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リアクション
第四世界・4
一方、町に向かわなかったものも、いる。
「どこまでいっても、殺風景なところだな」
ニーア・ストライク(にーあ・すとらいく)は、荒野の道を町とは逆方向に進みながら、ぽつりと呟いた。
「だから私はお茶会がいいって言ったのに」
一緒に歩くクリスタル・カーソン(くりすたる・かーそん)が、いくらか恨めしげに呟く。
「だって、ゲートを通った途端に撃ち合いしてるから思わず逃げちゃったんだよ。仕方ないだろ」
細かいことを気にしない性格はいつもの通り。クリスタルは、大きくため息を吐いた。
「アイダホはまだですかね?」
耳元のヘッドホンからシャカシャカと大きく音漏れさせながら、ニケ・ファインタック(にけ・ふぁいんたっく)が、道の先を見つめている。
「ここは……アメリカ、じゃないんじゃ……」
小型飛空艇をゆっくりと旋回させているメアリー・ノイジー(めありー・のいじー)が、主に聞こえない声で呟いた。
「……このペースだと、ずっと地平線じゃないかな」
ニーアが呟く。ニケは、むむとうなった。
「じゃあ、急がないと。お先!」
ニケが跨がったマウンテンバイクを強く漕ぎ、道の先へ急ぐ。メアリーもその後を追って、飛空艇を加速させた。
ニケと別れてからも、ニーアはしばし道を進んだ。その行く手に、煙が上がったかと思うと、馬に跨がった金住 健勝(かなずみ・けんしょう)が近づいて来る。
「おーい! キミたちは、町の方から来たのでありますか?」
馬を止め、健勝が問う。ニーアは来た道を振り返ってから、
「いや、俺たちはゲートからこっちに向かったんだ。町には寄ってない」
「その様子だと、あまりよい発見はなかったようですね。やはり、地球とは状況が違ったのです」
レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)が健勝の背中に言う。
「そっちは、何か探してたの?」
クリスタルが問う。健勝は頷き、ぐるりを見回した。
「この場所はアメリカ大陸に似ているから、同じように昔から住んでいる人たちがいるかと思ったのでありますが……」
「先住民族ってやつか」
ニーアが言うと、健勝は頷いた。
「しかし、そういった人たちがいる様子はなく……ゲートの近くで見たような、無法者なら見かけたのでありますが」
「他にいくつか、水場を見つけたくらいで。しかし、どうやら町以外、山や荒野に暮らしている人たちはいないようですね」
ふたりは答える。そして、
「ひとまず、自分たちは報告のために戻るであります。この先、どこに何があるか分からないでありますから、戻れなくなる前に戻った方がいいでありますよ」
健勝とレジーナが頷き合い、走り出していく。
「と言っても、道を戻るだけだと思うけど……」
忠告は素直に受け入れるものだ。そう思ったニーアは、振り返ってもと来た道を戻りはじめた。
と……
「きゃー! 見て、すごい! 地球じゃ見た事ない型だわ! ああっ、現役で動いている鉄道が見れるなんて! ……きゃっ!」
「うわっ!?」
黄色い歓声と共に全速力で走る何かがニーアに思いっきりぶつかった。
「あいってて……なんだ?」
「ちょっと! 人が機関車を追いかけてるのに!」
素早く立ち上がる桜月 綾乃(さくらづき・あやの)がニーアを指さして叫ぶ。
「ちょ、ちょっと、綾乃! いくらなんでも興奮しすぎよ!」
後から追いついた桜月 舞香(さくらづき・まいか)が、綾乃を抑えた。
「はっ……やだ、私ったら。ごめんなさい、まさか今の時代にあんな……あんなすごいものが見れるなんて思ってなかったから」
綾乃が慌てて頭を下げ、向こうを指さす。その先では、どうやら黒い煙を上げて走る蒸気機関車が走っているらしい。
「は、はあ……?」
きょとんとするクリスタル。舞香は頭を下げながら、
「この子、鉄道のことになると性格が変わるって言うか……乗るのは、乗車券が買えなかったんだけど、追いかけようって」
「はあ……あ、でも鉄道があるってことは、あの町以外にも、町か何かがあるってことかな?」
ニーアが呟く。確かに、と綾乃が手を打った。
「でも、今はあの町に集まってくる人が多いらしいわ。逆に、出て行く人はほとんどいないんですって」
先に列車を追いかけていった綾乃の代わりに、鉄道員から話を聞いていた舞香が付け加える。
「そっか……それじゃあ、やっぱりあの町で何かがあるのね」
腕を組んだクリスタルの呟き。ニーアは疲れた様子で、元来た道を示した。
「もう、ゲートに戻ろうぜ。なんかいろいろあって、落ち着いた場所に行きたいよ」