空京

校長室

重層世界のフェアリーテイル

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重層世界のフェアリーテイル
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リアクション


第四世界・7

 騒ぎに乗じるものも、いる。
 町の裏路地。国頭 武尊(くにがみ・たける)は、無造作に砂の上に黄金色の菓子(らしきもの)を投げ置いた。
「でかい家の金庫からかっぱらってきたんだ。なあ、話を聞かせてくれよ」
「酒もあるんだ。日本酒って言うんだぜ。なあ、飲んだことあるか?」
 ボトルを取り出す猫井 又吉(ねこい・またきち)ともども、彼らは「ものでつる」作戦に出たのだ。
 この作戦はほとんどの場合、有効である。そして、この場合はそのほとんどに含まれていたらしい。
「怪しい連中がうろうろしてると思ってたが、話が分かるやつだっているんじゃねえか。ほら、ここじゃあなんだ、こっちに来てくれ」
 ひげ面の男が、菓子(のように見えるもの)をかき集めながら下卑た笑みを浮かべる。武尊は頷いた。
「アジトというやつか?」
「危ない言い方するなよ。たまり場ってなもんさ」
 背を丸めて歩く男に着いて、武尊はダウンタウンをさらに下っていった。


 そうして、向かった先。湿っぽい平屋の木造建築。外から見れば崩れかかっているその小屋の中は案外しっかりとした作りになっていた……に、違いない。
 違いないというのは、残念ながら、今では壁に弾痕が刻まれ、天井も一片が吹き飛んでしまっているからだ。
「おい、なんだこりゃ……がっ!?」
 思わず飛び出したひげ男が、懐に菓子(ということになっているもの)を懐に入れたまま、前のめりに倒れた。
「まだ仲間がいやがったか。さっさとずらかった方がよさそうだな」
 帆村 緑郎(ほむら・ろくろう)がサングラスの位置を直しながら、硝煙を上げる銃を構えている。
「あっ! でもこの人も、お金……お菓子? 持ってるです! 悪いお金を取り返しました!」
 三山 雛菊(みやま・ひなぎく)が、男の懐から菓子(だと先ほどからくり返し強調されているもの)を取りだした。
「……何をしてるんだ?」
 武尊が自分の腰の銃に手を伸ばしかけて問う。
「見たら分かるでしょ? こういう、いかにも悪人面って連中をいじめて、ついでにこうやって手に入れたお金で服とか買うのよー」
 さっそく奪った金貨を布袋に詰めながら、春瀬 アンリ(はるせ・あんり)が影から進み出る。
「こっちの世界で通じる金も必要ですからね」
 クリストフォーロ・ビオンディ(くりすとふぉーろ・びおんでぃ)が酷薄な笑みを浮かべて答えた。
「せっかく人……じゃなかった、猫が猫かぶってやってるってのに」
 4対2だ。又吉と武尊は一瞬、視線を交わす。
 そのときだ。
「がははははっ! なんだなんだ、派手にやってるじゃあねえか?」
 腹の底に響くような大声。武尊の背後には、十人以上の無法者を引き連れた大男が立っていた。
 大樽に丸太を突き刺して作ったような体型を、色あせたコートとジーンズに押し込んでいる。口にくわえた葉巻からもうもうと煙を吹き出し、騎兵銃らしきものを拳銃代わりに腰に吊している。
「てめえら、ここがこの“有情の”ジャンゴ様のアジトだと分かっててやってんのか!?」
 その手下たちが手に手に銃を抜いて叫ぶ。
「いや、これは……」
「チッ、逃げるぞ!」
「今日はこのくらいにしてあげるね」
 緑郎のかけ声にアンリが答え、壁に念力で穴を開けて飛び出していく。武尊は説明に窮しながらも、
「……お、オレはあんたたちと仲良くしようと思って来ただけだ。どうやら、一番の大物には会えたみたいだな」
「がははははっ! 言うじゃねえか。よそ者が急に増えたらしいが、使えるやつも中にはいるみたいだな」
「ああ。彼は大まかに言って私と同じ組織に所属している」
 手下どもの中から進み出たのは、サルヴァトーレ・リッジョ(さるう゛ぁとーれ・りっじょ)。酒場が荒れる前に、無法者に目を付けて彼らのボスに取り入ったのだ。
「俺たちのように、用心棒として使えるかも知れませんよ」
 こちらはヴィト・ブシェッタ(う゛ぃと・ぶしぇった)。どういうことかと怪しんでいる間に、ジャンゴはにやりと笑った。
「こっちにも事情があってな。腕っこきの男を捜してんのさ」
「あら、探してるのは男だけ?」
 様子をうかがっていたのか、不意に路地からセレス・クロフォード(せれす・くろふぉーど)が現れ、ジャンゴに意味ありげな視線を送る。
「別の方法で、役に立てる、いえ、立たせることだってできると思うんだけど」
 シェザーレ・ブラウン(しぇざーれ・ぶらうん)がしなを作ってジャンゴにもたれかかる。ジャンゴは作った笑みをさらに緩めた。
「俺様は使えるやつなら何でも使う。まずはてめえらの事情、聞かせてもらうぜ」
 逃げるわけにもいかない。武尊はこくりと頷いた。