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重層世界のフェアリーテイル

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リアクション


トロイア基地訪問

「よく来てくれた。私はミネルヴァ軍トロイア基地第一空軍部隊ミネルヴァ隊所属空軍中将マシュー・アーノルドだ。これより私が基地の案内を務める」
 出迎えたのは緑髪の堅物そうなおっさんだった。
 シャンバラの代表として、軍的に敬礼。身元を明かす。
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)です。私たちはシャンバラ王国のロイヤルガード。アイシャ・シュヴァーラ女王陛下の親衛隊で、国軍左官に当たる者です」
「です!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)も敬礼。
「真面目に挨拶してください美羽さん」
「だってベアが全部紹介言っちゃったじゃん」
 作法はともかくとして、教導団の代表も二人に習い敬礼。
「シャンバラ教導団大尉クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)。教導団の代表として参りました。貴軍のご厚意痛み入ります」
「シュミット大尉補佐役ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)です」
朝霧 垂(あさぎり・しづり)中尉だ。話し合いに応じていただいたこと感謝します」
ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)です。視察の為、軍領域を侵犯したこと、お詫び申し上げます」
「謝る必要はない。こちらもそちらの呼びかけに即時応じられず申し訳ない。議会の承認と旧テクノロジーの通信機を引っ張りたすのに手間を掛けてしまった」
「旧ってそんなにこの世界は技術発展しているの?」と朝野 未沙(あさの・みさ)が尋ねる。
「そちらとどれくらい差があるの変わらないが、電波通信などはもう使用していない。アレを機体に積み込むのには整備班も苦労したようだ」
 つまり、別の原理で通信を行なっているため、基地からの応答がなかったのだ。
「イコンってあの赤い鳥みたいなのか? ぜひ見せてもらいたいな」
 霧積 ナギサ(きりづみ・なぎさ)がねだる。しかし、軍所有物を易々とは見せてもらえないだろうともう。
「わかった、格納庫に案内する。ついてきたまえ」
 あっさりとOKがでた。マシューは格納庫への転送エレベーターに向かう。
「意外とあっさり通してくれたわね」と常磐城 静留(ときわぎ・しずる)は拍子抜けする。軍事機密だと断られてもおかしくないのに。
 マシューに釣れられて格納庫へと入る。整備作業中なので間近で機体を見ることは叶わないが、デッキからなら問題ないらしい。
「「あれが、我が軍の誇るイコン――ここでは『バーデュナミス』と呼ばれているが。BD-01P、フィーニックスの試作型だ」
「試作機? じゃあ先の戦闘は」と孫 尚香(そん・しょうこう)が尋ねると
「あれも、テスト飛行の一環ということになっている。テストパイロットは私だ」とマシューが答えた。
「むしろ、試作機だから通信機を取り付けられた。今整備班が元に戻しているところだろう」
「あのイコン調べられないかな」とナギサ。
「流石に無理よね。バラしたいけど」と未沙。二人でデッキの窓に食いつく。
「そちらの世界から何らかの技術提供があれば、データの引渡しもあるだろう」とマシュー。
「それは素晴らしい提案だ! 互いの技術を交換しあえば、互いの世界の発展につながるであろう」
 ガイウス・カエサル(がいうす・かえさる)が言う。
「けど、十分な協議と検討がいるでしょう。疲弊したイルミンスールの復興にはこの世界の技術はほしいですけど」
 技術革新は一歩間違えれば争いの元になりかねない。アウナス・ソルディオン(あうなす・そるでぃおん)は危惧する。
「だが互いに悪い話ではないはずだ。特に、彼のような存在は軍の研究者たちも興味が湧くに違いない」
「……」
 マシューは機晶姫である鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)を見る。この世界に機晶姫という生命体はいないのだ。
「ところで、マシューさん。あなた方が戦っているのは何ですか?」
 水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)が尋ねる。
「あれが、何なのかは私もわからない。が、我々はあのロボットを“ドールズ”と呼んでいる」
「ドールズ――、人形」
「傀儡と言う意味でだ。何度通信を試みても、それに応じた試しはない。数年前に突如として現れ、都市の半分以上を破壊した。まるで操り人形のように淡々と破壊だけを忠実に行うロボット。それがドールズだ。奴らの攻撃から都市を守るのがこの基地の役目となっている」
「敵の正体がわからないのは?」とリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が訊く。
「戦った君たちなら分かるだろう。奴らは何も残さない。切り落とした腕、撃ち落とした残骸。ある一定のダメージを受けると何も残さずに、消滅する。解析のしようがない」
 まさにそれが、数年間も軍が手を拱いている理由だった。敵の正体もわからず、有効な手立てもない。
「確かに厄介だねぇ……それがこの世界で起きている異変ってわけか」とまたたび 明日風(またたび・あすか)
「数年前、ドールズが現れたときは、君たちのような“外世界からの来訪者”だと誰もが思ったが、違った。しかし『伝承』は間違っては居なかった――」
 ふと、歌声が聞こえる。格納庫の一角からだ。

