空京

校長室

重層世界のフェアリーテイル

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重層世界のフェアリーテイル
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リアクション


未来都市『オリュンズ』

「うおおおおお、すげー! すっげぇええええ! 近未来都市じゃねーか!」
 西城 陽(さいじょう・よう)は目の前に広がる男のロマンに驚喜していた。
 宙に浮く車。立体映像の広告。宙にしかれた道路。ジオフロントの上にとんでもない都市が形成されていた。
 そして驚くべきは都市の上に都市が浮かんで存在していること。一体どんな原理なんだろうかと想像するだけでテンションが急上昇する。
「……今日の西城君、なんかキモいね」
 一方、横島 沙羅(よこしま・さら)のテンションは急下降していた。
 女性のロマンスには程遠い。程遠いので、近づけるために陽が「すげえ」を10回以上言ったら、【断頭の巨鉈】で頭をかち割ってやろうと思う。残り8回。
「む、見ろセリル! 見たことのない物体が空を飛んでいるぞ!」
 ニトル・ルート(にとる・るーと)が反重力バイクを指さす。
「ニトルさんちょっと休みましょうよ……ここまでイコンもなしに歩いてきたんだから」
 ゲートから歩き続けてヘトヘトなセリル・スライス(せりる・すらいす)が抗議する。
「馬鹿者。何を言っているんだお前は。研究資料は自らの足で手に入れる。それが科学者の基本だ。さぁ! 行くぞセリル!」
 ズカズカとアレの飛んでいった方向へと歩く。
「荷物持ちはいつも私なのにー!」
 セリルは喚きながら、彼の跡を追った。
「すみません」
 オルタンシア・トラモント(おるたんしあ・とらもんと)が通りすがりの女性を呼び止めた。見知らぬ男に女性は警戒した。
「な、なんですか……」
「あの大きな建物が何か聞きたいんですが?」
 オルタンシアの指差す先には、天を貫きそうな巨大な塔があった。都市の中心にあり塔の周りを道路が螺旋状に絡み付いていた。
「あれ? 知らないの?」
 まだ警戒している。ナンパだと思われているようだ。
「そうなんですよ。俺様たちここに観光に来たんですけど、あそこへの行き方知らなくて」
 ロータス・ボート(ろーたす・ぼーと)がすかさずフォローを入れる。笑顔が眩しい。
「観光者だったの。てっきりナンパかと……。あの塔は『雷霆』。この都市の中枢施設が有る場所よ。あそこに市長や中央機関『ユピテル』中央議会『ウェスタ』を置いているの。大げさな市役所ってわけ」
 警戒を解いて、色々と教えてくれる。流石兄貴スマイルとオルタンシアは思った。兄さんやっぱかっこいい……!
「見たこと無い技術がぁぁぁ。こんなにたくさんあるぅぅ!」
 稀有なことに近未来技術にテンションの上がる女性もいる。貴宮 夏野(きみや・なつの)だ。
 各所に浮かぶ半透明な道路標識。別階層に飛べるポートゲート。思考するだけで案内を表示してくれる地面。何もかもデジカメに収めていく。
「ねぇ、もう帰ろうよー。お茶にしよー。十分に写真とったでしょー」
 普通、カルシェ・アサッド(かるしぇ・あさっど)の様な反応が女性として普通だ。彼女としては花妖精の村で開かれるお茶会の方でのんびりしたかった。
 お茶会と言えば、一応ここでも開かれていた。都市の最高層に碇泊したツーク・ツワンクで。
 弁天屋 菊(べんてんや・きく)ガガ・ギギ(がが・ぎぎ)の作った料理が甲板のテーブルに並んでいた。本当は出発後直ぐに昼食の筈だったのだが、ドールズに襲撃を受けたために、遅めの食事となった。
 その食事風景と共に、最高層から見下ろすオリュンズの街並みをアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)が撮影する。
「凄いわね、他の場所じゃ見たことないような景色だわ。たくさん写真を撮っておきましょう」ガンガンシャッターを切る。
「わわわーほんとすごいところですねー」
 ソフィア・エルスティール(そふぃあ・えるすてぃーる)も甲板から身を乗り出して街並みを覗いた。
「あのー。このプリンターなどは必要だったのでしょうか……?」
 インクジェットプリンターと業務用プリンター(A1出力可能)とタワー型PCと大型ディスプレイ、その他印刷紙類インク類を大量に運ばされてアルフレッド・エルドハイム(あるふれっど・えるどはいむ)が疑問を感じる。
「勿論、取ったデジタル写真を直ぐにその場でフォトショ加工してプリンター出力するためよ」
「なら編集機能付きのプリンターだけでいいでしょう……」
「もう、怪我している奴はいないよな?」
 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)が尋ねる。先の襲撃で派手に船体が傾いたので、その時の怪我人の治療をオットーとしていた。返事が無いので、もういないだろうと判断する。
「たく、イキナリ襲われるなんて聞いてねぇよ。おまけに買い出しの食料、こんなものしか手に入らなかったじゃねえか」
 食材を買い足しで街へと行っていた菊が不満を漏らした。
 まさか、食材のほとんどが工場生産だとは思いもよらなかった。塩、砂糖、幾つかの野菜と調味料などは分かる。が、牛肉やらまで工場産とはどういう事かと思う。贅沢はいってられないが、肉は養殖物でいいから欲しいと思う。
 とはいえ、この都市では仕方のないことだった。街の外ではいつドールズに襲われるとも分からない。呑気に農業、畜産業を展開できない為、全ての食物をバイオプラントで栽培、もしくは化学合成でつくるしかないのだ。勿論牛肉は牛肉だ。細胞促進剤を遣って科学的に作られたものだが。
「まあ、取り敢えず買ってきたもので保存の利くものをつくって置こうかな……」
 品質に問題はないと聞いているので、買ってきたものの幾つかを佃煮や漬物にしようとギギは思う。
「ところで、アレは何を釣ってるんだ?」
 甲板にくくりつけられた釣り竿を指差してギギが尋ねる。イリス・カンター(いりす・かんたー)が唐揚げを摘みながら答えた。
「ああ、あれ? 椿 薫(つばき・かおる)を釣り下げているの。街を“覗き”たいって言ったか吊るしてる。裸で。落ちたらどうするんだろうね」
 いろんな意味で犯罪的である。
「いや、覗くのはいいが、なんか竿がしなってるぞ?」

