空京

校長室

重層世界のフェアリーテイル

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重層世界のフェアリーテイル
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リアクション


第四世界・6

「……なんだ?」
 通りがにわかに騒がしくなったことに気づいたゼロ・ニーズヘッグ(ぜろ・にーずへっぐ)は、物陰から大通りをのぞき込んだ。
 そこはもちろん、無法者と契約者たちが一斉に酒場から出てきたところである。
「まあまあ、野蛮な撃ち合いなんて、みっともない。ここは僕と、銃の腕で勝負しようじゃないか!」
 びし! と空を指さして、飛鳥 桜(あすか・さくら)が叫ぶ。
「ちょっと待ちぃ! 桜、何考えとるんよ!」
 ジェミニ・レナード(じぇみに・れなーど)は、パートナーのいきなりといえばいきなりの提案に恐慌をきたしかけている。
「直接撃ちあうより、腕前を競ったほうが穏便でしょ? そうねえ、この空き缶を撃ち上げて長いこと落とさなかった方が勝ちって言うのは……」
「いいや、撃ち合わなければ勝負は着かない」
 ロイ・グラード(ろい・ぐらーど)が、桜を制すように言った。
「……背を向けて十歩。それが流儀だ」
「ご主人、あまりことを荒立てて欲しくないであります。情報収集がはかどらないであります」
 アイアン さち子(あいあん・さちこ)が、すっかり大げんか会場と化している周囲を見回して呟く。
「……この世界の銃を手に入れたい。決闘して勝ったら、もらう権利ぐらいはあるだろう」
「あきまへん。撃ち殺すんやのうて、どっちが強いかが分かればいいんどす」
 さらに口を挟むも者もいる。伊達 黒実(だて・くろざね)だ。その背後には寡黙な紅蓮 焔丸(ぐれんの・ほむらまる)が黙って付き従っている。
「決闘ならわてとしやしませんか? 女やからって手加減無用どすえ」
「女が口を出すことじゃない。黙っていろ」
「それは僕にも言っているのかな? 何なら、君と腕を競ったっていいんだぞ」
 黒実を突っぱねようとするロイに、桜がさらに絡む。
「なんだなんだ、どうした?」
「いや、それが何か勝手にはじめちまって……」
 契約者に一泡吹かせてやろうと出てきた荒くれたちも、なんと言って良いか分からない状況だ。やがて、彼らを囲んで人垣ができていた。


 別の一角で。
「怪しい者じゃない。単なる全裸保安官だ」
 カウボーイハットをかぶり、胸と股間にひまわりの花を咲かせた(生えているわけではない。つけているのだ)変熊 仮面(へんくま・かめん)が、男達と向かい合っていた。
「新参者を相手にえばってるなんて、ずいぶん器がちっちゃいんだにゃ〜」
 マントとマフラー、仮面姿のにゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)が、ずずいと前に進み出た。
「なんだと……」
「反応が遅い! こっちはもう抜いてるにゃ!」
 猫獣人にバカにされて怒りを露わにした男に、にゃんくまの手から素早く輪ゴム銃が飛んだ。
 ぺちん。
「にゃんくま! なんてことしてるの!」
 一応は話を聞くつもりがあったらしい変熊が、その口を塞ごうとする。だが悲しいかな、覆水盆に返らず。吐いてしまった言葉は口の中に返ってくれないのだ。
「てめぇら! バカにしやがって!」
 男がホルスターから銃を引き抜く。ここに来てついに、銃が抜かれたのだ(引き金の軽いジェニファーは除く)。周囲にびりっと緊張感が駆け抜ける。
「まずい! にゃんくま、逃げるぞ!」
「し、師匠!」
 2人そろって背中を向けて駆け出したのだが……
「う、頭が痛い!」
「気分が悪いにゃ……」
 不意の悪寒に襲われ、2人が膝をつく。その背後で、銃を抜いた荒くれも突然、うずくまっていた。
「おいおい、どっちが善玉だ? まあいいか、こっちが悪玉やってりゃあ、そのうち正義の味方も悪い人も集まってくるだろ」
 闇を身に纏ったゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)が、腕を振りかぶる。雷が通りに落ちて、何人もをまとめて痺れさせる。
「そうですよ。そうだ、この人たちは地図とか持ってないかな?」
 と、ジェンド・レイノート(じぇんど・れいのーと)。男達の懐を漁っている。
「……待ちなさい」
 大通りに踏み出そうとしたところで、声。雪 汐月(すすぎ・しづく)が、ダガーを手にゲドーをにらみつけている。
「邪魔するんじゃねえよ」
 ゲドーは答えるのも面倒だとばかりに、懐から銃を抜き、撃った。
「汐月!」
 カレヴィ・キウル(かれぶぃ・きうる)が横から飛び出し、その魔弾を二の腕に受けた。
「……ぐうっ!」
 苦悶の声を上げながらも、自らも銃の引き金を引く。が、ゲドーは魔力で空へと飛び上がり、それをかわした。
「カレヴィ……!」
 汐月もまた、ダガーを投げ放つ。しかし、ゲドーは空中で旋回し、すんでで刃を避ける。
「殺りあおうってんなら、相手になってやるぜ」
「あら。それなら、私も混ぜてください」
 横合いから声がかかる。と同時に、鋭い糸がゲドーの体に巻き付いた。
「私、前から殺しあいをしてみたいと思ってましたの」
 糸を手繰り、ゲドーの体を地面に引きずり降ろしながら藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)がにっこりと笑みを浮かべる。
「ありゃあ、お嬢は本気だぜ……旅の恥はかき捨てって言うが、首まで掻くつもりか?」
 影に隠れている宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)がぼそりと呟く。すでに光学迷彩の準備はバッチリだ。
「上等じゃねぇか」
 硬質ワイヤーから逃れながら、ゲドーも呟いた。


 喧噪はあっという間に広がり、町のあちこちで銃声が鳴りはじめていた。
「……やれやれだ」
 ゼロは思わず呟く。そのとき……
「……やめなさい」
「いいじゃねえか、ちょっとぐらいよ」
 カルマ・アーク(かるま・あーく)が、男に絡まれている。そう分かった瞬間、ゼロのかかとが男の腹に刺さっていた。
「……てめえ!」
 体をくの字に曲げながら、荒くれらしき男が銃に手をかけた。それを確かめてから、ゼロは剣を抜く。
 騒ぎの種が、さらに増えた。