空京

校長室

重層世界のフェアリーテイル

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重層世界のフェアリーテイル
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リアクション



・お茶会ですよ 給仕編


「これでよし、と」
 風間 宗助(かざま・そうすけ)は小屋がテラスにいるドロシーに向かって確認を取った。
 庭園と小屋の間の広場に、調査団の荷物にあったビニールシートが敷かれている。
「宗助にしては手際いいじゃん」
 意外そうな顔をしていたのは、小鳥遊 アキラ(たかなし・あきら)だ。
「僕だって、このくらいは出来ますよ。さ、皆さんどうぞ」
 宗助が呼びかけると、シャンバラの学生や花妖精の子供達が集まり始めた。鳥達のさえずりの下、お菓子とハーブの香りが豊かな自然の中に漂っており、それらが出てくるのを心待ちにしているのだろう。
「そろそろいいかな?」
 皆川 陽(みなかわ・よう)がお湯を沸かし、この村で取れたハーブの入ったティーポットに注いだ。使わせてもらったのは、カモミールによく似た香りの葉のようだ。
 その間にテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)が用意した薔薇のティーセットのカップをソーサーの上に置き、今座っている人達に配っていく。
 陽はティーセットに入っていた砂時計を使って時間を計り、蒸らした。こういう機会だから、やはりより美味しいお茶を淹れたい、ということだろう。
「テディ、お願い」
「イエス・マイロード」
 コージーで覆われたポットをテディに渡し、それを飲みたいという人のカップへと注いでいった。
「何という手際の良さ……これはメイドとして負けていられませんね」
 立川 絵里(たちかわ・えり)も、配膳の手伝いを始めた。
「まだまだ人は集まって来るでしょうから、すぐにカップを渡せるようにしておきましょう。頼みますわよ」
 絵里がパートナーの五十嵐 義也(いがらし・よしや)を見遣る。
 広場にやってくる者達に、彼女達がカップを手渡していく。しかし、数を確保していなかったのかすぐになくなってしまったようで、義也がそれを取りに小屋まで走っていった。
「この分だと、お湯も結構必要になるかもしれませんね」
 近くに湧き水があり、この村ではそこから水を得ている。そうドロシーから聞いていたので、宗助はそこへ向かおうとした。
「じゃあ、私が汲んでくるわよ」
 呟きを耳にしたアキラが走っていく。
 その間に、宗助はお茶の確認をした。
「すごい、手馴れてますね。良かったら、淹れ方を教えてくれませんか?」
 本格的なハーブティー作りをしている陽に声を掛けた。
「いやあ、すごいだなんて。ボクでよければ……」
 簡単にではあるが、教えてもらう。そこへ、アキラが戻ってきた。
「お待たせー……きゃっ!」
 彼女がつまずき、桶に汲まれた水が宗助にぶちまけられる。辛うじて、近くにいた陽にはかからずに済んだ。
「ご、ごめん」
「まったく……着替えてくるから、子供達の相手をするなりして少し待ってて下さい」
 ため息を吐き、一旦その場を後にした。
「まー、落ち込むなよ。失敗は誰にでもあるってー」
 ハーブティーの香りにつられてやってきた子供に、アキラが慰められているのが聞こえてきた。
(ま、頑張ってはいることだし、後で裏で焼いているお菓子でも持ってってあげますか)

「ボク達もみんなをもてなすんだもん!」
 意気込むのは、これまたメイド服な下川 忍(しもかわ・しのぶ)だ。
「忍はクッキー持ってきたんだよね。みんな本格的だから気が引けるけど、私もお茶を淹れて出すよ」
 赤坂 優衣(あかさか・ゆい)がその準備を始めた。忍の方は、クッキーの入った袋を手に、その中身を配っていく。
「……で、どうしてオレまでメイドになっているんだ!?」
 アレイ・エルンスト(あれい・えるんすと)メルヒオール・ツァイス(めるひおーる・つぁいす)から渡された服を着たが、それがメイド服だった。
「あれ、なんかおかしかったかな?」
「発想自体は間違ってない。だが……」
 ネタでもない限り、男が着るようなものではない。が、今更どうしようもない。
「どうしてこうなった……! まあ、やると決めた以上やるしかないか」
「一緒に頑張ろうね、アレイ」
 慣れない格好ながら、アレイはお茶を運び始めた。
「あれ、兄さんも来てたんだ。アンネ、兄さんがいたよ」
「はい、今行きます」
 エルク・エルンスト(えるく・えるんすと)アンネローゼ・ブリューゲル(あんねろーぜ・ぶりゅーげる)を呼んだ。
「エルク、お前もいたのか!」
 アレイは弟とまさかの遭遇を果たした。
「あれ、どうしてその格好なの?」
「まあ、ちょっと色々あってだな……」
 何というか説明しにくい。
 とりあえず給仕の最中ということもあり、一旦彼から離れようとする。
「あ……!」
 しかし、慣れない仕事、しかも格好だったために転んでしまった。
「わ、悪い!」
「いえ、このくらい大丈夫ですよ」
 一緒に給仕を行っている園居 瑠那(そのい・るな)にポットの中のお茶がかかってしまった。
「あはは、ボクの瑠那に何やってるのかなぁ?」
 お茶で濡れた本人は起こってはいないが、彼女のパートナーである霧咲 幽(きりさき・ゆう)が笑顔で殺気を向けてきた。
(コイツ、マジでキレてやがる……!)
 一触即発。
「ゆ、幽兄、やめて下さい!」
 瑠那が止めようとするが、聞く耳を持たない雰囲気だ。
「ちっ……やるしかなねぇか! はたきの力をみせてやる!」
 ビニールシートの上から飛び退くと、ケーキ用にと瑠那達が配っていたフォークを、幽が投げてきた。
「それ、お茶会用のだろ――って危ねぇっ!!」