 何度いつ会えるかな 瞳を閉じて思い浮かべる
 胸が痛いよ いまどこにいるの?
 会いたいけど会えなくて 胸が苦しくなる ずっと傍にいて――

 ローラ・アディソン(ろーら・あでぃそん)の歌声が響く。整備士の何人かが立ち止まって彼女の歌を聞いていた。
「突然、すみません。慰問活動として、軍の人にローラの歌を聞いてもらいたかったので」
 天海 総司(あまみ・そうじ)がマシューに断りを得る。許可はすでにとってあるが。
「軍には娯楽も少ない。ああやって歌ってくれるだけで、隊員の疲れも取れるだろう」
 いつ終わると知れない戦いをしている隊員たち。その不安を少しでも和らげられればとマシューは慰問を受け入れた。
「さあ、基地ばかり見学していては面白く無いだろう?」
 そう言ってマシューは彼らを別の場所へと案内する。

 そこは、地下にある大きな駅ターミナルだった。物資配給のために都市と地下で繋がっているらしい。地上での輸送は危険なために、このような地下鉄で人と物資を運搬しているそうだ。
 人用の車両の前で長い黒髪の女性が一人佇んでいた。
「遅いです中将。3分遅刻です」
「この人は?」
 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)が尋ねる。表情に乏しいが美人だと思った。
「BD―01P専用のフライトオフィサーとして開発されたサポートアンドロイド。アセトだ」
「アセトです。皆様よろしくです。それよりも中将、軍人として時間は厳守してください」
「大分、堅物に疑似人格の思考が作られているのが傷だが――」
「大きなお世話です。それはそうと、出発の時間です。皆さん列車へお乗り下さい」
 抑揚少なく、アセトは皆を列車へと誘導する。感情表現に乏しいらしい。それもそうだ。イコン操縦のサポート用として最初期に開発されたアンドロイドだ。感情という不確定なシステムは軍事的にいらない。
「アンドロイドですか。面白いものを作る人がいますね」
 諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)はアセトの表情筋の精密な表現に開発者の趣味を感じた。感情のいらないアンドロイドに表情をコントロールするシステムを組み込んでいる。実に面白い。
 とまじまじと見ているとアセトに「あまりジロジロ見ないで下さい」と釘を刺された。
「彼女を作った人には逢えますか?」と優斗が尋ねる。
「都市に軍の研究所がある。そこを訪ねるといい」とマシューに助言される。
「僕もその人に興味があります」
 その人なら廃人となった神無月 勇(かんなづき・いさみ)の精神をも共に戻す方法を知っているかも知れないとミヒャエル・ホルシュタイン(みひゃえる・ほるしゅたいん)は考える。
「俺もその研究所に紹介してくれ! この体を元の通りに再構成してもらいたいんだ」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が懇願する。いつまでもサイボーグではいられない。
「私からもお願いする。友の体を元に戻す力になってほしい」とイグナイター ドラーヴェ(いぐないたー・どらーべ)もお願いする。
「できれば、鋼の強さを持つ肉体に」と追加注文。
「――、体細胞があれば人体の再構築は用意だが、鋼の肉体となると……」
 マシューは少し悩んで言った。
「一人それを可能な研究をしているヤツがいる。だが、どうなっても知らんぞ」
「多少の危険は承知の上だ。紹介してくれ」
「皆さん、そろそろ到着します」
 アセトがアナウンスすると列車は暗いトンネルを抜けた。
 そこはまだ地下だったが、地下というのに明るい。地下照明と共に、分厚い強化プラスチック合板の天窓が外の光を透過させているのだ。地上の風景も見える。ジオフロント構造。
 マシューが告げる。
「ようこそ、ここが我らの守る都市、『オリュンズ』だ」