空京

校長室

重層世界のフェアリーテイル

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第6章 24時間調査できますか? ――本部編――

 坂上 来栖(さかがみ・くるす)は、教会のような建物のある敷地を彷徨っていた。
「――ジーク」
 彼女は周囲の景色に視線をやったまま、ジーフリト・ネーデルラント(じーふりと・ねーでるらんと)へ語りかけた。
 ジークフリトの尊大な調子の声が返る。
「どうした? 無駄口を叩いてる間にさっさと懺悔室へ潜り込んで、聖職者のフリをしながら民の腹の内を探れ」
「私は生粋の聖職者ですよ。そして、いちいち言葉が悪い。それではまるで、私が詐欺師のようではないですか」
 若干、眉端を揺らしながら来栖はジークフリトの方へ振り返った。
 気を取り直すように一つ息をついてから、来栖は彼を見る目を細めた。
「気づいたことがあります」
「言ってみろ」
「ここは、教会ではありません」
 建物の高いところを飛んだ鳥が、ヒョロロロロと、やたら平和な鳴き声を鳴らしてく。
 来栖たちが教会だと誤認したのは、どうやら、魔法協会の本部の建物のようだった。
 
 魔法協会本部の一室。
 そこには、街で最も威厳のある建物や権威ある人物を求めた契約者たちが集まっていた。
「なるほど……やはり、あなた方が異世界から来たというのは間違いないようですね」
 その女性の声には驚きが含まれていたものの、しかし、契約者たちが想像していた程の動揺は見受けられなかった。
 声の主は厚いローブをまとい、ローブのフードを目深に被っていた。
 この世界の魔法協会を束ねる会長だという。
 フードの下に覗く口元や声から伺い知れたのは、この人物がおそらく二十代後半の女性だろうということだったが、高位の魔法使いの外見や外見年齢ほどアテにならないものは無い。
 会長の細い指先が、輝石 ライス(きせき・らいす)の持参していた音楽プレーヤーをテーブルの上に置く。
「あんまり驚かねぇんだな。何でだ?」
 ライスはプレーヤーを手に取りながら、率直に訊いた。
 自分たちが異世界から来たという事を明かしたのは、会長と出会い、当り障りのない会話を行う内に、明かしても問題無いだろうと踏んだからだったが、この反応はやはり少し気になった。
 会長が小さく笑み。
「我々にとって、別の世界が存在しているかもしれない、という認識はそれほど特別なことではありません。とはいえ、我々の文化とは掛け離れた物や能力をお持ちのようで、驚きました」
 ライスはプレーヤーを仕舞いながらニヤリと会長を見返した。
「面白いモンだったろ?」
「はい。聴こえた曲は私には少々刺激の強いものでしたが……」
 会長がそう微笑んでから、改めて、その場に居る契約者たちを見やった。
「話を戻しますね――あなた方はどのような目的があって我々の世界へ?」
「それは、俺から話そう」
 アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が言って、続ける。
「俺たちは故あって、過去に封印されたという『大いなるもの』の事を調査をしている」
「大いなるもの……とは、我々の世界の伝承にあるものと同じそれのことでしょうか?」
「そうだ」
 アルツールが頷き、ハイ・ブラゼルで得た伝承を伝えてから、改めて。
「何か、この『大いなるもの』について知っていることがあれば教えて欲しい」
「……残念ながら、大いなるものについて、我々があなた方にお伝え出来る新たな情報はありません」
 会長が軽く首を振ってみせる。
 アルツールは、ふむ……と小さく喉を鳴らした。
 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)がわずかに身を乗り出し。
「『封印』についてはどうだ? それから、この地で何か異変が起きているようであれば知りたいのだ」
「異変……こうやって、あなた方がこの地に現れたということは、何かしらの兆候だと考えても良いのでしょうね。しかし、今のところ封印が解かれる心配は無い、と私は考えています」
「……?」
「何故だ?」
 アルツールとリリの視線を受け、会長が少し迷ったような間を空けてから。