「これはなかなかでござる……」
 薫は逆さまになって、ビルの窓の奥に映る着替えシーンを双眼鏡で見ていた。裸で。股間だけは象さんの【動物の面】で隠している。
 と、覗き用の双眼鏡の視界が暗くなる。おかしいなと思い、前方を裸眼で確認。
 眼の前に口を開けたフォレストドラゴンがいた。

フィオーレ! それ食べちゃダメ! いろんな意味でお腹壊す!」
 三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)が必死で止める。呑気に都市の上を空中散歩をしていたのだが、まさか、フィオーレが釣り竿にぶら下がった変態に食いつくとは思わなかった。
「だから言っただろう! 森に返してこいと!」とミカ・ヴォルテール(みか・う゛ぉるてーる)がフィオーレを拾ってきたことを今更抗議する。
 船腹の下から「たすけて! 餌じゃないでござる! 誰かリールを巻いてくれ!」と叫び声が聞こえた。


「おお、この車タイヤがないのう。こんなもので空を飛んだりすのか? 実におもしろい」
 鬼のような巨漢、金剛寺 重蔵(こんごうじ・じゅうぞう)が浮遊式自動車の中を覗き見る。中に載っていたカップルが逃げ出す。
「重蔵さん、あまり人に迷惑かけないでください! すみません本人には悪気はないんです」
 逃げるカップルに詫びて、ジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)は重蔵を呼び戻す。
「いやすごいぞあの車。浮いているだけでなく、ハンドルすらないとはのぉ」
「あんまり離れないで下さい。住民さんが驚きますから」
 ジェイコブの注意に豪快に笑って気にしない重蔵だった。
「へえ、パラミタより文明が進んでるな。見た事もねぇもんがいっぱいあるぜ」
 いろんなものに目移りするイワン・ドラグノーフ(いわん・どらぐのーふ)
「あまり挙動不審になると怪しまれるって」
 と荒井 雅香(あらい・もとか)が注意する。
「街中も相当面白いけど、軍事研究施設に行きたいわね〜。何処にあるのかしら? 都市にあるっては聞いてるけど」
 ビデオカメラを回しながらルカルカ・ルー(るかるか・るー)が言う。技術調査のためにも、重要施設での情報収集が重要だ。
「取り敢えず、地図だ……丁度、端末からダウンロードできそうな所があるな」
 立体画像化された都市のミニチュアみたいな地図を発見するダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)。観光者のために、携帯などへの地図DLサービスのマークがあったので、早速ノートパソコンを開いてワイヤレスダウンロードをしようとする。
「――ん」
 黙りこむダリルに「どうしたんだ?」とイワンが尋ねる。
「地図がダウンロード出来ない……いや、ワイヤレススポットの検索結果が0だ。この端末壊れているのか?」
「どうしたんだい兄ちゃんたち?」
 困っているとこの都市の子供に話しかけられた。
「あら? この街にすんでるの君?」と座り込んで尋ねるルカルカに「うん」と頷く男の子。
「それよりも、地図をダウンロードしようとしてたんでしょう? 大分古い骨董品つかってるみたいだけど、できたの?」
 自分のPCを骨董品呼ばわりされてダリルが驚いたが、素直に「いやできなかった」と答えた。
「端末が壊れているのかな? ちょっと待って」
 と、男の子は何処からともなく空中に画面を展開して、それを指でタッチし始めた。
「ねえそれ何?」と雅香が聞く。見たことのないものだった。
「知らないの? airPad。非固定型空中タッチパネルPCだよ。知らないって、姉ちゃん何処から来たんだよ?」
「えっと……田舎からかな?」
 雅香が適当に答えると男の子は「なるほどね。じゃああんな古いPCつかってるのもしかたないか」と言った。
 その古いPCは元の世界ではかなりイイスペックを誇っているのだが。
「あれ? DLできたよ? やっぱり通信規格あってないんじゃないかな? それ量子通信じゃないでしょやっぱり。新しいパソコンに買い換えたら」
「あはは、だってさダリル。これじゃあ有機コンピューターが型なしだね」と冗談を言うルカルカ。
「君! それは何処で買えるんだ!?」と男の子の肩を掴んでものすごい形相のダリルだった。
「なんか食いついてるぅ!?」
「で、電気屋にあるはずだよ。にしても、今日は変な兄ちゃんたち多いなぁ……」