 二人のバトルが始まると、メルヒオールが瑠那の元に寄ってきた。
「あっ、園居さん、お洋服拭きましょうか?」
「そこまでかかったわけではないので、平気ですよ。それよりも……」
 給仕そっちのけな二人へと瑠那は生暖かい眼差しを向ける。
「お互い大変ですね……」
 そして、お茶を飲んでいるエルクがそんな様子を眺めながら声を漏らした。
「兄さんも、楽しそうで良かった」
 実際は違うが、格好が格好なこともあり、遊んでいるように見えても無理はない……のだろう。
「私もみなさんが楽しそうにしているのを見ると、何だか楽しいです」
「来てよかったね、アンネ!」
「はい」
 さらに、二人の戦いに気付いた花妖精の子供達がそれぞれを応援したりと、当事者以外は案外楽しんでいるようだった。

* * *


「賑やかになってきましたね」
 ドロシーがテラスからお茶会の様子を見に、庭園の前までやってきた。
「ドロシーさん、その服は?」
「先程、作って頂いたのです。あの服は、今直してもらってるところですよ」
 神楽 祝詞(かぐら・のりと)は、新しい服に身を包んだドロシーに声を掛けた。
「そうだったんだね。あ、何飲む?」
 彼もまた、リリムス・フェレント(りりむす・ふぇれんと)と一緒に給仕の手伝いをしている。
「そうですね……あちらのをお願いします」
 用意されていた茶葉からドロシーが指したのを選び、用意をした。
 そんなドロシーをじっと見つめている子供がいた。牡丹の花の子である。
「ピオニアちゃん、大丈夫だからおいで」
 ピオニア、と呼ばれた花妖精は、来るなりドロシーにしがみついた。
「すいません、この子、はにかみ屋さんなんですよ」
 彼女の背後に隠れるピオニアに、リリムスが微笑みかけた。
「おいで。お茶会、一緒に楽しもうよ」
 そんな彼女に気を許したのか、近付いていく。
「ドロシーさん、皆さん、こちらのクッキーはいかがですか?」
 ユイ・マルグリット(ゆい・まるぐりっと)が、鈴川 灯璃(すずかわ・あかり)が持ってきたというクッキーの箱を差し出した。
『どうぞ』
 それをかじりながら、灯璃がスケッチブックにその言葉を書いて勧めている。
「……頂戴」
 ピオニアがさっ、と手を伸ばして口へと運んだ。
「では、私も頂きます」
 ドロシーもそれに続いた。
「そういえばドロシーさん、ここがティル・ナ・ノーグのハイ・ブラゼル地方だってのは分かったんだけど、ティル・ナ・ノーグ自体はどんなどんなところなのかな?」
「多くの妖精が集う地域、としかこれまで耳にしたことがありませんからね。宜しければ色々と聞かせて下さい」
 祝詞とユイが彼女に言う。
「そうですね……ティル・ナ・ノーグは、まとまった一つの国と言うよりは、いくつもの集落がそれぞれの文化ごとに生活を営んでいる地域です。妖精といっても、多種多様ですからね。それぞれの集落はあまり互いに行き来することがないので、今どうなっているかは、私にも分からないのですよ」
 苦笑するドロシー。
 この村にしても、外の世界から人が来るのは珍しいということから、それは本当なのだろう。
 
