校長室
リアクション
* * * 村外れ、西の遺跡群。 「これは、一体いつぐらいの遺跡なのかな?」 エルシュ・ラグランツ(えるしゅ・らぐらんつ)は「ゲート」となっているそれを調べていた。 「おとぎ話によれば、『古の四賢者』と呼ばれる者達が『大いなるもの』を封印したとのことでしたね」 ディオロス・アルカウス(でぃおろす・あるかうす)が声を発した。 おとぎ話を編纂しているのはドロシーだ。村にある小屋の一つは、書庫となっており、今はちょうど調査団の情報処理班がそこを貸してもらっている。 「けれど、それがどういう人達だったのかの詳細な記録はなかった。あくまで子供達に聞かせるために物語調にまとめてるみたいだしね」 しかも、彼女が書く以前の文献は遺されていないとのことだ。 「さっき子供達にお願いしてこの村の古木から昔の様子を聞いてもらいましたが、一番古い記憶は、荒れ果てたこの地に苗木や花の種を植えている村人の姿だとのことでした」 「大いなるもの」との戦いを見届けた者は、木々も含めていないようだ。 「しかし、この遺跡……ただの異界への『門』なのか、異界そのものを封じていたのか、或いは異界の中に『大いなるもの』を封じているのか……」 同じようにこの遺跡を調べに来ている夜薙 綾香(やなぎ・あやか)は呟いた。 「『封印の地への道が開かれるだろう』という言葉から察するに、封印自体は異界の中にあるように思える」 「異界」とはいえ、この先に広がっているのはこのハイ・ブラゼル地方のどこかであることに変わりはないらしい。「門」というよりは一種のワープスポットということになるだろう。 そこへ、ヴェルセ・ディアスポラ(う゛ぇるせ・でぃあすぽら)から電話が掛かってきた。 『これまで聞き込みで分かったこと、伝えるよ』 報告によれば、「大いなるもの」とは人の心――負の感情が生んだ邪悪な存在だという。なぜ倒さず封印に止めたのかは、人の心から生まれたが故に実体を持たなかったから、完全に消滅させることが出来なかったからだと考えられているらしい。 「人の負の心か。ならば、異変があるとすれば……」 悲しみや怒り、憎悪。人間のそういった感情を利用し、「大いなるもの」は自らの封印を解かせようと仕向けていても不思議ではない。 そして封印されているものとは、「大いなるもの」を形作る「負の心」の一部なのかもしれない。 * * * 「お茶会はいいのか?」 「そういう柄じゃありませんから」 一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)と久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)は、村外れの東の遺跡群へと足を運んでいた。 草木が生い茂り、イコンのような残骸には蔦が巻いている。それが長い年月を物語っていた。 「おとぎ話とはいえ、『大いなるもの』との戦いは実話だと聞きました。この遺跡も、厳重に監視されていてもおかしくないのですが、そんな様子はありません」 村にいるのは、一人の機晶姫の少女と花妖精の子供だけだ。かつて「大いなるもの」との戦いの前後にいたであろう、この遺跡を作った人々はどこへいったのだろうか。 ふと、近くを見るとに古い石碑のようなものがあった。 「お墓、ですか? 字は読めなくなっていますが、この遺跡の守人のものでしょうか?」 こちらもかなり古いものであることが見て取れる。 その前には、花が添えられていた。まだ枯れていないことから、ここ最近置かれたものだろう。 「今はドロシーさんがこの村を守っている……みたいですね」 アリーセも花を供え、この地に眠る者を偲んだ。 |
||