介した。
「私達花妖精にもいろいろな花がいるように、獣人って人達もいろんな動物の人達がいるのね」
 花妖精の少女、マリーが声を発した。
「じゃ、色々教えてもらったし、この村の花々のことを教えてあげるわ。ってわけでぴーちゃん、よろしく」
 彼女と同じ年頃の男の子、ピオニアに話を振る。
「もう、おねーちゃんに引っ付いてばかりいないで、少しはしゃんとしなさい」
「わ、分かったよ!」
 ピオニアがぎこちなく話し出した。
 ハーブティーの材料以外にも、観葉植物なんかも生えているらしい。
「薬草も、豊富ですよ。子供達が怪我をした時や病気になった時には、頼りになりますね」
 薬師をしている司にとっては、興味深いものだろう。
「そういえば、ドロシーさんはどうしてここに住んでいるんですか?」
「予言にある『異郷より来たりし者』が現れるのを待つため、でしょうか。最初はそうでしたが、今はここで生まれる子供達の世話をするため、です。いつからか、大人になったら村を出るという風習が子供達の間に広がったこともありますから」
 それは、一種の「しきたり」なのだろう。
「予言も、おとぎ話の一部かな?」
 そう尋ねたのは、五月葉 終夏(さつきば・おりが)だ。
「はい。それと、私が知るところでは、強い力を持った『異国の戦士』は、一定の周期ごとに現れる、とのことです」
 一定の周期、と言えばパラミタと地球が繋がり契約者が誕生するのは、五千年ごとにだ。
「昔あったことみたいだけど、おねーちゃんだって、その目で見たわけじゃないのよね。だけど、時々自分で見てきたかのような顔するのよねー」
「気のせいですよ、マリーちゃん」
 微笑を浮かべるドロシー。
 彼女が機晶姫とはいえ、封印されていたとか、活動停止していたとかという理由でもない限り、五千年以上生きているというのは考え難い話だ。
「そうだ、せっかくだからそのおとぎ話――『異国の戦士と四人の賢者』を再現してみようか」
 終夏が、ドロシーからもらったおとぎ話の絵本を開く。
「うふふっ、終夏がおとぎ話の再現をするなら、わたくしは語り手になりますわっ」
 ブランローゼ・チオナンサス(ぶらんろーぜ・ちおなんさす)が優しく微笑み、口を開いた。
 この村の子供達と同じ花妖精ということで、一層心も籠もっているようである。
 光術を放ち、その光を用いて影絵のような形で表現している。
『異郷より来たりし者、閉ざされた世界に光を照らさん』
 予言の言葉の時は、その光がぱっ、と明るくなった。
「そういう表現も、あるのですね」
 ドロシーは感心した様子だ。
「何かしら、あれ?」
 マリーが指差した先にあったのは、デジカメだ。やはりこの村の人にとっては非常に珍しいものらしい。
「写真、撮らせてもらっていいかな? 花妖精の子達もみんな一緒にいるところを」
 柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)が、尋ねてきた。
「写真、ですか?」
 ドロシーには聞き慣れない単語らしく、首を傾げた。長年この村にいたのだから、知らなくても無理はないだろう。
 何かと改めて聞かれると言葉にするのが難しい。
「簡単に言うと、だ」
 貴瀬の後ろにいた柚木 瀬伊(ゆのき・せい)が彼女に説明した。この場の光景を一瞬で描けるもの、といった感じの表現である。
 写真を表すphotographという単語は、「光の描くもの」という意味からきているらしいので、それほどおかしいものではない。
「司君、せっかくだから私達も入りましょーか」
 記念撮影がてら、ドロシー達と一緒にサクラコらも写った。
「こんな感じだよ」
 デジカメなので、その場ですぐに見ることが出来る。
「まあ、素敵ですね」
 ドロシーも、子供達も、初めてのそれに驚きを隠せない様子だ。
「瀬伊。いつも通り、データに取り込みよろしくね。欲しい子には渡してあげたいからね」
 どうやら、二人はこのお茶会中撮って回っているようだ。
「分かった。時間もあることだし、ちょっと編集もしてみるか」
 そして、次の写真を撮りに向かっていった。