「魔法協会の極一部の者しか知りえない機密事項に当たりますゆえ、これ以上の詮索はご容赦いただければ、と」
「さすがに異世界からの来訪者とはいえ、急には信用できないか」
 ライスの漏らした言葉にミリシャ・スパロウズ(みりしゃ・すぱろうず)の短い叱責が飛ぶ。
「ライス、その物言いは失礼だ」
「いえ……彼の言う通りですので。しかし、あなた方が異世界から現れたというのは疑いようも無い事実です。おそらく我々は近い未来にあなた方を信頼し必要とする時が来るのではないか、と……これは私の個人的な予感です」
 会長が小首を傾げてみせて。
「こうして実際にお会いし、言葉を交わせたというのは、やはり大きいのでしょうね」
「あの、話は変わりますが、一つ良いでしょうか?」
 六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が、ぴっと片手を挙げる。
「ここは魔法協会の本部、なのですよね? ということは、魔法協会は他にいくつもあるということですか?」
「ええ、この世界の多くの街には魔法協会の支部が存在しています。我々の世界の文明文化はほとんど魔法によって成り立っているため、住民同士のトラブルから政り事まで協会が中心となってとり仕切ります」
「この世界の全ての魔術師が協会の所属に?」
 アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)の問いかけに会長が首を振る。
「様々な理由から協会の所属でない魔術師も居ます。また、その逆に……というわけではありませんが、魔法を使えない方も協会に所属し、必要な保護を受けています」
「ふぅん、つまり――」
 ユノ・フェティダ(ゆの・ふぇてぃだ)が尖った耳をぴぴっと振って。
「魔法協会がこの世界の秩序を管理する権力のトップで、その支部は市役所とかそういったものにあたる……って感じなのかな?」
「そのようですね」
 優希が熱心にメモを取りながらうなずく。
 ユノは、んー、と考えた様子を経て、アレクセイとライスをチラリと見てから言った。
「魔法協会に所属していない人は、野盗とかアウトローな人たちってことかな?」
「そういった方もいらっしゃいますね。また、協会に所属しているいないに関わらず、魔術師たちが独自に『結社』というものを作ることがあります。結社を組織する理由は、独自の研究を追求するためだったり、より効率的な経済活動を求めてだったりと様々ですね。時に犯罪行為を目的とする結社もありますが」
「なるほど」
 優希がやはり熱心にメモを取る、その横で。
 アレクセイとライスは、なんとなく納得の行かない顔でユノを見やっていた。
「何故、『野盗とかアウトロー』という言葉を放つ時に俺たちを見た?」
 アレクセイに言われて、ユノがぷるぷると首を振る。
「と、特に意味はないもん!」
「そりゃ……オレたちゃ確かに目つき悪ぃーけどよ」
 ライスの言葉にアレクセイが弾かれたようにそちらへ振り向く。
「って、俺は悪くねぇぞ」
「雰囲気が如何にも悪役くさいと思うが、自覚ねぇのか?」
「見るからに悪ガキ丸出しなヤツに言われたくねぇ!」
「そこまでだ、二人とも」
 ミリシャスがピリピリとした声で言って、アルツールがやれやれと額に指先を置きながらその先を続ける。
「会長の前だぞ」
「しかし、あえて言おう!」
 と、言い放ったのはソロモン著 『レメゲトン』(そろもんちょ・れめげとん)だった。
「いや、君は余計な事しか言わん気がするから黙っていたまえ」
 アルツールが嘆息混じりに手を振りやる。
 魔導書が人間の姿を取るのを見せれば魔法文化の高さを多さを認めてもらい、多少は聞き込みを行いやすくなるかと連れてこられたレメゲトンだったが、さすがは魔法世界、そういった事例を特に珍しがられることはなかった。
 それ故に何となく退屈していたらしいレメゲトンが、アルツールの言葉をきっぱりとスルーして何処か生き生きと続ける。
「貴公らは何処からどう見ても、立派な『悪人面』だ! 胸を張って悪の限りを尽くし、我々に滅ぼされるが良い!!」
「んなっ!?」
「うぉいこらっ!」
「ま、待ってください、アレクさん! 落ち着いて――」
 会長は、そんな彼らの様子を前にクスクスと小さく笑い声を零していた。