「うお、なんだこれ!?」
 花妖精の子供達が、お茶会の場にあるとあるお菓子をしげしげと見つめていた。
「これはケロッPカエルパイといって、私達のいる地域では有名な銘菓よ」
 ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)は、子供達にそれをアピールする。
「見た目はこの通りですけど、味は普通にパイ菓子で美味しいんですよ。ハーブティーも、合うものを淹れてみました」
 橘 舞(たちばな・まい)が、ハーブティーの入ったポットを運んできた。村で採れたものを数種類ブレンドした一品だ。
 なお、カエルを象っただけのパイではなく、実際にカエル肉粉末エキスを配合していたりする。言わなければ決して気付かれるものではないが。
「んん? ドロシーおねーちゃんが作るお菓子とは全く違う味がする」
「ほんと? あたしにもちょーだい」
 外の世界のお菓子というのはやはり新鮮に感じるようで、子供達が顔をほころばせながら口にしている。
「この村でも、お菓子作りをしたりしてるんですね」
「おー。おねーちゃんはすごいんだぞ。服は作れるし、料理も出来るし、優しいし、いろんなこと知ってるし」
 自分のことのように、誇らしげにパンジーの少年が語った。
「あ、一ついいですか? 何だか美味しそうにしている子供達の顔が見えたので」
「どうぞ」
 そこへやってきたのは、双葉 みもり(ふたば・みもり)だ。
「これだけ盛況だと、持ってきた甲斐もあったというものね」
 このまま花妖精達がリピーターにでもなってくれればありがたいものだ。
「刃大郎もいかがですか?」
 みもりがパートナーの皇城 刃大郎(おうじょう・じんたろう)にパイをちぎって渡した。
「……そういうならば」
 それを受け取り、彼も口にする。
「ほんと、のどかですね。この世界が、こんな風に平和であればと思いますよ」
 時間が経つのも忘れてのんびりした時間を、今は過ごしている。というより実際にこの村には時間の概念がなく、自分の歳を正確に知ってる子供はいないらしい。
 時間という楔から解き放たれたのが、この村の一つの特徴でもあるのが話しているうちに分かった。
「あれ、また知らない匂いがする」
 子供の一人が、匂いのする方を向いた。
「これは、日本茶と和菓子というものよ」
 カトリーン・ファン・ダイク(かとりーん・ふぁんだいく)がそれらを子供達に向けて差し出した。
「お口に合えば宜しいのですが、いかがでしょうか」
 カトリーンに続く形で、明智 珠(あけち・たま)が言う。
 日本と繋がりがあるシャンバラとはいえ、空京や日本の影響が強いツァンダを除いた地域では、和菓子というのは普段でも珍しいものだ。なおヴァイシャリーでは現地の文化と合わせて独自の進化を遂げているものもあったりする。
 カエルパイ同様、それも子供達の注目を集めていた。
「良かったら、皆さんもいかがかしら?」
 カトリーンがブリジットやみもり達にも勧めてくる。
「パラミタに来てから、しばらく見てませんでしたね。日本茶を頂いていいですか」
 みもりがお茶を受け取った。
 子供達にとっては未知の味らしく、やや戸惑っている。
「美味しいけど、なんだか不思議な味ー」
 それでも、ちゃんと味わってはいるようだった。

* * *


「海里くん、こんな感じでいいの?」
 硯 爽麻(すずり・そうま)は鬼神力を行使した上で、執事服を着ていた。ジャケットは着ていない。なお、それは白 海里(ましろ・かいり)の服である。
 超感覚により狐耳と尻尾も生えており、ネコ耳メイドならぬ狐耳執事という一部に人気が出そうなジャンルの格好となっていた。
「お似合いですよ、お嬢様」
 一方の海里はメイド服だ。その手にあるプレートには、切れ目が入った生クリームが塗られた出来立てのケーキが乗っている。
 準備が出来たところで、二人も給仕を始めた。
「ん、あれは……」
 ふと、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)の姿が目に留まった。二人が何かを話している。
「ただお茶を飲んでお菓子を食べるだけというのものう……」
「ここで雰囲気のいいこと……例えば語り弾きとかすれば好感度が上がるかもですよ?」
「む、語り弾きか。なら『本気』を出してみるかの」
 おもむろに、房内がアコースティックギターを取り出した。
 楽器を出したことで、さらには名声を得ていることで注目は十分に集まっている。むしろ、だからこそ多くの人がいる中でも爽麻はすぐに気付けたのであるが。
 ギターの弦を弾きながら、房内が歌い始めた。幸せの歌である。
 ゆったりとした空間に、それが響き渡っていく。少し経つと、それに合わせて子供達、そしてお茶会に参加している者には一緒になって歌い始める者も出てきた。
「おお、お見事」
 ディーヴァというよりは、一部ではむしろエロ神様としての知名度の方がある房内であるが、これは普通に素晴らしいものだった。
 歌い終わると、拍手が送られ、それに応えるように彼女が一礼した。
「お疲れ様、良かったよ」
 爽麻は二人にお菓子を渡し、お茶を汲んだ。
「俺もびっくりですよ。エロ神様の本気がここまでとは」
「わらわもエロだけではないのじゃよ」
 そこへ、海里が胸を揺らしながらケーキを持ってきた。
「いい演奏でしたね。さあ、これをどうぞ」
 ケーキの乗ったプレートを膝の上に乗せ、取り皿へとよそって貴仁と房内へ渡した。
「あ、ケーキが……」
 渡す際、そのまま前屈みになって手を伸ばしたため、海里のやたら大きい胸が残りのケーキに当たってしまっていた。
 そのせいで、胸元が生クリームまみれとなってしまう。
「すいません。ちょっと拭きますね」
「何、それならわらわが揉……拭いてやろう」
 明らかに違う単語が出かけていたが、生クリームを拭くために房内が彼女に近付こうとし……転倒してそのまま胸元に顔が埋まった。
 拭くどころか、彼女の顔までが白いクリーム塗れになってしまった。
 狙ったのか、それとも本当のハプニングだったのかは房内のみぞ知る。