「なに……よ、それ?」
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)の格好にラブ・リトル(らぶ・りとる)の顔が引き攣った。
「何かだと? わからんか? 何処からどう見てもロボットだロボ!」
 ダンボールだ。油性マジックで『CT∪|\|1⊃AW』と下手なリート語が書かれたダンボールをかぶってロボットだと主張する。
「これでいいでしょうか……ロボ」
 哀れヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)も『口ボ』ダンボールを着せられていた。
「ああ、これで原住民には怪しまれないだろう! ロボ」
 この世界の住民は皆ロボットだろうと予想したハデス。無論、この都市に段ボールロボットはいない。
「どうみてもめちゃめちゃ怪しいぞ」
 と風祭 隼人(かざまつり・はやと)が突っ込む。
「バーブーゥ・・(やれやれ……)」
河合 栄志(かわい・えいじ)も頭を振った。
「なんだ兄ちゃんたちその格好は?」
 と通りすがりの男の子が訊いた。母親がいたら「あんなのに関わってはダメ!」と叱られただろう。
「見て分からないロボ? 我々はロボットだロボ!」
「うそこけ、ダンボール」
「否定されたロボ!」
 段ボール姿のロボットがいるわけがない。
「全くダメね。そんな喋り方じゃだめよ。ここは私に任せて」
 ラブが一つ咳払いをして、
「ワレワレはパラミタからやってきた、パラミタマンだロボ。ワタシ、アナタ、トモダチ、ロボロボ!」
「はぁ? わけわんねー。受付アンドロイドのほうがよっぽど上手く喋るぞチビ」
 ドン引きだった。
「あんたチビって言ったね! その舌引っこ抜いてやるぞ!」
「子供に本気になるな。申し訳ない。君たちとトモダチになりたいのは本当だ。許してくれ」
 ラブを摘んで制するコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が詫びる。
「ところで、いまアンドロイドとかいったね? もしかして私みたいなロボットがここいるのか?」
 とコアが続けて聞くと、男の子は答えてくれた。
「う〜ん兄ちゃん程ロボットらしくないけど、お店とかでよくいるよ。ほら」
 男の子が路上のアイスクリーム屋さんを指差す。あの女性店員がアンドロイドらしい。接客は丁寧だが無表情で抑揚のない喋り方をする。
「基本的に感情とかそういうの無いけど、ああやって働いているの結構よく見かけるよ」
「なるほど、機晶姫とは違うよだし、なかなかに興味深いロボ」
「ハデス博士、もう普通に話したほうが……」
 いい加減、ヘスティアは段ボールを脱ぐ事にした。
「ところで、君はこの世界の『大いなるものの伝承』についてなにか知っているか?」
 隼人が尋ねる。
「大いなるもの? ああ知っているよ。この世界じゃ有名な昔話だもん。絵本とかで読み聞かせられたから皆知っているはずだよ。けど本のタイトルなんだっけ?」
「バブー(その年でど忘れかよ。将来やばいぞ)」
 何言っているかわからないが、栄志は相変わらずの毒舌である。
「昔、この土地で今と同じロボット同士の争いがあったのだ」
 不意にマシューが話しかけてきた、他の来訪者の案内をしているところだった。
「戦いは熾烈を極め、『大いなるもの』を封印することに成功したとある。昔話だが、現存する書物からはそれが史実だとわかった。そして、その続きがあった」
「続きとは?」とシュラウド・フェイスレス(しゅらうど・ふぇいすれす)
「君たちのことだ。『そして大いなるものの復活ともに、外世界からの来訪者が来たりて世界を救う』とある。伝承と言うよりも予言だ。まさか、本当に君たちが来るとは思わなかったよ」
「じゃあ、あのドールズは『大いなるもの』と関係が?」
「それは分からない。むしろ、アレが現れたときはアレこそが『来訪者』と思っていたくらいだ」
 マシューが皆に向き直る。
「改めて、お願いする。我々に力を貸してくれ。技術力があるとはいえ、このオリュンズはすでに数万の人間を失っている。君たちの力であのドールズを殲滅に協力して欲しい」
 深々と頭を下げる中将。
「僕らで良ければ、力になります。この世界やこの子のためにも尽力します」
 アッシュ・トゥー・アッシュ(あっしゅ・とぅーあっしゅ)はマシューに握手を求めた。
 マシューはアッシュの手を両手で握る。
「ありがとう。正式な協力は議会の承諾を得た後になるが、よろしく頼む」
 アッシュは熱い握手と約束を交わし、この世界を本気で守ろうと決意した。