空京

校長室

重層世界のフェアリーテイル

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重層世界のフェアリーテイル
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リアクション

 花妖精の村の北東に伸びる道。
 その道の小脇にこんな看板が立ててあった。
【第三世界観光便】

 ドロシーの言う別世界を観光しようという案内があった。

『大型飛行船で楽しい遊覧飛行を“どこまでも” 
 乗船料金 タダ
                                                 ※何があっても全て自己責任でお願いします
主催 ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)


第二調査団

 第一調査隊の報告を受け、村では直ぐ様により大きな調査隊が発足された。
 第一調査隊の報告によれば、村とゲートの向こうの世界では通信が取れないこと。
 向こうでは無線での直接通信以外が使えないこと。そのため、基地に向かったクレーメックの【銃型HC】と連絡が取れないこと。
 そして、上空に突如として現れた、イコンに似た謎の飛行物体に攻撃を受けたこと。
 これらの報告から、調査地点でのイコン防衛と飛行物体及び基地の再調査、それらを円滑にするための情報インフラの整備が必要と判断された。

 第二調査団は第三世界側のゲートの近くにベースキャンプを設け、活動を開始することになった。
 まず現地入りしたのは、沙 鈴(しゃ・りん)率いる調査準備チームだった。指導通信車と電源車をベースキャンプ地点に配備し、通信インフラ整備を整えるための準備をする。
 おそらくは、ここが地球とは隔絶された世界の為に携帯やパソコン等の電波通信ができないと判断したからだ。直接的な無線ならともかく、大容量通信となれば、通常電波塔、通信衛星を介して行われるものだが、ここではそれはできない。
 特に、イコンでの複数通信を運用するにあたって、無線やテレパス通信だけでは謎の飛行物体に大きく遅れを取る可能性がある。遠くにかなり発展した都市が見えることを考えると、相手側の技術力は高いと判断すべきだからだ。こちらもデータ通信で各イコンのシステム並列化、フィードバックを行う必要がある。
 衛生を中継する通信がだめなら、電波の中継地点をベースキャンプに作ればよい。
「叶少尉、通信状況の確認を求む」
 イコンへの通信回線が繋がっているか、鈴は通信車から確認する。叶 白竜(よう・ぱいろん)から応答がある。
「こちら黄山。回線は良好」
「了解。少尉は引き続き部隊の指揮にあたってください。わたくしは通信車より通信網の確認を行いますわ。」
「オーバー」
 簡易携帯基地の設置により、音声通信は良好。白竜は先鋒部隊の回収した地形データを元に、部隊員に支持を出す。
 《光学迷彩》で黄山を隠しての作業なのは、「向こうにとってはこっちが不法侵入者だろうしねぇ」と世 羅儀(せい・らぎ)の意見があったからだ。向こう、つまりは基地の軍、もしくは先鋒隊を襲った不明機部隊にとって、彼らがそう思われている可能性があるということ。もっとも、基地と謎の飛行物体の関係も分からないのだが。どちらにせよ奇襲に備える必要はあった。
「白竜さん、BP内有線ケーブルの配置がしたよ」
 綺羅 瑠璃(きら・るー)より報告。電子戦略を想定しての通信手段として有線通信線の敷設も兼ねる。
「なら次は東側に設置しているアンテナに有線を繋いでください。設営は理王がやっています」
「了解です」
 瑠璃は、ケーブルドラムを担ぎ上げ、裏椿 理王(うらつばき・りおう)桜塚 屍鬼乃(さくらづか・しきの)の操るマリアの位置へと歩き始める。
 理王たちは電波ビーコンを使い、ベースキャンプから発せられる電波が受け取りやすい位置を特定し、その場所に簡易携帯基地局を設置する。
「この辺りがよさそうだ」
 丁度建物の瓦礫にアンテナを隠せる。理王はここを中継基地局と決めて設置を始める。
「指令系統に変なものが入り込まないように気をつけてくれよ」
 屍鬼乃が注意を促す。敵がこれらの通信網を逆に利用しないとも限らない。
「わかっている。が、暗号化の設定は沙中尉に任せるしか無い。敵が現れれば偵察隊から報告がるだろう」
 理王は上空を飛ぶケルベロス・ゼロを見る。藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)が周辺の監視をしている。
「あまり高い位置を飛ばない方がいいですよね……」
 ケルベロス・ゼロの操縦をするサイファス・ロークライド(さいふぁす・ろーくらいど)が裄人に尋ねる。
「そうだな……。チームのじゃまにならないくらいには高度を保ってくれ。今のところ問題の空域に反応はないし」
 裄人はサイファスにそう告げる。不明瞭機の現れた場所には未だ反応はないが、警戒は怠らない。後々、謎の飛行物体に対しての調査団が来るらしいが。
 地上でゲート位置に空間の揺らぎが生じる。教導団の軍事トラックが向こうの世界より入ってきた。トラックはキャンプの仮設テント前で止まり、運転席から大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)が出てきた。
「大熊一等兵であります、資材の搬入に参りました」
 敬礼、テントに居る物資管理班に挨拶する。マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)が対応する。
「ご苦労であります! 荷を確認させて頂きます」
「チェックするんだね」
 荷台の資材及び、補給物資を下ろして、カナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)に確認させる。
 資材が全て降りたら、ゲートを通ってまた次の荷を取ってくる事になる丈ニとヒルダだった。
「ほんと、面倒よね。トラックで村の外まで往復するのって」
 助手席に座るなり、ヒルダが愚痴る。
「次運んだら休憩であります」
 運搬がおわったら昼食にしようと丈ニが言う。トラックのエンジンを掛ける。

