空京

校長室

重層世界のフェアリーテイル

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重層世界のフェアリーテイル
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リアクション



第四世界・1

 妖しい物腰の男……キルラス・ケイ(きるらす・けい)が、第四のゲートをくぐったとき。はじめに感じたのは、乾いた空気だった。
 高く昇った太陽にじりじりと熱せられた大地。風邪が砂塵を舞い上げる向こうには、はっとするほど青い空。地平線まで、ぽつぽつとサボテンと岩が不規則に並んでいる。
 印象派の絵画に迷い込んだような、息をのむ荒野の風景。
「どんな場所に出るかと思ったけど、砂だらけで殺風景なところだねぇ」
 見てそのまま、思ったことをキルラスは呟いた。
「のんきに言ってる場合かよ。そんなんじゃすぐやられちまうぜ?」
 共にゲートをくぐった相棒、ヴァン ガルアード(ぶぁん・がるあーど)が呆れた様子で言う。
「そうは言っても……おっ?」
 ふと、キルラスは物音を聞きつけた。そう遠くない場所に細長い道があることに気づき、ついでに、そこにカントリーな服を着た女性と、ボロのようなポンチョを着た男達が居ることに気づいた。
 どうやら、女性が男達に絡まれているようだ。
「人間はどこに居ても、やることは変わらないな……って、おい?」
 ヴァンの声を聞いていないフリをして、キルラスは懐からゆっくりと銃を抜いた。
「面白そうじゃないか」
 駆け出した。まずは一発。乾いた銃声とともに吐き出された弾丸が、一番近くに居た不幸な男の背に命中した。
「なんだ、てめえ!」
 男の仲間が叫び、腰のホルスターから銃を抜く。
 が、それと同時、別の方向から飛来した蒼く輝くものが男の手を打った。
「ぐあっ!?」
「若い女性をよってたかって襲うなんて、感心できないなあ」
 歩み出てきたのは、永井 託(ながい・たく)だ。次々に現れる、見慣れない姿格好の学生たちが驚く男達を指さし、アイリス・レイ(あいりす・れい)が声を上げる。
「シオン、彼らを!」
「任せろ」
 答えて、シオン・グラード(しおん・ぐらーど)がスタンスタッフを手に走り出す。ようやく体勢を立て直した男達が、一斉に獲物の引き金を引く。
「……くっ!」
 逃げ場を塞ぐように飛来する弾丸を、シオンは横に飛んでかわす。ほとんどを伏せてやりすごし、一部はサボテンにぶつかって逸らす。
「ごろつきみたいな見かけのくせに、銃の腕だけは確かだな」
 ぽつりと漏らすシオン。
「だが、それ以外はパラミタのモヒカンどもとそれほど変わらん」
 男達の背中から声が聞こえた。振り向いた瞬間、死角をついて彼らの後ろを取ったナン・アルグラード(なん・あるぐらーど)の剣が一閃する。
「てめえら、邪魔するつもりか!?」
「そりゃ、こういうときは女の子の味方をするのが普通の反応だよ」
 こちらもスタンスタッフに持ち替えつつ、託。
「待ってくれよ。最初に撃ったのは俺……」
「君は彼女を連れて逃げて。早く!」
 アイリスが暴漢たちに襲われていた女性の手を引いて駆け寄り、キルラスへ押しつけてくる。
「でも……」
「いいから!」
 アイリスの様子は、有無を言わせぬ勢いだ。キルラスは渋々、彼女の手を取って、いよいよ乱闘の様相を呈しはじめているその場から走り出した。


「こっちです、街がありますから……」
 女性が指さす方へ、キルラスは走る。だが、さすがに女性の体力が尽き、道ばたにへたり込んでしまった。
「まあ……あっちは任せておけば大丈夫だろう」
 ヴァンが肩をすくめながら呟く。
 しかし、彼らの行く手から、別の一団が馬に乗って走ってくる。銃声や怒号を聞いて駆けつけたのだろう、先の連中と同じようなごろつき姿だ。
「チッ」
 と、懐から銃を抜こうとするキルラスを、
「待て」
 止めるものがあった。同じく喧噪を聞きつけて、ゲートから向かってきた健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)である。
「俺たちは調査のために来たんだ。ここに居る人たちとむやみに戦う必要は無い」
「でも、連中、話が通じそうな顔はしてないぞ」
「だから、こうするのよ!」
 枸橘 茨(からたち・いばら)が進み出て、手の中の煙幕ファンデーションから激しい煙を噴き上げる。
「うわっ!?」
「なんだ!」
 男たちと馬が、見慣れぬ煙に驚きの声を上げる。
「さあ、今のうちに行くぞ!」
「しかし、彼女が」
 へたり込んでしまった女性を見るヴァンに、勇刃はきっと拳を握った。
「男なら抱え上げて走れ!」
 かくして、キルラスはゲートをくぐってしまったばかりに、女性をひとり、抱えて走ることになってしまったのであった。


 煙幕に巻かれて慌てふためく男達を、物陰から眺める姿があった。
 シャドウ・バハムート(しゃどう・ばはむーと)は、音を立てずに近づき、絶対に外さないという距離で銃を構えた。
「……おやめなさい」
 その手を引き留めるものがあった。冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が、いつの間にか隣に並んでいる。
「邪魔をするのかね?」
 問うシャドウに、小夜子が首を振る。
「あなたを探していたのですわ」
 そう言って、傍らを示した。シャドウのパートナーであるドレイク・スレイプ二ル(どれいく・すれいぷにる)が、ほっとした様子で胸をなで下ろす。
「よかった、シャドウが見つかって」
「余計な……」
「なんだ、てめえら!」
 と、やっている間に煙幕が晴れてしまったらしい。荒くれたちが一斉に銃を向ける。
 タンッ!
 乾いた銃声。火を噴いたのは小夜子の持つ拳銃であり、荒くれの抜いた銃が弾き飛ばされていた。
「私たちと、やり合いますか?」
 エンデ・フォルモント(えんで・ふぉるもんと)が、大ぶりの擲弾銃を手に問う。女ガンマンの腕前と、とにかく凶悪そうな武器に、ぞっとした表情を浮かべた。
「……お話しできますね?」
 小夜子は、そっと笑みを浮かべた。


「はあ、はあ……」
 汗だくになりながら肩で呼吸するキルラス。一方、ここまで運ばれてきた女性は、立ち上がれるようになったらしい。
「ありがとうございます。あなたたちは一体?」
「調査団だよ」
「調査?」
 驚いた様子の女性に、キルラスは面倒そうに肩をすくめる。
「俺たちは外から来たんだ。ここがどんな場所か知りたがってる」
 キルラスの返答に、女性は少し戸惑った様子を見せたが、やがて道の先を示した。
「それじゃあ、町まで来てください。人がたくさん居ますから」