 丈ニたちと入れ替わりで、謎の飛行物体の調査団がゲート入りする。上空よりリネン・エルフト(りねん・えるふと)アイランド・イーリが現れる。
「アイランド・イーリより通達。コレより事前報告にあった飛行物体の調査を開始します」
 無線での通達に整備チームの指揮、白竜が『了解。十分に注意してください』と応答する。
「なんなのかしら、ここ……地球ともパラミタとも違う感じだけど」
 ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が舵を取りながら空を見上げる。自分の知っている空の色と少し違う。緑混じったような。
「まさか、飛空艇ごと入れるなんてね……」
 対し、リネンはゲートの大きさに驚嘆する。
『ゲートはかなり上空まで伸びているようだ』
 飛空艇より高高度で進入した花京院 秋羽(かきょういん・あきは)が無線で言った。
 追随するイコンもゲートをくぐった。
「それにしてもこの世界はやたら堅苦しい感じだな。軍隊の前線基地のような物もあるし、まるで未来の教導団って雰囲気だぜ」
 基地の外装こそ似てはいないものの、基地独特の無骨は似ているとシェリオ・ノクターン(しぇりお・のくたーん)は思う。
「周りに人はいないみたいだわ」
 問題空域下には人の影は見られない。葛葉 杏(くずのは・あん)コームラントより確認する。
「レーダーにも反応はありません――あれ?」
 ふと橘 早苗(たちばな・さなえ)はレーダーを再確認する。さっきまでなかったイコン反応が表示される。目視できない。
 空に黒い渦が巻いて、そこから巨大な何かが現れる。
「出てきたみたいだね」
 アイランド・イーリ甲板でフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)がフライユニットのエンジンを掛ける。
「気をつけんだよ。何してくるかわかんねーし」
 立花 眞千代(たちばな・まちよ)の忠告に「わかってる」とフィーアは応える。
 眞千代を残して、フィーアは出撃する。調査を開始する。謎の飛行物体の姿を写真に収める。形状はやはりイコンに酷似している。
 秋羽も【描画のフラワシ】にて記録開始。
「なんか所々壊れているわ」
 クェイルより栗原 薫(くりはら・かおる)がそれに気づく。それは動いていることが不思議なくらいにボロボロだった。
「コレが本当にイコンなんだろうか?」
 高見 直人(たかみ・なおと)も不審がる。イコンにしては自分たちの見たことのないものだ。しかしレーダー反応はイコン。
「形状は兎も角、フレームと構造はイコンだねぇ。未発見のものか誰かが開発したものか」
 《博識》から清泉 北都(いずみ・ほくと)が答える。
「近くに近未来的な都市も見受けられます。私達の知らないところで作られている事は十分にありえます」
 念のためと《禁猟区》を展開するクナイ・アヤシ(くない・あやし)
「新しいタイプのイコンさんですか? 取り敢えず通信を試みてみるですよ」
 オルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)が{ICN0000460#カンパネルラ}からオープン通信で、直接相手に呼びかける。
「すいませーん! こんにわなのですよー♪ オルフェはオルフェリアというのですよー! 初めましてのイコンさんはお名前をなんというのですかー?」
「オルフェリア様……その呼びかけは無いと思うのですが……」
 ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)は呑気で意味不明なパートナーに突っ込んだ。
「交戦の意思がないことを証明するのは必要なことでありますな。一つ我輩も」
「ちょっと危ないよ!」
 彼女に習ってという訳ではないが、ブラウディー・ラナルコ(ぶらうでぃー・らなるこ)も意思表明のため、クェイルコクピットから出てその肩に乗り両手を振る。クェイルの操縦はルイ 14世(るい・じゅうよんせい)に任せる。が、ルイはイコンを操作するのがやっとなのでブラウディーの行動は冷や汗モノだった。
 更に冷たい汗をかくことに事になる。
 クナイの《禁猟区》が攻撃衝動を感知。不明瞭機の持つ銃器に熱源反応。
『回避して下さい!』
 全部隊に警告。謎の飛行物体はその数を増やし、部隊のイコンに対して攻撃を開始する。
「このままじゃ下の部隊に被害が及んでしまう。調査隊を守らないと!」
 黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)が下で準備を進める調査隊を守るべく、ウラヌスで応戦する。
『戦火を拡大させるな! 補給を差し押さえるでありますぞ!』
 マリーから警告。通常通信。どうやら下の通信インフラ整備はほぼ完了したようだ。
「わかっている! が、こっち被害が及んだらもともこもないぜ。ユリナ!」
「はい! 武装を無力化します!」
 ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)は狙撃を担当する。相手の動力部やコックピット位置を狙わずに武装破壊に照準を合わせる。
 銃声により戦火が灯された。